エピローグ・皆大好きオリハルコン
大変お待たせしました、四章エピローグ更新です。
結果だけを言うと、当初、ゲシュタルトが意気込んでいた隣国の滅亡という一大イベントは起きなかった。
先の戦争で大敗し、今回の騒動で切り札を文字通り叩き潰されたビースウォート将国は、アイゼルフ王国から言い渡された和平条約をほぼ全てを飲むことになったが、今も隣国は存在している。
ビースウォート将国が、先の大敗した戦争と今回の騒動が切っ掛けに、再び血を血で洗う戦乱の時代に突入していくが、アイゼルフ王国に大変有利な条件で締結された和平条約は、両国の国土精霊を通して結ばれているため、国がどうなろうとも遵守される。
今までのビースウォート将国は確かに滅亡したが、ゲシュタルトのギルドメンバー達が思い描いていた形とは全く違う形だ。
しかし、その事に不満を述べるゲシュタルトのギルメンは一人も存在しない。
なぜなら、そんな些細なことなど、宇宙の彼方へと吹き飛ぶような、素晴らしい宝を、アイゼルフ王国から彼女たちは受け取ったからだ。
宝の名は【オリハルコン】
アニメートアドベンチャー内に存在する超希少金属。
赤みを帯びる金色のその金属は、アダマンタイトのようにレガクロスの装甲等に使えるような硬い素材ではないが、道具や魔法の触媒として使用することで、劇的に性能を引き出す強化素材だった。
その効果は凄まじく、オリハルコンの飾りを付けた数打ちのナマクラが上級のモンスターを一刀両断し、魔法権限が低い戦士がオリハルコンの杖で放つ攻撃魔法が、魔法権限の高い魔法士が放つ魔法攻撃を撃ち破る。
そんなアニメートアドベンチャー内では、絶対有り得ないとされる現象が、オリハルコンを使用することで発生する。
数限りない用途を持つオリハルコンは、アイゼルフ王国の最終防衛線であるレガクロスレガリアや、ロードの装甲として使われている【超合金オレイカルゴス】の重要素材として、この国では一番知られている。
更にゲシュタルトはオゾフロとダイ・オキシン独自の調べで、レガリアやロードの動力源である、無からMPを産み出す永久機関、MP創成炉作成のための鍵となる素材だと目星をつけていた。
無限の可能性を秘めた、正に魔法の金属と呼ぶにふさわしい力を持っているのだ。
当然ながら強力な軍事物資になるオリハルコンは、国が厳重に管理している。
第六の特殊ジョブ【Unlimited】を取得しているようなプレイヤーでも、入手しようとして手にはいる物じゃない。
それは、ゲシュタルトというアニメートアドベンチャー内でも、屈指の巨大有名ギルドであっても例外ではなく。唯一、ギルドマスターであるオゾフロが僅か六グラムのオリハルコンを偶然手に入れ、様々な制約の元に国に所有を許されて所有しているのみである。
それぞれの国には、アイゼルフのレガクロスレガリアやロードのような戦力を保有しているため、力ずくという方法も難しい。
ギルドが作成した機神ゲシュタル・ゲル・ボロスならば、レガリアにも勝てるのでないかと、ゲシュタルトのギルメンの殆どは考えているが、プレイヤーは、初ログイン時に所属する国家の国土精霊から加護を受ける代わりに様々な守るべき義務を課せられているため、実際には難しい。
特に機神には作成、保有をゲシュタルトに許す代わりに様々な制約を課されている。
そのため、レガリアと機神を戦わせる事や、機神で独自に他国の政府が保有しているオリハルコンの強奪などは、向こうから襲ってくる等の幾つかある条件が重ならない限り不可能となっている。
そんな入手困難なオリハルコンを、なんと五キロも彼女たちは国から送られたのだ。
最早、彼女たちの頭の中には、ビースウォートのビの字も存在せず、今回の騒動が終結してゲーム内で三ヶ月が経過しても、ゲシュタルトはお祭り騒ぎだった。
◆
◆アイゼルフ王国。ゲシュタルトシティ。ゲルドアルドの蜂の巣。
「ついに……完成した」
万感の思いを込もったゲルドアルドの呟きが、彼の何処にもない口から漏れる。檸檬型の蜂蜜結晶の光る目しか顔らしいパーツが無いゲルドアルドがどこから言葉を発しているのか知る者は居ない。知ろうとする者も居ないので永遠で、どうでもいい謎である。
彼が三ヶ月間係りっきりで作成していた、とあるアイテムがこの日、完成した。大玉西瓜程の大きさがある、赤みを帯びた琥珀色で球体情報のアイテムを、幼児体型のゲルドアルドに不釣り合いな巨大な手で蜂の巣の天井に向かって掲げる。
努力に、見合う結果が付いてくる。
完成したアイテム、至高の蜂蜜等のゲルドアルド用意できる様々な蜂に関する素材とオリハルコンを、錬金系のスキルで混ぜ合わせた……【オリハルコンの蜂巣守護球】の能力を確認したゲルドアルドは、達成感に震えた。
(((((完。祝。)))))
周囲にレディパールを含めた大量の大蜜蜂が、一斉にゲルドアルドに向かって完成を祝う交信フェロモンを放つ。
ゲルドアルドの全身が交信フェロモンまみれになるが、馴れているので彼は全く気にしない。
「ここまで長かった……MPでゴリ押しすれば行けると思った三ヶ月前の自分がアホだった……」
ゲルドアルドはすっかりゲーム内の時間で生きている。
【オリハルコンの蜂巣守護球】の作成するのは大変だった。
今回のイベントの功績……邪神を粉砕したゲシュタル・ゲル・ボロスの完成、起動に必要不可欠な人材だったため、ゲルドアルドはゲシュタルトに褒美として国から与えられた五キロのオリハルコンの内、一キロのオリハルコン塊をギルドから受け取っていた。
三キロのオリハルコン塊はギルド共有財産。残りの一キロは、オゾフロ個人に渡されている。
オリハルコンは生産系のジョブを保有するものなら誰もが憧れる最上級のアイテムだったが、オリハルコンを利用したマジックアイテム作成の難易度は凄まじく高かった。柔らかい金属であるため形を変えるのは誰にでも、それこそ住人の子供にでも出来るほど簡単なのだが、アイテムにするのは至難の技。
この素材は恐ろしい形状記憶能力を保有しているため、例え熱で溶かして他の金属と混ぜ合わしても、オリハルコンに相応しいステータスと技術が無いと、その状態からでも元の形状に戻ってしまうのだ。
この形状記憶能力は、紐に結びつけて首飾りにするという、素材を変形させない加工にも干渉して、この魔法の金属は拒絶してしまうのだ。
【蜂巣要塞】のジョブスキル〈蜂の巣の化身〉によって、暫定異世界の巨大な蜂の巣から得ている膨大なMPと、蜂に関するアイテム作成に特化しているが、一応は超級ジョブである【超蜂錬金術士】の力でゴリ押ししようとしたゲルドアルドは大変な目に遭った。
安易に億単位の過剰なMPで、無理矢理オリハルコンに蜂蜜金属を混ぜ合わせたゲルドアルドは、猛烈な勢いでオリハルコンから弾かれ、無数の弾丸と化した蜂蜜金属片に蜂の巣製で〈ギラギラゴールド〉の呪いで、趣味の悪いギラギラとした輝きを放つ身体を貫かれ、破砕された。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
とても痛かった。
足りない技術とステータスを補おうと膨大なMPで事に挑む度に、ゲルドアルドはオリハルコンの驚異の形状記憶能力の拒絶で手痛いダメージを受けた。
強い力で挑む程、反発はより強くなる。
ゲシュタルトシティの蜂の巣が大規模な火事で焼失しかけたことで、ゲルドアルドは、MPのゴリ押しではオリハルコンの加工は不可能だと悟った。
そして、始まったのはオリハルコン懐柔(?)作戦だった。
ゴリ押しを諦めたゲルドアルドは、とりあえず、オリハルコンをすりおろし粉末状にして、至高の蜂蜜で満たした大鍋の中に放り込み、自身のMP流しながら一ヶ月ほどぶっ通しで混ぜ続けた。
目的は至高の蜂蜜とオリハルコンの内包MPに馴染ませるためだ。
オリハルコンの粉末が形状記憶能力で戻らないようにひたすら掻き混ぜ続けた至高の蜂蜜に、〈モンスター作成〉スキルで作成した大蜜蜂の卵を潰したドロドロとした液体。〈重花粉誘導弾〉のジョブスキル作り出した美味しい花粉、長年連れ添った女王爆蜜蜂のレディパール分泌したロイヤルニトロワックス。今ゲルドアルドが居るゲシュタルトシティの蜂の巣の一部を混ぜ合わせ、粘土状になったオリハルコンを含んだ物体を一ヶ月ほど練り続けた。
最後の一ヶ月は、混ぜ続け、練り続けたその物体を、自身のMPを流しながらひたすら素手で丸め続ける作業をした。
筋肉や血管が無いため数ヶ月間同じ姿勢でもエコノミー症候群にならない、身体に口が無いので食事は大蜜蜂を通して済ませるスキルがある、アニメートアドベンチャーの世界に受肉しているのでログアウトの必要が無い、ゲルドアルドの特殊な状況だからこそできた、無茶苦茶な加工方法である。
後日、ゲルドアルドは、オゾフロがタイラントアーティザンで、オリハルコンを一瞬で加工していたのを知り、膝から崩れ落ちることになる。
アーティザンの〈鍛造破壊砲〉はオリハルコンを加工するために作成したのだと、オゾフロは自慢していた。
そして、完成したのマジックアイテムが、ゲルドアルドがその手に持つオリハルコンの蜂巣守護球である。
その効果は……。
蜂の巣の強度、三百%上昇。
蜂の巣へのダメージ、九十%減少。
蜂の巣周辺と内部の大蜜蜂の能力、百二十%上昇。
蜂の巣の蜂蜜貯蔵量、百五十%上昇。
蜂の巣の花粉貯蔵量、百五十%上昇。
蜂の巣の大蜜蜂収容数、百五十%上昇。
【オリハルコンの守護球】の破壊と引き換えに破壊された蜂の巣を再生する。この効果で再生した蜂の巣は、一ヶ月間あらゆる攻撃ダメージを無効化する。
以上の効果を、蜂の巣の何処かにこのオリハルコンの蜂巣守護球を設置することで得られる。
「えぇ……オリハルコンを使ったアイテムを、レシピに登録したかっただけなのに凄い高性能……!」
暫定異世界の国家規模の巨大蜂の巣を守ることに日々、頭を悩ませているゲルドアルドにとっては凄まじく有用なマジックアイテムだった。
「〈アイテム作成〉」
ゲルドアルドはスキル〈アイテム作成〉を使用。頭の中にゲルドアルドが、今まで作成したアイテムの一覧が展開される。
その中には勿論、いま完成したばかりのオリハルコンの守護球体が登録されていた。
生産系スキルである〈アイテム作成〉は、必要数のCPさえあれば、レシピに登録されているアイテムを幾らでも作成できる。
そして、作成されたアイテムは、一定時間経過で消滅する〈アイテム召喚〉等と違ってそのまま存在し続ける。
「オリハルコンの蜂巣守護球作成に必要なCPは……十万か……」
常時回復し続けるMPとは違い、CPは一時間に一点しか回復しない。
ステータスのCPが高くなる生産系超級ジョブをカンストしても、通常は二千CP前後にしかならない。
全種族の中でも、最もCPの値が高くなる鉱人であり、第六の特殊ジョブ【Unlimited】を保有しているオゾフロでも、現在のCPは一万しかない。
オゾフロの技術があれば、十万CPよりも消費CPが大幅に減るだろう。もしかすると一万CPでオゾフロは作成できる可能性がある。
しかし、様々な場面で便利に利用できるCP全てを、オリハルコンのためとは言え、全て消費するのは難しい。
そんなことすれば全てのCPが回復するまで一万時間も必要になり、長時間、生産にも戦闘にも使える有用な武器を失ってしまう。
保有しているCP分しか絶対に使用できない以上、ゲルドアルドと比べ物にならない技術を有する、生産系プレイヤーの最高峰であるオゾフロでも、オリハルコンを使用したアイテムを〈アイテム作成〉スキルによって増やすことは不可能だった。
「とりあえず、百個作成しよう」
所有権のある蜂の巣に存在する大蜜蜂の数で、CPが増えるゲルドアルドにとっては、一千万CPでオリハルコンが大量に手に入るなら安い買い物だった。
更に暫定異世界に数えきれないほどの大量の大蜜蜂を抱える彼のCPは、スキルの効果で二分で一点回復する。
ゲルドアルドの目の前で、臨界状態のMPの輝きが次々と出現。
オリハルコンの価値を知る者が見れば、発狂しかねない、オリハルコンを使用したマジックアイテムが、湯水のように涌き出て、蜂の巣の床に物質化して落ちていく。
この日、ゲルドアルドはオリハルコンを量産する術を手に入れたのだ。
スキルによる作成が完了した百個のオリハルコンの蜂巣守護球が、ゲルドアルドの巨大な両腕によって無造作に抱えられる。
「これ、ダイオキシンさんか、オゾフロさん辺りに売り付けにいったら、ビックリするかな?」
ビックリでは済まされない。
ゲシュタルトどころか、国を巻き込んだ大騒動に発展するのは間違いなかった。下手すれば国が割れかねない。
ゲシュタルトには現状維持してもらった方が、蜂の巣を安全に維持できるので、波風どころか、暴風大津波が起きるような騒動を引き起こしかねない迂闊な真似を、オリハルコンの価値を理解しているゲルドアルドする気はない。
量産したオリハルコンは、暫定異世界で作成中の新しいサンダーフォーリナーの装甲に使用予定だ。
「オゾフロさんが、オレイカルゴスの作り方を発見してくれたら、好きな数を量産してもいいかなーなんて……ね?」
誰も聞いていないから言える、ゲシュタル・ゲル・ボロスを全力稼働させる並み?の威力がある冗談にならない冗談を呟いていたゲルドアルドが、自分の周囲で起きている異変に気付いた。
「部屋が明るい?」
蜂の巣の中には、マジックアイテムの証明が配置されているため、それなりに明るいが、今はまるで太陽光にでも照らされているような明るさで、蜂の巣の壁、床、天井が照らされている。
レディパール達も異変に気付いてざわめき始めていた。
「え!?なんで光ってるの!!?」
異変の原因は、ゲルドアルドが抱えているオリハルコンの蜂巣守護球だった。
オリハルコンと様々な蜂系素材を混ぜ合わせた、赤みを帯びた琥珀色の球体から眩い白い光が溢れるように放たれている。状況が把握できないゲルドアルドを追い込むように、床に無造作に転がっている残りの球体も次々と白く発光を始めた。
その光景は、球体の内側からエネルギーが溢れ出ている様に見えて、ゲルドアルドの脳内に恐ろしい未来を描かせる。
「こわいこわいこわい!?え、なんか爆発しそうなんだけど!?え!え!え!」
突然の事態に混乱したゲルドアルドは、思わず抱えていたオリハルコンの蜂巣守護球を床に放り投げ、隣に侍っていたレディパールに首にしがみついた。
ゲルドアルドは彼女の美しい毛並みに埋もれた。
このアイテムにはレディパールが分泌したロイヤルニトロワックスが混ざっている。
爆発する要素はあるのだ。
ゲルドアルドが混乱している間にも光はドンドン強くなっていく。
その光は既に、太陽を直視した時のように、目に痛みを伴う強烈な輝きになっていた。
ゲルドアルドとレディパールを護るために、周囲の大蜜蜂達が彼等を覆い隠すように素早く集合する。
「ふあぁぁぁ!?まっ眩……し………い……………」
ゲルドアルドは眩い光に包まれた!
(ジョブチェンジ条件を満たしました。)
(プレイヤーの種族が魔人族のため、強制ジョブチェンジを実行します。)
(ジョブチェンジのためにオリハルコンが消費されます。)
(規定量のオリハルコンを消費して、ジョブチェンジに成功しました。)
(ジョブ【蜂巣要塞】は、
ジョブ【蜂巣神界】へとジョブチェンジしました。)
次回から第五章【遊戯世界からの蜂蜜X】を予定していますが、ちょっと本文の表記揺れが酷いことになっているので、修正時間を割くため投稿が遅れます。




