事後処理・2
遅れましたが更新です。
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目覚めてからソレには想定外の事ばかりであった。
自身が収納しているはずの製作者はなぜか存在せず、頭部から生える【輝ける自尊の槍】に収納されていたのは、見知らぬ誰かであった。
種族だけは製作者と同種ではあるが、後天的に何らかの肉体改造が施されており、肌の色どころか遺伝子レベルでの改造の痕跡がある。
ソレにとっては【輝ける自尊の槍】に収容されている存在を如何なる形であっても存続させることが至上目的であり、存在意義だ。
そこには迷いも意思も存在しない。
それ故、邪神と呼ばれた上にコチラを破壊しうる手段を複数備えた、恐るべき強大な集団とワザワザ敵対するという状況と行動は、ソレの設計理念上、全く理解出来なかった。
目覚めてからソレには想定外の事ばかりであった。
本来の設計では、無限の衛兵にして城壁である【底無しの犠牲盾】と【輝ける自尊の槍】に収容した存在を、記憶、人格情報から神経細胞の瞬きの回数まで全てを記録、保全し、決して滅びぬ人生を与えて【不安亡きゆりかご】で守り続けるのがソレの役割だった。
【不安亡きゆりかご】が完全に破壊されるのは非常事態だったが、想定内である。
【不安亡きゆりかご】破壊されるような非常事態では【輝ける自尊の槍】が非常用の脱出装置の役割を果たす……筈だった。
世界の何もかも恐れていた製作者であれば、真っ先に逃げ出していただろう。
【底無しの犠牲盾】も【不安亡きゆりかご】も完全に破壊されているという状況で、逃げ出す素振りも見せずに戦いを続けるのは、ソレにとって全くの想定外だった。
緊急脱出装置である【輝ける自尊の槍】に主導権を奪われていた【不安亡きゆりかご】であったが、危機的状況からの脱出するチャンスが訪れた。
【輝ける自尊の槍】に収納されていた見知らぬ誰かが死亡したのだ。
そのため、再生途中だった【不安亡きゆりかご】に主導権が戻った。やがて、見知らぬ誰かは再生するがそれまでには【不安亡きゆりかご】完全に再生できる。
しかし、その再生する時間を獲得するためには、越えなければならない一つの壁がソレにはあった。
その壁とは、尋常ならざる破壊力で【不安亡きゆりかご】を粉砕した巨大レガクロスのゲシュタル・ゲル・ボロスと、同質のMPを循環させている、金色のレガクロスのサンダーフォーリナーが展開した結界だ。
金色の兵器を中心に琥珀色の……何故かわからないが、蜂蜜で形成された魔法の結界。それには膨大なMPが込められており、今の大きく傷付いた【輝ける自尊の槍】では、自壊前提の全力での決死の行動が不可欠だった。
少しでも保身に余力を割けば、膨大なMPを内包する蜂蜜に拘束されてしまうだろう。
そうなってしまえばソレに後はない。
【輝ける自尊の槍】が結界に向かって加速する。
頭部と胸部を破壊された胴体を真下に向け、重力も味方にして加速していく。
それでも、傷ついた機体では全力を出すことが叶わず、亜音速に到達するのがやっとだ。
【輝ける自尊の槍】が、フォーリナーを中心に半径四百メートルの範囲を覆う蜂蜜の結界と衝突。
見た目よりも張るかに頑丈な蜂蜜の結界との衝突は、機体を更に酷く痛め付ける。
機体の加速で生まれた運動エネルギーが、機体を醜く押し潰していく。
それでも加速は続けられ、蜂蜜の結界が僅かに内側から外へと歪む。
最早、原型を止めていない機体は、一部が僅かに蜂蜜を突き破ったが、結界と機体の加速による運動エネルギーとの、板挟みに耐えきれなくなった〈輝ける自尊の槍〉が、加速に使われていたプラズマを周囲に撒き散らしながら爆発四散してしまう。
その瞬間、蜂蜜の結界から黒い金属片が、機体が開け、爆発で無理矢理押し広げられた穴から飛び出した。
邪神と呼ばれた機械【不安亡きゆりかご】の中枢である。
脱出で力を使い果たした中枢には、破壊される前の九百メートルの巨体を動かしていた力は欠片も残されていない。
収納した者の保存を最優先する設計の中枢は、再生に必要なデータの保全を優先したため、最低限の動力システムと、こまま自由落下するための、落下の衝撃に耐えられる頑丈さを優先している。
見た目はただの黒曜の金属片に成り果て、飛ぶことすら出来ない。
しかし、今の状況ならば、ソレにとってただの金属片にしか見えない姿には意味があった。
何よりも優先されるのは、再生のために必要なデータの保全。
何秒か後に叩き付けられる大地は、ゲシュタル・ゲル・ボロスが暴れたために、モンスターは一匹も存在せず、放たれた膨大なMPが今後も、長期に渡って外敵を寄せ付けない。
その膨大なMPが、僅かなMPしか生成できない中枢を覆い隠す、目眩ましにもなってくれる。
その間に動く機能を再生し、地にでも潜れば中枢を見つけることは誰にも出来ない。
データの保全を優先し、機能の大部分を破棄してしまったために、元に戻るまで再生するには、百年は最低でも必要だが、データさえ保全できるなら、その程度の時間など中枢には問題になどならない。
本来、永遠に製作者を生かし続けるために存在するソレにとって、数百年などたいした時間ではない。
ブブブブブブブ!
人の拳程度になってしまった中枢は、自身に近づく空気の振動音を捉えた。
ブブブブブブブ!
地面に向かって自由落下していた筈の中枢が、何かに拐われるように横移動を始める。
ブブブブブブブ!
中枢が備える、最低限の危険察知のためにつけられた感覚器が、六本のフワフワとした棒状の物で自身が捕らわれ、何処かに運ばれていることを告げていた。
ガガガガガガガガ!
運ばれて行く先からは、岩でも砕くような激しい振動音が聞こえてくる。
◆
(よーしよし、ありがとう、蜂蜜お食べー)
ゲルドアルドは、ただの黒曜石にしか見えない中枢を、空中で回収してくれた大蜜蜂をから受け取った。
交信フェロモンで感謝を伝え、褒美として後頭部から流れだし、ベールのようにゲルドアルドの背後で揺らめく至高の蜂蜜を、魔法スキルで球場にして大蜜蜂に与える。
ブブブブブブブ!
ガガガガガガガ!
至高の蜂蜜の球体与えられた大蜜蜂は、喜びの交信フェロモンを垂れ流し、嬉しそうに削岩機のような羽音で飛ぶ大蜜蔵蜂に背に乗ったゲルドアルドの周囲を飛び回る。
サッカーボール程のモフモフの毛玉である大蜜蜂が嬉しそうに飛び回る様子は非常に愛らしく、ゲルドアルドの頬が緩む。
実際にはその顔は蜂の巣で出来ているため、皮膚も表情筋も存在しない顔には、なんの変化も無かったが、ゲルドアルドの感覚的には頬が緩んでいた。
「うっかり、フォーリナーから落ちてしまったけど結果オーライかな?」
「良いとこ取りだねー」と、誰に聞かせる訳でもなく独白するゲルドアルド。
彼はマヌケな事に最初にイリシウムジャベリンがサンダーフォーリナーに突撃してた衝撃で、フォーリナーの肩から滑落していたのだ。機体の内部に戻ろうと片足を上げていたのが原因である。
これが、少し前なら主が居なくなったフォーリナーは、ただの木偶人形と化していたが、〈ギラギラゴールド〉によって何の問題も生じなかった。
〈ギラギラゴールド〉の趣味の悪い黄金の輝きが視認できれば、今のゲルドアルドは〈ギラギラゴールド〉で塗装された対象物にMPを送る事が出来る。
レガクロスの規格外となっているサンダーフォーリナーだが、操縦士系ジョブスキルの適応外となっているだけで、操縦方法は通常のレガクロスと同じ。機体を循環する操縦者のMPを通じて操縦するため、〈ギラギラゴールド〉の輝きを通じて遠隔操作が可能なのだ。
マヌケにも落下してしまったゲルドアルドだったが、そのお陰で突然争い始めたタイタニスとグナローク両者に気づかれること無く、これ幸いにとフォーリナーを中心に〈ハニースフィア〉という魔法スキルで蜂蜜の結界を貼り、結界の外からノンビリと戦闘を観戦していたのだ。
「君まだ生きてるね?」
「映画で見たことあるよ、最後に残ってる怪物の卵的な奴でしょー」と、楽しげなゲルドアルドの声。
ぷっくりとした腹部と巨大な頭の幼児体型。奇っ怪な二メートルの巨体であるゲルドアルドの幼児体型には、不釣り合いに大きい右腕でつまみ上げた中枢に、彼は陽気に話しかける。
ドンッ!!
その瞬間、ゲルドアルドの頭部が爆散した。
中枢が残していた自衛のための、プラズマ砲だ。三回しか使えないが、今この瞬間が使う時だった。
メキメキメキ
頭部を吹き飛ばしたにも関わらず、ゲルドアルドの指の力は一切弛まなかった。
「うーん、痛みにもだいぶん慣れてきたねぇ」
それどころか、頭部を吹き飛ばされた事を意に介した様子もなく、ハニカム構造が露出する首の付け根から、頭部状の蜂蜜が形成され、蜂の巣のハニカム構造と、趣味の悪い黄金の輝きを放つ外殻が瞬く間に再生していく。
ドンッ!ドンッ!
中枢即座にプラズマ砲を二連射した。完全に使い切られたプラズマ砲は、中枢を摘まむ右腕と、再生した頭部を吹き飛ばした。
拘束から脱出するためと、少しでもゲルドアルドの行動を少しでも鈍らすための攻撃だったが。
メキメキメキ
吹き飛ばした右腕は、再生している間も、蜂蜜で補われることで力は弛むこと無く保持され、頭部は先程と同じく瞬く間に再生する。
中枢の行動は全くの無意味だった。
ゲルドアルドのこの再生は、蜂の巣の規模に応じて性能が上昇する〈蜂の巣の化身〉というジョブ【蜂巣要塞】のジョブスキルの効果だ。
本来このスキルは、ゲルドアルドが巣の内部か、巣の一部に触れていないと効果は微々たる物になるスキルなのだが。
「慣れても連続で来ると結構痛い、痛いけど大丈夫」
〈ギラギラゴールド〉で着色した蜂の巣であれば、趣味の悪い黄金の輝きが、巣の中に居るのと変わらない力をゲルドアルド与えている。
蜂の巣同士を繋いでいるハニークリスタルポータル。暫定異世界で作成したアイゼルフの国土よりも広大な蜂の巣と、〈ギラギラゴールド〉の輝きで繋がる、ゲルドアルドのスキルの再生能力を上回って殺害できるのは、皮肉な事に彼自身を動力源にして動く、ゲシュタル・ゲル・ボロス位である。
「派手なイベントの締めには、やっぱり派手な祝砲が必要だよね〈ニトロワックスホールド〉〈モンスター召喚〉」
魔法スキルの使用により、臨界状態の光輝くMPが、ゲルドアルドの周囲に出現する。
輝くMPからは、光を反射して虹色の光沢を返す爆蜜蜂の爆発する蜂蝋が次々と生み出され、身動き一つ取れない中枢を包み込んでいった。
中枢は蜂蝋の包まれてゲルドアルドの右腕から離れていき、その間も生み出され続ける蜂蝋で、通常のレガクロス程の大きさにまで膨れ上がり。
内部に中枢を閉じ込めた巨大な球体となった。
臨界状態を維持するゲルドアルド周囲のMPの輝きから、次々と〈モンスター召喚〉スキルで召喚された、爆蜜死蜂達が出現し、ゲルドアルドの目の前で形成された巨大な蜂蝋の下部へと取りついていく。
爆蜜死蜂。
生きて帰らない、敵をその身で爆砕する、恐るべき特攻モンスターだ。
普通の蜜蜂ならば、毒針が突き出す場所から爆蜜死蜂達は猛烈な勢いで爆炎を吹き出した。
内部に中枢を閉じ込めた〈ニトロワックスホールド〉で生み出された蜂蝋の巨大球が、ロケットのように上昇していく。
元より、雲が形成されるような高空だっため、瞬く間に球体は成層圏まで到達した。
「たーまーやー!」
その言葉を鍵にして、着火された球体と爆蜜死蜂達は、降り注ぐ太陽の光を一瞬上回る程の、強烈な虹色の光を放ち大爆発した。
球体内部で拘束されていた中枢は、爆発の衝撃と熱で一瞬にして圧縮されながら焼き尽くされ。
この瞬間、アニメートアドベンチャーから、一体の邪神が跡形もなく消滅した。
スーパーレガクロス内戦終了。
数日中にエピローグを投稿して四章終了です。




