暇な金なりども
ブックマークありがとございます!
色々やりましたが四章最後のイベントです。
邪神の巨大な額に〈ヴォルテックスグランドクラッシャー〉のドリルが深々と突き刺さる。
数々の攻撃に晒されても無傷だった邪神の頭部には穴が空き、高速回転するドリルとの摩擦熱で邪神の額……顔全体が赤熱化して真っ赤だ。
ドリルに削られた邪神の破片は摩擦熱で瞬時にプラズマ化して空間に拡散して消えていく。
その様子は大量の血を噴き出す様に良く似ていて、悲鳴代わりに邪神は、金属同士が擦れ合う不愉快な擦過音を響かせる。
ドリルは完全に邪神に埋没し、機神の長い腕全体が続いて捩じ込まれることで、邪神を突き抜けてドリルが黄金の大地に吸い込まれた。大地は〈ヴォルテックスグランドクラッシャー〉の凄まじい超回転と超質量に晒されることで、渦巻きながら引き裂かれていく。
機神に捩じ込まれた腕の次に、機体の全重量と膂力が乗った胴による体当たりの追撃を受けた邪神は、赤熱して穴が空く額を中心に陥没し皹が走って砕け散る。
砕け散った邪神は無数の破片となり、ドリルの超回転と超質量が巻き起こした力で、趣味の悪い輝きを放つ黄金の竜巻となった大地に巻き込まれて舞い上がった。
竜巻に巻き込まれ舞い上がる邪神破片は、最早原型を止めていなかったが、まだ生きていた。
ただの鉄屑にしか見ない状態になっても、放って置けばやがて復活する驚異の再生能力を秘めていた邪神だったが、舞い上がった先で激しく渦巻いた無数の欠片達は空中で激しくぶつかり合い、お互いを傷つけ合う事になった。
瞬く間にお互いを削り砕けていく邪神の欠片は、空に舞い上がった僅かな時間で、再生が叶わぬほどに砕けて粉となり、空中を漂うただの塵になってしまう。
更には欠片同士の激しいぶつかり合いで静電気と熱が生じ、生まれた熱はドリルで巻き起こされた竜巻で圧縮されて電を纏いながら高まり、灼熱となってその塵さえも消し去っていく。
役目を終えて回転を止めた〈ヴォルテックスグランドクラッシャー〉がオゾフロとギルメン達の勝利の雄叫びと共に天に雄々しく掲げられる頃には邪神は塵一つ残っていなかった。
●
「うわぁ、粉々だ……」
「ぷはぁ、大した威力だねぇ」
機神ゲシュタル・ゲル・ボロスが、ゲシュタルトの技術力とゲルドアルドの膨大なMPが生み出す圧倒的暴力により、邪神を粉々に吹き飛ばしたその時、勇んできてみればグナロークが死んでいたタイタニス第三王妃と、機神の動力源となっている超大型MP増殖炉を動かし続けるために上空で待機しているゲルドアルドは、酒盛りをしていた。
高空で待機しているサンダーフォーリナーの巨大な撫で肩の上、ゲルドアルドの魔法で作成された蜂蜜結晶の台の上には、幾つもの至高の蜂蜜で作成した蜂蜜酒の空き瓶が並べられている。
周囲では給士としてゲルドアルドに召喚された大蜜蜂達が忙しく飛び回り、台と同じく蜂蜜結晶で作成されている蜂蜜酒の空き瓶を給士の合間に齧ったり舐めたりしている。
ゴルドアサイラムを破壊された私怨で戦場に来たタイタニスは、目的が果たせないと知るとゲルドアルドに酒を要求して自棄酒を始め、後方から機神を支援するために一応待機していたゲルドアルドは、機神の余りの戦闘力の高さに呆然とし、二人は完全に見物客と化している。
ゲルドアルドが呆然としている理由には、数字の大きさは分かっていても、具体的にどれほど凄いのか良く分かっていなかったゲルドアルド自身の膨大なMPを、持て余すことなく暴力に変換した場合どうなるのか、客観的に見せ付けられた為の驚きも入っている。
その威力にゲルドアルドは引いていた。
「じゃあ、祝いの一杯といこうかじゃないか!」
そう言うととタイタニスは、自身がラッパ飲みしていた蜂蜜酒の瓶をゲルドアルドに突きだす。人型ドラゴン、狂金と呼ばれるこの女に貞淑な仕草、反応など皆無であった。
蜂の巣の魔人であるゲルドアルドには口が無い。蜂の巣で出来たその頭部には、檸檬型の蜂蜜結晶の目が一対有るだけで、それ以外の本来顔に有る筈の器官が存在しない。身体の内部にも血肉の代わりに蜂蜜が詰まっているので消化器官すら彼には存在しなかった。
王妃と間接キスとか気にする以前に、物理的に飲食が不可能な身体であるゲルドアルドはやんわりと断る。
「はぁちぃみぃつぅぼぉぉぉやぁぁ……アタシの酒が飲めないって言うのかい!?」
酒精の強くない筈の蜂蜜酒。しかも、今回はゲルドアルド自家製炭酸割の蜂蜜酒。元々酒精が強くない蜂蜜種を、更に炭酸で割った飲料で得たとは思えない濃密な酒精を吐き出しながら、タイタニスの腕がゲルドアルドの首に回される。
胸の上に直接丸く大きな頭部が乗っているゲルドアルドの身体の構造上、腕を回せるほどの首が無いため、胸の上から頭部が浮いてしまう。間接を繋いでいる筋肉のような役割を果たしている蜂蜜が伸びて露出する。
「蜂蜜酒を作成したのも提供したのもボクなんですけど……」
抗議の声を上げ、酔ってもない癖に絡み酒を披露してくるタイタニスに向けて、隠すことの無い嫌悪と面倒臭いという感情を顔に浮かべるゲルドアルド。ただし、蜂の巣で出来たその顔には表情筋や柔らかい皮膚など存在しないため、いつも通りの無表情である。
その顔はただ蜂蜜結晶の眼を明滅させるだけだ。
だが、付き合いがそこそこ有る上にタイタニスの戦士として優れた観察眼は、ゲルドアルドの眼の明滅から「コイツ、めんどくせぇ」という感情を正確に読み取った。
ゲルドアルドの無い首に回されたタイタニスの腕に力が込められる。
ゲルドアルドは頬に感じるゴリっとした鋼鉄よりも遥かに硬く感じるタイタニスの胸の感触に辟易していた。腕の力が強まったせいで胸はより強く押し付けられ、頬の下のハニカム構造を突き崩してメリメリとめり込んでくる。その感触にゲルドアルドは無い口で溜め息を吐いた。
サイボーグ系ジョブを取得し、戦闘用にとことん肉体を改造し、第六の特殊ジョブ【Unlimited】タイタニスの身体は、形だけ見れば女性的な魅力溢れる身体をしているが、その実態は金属である。
元々あった血肉に金属を融合させ、様々な魔法機械が内蔵されているタイタニスの身体の一部には、マキシマムヘビィアダマンタイトも使用されている。押し付けられた胸の堅さからは、大地に深々と根を張っている大木のような揺るぎなさをゲルドアルドは感じ取った。
それはモンスターを一切寄せ付けない堅牢な城壁に、無理やり顔を押し付けられている気分をゲルドアルドに味合わせる。
とても痛い。
ゲルドアルドに召喚された大蜜蜂達が、自分達の主であり巣であるゲルドアルドの雑な扱い憤り、抗議のためモフモフとした体毛に包まれた丸い身体による体当たりをタイタニスに繰り出し始めた。
給士を放り出した大蜜蜂達が、モフンモフンとタイタニスへと次々に襲いかかる。
壁に跳ね返されるボールのような光景が始まった。
鉄を噛み千切る大蜜蜂の顎で攻撃しないのは、ゲルドアルドと「体当たりくらいにしときなさい」と交信フェロモンでやり取りした為である。
「ん?」
モフモフとした無言の抗議を大蜜蜂達にやらせながら、城を攻め崩さんとする破城槌のような押し付けられる胸の感触に、遠くを見ていたゲルドアルドだったが、朝焼けが消え失せ、すっかり澄み渡った青空の一点に不思議な黒い影を発見した。
モンスターが跳梁跋扈し、魔法が栄えるアニメートアドベンチャーの世界、飛行生物など珍しくもないが、今は事情が違う。
ゲルドアルド待機する高空の真下では、テンション上がって「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!」と笑うオゾフロが操縦する機神ゲシュタル・ゲル・ボロスが居るのだ。機体を循環する莫大なゲルドアルドのMPを迸らせ、直下の大地を更地に変えた機神の存在を感じれば、戦意旺盛で知能の足りない亜竜種でも逃げ出す。
現在、今回の戦いの元凶である邪神が破壊されたために苦虫を何万匹も噛み潰した顔で、戦闘を中断し、ダイ・オキシンとの交渉に応じているザイブロン大将軍と、その相棒である竜巻人参兎竜も存在するため、同種を余り好まない竜種も近付いてこない筈だ。
この状況に干渉できるとしたら、大規模な自然現象が生物にように振る舞う存在である中級精霊くらいだろう。
しかし、黒い影を見る限りそんな規模の大きな存在にはゲルドアルドは見えなかった。
「あん?、あれは……ジャベリンじゃないかい?」
「え、ジャベリン?この状況で生き残ってたの?凄いな」
ゲルドアルドの視線に気付いたタイタニスが、視線の先に見える黒い影……ゲルドアルドと違い純粋な戦闘職であるタイタニスの眼には、黒い影に骨格が剥き出しの翼腕のような両腕と、長い蛇のような下半身を持つ、レガクロスの姿がハッキリと映っていた。
空も大地も機神による大いなる破壊が襲った戦場。量産性に優れているのと飛行能力くらいしか取り柄の無いジャベリンが生き残っているのを不思議に思うゲルドアルド。
そんな彼の横。突然、タイタニスが手にしていた蜂蜜酒の瓶を一気に煽り空にすると投げ捨て、同時に身構える。前方に軽く突きだされたマキシマムヘビィアダマンタイトが多く使われている金色の機械の両拳が硬く握り締められている。
戦闘体制に入ったタイタニスを見て、「ジャベリン程度の何を警戒しているのかわからないが、取り敢えず身構えとこう」とゲルドアルドも給士のために召喚した大蜜蜂を送還し、サンダーフォーリナーの中へと戻ろうとした。
それは一歩遅かった。
次回更新は、明日の昼十二時の予定です。
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