機神VS邪神・1
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戦場は死屍累々。
機神の咆哮は、竜が張った渦巻く大気の結界を消し飛ばし、ビースウォート軍を壊滅させていた。
展開していた無数のジャベリンも咆哮で跡形もなく破壊されて全滅。
ドラゴンエンチャントで飛行していたビースウォート軍の兵士達は、致命傷を自壊して防ぐ竜の鱗で命は無事だ。
しかし、咆哮という名の超振動波は彼等を水蒸気爆発させた。竜の鱗によってそのダメージは無効化されているが、内側から爆発して吹き飛ぶ衝撃は、ダメージを無効化されていても計り知れない。
しかも、屈強な戦士である彼等はその一撃で意識を刈り取られ、戦場から遠く離れた先へと機神の咆哮の余波で吹き飛ばされてしまっていた。墜落のダメージを無効化してくれる竜の鱗がなければ全滅である。
この戦いが終わりを迎える前に彼等が戦場に復帰することは出来ないだろう。
例え復帰できても直ぐに退場することになる。
ゴンッ!ギャララララララララ!!
内蔵を叩き潰されるような重量の有りすぎる衝撃音。
実際に近くにいれば内蔵どころか肉体が粉砕される機神と邪神の衝突した音だ。
その威力は五百レベルカンスト程度では塵となる。
この戦いに介入したければ、最低でも【Unlimited】で千以上のレベルが必要だ。
上空から墜落して来たと表現したくなる速度で落下する機神ゲシュタル・ゲル・ボロス。機神の要塞のような足に備わる爪がオブシディウスを襲う。
咆哮で吹き飛び嵐のように戻りつつあった周囲の空気を再度吹き飛ばして、再び真空に変え、余波で黄金の溶岩となった大地に激しい波紋が刻まれた。
咆哮の衝撃で各種観測機器が一時的に麻痺していたオブシディウスから、津波のように激しく押し寄せる金属音が砕き鳴らされる。黒曜の鱗の塊である脇腹を抉って通りすぎ、機神はそのままの勢いで灼熱の黄金へと飛び込んで激しい水柱ならぬギラギラと輝く黄金の溶岩柱を打ち上げる。
衝撃の大きさを物語る液体化してるとは思えない硬い衝撃音と地響き。
衝撃で吹き上がるギラギラと黄金の溶岩。
まるで大地が悲鳴を上げて黄金の血を流しているようだ。
ドロドロの大地に呑まれた機神。通常のレガクロスならば呑み込まれた時点で、黄金の溶岩の質量で圧壊して潰れるか、熔解して熔けて混ざり溶岩の仲間入りするかだが、この程度の質量と熱でどうにかなるような機体ではない。
機神の質量を攻撃を受けて全長九百メートルのオブシディウスが吹き飛んでいく。機神の三倍ある邪神が冗談のような勢いで斜め下の大地に叩き付けられた。そこは咆哮が届いてないため黄金に染まっているが硬い大地である。
ギラギラに染められた大地の破片が、爽やかな朝焼け反射したとは思えない粘着質で趣味の悪い輝きを放ち乱れ飛ぶ。
上空に残ったゲルドアルドの目に、邪神の落下地点は黄金の大地が液状化していないのに水面のように波を打つのが見えた。
爪で脇腹を抉る戦果に不満を抱くオゾフロの操作で、溶岩と化した大地の底で前進しながら機神が悠然と歩を勧めている。
無抵抗に機神を孕んだ黄金の溶岩が内側から盛り上がり、盛り上がりは邪神に向かって一直線に進んでいく。
やがて、機神は咆哮で融解した溶岩地帯を抜けて硬い地面に到達。そのままの勢いで地面に突撃して硬い地面を爆散させながら地上に機神が再び姿を現した。黄金の飛沫を滝のように機体から垂れ流し、押し寄せた黄金の溶岩が機神が砕いた大地を侵食していく。
高空から黄金の溶岩に突撃し堂々と歩いて地上に舞い戻った機神には全く損傷が無い。立ち止まった機神からは細くなりつつあるがまだ黄金の滝が流れ落ちる。
『チッ、目測を誤ったか!』
相手の損害を改めて確認。本当は頭部を狙ったが邪神の姿を金属眼球で確認したオゾフロは、無尽蔵に再生する鱗の塊の脇腹しか破壊できなかった事に対する舌打ちを操縦席に響かせる。
その舌打ちには結局潰しきれなかった機神の欠陥に対する苛立ちも含んでいた。目測を誤ったのもその欠陥が原因だ。
結局機神はレガクロスだというアニメートアドベンチャーのシステム的支援を受けれなかったのだ。
オゾフロが保有するレガクロス専門の鍛冶士系ジョブに操縦士系のスキルが少ないが存在しているのだが、そのスキルは現在効力を発揮していない。
機神ゲシュタル・ゲル・ボロスはレガクロスの規格外という判定を覆すことはゲシュタルト総力を上げても出来なかったのだ。
『〈ヴォルテックスグランドクラッシャー〉!!』
オゾフロが苛立ちを吹き飛ばすように機神の武器スキル名を叫ぶ。同時にオゾフロの操作で機神が大気を打ちのめす轟音を上げて機神に右腕を天に掲げた。
〈マグネティックサイクロンバンカー〉の五つの砲身を備える手が機神前腕の拡張空間に収納され、激しいスパークと共にオレンジ色の円錐が出現。収納された手の変わりに虚栄の蒸気を噴き出しながら長い前腕の先に接続される。
接続されたのは騎士槍の如く長いフォルムを持つマキシマムヘビーアダマンタイト製の超重量掘削ドリルだ。
オゾフロはクロスレンジで邪神を粉砕する気である。
実は他の武装は射程距離がいささか長すぎるため、機神の武装の殆どはゲシュタルトの運営を担うサブマスターダイ・オキシンから使用禁止が言い渡されているため、強力な遠距離武器が使えないのだ。
「方向によってはビースウォートからでもアイゼルフ主要都市に壊滅させるかもしれない武装を気軽に使われては困ります!絶対ダメ!!」とダイ・オキシンに釘を刺されているオゾフロの顔はとても不満そうであった。
厳重に封印措置が施され、封印解除権限はゲルドアルド、ダイ・オキシン、ブラウリヒトのサブマスターが握っている。
超大型MP増殖炉で増殖されたMPが超重量のマキシマムヘビーアダマンタイト製ドリル〈ヴォルテックスグランドクラッシャー〉のスーパートルクMPモーターに供給され回転を開始。
回転軸からドリルを飾るように無意味に盛大に火花の鬣を作り出し、超重量ドリルの高速回転が猛烈な竜巻を生み出す。
機神が走り出した。
掲げていた超重量ドリルを機体の真横に向け、ドリルから発生している竜巻が横向きになり、ガリガリと大地を削りブォォォォォォォォォォォ!と大気の断末魔の声を響かせながら荒れ狂う。
駆ける機神に踏み砕かれて抉られた大地からギラギラゴールドに染まる乾いた破片が舞い散る。
動くだけで機体のあらゆる箇所で音速を越えてしまう機神の動作の余波が周囲で暴れ、機体が大気を乱暴に切り裂き巻き込んで幾つもの竜巻に転生させ、機神から逃げるように機体周辺から竜巻が飛び去っていく。
『ギュリィィィィィィィィィィィィ!!』
機神の急降下蹴りで脇腹をゴッソリ抉られた邪神が吠える。
随分と遠くに吹き飛んだ邪神ではあるが両者のサイズから見れば僅かな距離。
幾らでも補える鱗部分の損傷だけあってダメージも見た目程ではない。
機体を軋ませ地面にめり込んだ状態から邪神が己の出力を高め、無理矢理態勢を立て直す。
大気に干渉して機体を浮かせる紫電が全身から迸る姿は、黒曜の機体色も合わさり地を這う雷雲のようだ。
そして、雷雲は遠くで遠雷を響かせていても、気がつけば真上にある驚くべき速さを巨大な身体に持っている。
周囲の物を手当たり次第、鰭、鱗から発生する紫電で掴みとり猛烈な勢いで邪神の背後に投げ捨てられていく。その反動が機体を加速させて機神に向かってその質量に似合わない速度で迫った。
その時、機神の咆哮や攻撃で下半身が破損していたイリシウムジャベリンが、加速に耐えきれず邪神の怪魚部分の額から千切れ落ちた。
そのまま音速で背後に投射され続けている大気や土の津波に巻き込まれたグナロークは悲鳴もすらも上げる間もなく呑み込まれて消えていった。
次回更新は、明日の昼十二時の予定です。
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