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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
スーパーレガクロス内戦編

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機神咆哮


フォーリナーの真下で着弾したこと以外は、ゲルドアルドには想定通りの効果。

ビースウォート軍や、結界近くまで接近していたために〈メテオキャノン〉の直撃で大きく歪んだ結界ぶつかって吹き飛んだイリシウムジャベリン乗るグナロークには予想外の〈ギラゴルドペイント弾〉の効果。


特殊弾が砕け散り。眩い光が戦場を、ほぼ自爆で驚いたゲルドアルドよりも驚愕させる。

結界を大きく歪ませた〈ギラゴルドペイント弾〉が凄まじい黄金の爆発を周囲に解き放ったのだ。


戦場に居たビースウォート軍は、ザイブロン大将軍も含め、目に槍でも突き立てるような暴力的で不快感を伴う光。その余りの光量に眼を閉ざさずに居られなかった。


戦場が静まり返り、光は直ぐに収まった。


収まった光に気付き、戦場であるため痛む目に鞭を打ち慌てて眼を開いたビースウォート軍に更なる驚愕と目の痛みが襲う。


一言で表現するなら、それは一面の金世界。


戦樹が逃げ出し剥き出しの地面。


逃げ遅れた戦樹。


地面を濡らす雨水さえも。


趣味の悪いギラギラとした黄金の輝きを放つ〈ギラギラゴールド〉色に染まっていた。


それはかなりの広範囲に及んでいた。第八密林都市は勿論、見える範囲の大地と密林が全て黄金色に輝いている。


最初の爆発ほどではないが戦場は染める趣味の悪いギラギラとした眩い金の光が、身体能力に優れている獣人が多いビースウォート軍の視角に痛み与え続けている。

その痛みに全軍に動揺が走った。従軍している呪術士系ジョブの兵士が呪術スキルでその光を弱めるか防ごうとしたが。防ごうとスキルを重ねるほど光は強くなり、酷い痛みが兵士の目に襲い掛かった。


スキルで防ぐのは逆効果。効果があったのは物理的に眼を覆い光を遮断、軽減するものだけだった。

視力も優れる獣人と、身体能力を上昇させるビースウォート国土精霊の加護を逆手にとる。嫌らしい新たな雷槌(ゲルドアルド)の攻撃は〈アレルゲンポランミサイル〉程ではないが、勝利の行方を左右するほどの威力があるとザイブロン含め戦場にビースウォート軍は戦慄させる。


彼等は対策のために思考を割くしかない。

故にこれが攻撃ではなく、ただの前準備でしかないことに気付く者はいなかった。




ビースウォート軍が雷槌と呼び、憎悪と畏怖を向けるフォーリナー。機体がゲルドの操作によって、触れた対象をモノポールと化して弾きとばす磁力のフィールド〈マグネベクターフィールドN〉起動する。


最終兵器に備えて機体をフィールドで覆い防御を固めた。


背部の瘤状部位内部のからMPを流されて甲高い回転音を響かせるMPモーターがフォーリナーから漏れ聞こえてくるが、それは間もなく、別の音で掻き消される。


ゲルドアルドが乗るフォーリナーの頭上で制止しているゲシュタル・ゲル・ボロス。

その機体内部へとゲルドアルドが暫定異世界で築いた巨大な蜂の巣。ジョブとスキルの効果で得ているMPが流れる。


それは〈メテオキャノン〉に使用した量を鼻で笑えるような正気とは思えない量。


ビースウォート軍を警戒させた周囲に充ちる趣味の悪いギラギラとした黄金の輝きを経由して、ゲシュタル・ゲル・ボロス内部に搭載された超大型MP増殖炉へと流れ込んでいく。


ゲルドアルドを呪いそして馴染んでスキルとなった。対象を悪趣味な輝きの黄金色に染める〈ギラギラゴールド〉には便利な効果が宿っていた。

ゲルドアルドは〈ギラギラゴールド〉に染めた対象に黄金の光を経由して、損失無く効率良くMP(マナ)を供給出来るのだ。


対象が〈ギラギラゴールド〉で染められている事が前提だが、光が届く範囲ならばゲルドアルドが乗らないと動かせないサンダーフォーリナーも、ゲルドアルドじゃないと起動できない超大型MP増殖炉を使用する人型要塞モードで戦えない、ゲシュタル・ゲル・ボロスを同時に動かすことが可能なのだ。


最初に大地を染めたのは、ゲルドアルドとMP供給対象の間を遮られてしまうとMPの供給が出来なくなる欠点の対策だ。

大地の奥深くそして広範囲を〈ギラギラゴールド〉で染めたので、ここから引き離されようが物理的に遮蔽されようが問題なく供給し続けられる。


「先行していたギルメンは退避済。ビースウォートの連中は竜の鱗生えてるからほっといても大丈夫として……密林都市はダイ・オキシンさんが担当っと」


己の役目を終えたゲルドアルドの呟きを合図にしたかのように、移動要塞モードで滞空していた機神ゲシュタル・ゲル・ボロスが、その形を変化させ始めた。







「超大型MP増殖炉二号から三号。起動MP蓄積完了!」

「ギルメンの安全圏まで退避完了!」

「ビースウォート軍には竜の鱗があるので手加減無用!」


情熱と悦が入った艶やかな声がゲシュタルト・ゲル・ボロスの内部放送で楽しげに響く。

その後ろでは可憐な少女の声色で、魔女のような不気味な笑い声が後ろで掻き鳴らされているのが聞こえてくる。


遂に実戦で、アニメートアドベンチャーで誰も実現できなかったサイズの巨大な人型兵器を暴れさせる事ができるオゾフロ。


彼女はとても上機嫌だった。


それでも、メイン操縦席でふんぞり返り笑い続けるオゾフロには、記念すべき初の実戦の出鼻挫いてくれた、オブシディウスに対するドロドロとした憎悪が渦巻いていた。


機体の大きさに見合った広い操縦席。見学席で盛り上がる整備士系のギルメンと、基本動作に関わらない変形動作や各種副兵器の操作を高出力MP増殖炉経由して機体に流されているMPを介して担当するギルメン達が、火気管制オペレーターの真似事をしている。


楽しく遊べてはいるが、オゾフロから漏れ出た僅かな怒気を感じとり、彼等と彼女等は背中は冷や汗ビッショリと濡れている。




「腕部間接機構ロック解放!」

「脚部間接機構ロック解放!」

「移動要塞モードから、人型要塞モードへと移行開始!」


胴体装甲に一部が埋まり、ロックされていた両肩間接が左右に引き出されていく。


髪の毛一本も挟まる隙間もない精密で完璧な隙間に収まる肩を引き出す動作は本来は無音である。

それでは味気ないと考える者が殆どのゲシュタルトは、無意味にMP消費して機体の変形動作に合わせ、激しく金属が擦れて火花と擦過音を散り鳴らす幻を浮かび上がるという無駄な機能を搭載している。


変形動作の始まりには、表面で生成され、ワザワザ吐き出される圧縮空気音と真っ白な気体が始まりを告げる為に噴出。

有り余るエネルギーの演出で、上級魔法系スキル並みの威力がある電流が無意味に派手に迸り、眩しく動作の終わりを告げる。


ゲルドアルドの協力がなければ実現できない、趣味丸出しの遊びである。


前方に伸ばされていた機体全長に近い長さの前腕。先端で真っ直ぐに伸ばされていた機械と兵器の指にMPが通い蠢いた。


意味もなく蒸気を撒き散らし、間接が解放された前腕は重力に沿って風を切りながら真下に向く。

それ単体で見ても小要塞の城壁のような両足が、畳まれた状態から一際激しい金属音や気体の噴出音で絶叫を上げ。

偽りの無意味な蒸気を高らかに吹き上げて動きだし、その後は眩い電流が迸って伸長する。


本来は大地を握り潰す足の爪が震えて宙を掻き毟。


「胴体部間接機構ロック解放!」


虚栄の圧縮空気を吹き出し、胸部が腰から迫力ある音を響かせて重々しく持ち上がる。


様々な魔法装置で膨れ上がり、それを覆う重厚な装甲から派手に電流が迸る。

空気中の水分が弾けて連続した爆発音が立て続けに起きている。


前方に倒れ頭部に覆い被さっていた巨大兵装を備える背部パーツが立ち上がると、胸部に埋まるように存在している頭部が露になった。やや斜めに前方に傾く角度まで立ち上がると背部兵装からも電流が迸る。


露になった頭部の金属眼球がバイザー越しに輝き、真下から機体を照らすギラギラゴールドに負けない凄まじい閃光が頭部のバイザーから放たれた。


「ちょっと過剰演出すぎて滑稽じゃないか?」と議論になったが結局搭載され、こうして地平線の先まで届きそうな光線が今日、これまた派手に電流を放電しながら放出されている。




「人型要塞モード変形完了!」

「最大戦闘用操縦席ロック解放!」


操縦室中央。一段高くなったゲシュタル・ゲル・ボロスの人型要塞モードの基本動作を制御するメイン操縦席の機能が解放される。

そこに座るオゾフロがとても三百メートルある機体を操縦できるとは思えない簡素だが、握りがいのある拘りの造形の太い操縦桿をギリリと音を立てて握り締めた。

オゾフロが本気で握っても潰れない特注品である。何度も確かめて試作に試作を重ねた感触に、オゾフロが歯を剥き出して可憐な見た目に合わない捕食者の笑みを浮かべた。


「超大型MP増殖炉二号、三号起動!」


ギルメンの声が響き、遂に邪神を砕く機神の心臓……ゲシュタルトの施設を吹き飛ばした超大型MP増殖炉が起動する。


事故の教訓から改良が加えられた二機の増殖炉は素材から見直され、欠陥は丁寧に潰されている。起動実験の時のような爆発はもう起きない。破壊を伴う他の増殖炉と比較にもならない超音響の作動音の騒音すら改善されている。


しかし、貪欲にゲルドアルドのMPを食い、超大型MP増殖炉が起動する瞬間だけは音を発する事を止める事ができなかった。


「ゲシュタル・ゲル・ボロス!最大戦闘態勢〈機神咆哮〉!!」


ゲシュタル・ゲル・ボロスの人型要塞時の最大戦闘最終ロックを解除する起動ワードが操縦桿を握りしめた、オゾフロの口から全力で告げられる。


破城槌のような前方に突き出た胸部装甲に埋没する頭部装甲が上下に大きく開閉。口のような装甲の開閉をロックしていた歯に見える機構が剥き出された。


それは超大型MP増殖炉の起動時に発生してしまう、破壊的な騒音を外に向けて一気に解き放つ、機体の自壊を防ぐための安全装置だった。




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機神ゲシュタル・ゲル・ボロスが咆哮する。


それは誰一人として音として認識できる者が存在しなかった。


それまで滝のように豪雨を降らし続けていた雨雲が咆哮とは名ばかりの、空間を歪ませるほどの超振動波で消滅する。


波及した咆哮は周囲の水分子を高速で振動させ、周囲に存在していた水分子が振動によって膨大な熱を生み出し、機体を中心に数十キロに渡り存在している分厚い雨雲を跡形もなく消滅させたのだ。


同時に地上にも超振動は襲いかかった。


戦樹の密林で覆われた湿度の多い熱帯気候の筈だった大気は水分が消滅し、大地は超振動が生み出す熱で気化してクレーター状に穿たれて消え去る。

範囲に取り残され振動破の直撃を受けた戦樹は、体内の水分で水蒸気爆発を起こして跡形も無い。

液体を経ずに気体となった大地は熱と衝撃となって周囲に拡散していった。

熱は機神の真下で大地をドロドロに熔解させ、衝撃がドロドロの大地を波打たせて津波となり、咆哮も熱も届かなかった場所へと更に破壊を広げていく。


ギラギラゴールドに染められた大地はその状態となっても悪趣味でギラギラとした厭らしい輝きを放ち続けていた。


熱帯気候だった土地は一瞬にして乾燥した黄金の灼熱溶岩地帯へと変貌していた。



いつの間にか夜が明け、分厚い雨雲に隠されていた朝焼けに染まる空が機神の背後から姿を現す。


『ゲシュタル・ゲル・ボロス!突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!!』


実に楽しそうなオゾフロの声が機体の拡声器から響き、MP増殖炉から産み出された爆音を放出し切った機神がその大きさに似合わない速度で動き出した。






超大型MP増殖炉一号は決戦兵器編で大爆発して消滅。ゲシュタルゲルボロスに搭載されているのは新たに作られて欠点を潰された新造の超大型MP増殖炉です。


次回更新は、明日の昼十二時の予定です。


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