確かめても確かめても
非常に目立つ集団がゲルドアルドの森を進んでいる。
全員が黒いローブを着用し、白で縁取りされた黒い十字架と炎を象ったシンボルをローブの背に描いている。よく見るとローブの隙間からは赤い髑髏や骨のアクセサリーが見えている。
夜なら保護色になるだろうが現在は昼。深い森の中だが薄暗くても充分明かりがあり、充分目立っている。
そんな怪しい特殊部隊が十五人と森に現れたのと酷似したキメラが十体。
隠蔽系のスキルやマジックアイテムを使用しているが、残念ながらこの一ヶ月の巣の拡張で大量に作成して森の全域をカバーし、探索能力に長けた大蜜探蜂の複眼をごまかすには力不足だった。
大蜜探蜂が居なくても、蜂の巣スキルで常時強化されている罠蜜屠蜂の複眼をごまかすのは難しかったが。
そして、ゲルドアルドの厄介なところが、大蜜探蜂が隠蔽を見破って獲た情報は蜂の巣のスキルによって即座に群れで共有されることだ。
殺すだけなら簡単だとゲルドアルドは聖暗黒教国の特殊部隊【煉獄の炎】の能力を確認して肩を震わせる。
森と同じ規模まで拡張された地下の蜂の巣の奥深くで、ゲルドアルドは能力と装備を丸裸にした聖暗黒教国の特殊部隊、煉獄の炎を一人一人吟味していた。
同格ならば厄介であろう普人族が生まれながら所持する進化する異能。
ジョブやスキルとは別カテゴリーの力で、当たり外れが大きいが、使い育てることでどんな珍妙な異能で最終的には強力な物に変異する。
大蜜探蜂が看破した異能は全て戦闘に特化したもので非常に強力だった。それが十五人分。
そして、キメラにした猫獣人が拠点にしている街の冒険者達とは比べものにならないマジックアイテムでフル武装している。
ゲームでも上級者が高値で取引するような物ばかりだ。作成者の名前はダークネスホーリーマスターとなっている。プレイヤーが作成できる最高位のデミゴッズのマジックアイテムまで混じっていることにゲルドアルドは驚いた。
唯一神ダークネスホーリーマスターは優秀な生産職のようだ。
とても素晴らしいことだとゲルドアルドは思った。キメラの素材として、とても優れた異能の持ち主達が高額の武装を背負ってやって来ている。
武器の格に装備者の格が追いついていないのが最高だ。格が足りてないのに何故デミゴッズのマジックアイテムを装備できるのか謎だが。
ゲルドアルドは装備できるマジックアイテムに大きな制限がある。
性能が高いマジックアイテムを作りやすい大きなアイテムは腰部分しか装備することが出来ず、デミゴッズの装備は一つしかない。デミゴッズのアクセサリーの作成は、鎧や武器より一段上の素材の品質と職人の技術が要求されるので、値段も希少性も跳ね上がる。
ゲルドアルドはこの暫定異世界で人を殺すことに抵抗は無い。
蜂の巣の魔人の姿でこの地に降り立ったゲルドアルドの精神はゲームのプレイ時に近い。
そこで生まれそこで生活する喜怒哀楽を備えたNPCを巻き込む、所属国家の敵大国に対する破壊工作をしている時と同じ感覚でゲルドアルドは生活している。
相手がテロまがいの破壊工作を躊躇なく行うゲームの中のゲルドアルドと似たような行動をする集団だというのも、ゲルドアルドのブレーキを緩めるのに貢献している。
既に包囲網は完成していた。
罠蜜屠蜂の判定は全て一撃で殺せるだ。
「〈蜜蜂強化〉〈蜂の警告〉〈マーキングフェロモン〉散布、ハニービーリーダー作戦開始せよ。」
巣の拡張によって一ヶ月前と比べると大幅に強化された〈蜂の警告〉によって発生した、姿の無い何千何万の蜂の羽音が重なった凄まじい騒音が静かな森に響き、煉獄の炎の右側面から羽音が迫る。
恐怖の状態異常を相手に付与する羽音を聞いた、煉獄の炎とキメラの精神が大きく揺さぶられ、蜂の羽音に必要以上の危機感と恐怖が煽られる。それでも日頃訓練の成果でそれぞれが武器を構え右側面を向き臨戦体制に入るが、幾人かが武器を取り落とした。
それを隊長格が叱責しようとするが、その背後から十五匹の罠蜜屠蜂と〈蜂の警告〉に紛れさせていた全力で飛んできた十匹の大蜜蔵蜂が襲いかかる。
ゲルドアルドは驚いた。
予想外なことが起こったのだ。
特殊部隊の内の十人がなんと罠蜜屠蜂を撃退したのだ。
直ぐに罠蜜屠蜂達と時間差で煉獄の炎を襲撃した猛毒を持つ罠蜜劣蜂達が襲撃して直ぐに三人に減ったが、どうやらステータスに現れない本人達の技量が予想以上に高いとゲルドアルドは思った。
なお、キメラは何の問題も無く大蜜蔵蜂によって捕獲され別の場所に運ばれている。キメラには別の実験に協力してもらう。
ゲームの中では魔人族の特異性でゴリ押しすることが多く、プレイヤースキルにさほど自信がないゲルドアルドは煉獄の炎の動きに感心して少し不安になった。
過去の同類があれなので内心かなり馬鹿にしていたが、ゲルドアルドは認識を改める。
周囲に不和もたらすだけの殺しても何も問題無い奴らから、目的の為に装備を揃え鍛えている殺しても問題ない奴らに煉獄の炎の認識改めたゲルドアルドは、彼らの周りに控えている数百匹の罠蜜屠蜂をそのまま待機させて、別の手段で煉獄の炎に対処することにした。
撃退された罠蜜屠蜂も罠蜜劣蜂も大した傷は負っていない。巣の近くに居る支配下の蜜蜂型モンスターにはゲルドアルドスキルで自動で継続的に傷が癒される。
何度でも襲撃可能だし、数百匹の罠蜜屠蜂をけしかければ直ぐに終わるが、強者がどれくらい強いのかゲルドアルドは確かめたくなった。
「彼らと灼蜜衛蜂を戦わせよう。」
灼蜜衛蜂……空を飛ぶ羽を鋭い刃に変えた巣の守護者。狭い巣の中で単体での陸戦に特化したハニービーガーディアンが更に炎熱に対する完全耐性を手にした蜜蜂型モンスターだ。
森のモンスターは弱すぎて意味がない。ゲルドアルドが召喚、作成した蜜蜂モンスターは巣から離れる弱体化し、長く生きられなず遠征が出来ない。
ハニービーリーダーの配下のモンスターを転移させる能力は巣の中、巣の周辺限定だ。
蜂の巣の魔人であるゲルドアルドが付き添えばそのデメリットは無くす事が出来る。
しかし、巣を離れるとゲルドアルドを強化しているスキルが働かない。
ゲルドアルドには安全な巣を出ていくのに強い躊躇いと恐怖があった。
周囲のモンスターが弱い御蔭で森を隠れ蓑にして、安全に巣の拡張に専念できたゲルドアルドだったが、安全を確保した蜂の巣からより離れづらくなる自体を招いている。
ゲルドアルドは不安で仕方がない。
過剰に巣を広げるのも、過剰に配下のモンスターを増やすのも、ゲームのように暴力を奮うのも、特殊なキメラに御執心なのも全てがゲルドアルドの「ボクのステータス正しいのか?今見ている敵のステータスは正しいのか?ゲームじゃないのにゲームのように見えて使えるボクのこの力は本当にゲームのように機能しているのか?」
確かめても確かめても、尽きないそんな不安をゲルドアルドは抱えている。
普段は衣食住が安定しているため、押さえられているが、一度顔を出した不安は中々引っ込めることが出来ない。
灼蜜衛蜂を強化している様々な強化系スキルをあえて解除する。
調度良い感じにステージも向こうが円形のステージを作ってくれたので、そこで素の力の灼蜜衛蜂で三人のこの世界の強者を叩き潰す。
愉快で不愉快な暫定異世界のキメラも、この世界で作ったゲルドアルドのキメラに相手をしてもらう。
監督ジョナサン・イングリッシュ
映画【ミノタウロス】
内容はタイトルの通り、迷宮によくお住まいの牛頭人身の怪物です。ギリシャ神話モチーフです。
ミノタウロス生け贄にされた恋人を探しに主人公が迷宮に挑む話です。
セットが若干安っぽいですが役者が見目麗しい人達が揃っていて目に優しいです。
そういうのぶっちゃけどうでもいいんです。
ミノタウロスめっちゃカッコイイ!動きも凄まじい躍動感で迷宮を駆け巡り爽快です。
見た目は牛の骨格に皮が張り付いてるみたいな牛頭人身じゃなくて全牛のミイラという感じですが、めっちゃクールです。
たぶん牛のモンスターで一番カッコイイデザインしてます。