黄金の先触れ
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燃え盛る呪いの炎と木塊の包まれたオブシディウスに変化があった。
竜巻人参兎竜に乗るザイブロン大将軍。
投擲要塞で運ばれた十二万の兵。
ヤリスティブ将領第八密林都市の防衛兵四万。
六方を包囲する軍勢の目の前で、炎と木塊から呪いの結界を突き破り黒曜の突起が幾つも現れた。それは、縦横無尽に動き回り、禍々しい呪いではあるが死してなお燃え盛る戦士の魂の炎を無惨に引き裂いていく。
〈マジックイレイザー〉を発動した黒曜の鱗で形成さ呪い削ぎ落とされていく。
呪いの炎と木塊は引き裂かれる側から、呪いを増殖させるが、それは間に合っていなかった。明らかに増えるよりも呪いが削られる方が多い。遠からず結界を突き破り、オブシディウスは動き出すのが誰の目にも明らかだった。
故にザイブロンは全力で勝負を仕掛けるために準備を行う。
「ザイブロン・ビースウォートが請う!我が古き盟友、竜巻人参兎竜よ!我らに竜の鱗の守りを与えよ!」
「ギャロォォォォォォォ!」
竜巻人参兎竜の咆哮が響き渡る。
咆哮には竜の魔法が宿り、それはビースウォート全軍に浸透していく。
竜の魔法がビースウォート軍の兵士に致命を退ける竜の鱗を授ける。
兵士達の皮膚や体毛、羽毛の一部に鱗が現れる。
これらは致命傷を受けると一枚ずつ砕け散りダメージを無力化する。
それが兵士一人に付き、個人差はあるが十枚以上。
「我らに猛毒の竜の爪を!」
ビースウォートの兵士の多くが武器を持たず素手。
その兵士達の両腕にアダマンタイトを切り裂き、アダマンタイトを腐食させる猛毒を分泌する竜の爪が出現する。
武器を持つ数少ない兵士達……その多くは軍に予備兵として在籍しているディセニアンだ。
武器に鏃のような真っ直ぐな爪が出現する。
「我らに自在に空を駆ける竜の翼を!」
兵士達の背中で魔法の光が弾けて背中に雄々しき竜の翼が現れる。
竜の翼は好きな方向に重力を生み出し、恐るべき加速力を持つ。
空の果て、竜の揺りかごの中でも自在に飛ぶ力を兵士に与える。
「ギャロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
ザイブロンが一つ叫び、兎竜が咆哮する度に周囲に竜の魔法が全軍に染み渡る。
竜が他者に竜の力を授ける〈ドラゴンエンチャント〉だ。
砕けることで致命を退ける鱗、恐ろしき猛毒の爪、空の果てでも自在に駆ける翼。
ここに総勢十六万。
竜を駆る王ビースウォート大将軍と、竜の力を手にした無敵の軍団がここに誕生した。
『ギュリィィィィィィィィィィィィィィィ!!』
呪いの結界を引き裂き、オブシディウスがタマゴローのスキルを打ち破って復活。呪いの炎と木塊が吹き飛び周囲にぶちまけられた。
飛び散った呪いは今だ消えないが、度重なる〈マジックイレイザー〉による破壊と増殖で呪いが劣化している。
兎竜の翼の竜巻と豪雨が合わさり嵐となった戦場でも火は消えないが、既に呪いの核であった国境監視砦の兵たちの恨みは残っておらず、それはただの呪いで紡がれただけの消えにくい火と木塊になっていた。
「我らの国を荒らす侵略者に見せつけよ!我らビースウォートの牙に陰りはないことを!!」
兵士達と同じく〈ドラゴンエンチャント〉で竜の鱗、爪、翼を生やしたザイブロンが咆哮する。
魔法も使っていないただの声が豪雨を突き抜けて兵士達の耳に届いている。
ザイブロンは竜の爪の生えた拳を握りしめた。竜の爪は手の動きに会わせて自在に動き拳の先へと移動する。
天に向かって勢いよく突き上げられた拳が雨が降り続ける天を突いた。
スキルも使っていない拳がザイブロンの上空の雨を拳が生み出す圧力だけで吹き飛ばし、分厚い雨雲に穴が穿たれる。
ザイブロンの恵まれた才能と、死闘と努力で鍛え上げた千五百を越えるレベルが生み出すステータス成した芸当だ
「蹂躙せよ!破壊せよ!!眼前の敵を我らと古き盟友の力で擂り潰すのだ!!!」
ザイブロンの掲げられた拳が研ぎ澄まされた剣のような鋭さで振り下ろされる。
「ビースウォート軍!突撃!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
ザイブロンの号令でビースウォート軍が咆哮し、竜の翼で飛翔する。
咆哮は大地を揺るがし地震と間違うほど振動を生み、竜の翼から漏れ出た地表から飛び立つ為の重力が、滝のような豪雨を下から上に押し返す怪現象が戦場に出現した。
『ギュゥゥゥゥゥゥゥリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!』
全方位から迫り来る敵に対して黒曜の怪魚オブシディウスも咆哮する。
機械仕掛けの大口内部で無数の歯が連なるローラーが、激しいスパークと火花を散らす。
九百メートルの巨体から発せられるそれはビースウォート全軍に匹敵した。
咆哮するオブシディウスは、その体を過剰に増殖した黒曜の鱗で武装し丸く更に巨大になり、今までの召喚速度と比べ物にならない速さで、ジャベリンが召喚される。
瞬く間にこの場にいるビースウォート軍、全兵士の総数に匹敵する数のジャベリンが召喚された。
オブシディウスとビースウォート軍の間を埋めるように展開するジャベリンは更に召喚されている。
◆
暴走し続ければ、いずれアニメートアドベンチャーを滅ぼす邪神オブシディウスの軍勢が、若き竜とビースウォート開祖の末裔ザイブロン大将軍率いる軍勢が激突しようとしているその時。
全力でこの場から離れる勢力があった。
それはアイゼルフ王国所属。大陸でも一、二を争う大規模ギルド。
ゲシュタルトに所属する精鋭ディセニアンで構成されたレガクロスとキメラライダー部隊だった。
この規模の戦闘と、ただでさえ国土精霊の加護で全種族中最高のフィジカルを誇る獣人が多数所属するビースウォート軍が数十万人規模。
運営に多数のディセニアンのクレームが寄せられるほど、厄介で知られる竜の力を手にして、戦意高く戦おうとしているのだ。
戦争に参加した規模ならともかく、幹部専用機が不在で、レガクロスとキメラを会わせても百に満たない戦力では、幾らゲシュタルトの精鋭でも戦うどころか一方的にスクラップにされるだろう。
しかし、彼等は全員死んでも問題ないディセニアンで、ビースウォート軍の敵は今回は邪神オブシディウスだ。
敵視はされているが敵対はされていない状況で、このような珍しいモノが集っているイベントを、見ようともせずにゲーム廃人が多数在籍するゲシュタルトのギルドメンバーが逃げ出すのはかなりおかしい。
そこにはとても単純な理由があった。
今しがた彼等にギルドマスターオゾフロから、ギルドチャットで連絡が来たのだ。
上機嫌なのが声だけで分かるオゾフロの声を聞いた瞬間。彼らは駆け出した。
こんな大規模イベントで勝ち戦なのに死にたくないそんな思い抱いて。
イベント終了確定後の査定は、ギルメンがゲシュタルトの恩恵で受け取った額で最大になると皆が思っている。
ゲームでも現実でも、ここを一度も死なずに乗り切れば大変懐が暖かくなるのだ。
『走れー!走れー!黄金の未来を掴み損ねるぞ!?』
『やべぇぇぇぇぇぇ!フォーリナーが降りてきてる!?先触れか!?待って!ゲルさん待って!?』
『おっひょーMPモーターが擦りきれるまでかっとばっずぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
『とんでぇー!?ブレインちゃんお願いもっと早く!!!』
隠密特化ベア・フランキスカ系のレガクロスすら、MP増殖炉で倍加増殖したMPを全て駆動の為にMPモーターに注ぎ込んで姿も隠さず全力疾走している。
『『『ゲシュタル・ゲル・ボロスが来るぞぉぉぉぉー!』』』
◆オブシディウスとビースウォート軍が集う上空
戦意みなぎる両陣営の咆哮で揺れる戦場の真上。
ビースウォート軍の竜の翼から漏れた重力の影響で、駆け上がる豪雨を下から浴び、上からも竜の翼の重力の影響を受けていない雨雲から降る豪雨を被り、それは降下してきた。
全長は六十五メートル。
体に対して異様に長い手足を持つ人型が、十字架のように手足を伸ばして降りてくる。
全身には太い鰭のような突起。七つの目を持つ球体の頭部がグルリと無機質に動きと周囲を眺めている。
胴は逆さまの卵を思わせ、背中側が病気のように膨れて盛り上がる不気味な形状は、上下から機体を濡らす雨で良く見えない。
それでも、最近彼の代名詞になりつつある、ギラギラとした趣味の悪い黄金の輝き。
成金や曰く付きの金細工。狂金タイタニスの黄金に対する執着等を、魔法で抽出して呪いの染料に変えたギラギラゴールドは、水中にいるのと変わらぬほどの上下から注がれる滝のような二倍の豪雨越しでも、簡単に視認できるほどギラギラと趣味の悪い黄金の光を放っている。
『えぇ何このカオスな戦場。聴いてたのより酷いんだけど……』
大勢が視認できる状況で厚い水で隠されたことで、むしろサンダーフォーリナーと中のゲルドアルドと共にギラギラゴールドは輝きを増している。
雨雲突き抜けたフォーリナーのギラギラ輝く黄金の機体の後ろから、フォーリナーが突き抜けた穴を押し広げる物がある。
雲を膨れ上がらせ姿を見せよう巨大な物体が降下してきている。
それはこの戦場を終演に導く。
ゲシュタルトが造り上げた機神であった。
次回更新は、未定です。
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