投擲要塞
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◆ゲシュタルト・レガクロス部隊
タマゴローが身体の一部、ステータスの長時間の欠損と引き替えに呪いを強化するスキル使用の反動を受けて呪いが炎であっため爆発を伴う犠牲を払った時、別の場所では戦いが一つ決着していた。
『まだ、動いてるな?……オブシディウスの魚の部分』
ハンモウが魔人族特有のオンリースキルで生成した物理、魔法現象問わず滑らせる特殊な苔を金属化した特殊装甲を纏う苔岩の魔人ハンモウ専用機【フルカスタムバルディッシュ・センタイアサン】から呟きが漏れる。
頭部が改めて確かめるように、猫手を形成していた炎と木塊に機体を包まれ雨が蒸発した霧と共に落下していくオブシディウスと、目の前のイリシウムジャベリンの残骸を交互に見比べていたハンモウが、機体の拡声器越しに呟いていた。
オブシディウスを操っていたと思われていたイリシウムジャベリンとグナロークをハンモウは撃破していた。
それでも、タマゴローが使用した相手を封じ、そして呪殺する拘束結界スキル〈呪王大封殺〉を破ろうとオブシディウスが暴れている。
スキルの規模もオブシディウスも巨大であるため、ハンモウ達はかなり離れているが、豪雨とそれに負けない勢いで噴出する濃霧に包まれていても、暴れているオブシディウスの動きが金属眼球の望遠機能使わなくてもよくわかる。
『真っ二つになってるけど、第三王子は実は生きてるとか?』
ハンモウの呟きに反応した、近くに佇んでいたバトルアックスの一体が重い足音を立てて残骸に一歩進み出る。
金属眼球が映し出す無惨に切り裂かれたイリシウム。
操縦専門とはいえ、レガクロスの構造には詳しい筈のギルメンにも、よくわからない機構が断面から露出している。
操縦室だったと思われる場所を露出しており、魔法で拡大して確認すると、そこには縦に半分になりピクリとも動かないグナロークがいるだけだ。
誰がどう見てもグナロークは死んでいる。
プレイヤーと比べると死んでも死体が残るため分かりづらいが、念のために各種魔法装置で体温や心音等を確認しても、グナロークの生体反応は一切確認できない。
噴き出した大量の血は、全て滝のような豪雨で洗い流されている。
惹き付け役のシャークムート、バトルアックス、ダイノ・ブローバ、更に今も周囲に隠れ潜んで周囲を警戒しているベア・フランキスカやギアズリーの混成レガクロス部隊による波状攻撃。
そして隙を突く為に空中で待機していたセンタイアサン専用武装。あらゆる物理、魔法現象を滑らせる断ち切る二十メートルの大型儀杖斧による急降下斬撃は、目論み通りにイリシウムジャベリンの通常のレガクロスの三倍はある機体を、グナロークごと真っ二つにした。
『ぁーそういう可能性は俺ちゃんサブマスから聞いちゃってたけど、生体は起動に必要なだけってことかぬぅあー?』
メックマンが拡声器で喋りかけながらシャークムートを地上に着地させ、同時に拡張空間に一時的に溜め込んでいた機体稼働で発生した熱を機体の外へと一気に解放する。
魔法で熱も自在に操れるアニメートアドベンチャーの世界では、ただ逃がすより回収して色々利用する方が便利なのだ。
限界はあるので戦闘が一段落した段階で、メックマンは排熱を行ったが。
周囲がシャークムートから吐き出される熱量と雨の水分が十メートルの金属の巨人軍団が立ち並ぶ周囲が、一瞬霧に包まれるが霧は豪雨ですぐに洗い流されて消えていく。
『ということはオブシディウスの本体は第三王子じゃなくて魚の部分?』
『どぅろうねー』
『通りで弱いと思った』
イリシウムジャベリンは強敵であった。
強力な熱線兵器はバトルアックスどころか、総アダマンタイト製の装甲を纏うダイノの装甲すら一撃で大きく破壊し、高速で飛行し増殖して数を増やし独自に攻撃を仕掛けてくる黒曜の鱗は手数が非常に厄介だったが、ゲシュタルトの精鋭が何十機のレガクロスで挑むほどではなかった。
イリシウムジャベリンだけなら、途中でタイタニスの足止めのために離脱したブラウリヒトとパンツァーブルーダーが来ていれば、数分でスクラップになっていただろう。
『横目で戦闘見てたけど、魚の方の防御力がヤバイ。ゲルさんまだ来ないの?フォーリナーの攻撃力が欲しい』
『というか幹部が誰も到着してないんだけど』
『それよりゲシュタル・ゲル・ボロスだろ。ビースウォート軍は何か待っているっぽいし間に合うのか?』
各機体損耗しているが十分戦闘可能。
MP増殖炉やモーターを動かすために消費したMPはアイテムで回復済みだが、九百メートルの機械仕掛けの黒曜に怪魚に対して明らかに攻撃力が不足しているとレガクロス部隊は感じていた。
実際に戦ったイリシウムジャベリンの装甲がかなり強靭であり、間違いなくオブシディウスはより強靭である。
ビースウォートの高レベル……恐らく【Unlimited】ジョブ保有者が、イリシウムジャベリンとの戦闘中に怪魚部分に戦いを挑んでいたが、大規模な呪詛と思われる攻撃でもオブシディウスに目立ったダメージがなかった。
そのことで、ゲシュタルトのレガクロス部隊は少々手詰まりを感じていた。
元々、超大型MP増殖炉に問題があったゲシュタル・ゲル・ボロスの参戦は予定外だったので除外しても、グナロークの私兵の奇襲で百機のバルディッシュⅣが大破し、敵にダメージを与える要の幹部専用機が一機も戦場に居ない。
致命的な火力不足で悩むレガクロス部隊。
それに最初に気付いたのは、周囲を警戒していたギアズリーに乗るハグルマだった。
隠密と奇襲に特化したベア・フランキスカベースにフルカスタムされたギアズリーの各種警戒装置が金切り声を上げ、亜音速で突っ込んでくる複数の大質量を操縦者に告げている。
『上からデッカイの!全機散開!!』
『『『『『っ!?』』』』』
偶然か故意か、その質量体に詰め込まれている者達とゲシュタルトの関係を考えれば故意の可能性が高い。
ゲシュタルトのレガクロスがMP増殖炉とMPモーターが急稼働させ、悲鳴のような作動音を残して、雨粒を吹き飛ばしながらレガクロス達がその場から退避する。
豪雨を切り裂くように飛来した大質量体は、ゲシュタルトのレガクロス部隊が集まっていた真ん中、放置されていたイリシウムジャベリンの残骸を地面ごと、鋭く太い先端で貫き砕いた。
次回更新は、明日の昼十二時の予定です。
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