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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
スーパーレガクロス内戦編

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乱戦




「いやー!?私のブレインちゃんの翼が!!」

「強力な腐食の呪詛だ!」


突如、飛来してきた無数の投げ槍、それには強力な呪詛が付与されていた。

最小限で攻撃を防いだ筈の多くのライダーとブレイン達。

弾いたり、回避した際に僅かに付けられた小さな傷から、あらゆるもの蝕み腐食させる呪詛が急速に拡がっていく。


強力な呪いが付与された、ブレインの機動を捉える音速の投擲物。攻撃方向と来た方向から考えれば、攻撃者はビースウォート軍だ。


戦の準備終えた彼等も介入し始めたのだ。




「攻撃を受けた部位を切り離せ!」


唯一無傷で凌ぎきったペルソナが、攻撃の性質を把握して叫んだ。

それだけではなく、周囲のブレインの腐食部位を、仲間の被害を最小限にする為に、コープスの触手で傷の周囲をMPに還元して抉り取った。


ペルソナの叫びを皮切りに、ブレイン達の身体から、手足や脇腹、金属の翼等が次々と切り離されていく。

自切されたキメラの血肉と金属が、滝のような雨と共に、地上に流れ落ちていった。


ブレインがライダーの命令で、呪詛に蝕まれた部位を切り離したのだ。

金属製で扇状の翼は、キメラの飛行能力を強化する魔法装置。浮力の強化や加速用のMPモーターを利用した推進機存在しているが、ブレイン本体に浮遊飛行を行うスキルが備わっているので、切り離しても即座に落下はしない。


「ギョワー!!」


運が悪いライダーが、自身の六倍はあるキメラの身体ではなく、ライダー身体を掠め、呪詛を貰っていた。

ゲシュタルトから支給されている、ハチェットガンを取り出したそのライダーは、呪詛に蝕まれた腕を吹き飛ばすという現実なら、最悪ショック死しかねない対処で乗り切る。

腕を喪失する感覚。彼はゲルドアルドや住人と違い、感覚を制限されているので痛みはないが、悲鳴が漏れでる。


素早く、ゲルドアルド印の蜂蜜味の回復薬で腕を生やすと、念のために掌サイズの木彫り人形が型の解呪アイテムを取り出して握り締めた。


このアイテムは、ゲシュタルトに吸収された元生産ギルドの、呪術系生産アイテム作成を専門とする研究会謹製アイテム。強力な解呪アイテムだが、大抵の呪いを解呪できる代わりに速効性がない。

今回の呪詛は強力で拡がるのが速く、蝕まれた腕を吹き飛ばすという、速効性のある荒業が必要だった。




「動け!動け!狙い撃ちにされるぞ!」


ペルソナが、負傷したキメラやギルメンを庇う位置にコープスを移動させて盾になる。再び放たれた投げ槍を触手でMP還元して防いだ。

奇襲を受けた混乱で足を止めてしまったギルメン達に移動を則す。


「ぎゃぁぁぁ危ない!?」

「ビースウォートの奴ら、いきなり狙ってきやがった!」

「気持ちはわかる」

「ヘイト値MAXだろうしなぁぁぁぁっ!?」

「戦争って悲しいわねぇ……」


ビースウォート軍に外部協力者として混じっている、殺伐とした修羅の国であるビースウォート所属プレイヤー達が、思わずたじろぐ程の濃厚な殺意が、ゲシュタルトにギルメン達に向けられている。


突き刺さるような殺意に、ギルメン達は覚えがあり過ぎた。




豪雨を寄せ付けない、ギルド支給の制服ソルダートヴァッフェのお陰で、滝のような雨の中でも窒息せず、ギルメン質は暢気に会話できる。響く雨の轟音の中でも、騎乗士系ジョブを超級カンストまで育て上げている、彼等のスキルの中には、このような環境でも、仲間と声で連携するためのスキルがあるため問題ない。


「それに今の攻撃は俺達のことはついでみたいだしな?」


消火器のような、緊急用キメラ再生アイテム【細胞スプレー】を、相棒キメラに吹き掛けながら器用に回避運動を行うギルメン。

彼は反転して迫ってきている筈のジャベリン軍団に目を向けた。


そこには、全身に投げ槍が刺さり、針鼠のようになったジャベリンが、複数飛んでいた。

中には臨界状態のMPを吹き上げながら、雨と共に地上に墜落していく姿もある。

機体を常に動かし、こちらと新たに攻撃を仕掛けてきた、ビースウォート軍を警戒している。


ゲシュタルトがここで戦うのは、ビースウォートに話は通っている筈だが、乱戦と豪雨の視界の悪さに乗じて、ゲシュタルトのギルメン達も、ジャベリンを狙った攻撃に巻き込んで来たようだと、隣国に何をしてきたか十分理解している、ペルソナ達キメラライダー部隊は考えた。


正解である。




「ジャベリン腐食してないな?」

「イレイザーで呪いは防いだか」

「それに雨のせいで、槍の威力も落ちてるわ」

「特化ジョブの獣人なら、この距離でも普通にレガクロスの装甲貫通するもんな」

「バルディッシュはともかく、ゲルさんのフォーリナーが投げ槍で破損したのは驚いたよなー」

「【Unlimited】ジョブ保有の獣人とはいえ、あの威力は引く」


「呑気に喋ってないで、ジャベリンとビースウォート軍の間に入らないように動けよ!狙われるぞ!」


「「「「はーい」」」」


ペルソナ率いるキメラライダー部隊が、ビースウォート軍についでで攻撃されないように、ジャベリン軍団に回り込むように飛行する。乱戦で腐食の呪詛付きの投げ槍で攻撃されると厄介だと、考える彼等は白兵戦を捨てて遠距離戦に切り替える。


予備のミサイルポッドが拡張空間から出現し、ブレインの身体に備え付けられたハードポイントに装着された。ハードポイントとミサイルポッドに、お互いの相対位置を会わせる魔法が付与されているので、専用のスキルや、特殊な廃人PSが無くても高速で飛行中でも、ブレインは装備の付け替えが可能だ。




ミサイルポッド始めとした、ブレインに装備されている魔法機械の武装が、次々と火を吹く。


牽制の攻撃を繰り返しながら、ジャベリン軍団に回り込もうとするキメラライダー部隊の横を、ジャベリンを狙った投げ槍が過ぎ去っていった。

不自然に飛んできた数本の槍が部隊を襲うが、最初の奇襲とは違い攻撃の密度も心なしかスピードも違うため、簡単に避けられた。


「ぬあぁぁぁぁぁぁ頭部に刺さったぁぁぁぁぁ!?」


避けれず、よりにもよって頭部に刺さった者もいた。瞬く間に皮膚や肉が呪詛でボロボロになり、途中から光の粒子となって消えていく。


「ぐぁぁぁぁ死ぬぅぅぅぅ!?」

「いや、なんで即死してないの」

「自切!!」

「こいつたしか騎乗とサイボーグの複合ジョブか持ってたな……」


サイボーグ系と呼ばれるジョブには頭部等の急所を破壊されても即死を免れる事ができるジョブがある。呪詛に侵された頭部を切り離したギルメンはアイテムボックスから非常に簡素なデザインの機械の頭部を取り出して首の断面に装備した。

機械の頭部の真ん中に一つだけあるレガクロスと同じ原理で動く金属眼球がギョロリと周囲を見回す。


予備の頭部らしい。


切り離された頭部は、落下してまもなく光の粒子に変わり果て消滅した。




◆ビースウォート。ヤリスティブ将領。第八密林都市内タマゴローの石鶏牧場。




ゲシュタルト、グナローク、ビースウォート軍の三つ巴の戦いが始まるなか、ビースウォートに所属しているが、己の牧場を守るために参戦したタマゴローは、グナローク第三王子が操縦していたイリシウムジャベリンが切り離されたオブシディウスの怪魚部分と戦っていた。


「〈呪大張手〉!〈ドスコォォォォォォイ〉!!」


タマゴローの力士系の攻撃スキル、呪いを巨大な手に変えて相手を張り倒す〈呪大張手〉を牧場から繰り出した。

スキル効果を上昇させる〈ドスコイ〉も併用し、牧場から掌握した呪いである呪炎木塊の猫手が、オブシディウスに向かって猛烈な勢いで加速する。


「俺の牧場に近付くな!」


滝のように降り注ぐ豪雨が、タマゴローが操作する巨大な呪炎木塊の猫手に触れるそばから爆発し蒸発していく。

ロケットの噴煙のように蒸発して霧になった雨を背後に流して、灼熱の肉球がオブシディウスを張り倒そうと空を駆けた。




『ギュリィィィィィィィィィィィィ!』


迫る灼熱の肉球を認識したオブシディウスが機械仕掛けの大口を開いて咆哮する。

口内で激しく音を立てて、無数の鋭利な牙を備える回転ローラーが火花を散り、それは奇妙で不気味な音が周囲に響いた。


グナロークが切り離されたオブシディウスは独自行動を開始していた。

己に飛来しているビースウォート軍が放つ腐食の呪いが込められた投げ槍を全身に纏った〈マジックイレイザー〉で呪いを消し飛ばす、オブシディウスの〈マジックイレイザー〉は威力はジャベリンの比ではない。

悉く無効化された投げ槍は、失われていた黒曜の鱗を全身に纏い直し、迫る灼熱の肉球持つ猫の手を四つの巨大な眼で見据えた。


『ギュリィィィィィィィィィィィィ!』


大穴のような四つの眼の中央、灯っていた赤い光が丸く膨張していく。

大穴を満たしても止まらない赤い光は、周囲を真っ赤に染めながら眼から溢れ出し、肉球に向かって赤い光が放たれる。


ゴバンッ!ゴバンッ!ゴバンッ!ゴバンッ!


揺らめく赤い光は膨大な熱量を球体に封じたプラズマ弾だった。


一つ一つがビースウォートの平均的な都市を焦土にする威力を秘めたプラズマ弾が四つ。それがタマゴローが操る木と炎の呪いの猫の手へと次々と衝突していく。

焼かれた苦しみとそれを為した者への怨嗟が元になっている、呪いの猫の手には熱破壊によるダメージは火に油だ。


火勢を強め、木片を増殖させて質量も増大させるだけだったが




「ぬぉぉぉぉぉっ!?」


オブシディウスは呪いの猫の手をの威力を上昇させただけに見えたが、タマゴローは苦し気な声を上げて猫の手を静止することになった。


プラズマの熱量を取り込んだ肉球が爆発的に膨れ上がったことで、タマゴローの呪いの掌握能力を超えかけたのだ。

呪術に特化していれば耐えられた負荷だったが、タマゴローは呪いと徒手格闘を扱う複合型のジョブ構成。

千を超えるレベルによる補正を受けているが、このレベルの呪いを抑え込むのはタマゴローでもかなり苦労する。


目標を見失っている呪いがタマゴローの制御を離れ、このまま解き放たれてしまえばタマゴローの牧場まで被害が及ぶ。


タマゴローはスキルを解除し、攻撃を中止して呪いの制御に専念するしかなかった。


「見た目より頭がいいな!」


歪に膨れ上がって空中で暴れる猫の手に向かって、オブシディウスが尾鰭と三対の鰭から紫電を撒き散らして加速する。

オブシディウスの周囲の雨と空気が、紫電にからめとられるように捕まり、九百メートルの巨体を加速させるための推進材として勢いよく後方へと押し流されていく。


『ギュリィィィィィィィィィィィィ!』

咆哮する九百メートルの巨体は、そのまま不安定に蠢く呪いの猫手に強烈な体当たり食らわせた。


大質量同士がぶつかる凄まじい音が周囲に響き、滝のような豪雨が残らず吹き飛ばされて一瞬、猫手とオブシディウスの周囲から雨が残らず吹き飛んだ。


「ぐぅぅぅぅっ!」


体当たりの衝撃が、ギリギリ制御を保っていた猫手を介してタマゴローと牧場の祭壇へと伝わる。

祭壇が大きくひび割れ、破片を周囲にバラ蒔き、タマゴローがギリギリ御していた猫手が本格的に形を崩し始めた。

このままでは、本来の復讐を忘れた周囲に怨嗟をばら蒔くだけの呪いへと猫手が戻ってしまう。


多少はオブシディウスが纏う〈マジックイレイザー〉で呪いは削がれているが、〈マジックイレイザー〉は触れた部分にしか効果は無く、そもそもMP(マナ)を歪曲させて生み出す呪いに〈マジックイレイザー〉は効果を十全に発揮しない。


多数の犠牲とその身を犠牲に行使する呪術スキルで生み出された猫手は、強力とは言え量産品のビースウォート軍の投げ槍の呪いとは格が違うのだ。

削がれた呪いよりも増えた呪いの方が圧倒的に多かった。




「〈犠牲呪身〉!〈呪王大封殺〉!〈ドスコォォォォォォイ〉!!」


スキルを絶叫したその瞬間、タマゴローの両腕とその真下の祭壇が真っ赤に光輝き爆発した。


次回更新は、明日の昼十二時の予定です。


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