ゲシュタルト強襲・2
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『チェリィィィィィィボォォォォォォォイッ!俺ちゃんと火遊びしょーぜいっ!!』
満月を背にして愛機のレガクロスで飛ぶメックマン。色白の肌の、見た目だけは大和撫子な顔を、唇に引いた紅のように赤く戦闘の高揚に染めて、下品に舌舐めずりしながら、端正な顔を笑顔で歪めた。
美人な顔が台無しだ。
メックマンの愛機、全身に鮫を模した造形が施された桃色の装甲のレガクロス……シャークムートが、二十機の鮫を模した戦闘子機〈ホオジロポッド〉を侍らし、イリシウムに向かって急降下する。
『ただし、貫かれるのはおまえなぁー!?〈鮫ビィィィム〉!!』
シャークムートの周囲を飛ぶ、一機が二メートルにもなる〈ホオジロポッド〉の口が開く。高速で宙を泳ぐように飛ぶ〈ホオジロポッド〉の口腔が光輝き、内部で灼熱を付与、加速された金属粒子のビームが放たれた。
合計二十機の鮫から放たれた輝きが、次々とイリシウムを撃ち据える。
『小賢しい!下品な女め!』
纏っていた黒曜の鱗が次々とビームで爆砕され、イリシウム本体にも少なからずダメージが入る。特にダイノの〈リニアファング〉によって破壊された肩装甲の部分に命中した、ビームによるダメージが無視できないほど大きい。
メックマンを罵りながらグナロークも、イリシウムの熱線で応戦するが、先読みしたかのようにメックマンは回避する。何も居ない空間を熱線が虚しく貫く。シャークムート所か戦闘子機の〈ホオジロポッド〉にすら掠りしていない。
全機それぞれにお尻を振らせながら、グナロークを挑発するという余裕すらメックマンは見せつけてくる。
『おっほーい!』
機体性能はイリシウムが上回るが、現実をほったらかしにしてレガクロスで遊び呆けるギルメン達との技量差を覆すほどではない。
反撃に集中して移動を止めてしまっているイリシウムを〈ホオジロポッド〉が取り囲み、四方八方から粒子ビームが次々と放たれる。
青銅爆雷高原を移動してきたシャークムートの〈ホオジロポッド〉には普段以上にビームの材料となる金属粒子が貯蔵されているため、攻撃回数は底無しだ。
『があぁぁぁぁぁ!』
〈ホオジロポッド〉から加速投射された金属粒子が、イリシウムの装甲を焼きながら猛烈に殴打。衝撃が操縦者のグナロークまで届く。
赤熱し、加速投射された金属粒子……爆雷青銅一部が、イリシウムの装甲に付着。高熱と電気を放ち続け、プラズマの噴射で飛行する機体に干渉してくる。
全身に付着すし、電気を撒き散らして加速し続けようとする、爆雷青銅のせいで、グナロークは機体の制御が上手くできない。
『とっとと逝っチャイナー!!』
ベースとなったバルディッシュⅣ譲りの、シャークムートの太い足装甲から放たれる強烈な蹴りが、イリシウムに炸裂する。急降下した勢いそのままに、重力加速も利用した強烈な一撃は、その場に止まるのも難しくなっていたイリシウムを地面に向かって加速させた。
迫るような満月の月光を遮り、大きくなっていく影を感知し、大慌てで戦樹達が逃げ出していく。
戦樹が逃げ出し、剥き出しになった地面にイリシウムは叩き付けられた。
『ごがぁ!?』
叩き付けられた衝撃で、短い悲鳴を上げたグナローク。彼に息着く暇など彼等は与えない。鱗の追撃を粉砕してきたダイノ達が、墜落したイリシウムに襲いかかる。
続くように別の機体群が新たに合流する。肩のダメージが酷く、下半身だけで苦労しながら起き上がろうとしていたイリシウム。その金属眼球に、ダイノと共に見慣れた機体の姿が飛び込んでくる。
『馬鹿なバルディッシュッ!貴様らの機体は全て……違う!ゲテモノか!?』
バルディッシュⅣに見えたその機体は、バルディッシュとは決定的な違いが存在していた。
迫る機体の両腕には月光に照らされ銀輝く巨大なクローアーム。
その左右側面に斧刃。
さらにアームの先には重火器を備えた巨腕の複合武装。
複合武装巨腕〈クラッシャーアーム〉を装備するその機体は、バルディッシュⅣをベースに量産性無視した強化を施した機体【バトルアックス】だった。
イリシウムに躍りかかる十機のバトルアックス。乗り込んでいるのは全員操縦士系の超級ジョブを五百レベルでカンストしているゲシュタルトの精鋭。大きさは通常サイズだが、バルディッシュⅣよりもレアなMPモーターの使用で出力が上昇させられている、強化型MP増殖炉が高らかに鳴り響き迫る。
機体の動きは音速に達し、冷酷無比な精確さでイリシウムに襲いかかる。
〈メタルブレイカー〉の魔法の輝きを宿した〈クラッシャーアーム〉のクローと斧刃。通常のバルディッシュⅣを凌駕する威力が付与されている煌めくクローと斧刃をバトルアックスがイリシウムに叩き付けられ、黒曜の装甲表面を切り裂いていく。
『ちょこまかとぉぉぉぉ!?』
四方八方から高らかにMP増殖炉を響かせ、擦れ違い様に〈クラッシャーアーム〉で装甲を切りつけてくるバトルアックス。苛立ち、叫ぶグナロークがイリシウムの腕を伸ばして反撃するが、肩を大きく損傷しているためその動きは鈍く、バトルアックスは速かった。
離れる背を追うばかりで攻撃は届かず、バトルアックスに気を取られている間に接近していたダイノ達のドリルが襲いかかる。
全身がアダマンタイトの装甲に覆われた重量級のダイノから振るわれる。赤熱したドリルの一撃はイリシウムの体勢を大きく揺るがし、灼熱が装甲を焼いていく。体勢を崩したイリシウムには音速機動で舞い戻ったバトルアックスの攻撃が更に加えられた。
『おのれぇぇぇぇぇ!』
どれも致命傷とは程遠いが、ダメージの蓄積が無視できないレベルだ。
相手の数は多く、飛んでいないイリシウムよりも遥かに機動力が勝り、手数も尋常ではない。飛ぼうとしても、いつの間にかプラズマ推進機の噴射口は破壊されており、飛ぶことができない。
激しいダイノ達と、バトルアックス達の波状攻撃が休みなく加えられ、踊るようにイリシウムが揺れている。
『いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉ!』
グナロークが咆哮する。
同時に爆発的な勢いで伸びたイリシウムの蛇のような長い下半身が、機体周囲を竜巻のように何重に渦巻き、四方八方から波状攻撃を繰り返していたゲシュタルトのレガクロス部隊を薙ぎ払った。
『ジャベリィィィィィン!何をしている!私を助けろぉぉぉぉぉ!l』
数には数で対抗する。イリシウムは性能は勝るが、その性能は数とゲシュタルトの練度に負けている。今も下半身で薙ぎ払った後に〈イリシウムブラスター〉による追撃をしたが、バトルアックス一機の〈クラッシャーアーム〉を一つ破壊しただけで大した戦果は得られなかった。
そのたった一つも、機体の拡張空間に収納されていた、新品の〈クラッシャーアーム〉をバトルアックスが装着することで、消える。
空中で無数にただよっている筈のジャベリンに、グナロークは己だけで対処できないことに、苦々しい思いを抱えながら救援を求める。
しかし、ジャベリンは一機グナロークの救援に答えなかった。
『ひゃはぁぁぁぁぁぁぁぁ!あんたの可愛い投げ槍ちゃんはぁぁぁぁぁ俺ちゃんの仲間に逝かされてるぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
イリシウムの拡声器で救援を求めるグナロークに答えたのは、上空からシャークムートによって放たれた灼熱の粒子ビーム。
そして、破壊されたジャベリンの残骸だった。残骸は何故か忌々しい二人の人物を思い出させる金色に一部が染まっている。
次の瞬間、イリシウムの金属眼球が映す映像が閃光で塗り潰され、二十本の光輝く粒子ビームが、イリシウムの正面装甲を焼きながら、機体を吹き飛ばした。
仰向けで吹き飛ぶイリシウムの金属眼球に、夜空を彩る星の瞬きとは違う輝きが映った。
それはジャベリンはの放つ攻撃であり、そしてジャベリンが破壊された爆発だった。
本物の星は、戦場で水分を多く含んだ戦樹が砕かれ、燃えることで発生した、湿った上昇気流によって、分厚い雨雲が形成されて、見えなくなっていた。
戦樹が燃え、生まれた上昇気流が生み出した分厚い雲は、迫るような満月で明るかった戦場を影で覆った。
傾き始めた満月と合わさって、戦場を遅れた夜の闇が包み始める。
戦場で暴れるゲシュタルト、及びオブシディウス関係の、レガクロスやキメラ視覚には暗視装置が組み込まれている。
気炎を吐き、雄叫びを上げながら進軍を開始した、ビースウォートの住人、プレイヤーの戦士達の多くは獣人であり、夜目が利く。
そこに激しいスコール降り始めようとも、困る勢力はここには居なかった。
次回更新は、明日の昼十二時の予定です。
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