ゲシュタルト強襲・1
オブシディウスの怪魚部分から切り離されたイリシウムジャベリンが仰向けの状態で宙を舞う。その内部ではグナロークが状況を把握できずに混乱していた。
激しい戦闘に慣れていないグナロークは判断が遅い。グナロークが体勢を建て直す前に、この日の為に牙を研ぎ終えていたモノ達が襲いかかる。
『ごっ!?』
遠心力で放り投げられたイリシウムが、空中で何かにぶつかり急停止。
衝撃がダメージを負った身体に響き、グナロークは奇妙な声を漏らした。
まもなくイリシウムは、機体の両肩にティラノサウルスを思わせる巨大な金属の顎で噛み付いてきた、二機の怪獣型レガクロス、ダイノ・ブローバと共に大地に向かって落下し始めていた。
空中で停止したのはゲシュタルトの攻撃である。
ダイノの機体は、装備された発電用のMPモーターが甲高い雄叫びを上げている。
『貴様らはゲシュタルトのトカゲモドキ!……ぬぁぁぁぁ!?』
イリシウムの金属眼球で、衝撃の原因を確認したグナロークはダイノの別称を叫んで毒づくが、直ぐにそれどころではなくなった。
MPモーターで発電された電気がダイノの顎に叩き込まれ攻撃武装が起動。
ズドンッ!と機体口内にある、牙を模した電磁加速式破砕装置〈ファングパイル〉がイリシウムの装甲を穿ったのだ。
更に二機のダイノは、背中から伸びる補助腕に支えられた二対の円盾〈エレクトロスピナー〉を回転させる。
盾の縁にグルリと固定された幾つもの小さな刃が、〈メタルブレイカー〉を発動。
イリシウムの装甲に叩き付けられる!
顎で挟み込まれた、イリシウムの両肩がアダマンタイト製の極太のパイルに砕かれる。装甲を高速回転する円盾が切断しようと唸る。
衝撃と金属の破砕音と擦過音が、操縦席のグナロークに耳に喧しく響いた。
『きっきさまらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』
幾らでも替えが効く、鱗ではなく機体自体を傷つけられた事に、遅れながら気付いたグナロークが瞬時に激昂する。
操縦者の怒りに反応したイリシウムが、両腕に巨腕を形成していたままだった鱗から、無数の熱線を両肩に噛み付くダイノ二機に照射。
ダイノ二機は熱線砲で吹き飛ばされた……ように見えて、実は熱線砲の勢いを利用して直撃と同時にイリシウムから口を放し、離脱した。
イリシウムから離れていく二機のダイノは見事なコンビネーション披露する。
同じタイミングで素早く機体を翻し、尻尾の自在砲台〈リニアテールキャノン〉から爆雷青銅製の弾丸を発射。
どれだけ尻尾を曲げても砲台として機能する、内部レールの電磁加速で投射された弾丸はイリシウムに直撃。
激しい金属の衝突音を火花を散らせ、灼熱と電気を撒き散らしてイリシウムの装甲を陥没させて弾丸が砕ける。
イリシウムを〈リニアテールキャノン〉と吹き飛ばし、同時に発射の反動で更に機体から離れたダイノ二機。
『許さんぞ!』
怒りで吼えるグナローク。イリシウム両腕を覆い、巨大な腕を形成していた鱗を飛散させる。身軽になると同時に紫電を纏って飛行する鱗に、ダイノ二機を追わせた。
加速した鱗が熱線を照射しながらダイノ二機迫る。
イリシウムは、両腕の翼竜の翼の骨格を思わせるプラズマ推進機を広げ、仰向けだった機体を反転させる。大量のプラズマを推進機から吐き出して加速した。
逃げるように自由落下する、ダイノ二機を鱗に追従してイリシウムも追いかけて飛ぶ。
追われるダイノ二機。照射された熱線が装甲を襲うが、赤銅に着色された装甲は、アダマンアイト製。鱗が照射する熱線は簡単に弾きびくともしない。
効かない熱線を無視して、機体の背筋と尻尾を真っ直ぐに伸ばしたダイノ二機は、背中の〈エレクトロスピナー〉を後方に向けて、回転させる。
回転する円盾が周囲の空気を集める。集められた空気は、円盾の表面のスパイクに改造されたMPモーターで発電された電気を魔法で付与。高速で機体の後方に渦巻く空気を噴射した。
同時に〈リニアテールキャノン〉が、付け根にある給気口を解放。同じく取り込んだ空気に、電気を付与して加速噴射する。
〈エレクトロスピナー〉と〈リニアテールキャノン〉を推進機として使用。ダイノ二機は自由落下の重力も利用して猛烈な勢いで加速していく。
後方に噴射された、電気を帯びた空気は、そのままイリシウムの鱗と本体の加速を邪魔する攻撃になる。
『小賢しい真似を!』
鱗から照射された熱線が、電気を帯びた空気に干渉されて歪んで逸れる。鱗事態も干渉を受けて、風に吹き散らされる葉のように飛行を乱された。
『死ぬがいい!!』
電気を帯びる空気の干渉で、体勢を乱されるイリシウムから、グナロークの言葉と共に熱線を照射。
〈エレクトロスピナー〉から放たれている電気は、MPモーターで発電された物理現象由来。その電気を帯びた空気を電磁加速で放射しているので、〈マジックイレイザー〉では防げないのだ。
装甲が帯電し、破損した箇所から流れて、機体内部にダメージ与えている。
鱗の放つ熱線よりも遥かに高熱の〈イリシウムブラスター〉が、電気を帯びる空気を貫き、地上に向かって高速で落下するダイノ二機に迫った。
成す術もなく灼熱に機体が飲み込まれると思われたその時、〈イリシウムブラスター〉の射線を遮るように赤い竜巻が幾つも現れた。
合計十八もの渦巻く灼熱が、同じ灼熱の熱線を完全ではないが、引きちぎるようにその身で切り刻み、威力を拡散、減算させる。
切り刻まれ拡散し、威力の落ちた熱線が大地を焦がし、その内の幾つかは、ダイノ二機に命中。
アダマンタイトの装甲を赤熱させるが、破壊するまでには至らない。
「まだ、居たのかトカゲモドキ!』
イリシウムの金属眼球が、地上から、頭部の額、両腕の先端に装備された赤く長い、螺旋の溝を刻まれた巨大な円錐形……ドリルから渦巻く熱を放射するダイノを発見する。
その数は六機。
熱と高速回転で対象を破壊し、渦巻く熱竜巻も放射できるドリル〈ドリルフィーバー〉。六機のダイノから放たれる、十八の熱竜巻は、標的をイリシウム本体に変えて、〈イリシウムブラスター〉を防がれた驚きで空中で制止していたイリシウムに襲いかかる。
更に降下していた二機も、素早く機体を反転させて、〈エレクトロスピナー〉と〈リニアテールキャノン〉の空気噴射で、地上ギリギリで急制動をかけながら〈ドリルフィーバー〉でイリシウムに向かって、渦巻く熱放射攻撃を開始している。
『馬鹿め、知っているぞ!その攻撃は主に魔法を使っていることを!』
その言葉の通り、ダイノ達が放った〈ドリルフィーバー〉の熱竜巻は〈マジックイレイザー〉を装甲に纏った、イリシウムに触れる側から霧散して消えていく。
〈ドリルフィーバー〉の熱竜巻は、熱の発生と放射を魔法に頼っている。イリシウムの強力な〈マジックイレイザー〉に完全に無効化されていた。
ゲシュタルトの幹部専用器の情報は、曖昧にしか持っていなかったグナロークだったが、それ以外のゲシュタルト製レガクロスの武装は、把握していた。
『お返しだ!』
グナロークの言葉と共に〈マジックイレイザー〉を纏う黒曜の鱗がダイノ達に向かって飛ぶ。魔法で形成されている熱竜巻を纏う鱗が竜巻を引き裂き、そのまま勢いを殺さず八機のダイノに向かって分散飛翔するが、それでも一機辺りの数は百はある。
それを見たダイノ達は、攻撃を中断して素早く散開。
地面に接地したドリルの側面で、地面を掻き回して進む足裏の〈ランドスピナー〉が唸りを上げる。ダイノの特徴的な脚部推進装置は、重たい筈のアダマンタイトのゴーレム装甲を纏う機械の怪獣を、滑らかに力強く機体走らせる。
機体の重量のせいで、即座に最高速度の亜音速までは行かないが、それに近い速さで、機体が背丈だけなら近い周囲の戦樹の群れを、薙ぎ倒して走っていく。
再び〈エレクトロスピナー〉を起動。逃げながら電気を帯びた竜巻で、迫る鱗を吹き散らそうと補助腕を動かし後方に攻撃するが、鱗は一つに集まり、一塊になって勢いと質量を増している。電気の干渉を物ともせずにダイノに達に迫る。
更に『逃げるなら一機ずつ仕留めていくだけだ!』と、逃げた合計八機のダイノの内の一機に狙いを定め、イリシウムが飛ぶ。
グナロークは鱗でダイノの機体を拘束し、接近戦を挑むつもりだ。
イリシウムの見た目は、接近戦が不利なように見えるが、機体の膂力はダイノ等の普通のMP増殖炉で動いているレガクロスよりも強く、機体の動きも速い。
装甲と武装の威力に任せた突撃戦闘を得意とするダイノ・ブローバという機体は、接近戦も得意だが、組み付かれたらスクラップになるのはダイノの方だ。
推進機からプラズマを噴射し、途中で千切れている長い下半身を勘定にいれなくても、その上半身だけで、通常のレガクロスの二倍はある筈のイリシウムの巨体が、ダイノに凄まじい加速力で迫っていく。
戦樹が薙ぎ払われた地面を低空で飛び、鱗塊を先頭にしたイリシウム。
八機のダイノはそれぞれ鱗に追いかけられている。もう邪魔が入らないと、機体内部でニヤリと笑っていたグナロークの顔が歪む。もう少しで追い付くという所で、緑色の装甲色のレガクロスが、行く手を遮るように現れたからだ。
(まとめて粉砕してくれるわ!)
上空から滑るように現れ、勢いとは裏腹になんの音もなく着地した機体に向かってイリシウムは更に加速する。速度で劣っていた鱗塊に衝突するが、グナロークの操縦ミスではない。イリシウムは飲み込まれるように頭から鱗塊と合体し、巨大な空飛ぶ破城槌の如く姿に変貌した。
その状態で鱗の推進能力も加速に使い、急激に速度を増してイリシウムは緑のレガクロスと衝突。
そして気が付くとグナロークは、真上に向かって空中を飛んでいた。
『はっ?』
目の前には、地上に迫るような巨大な満月。グナロークは混乱する。真っ直ぐ地上スレスレを飛んでいた筈。なのに何故か今は満月に向かって空中を飛んでいた。
満月と重なる星の瞬きが煌めく。しかし、そんな現象はまずあり得ない。
イリシウムのセンサーが急激に迫る熱源を探知した。グナロークに警告を発するが、今自分の身に起きた奇妙な現象と、緑のレガクロスの正体に気を取られていた彼は反応が遅れてしまう。
五本のプラズマ化した金属粒子の尾を牽く流星のごとき輝きが、イリシウムと合体していた黒曜の鱗塊を貫いて爆散させた。
追撃するように新たに十以上の流星……満月を背にした、桃色のレガクロスから放たれた爆雷青銅の金属粒子のビームが、イリシウムに次々と襲いかかった。
次回更新は、明日の昼十二時の予定です。
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