不死の大森林
すすまないとすまないが似てる
◆不死の大森林・ゲルドアルドの地下蜂の巣
猫獣人をキメラにしてから一ヶ月が経過した。
ゲルドアルドは相変わらず巨大化していく蜂の巣の中に引きこもっていたが、猫獣人を通してこの世界の情報が集まっていた。
ゲルドハルドはこの森の名前を知った。不死の大森林と呼ばれている。
たしかに再生木の生命力が凄い。幹を真っ二つされても気がついたら元通りになっている。
大量に伐採しても次の日には元に戻っているので、キメラ猫獣人が拠点にしている不死の大森林から一番近い街【マリハジ】では再生木を炭にした燃料が特産品になっていた。
マリハジは燃料がいくらでも手に入るので鍛冶も盛んで、この大陸有数の街だと猫獣人を通して知った。
ゲルドハルドはこの世界の知識を増やしている。
この世界の言語を習得した訳じゃない。
キメラ猫獣人加えた素材である罠蜜屠蜂ととあるスキルのお陰だ。
ゲルドアルドは蜂や蜂系のモンスターと意思疏通が出来るスキルを保有している。
このスキルを使い、錬金術士ジョブのスキルで猫獣人と罠蜜屠蜂のキメラに改造したキメラ猫獣人と五感を共有すると、猫獣人の言葉や猫獣人が耳で聞いた言葉の意味が何となくわかるのだ。
あくまでゲルドアルドとは無関係に存在している蜂や蜂系モンスターと意思疎通するスキルなので、不可視の繋がりを経由して完璧な意思疎通が出来る召喚、作成したモンスターじゃない上に、完全な蜂でもないキメラ猫獣人の言葉はスキルで翻訳されてもノイズだらけなのだが、意味を理解しようと耳を長時間傾ければ、学がないゲルドアルドでも未知の言語をなんとなく理解出来てくる。
ゲルドアルドは会話するのは無理だが、話を聞いて内容を理解することが可能になってきていた。副産物で一部罠蜜屠蜂のスキルが使用できるようになったキメラ猫獣人が、ソロにも関わらず精力的に活動するようになったので意外と幅広い情報が入ってくる。
記憶は封印したとはいえ、冒険者はやめるんじゃないかとゲルドアルドは思っていたので意外だった。
この暫定異世界には冒険者組合という巨大組織が存在する。
害獣、害モンスターの駆除、定期的なモンスターの調査、街を移動する時の護衛等を請け負う、ある程度の規模の街なら支部が必ずあると言われる組織だ。
ゲルドアルドが漫画、小説、アニメ等で見たことがある冒険者組合そのもので、冒険者の部分が完全に日本語だった。アニメートアドベンチャーで実際利用したのと変わらない組織だったので、どう考えても同類の仕業だ。
ギルドのシンボルや組合員の証である冒険者が首から下げているドックタグのような金属のプレートにはこの暫定異世界で使われている文字とは明らかに違う冒険者という漢字が使われている。
暫定異世界のここに日本語や日本語発音の単語を広めた、顔も知らない同類はかなり根深くこの世界に馴染んでいるようだ。
キメラに改造され、強化されたステータスとスキルとゲルドアルドがちょっと性急に巣の拡張をやり過ぎたために森から大量のモンスター逃げ出し、発生してしまったモンスターの暴走から街を守るというイベントが発生したせいで、最速で銀級冒険者への道をかけ上がる、狂ってしまった新人冒険者のキメラ猫獣人の成り上がり物語は結構面白い。
ゲルドアルドは少しばかり短慮だったと反省した。
うっかりキメラ猫獣人が死ぬとこだった。蜂の要素を混ぜただけで、それほど馬鹿げたステータスにはなっていないのだ。街にも少し被害が出てしまったのでいつかお詫びがしたい。罠蜜屠蜂を密かに派遣しなかったら危なかった。
猫獣人の耳に入ってきた、冒険者ギルドのエントランスに併設されている酒場から聞こえた下らない冒険者ジョークで思わずゲルドアルドが吹き出していると、森を巡回している罠蜜屠蜂から森へと侵入してくる大量のキメラを連れた黒一色の怪しい一団がいると報告が来た。
「お、やっと来てくれたのかな?」
この一ヶ月、ゲルドアルドはキメラ猫獣人の人生というレールを好き勝手増設して弄んでばかりだったが、別に悪趣味な遊びに終始していた訳じゃない。
聖暗黒教国が人を送ってくれるのを待っていたのだ。
聖暗黒教国とはゲルドアルドが蜂の巣を構えている不死身の大森林にキメラを送り込んだ犯人だ。
解体したキメラに居場所を定期的に知らせる魔法スキルが封じられた水晶が仕込まれていた。
いずれ誰かがキメラを探しに森に来るかもしれないと、未来の面倒ごとにうんざりしていたゲルドアルドだが、猫獣人経由で聖暗黒教国のある噂を聞いて今は逆に楽しみにしていた。
ゲルドアルドがキメラの作成者を聖暗黒教国だと断定しているのは簡単な話だ。
魔人族以外の人が仲良く暮らし、発展しているあの街の近くに普人族以外の種族を襲って喰らうように設定されたキメラを、近くの街のベテラン冒険者の狩り場になっている森に送り込むなんて普人族至上主義の聖暗黒教国しかない。
ひょっとすると他にあるかもしれないが、ゲルドアルドが集めた情報から特に優秀という訳ではないゲルドアルドの頭脳で導き出せる答は安直な物になる。
森に現れた、黒い十字架と黒い炎を象ったシンボルを掲げる黒と赤のローブの武装集団という噂のままの姿をした特殊部隊【煉獄の炎】を見る限り、安直な答が正解である。
教義の関係で積極的に普人は襲わず、どんな小さな村でも彼らが亜人と呼ぶ種族と普人族は一緒に暮らしているので、秘密の特殊工作員なのに広く姿が国々伝わっているのがマヌケだとゲルドアルドは思った。
六百年前に降臨した唯一神ダークネスホーリーマスターによって建国された聖暗黒教国は、普人族以外を亜人族と蔑み、唯一神ダークネスホーリーマスターに連なる普人族を最上としている。
肥えた土地と肥えた海に囲まれ、この暫定異世界で二番目に大きい大陸を丸々支配している国力の強い国であり、聖暗黒教国は五大国家の一つとして名を連ねている。
しかし、この国は人族同士仲良く暮らしている他の国に難癖をつけて戦争を吹っかけたり、秘密裏に特殊部隊の煉獄の炎を送り込んで破壊工作をしたりと各国で様々な問題を起こしている。
ちなみに聖暗黒、煉獄の炎、ダークネスホーリーマスターは完全に日本語発音だった。冒険者組合の同類とは別のようだが、この同類は随分と派手に生きて死んだらしい。
その辺は現状どうでも良いのでゲルドアルドは記憶の隅に追いやった。
重要なのは森にやって来ているのはオンリーワンの進化する異能を持つ普人であり、特殊なキメラを有した後ろ暗く血生臭い工作を行っている教団の特殊部隊であることだ。
素材が向こうからやってくる。
切っても切っても木が生えるイモータルフォレスト。
栄養満点の腐葉土が一杯、再生木からは良い炭が作れます。
材木としても優れものですが、特殊な加工をしないと完全乾燥されたウッドチップのような状態からでも枝葉を伸ばし根を伸ばすので、幾らでも採れるのに手間と加工費が高くついて高級品。