双頭怪戦車VS狂金
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異能により青く染まるパンツァーブルーダーが、青い残像を残してタイタニスの目の前から消える。
ゲシュタルトの暴力的な技術力とブラウリヒトのスキルが融合。
それは物理法則を薙ぎ倒し、パンツァーの全高二十七メートル、深くアーチ状に曲げられた長い四本の束ねられた帯状の蛸足を持つ巨体が、静かに音速を突破する。
そこには呼び動作も、空気の壁を突き抜ける音も無く、空気の動きすらタイタニスは感じる事が出来なかった。
レガクロス部隊の戦闘を走っていた時は、あえて背後の仲間をプラズマから守るために正面から受け止めていたパンツァー。
青銅の微粒子が漂う重い高原の大気。
纏う電荷が容易にプラズマと化す危険な高原の大気。
それらの影響を全て無視して、ブラウリヒト操るパンツァーブルーダーは、音速戦闘が可能である。
「ケァッ!!」
タイタニスが咆哮し、真上に全力で拳を突き出す。
それは真上から襲ってきた、四本の蛸足を錬金術で横一列一本に束ねて融合された、パンツァーの巨大な帯状の蛸足を迎撃する。
先端を丸められた帯状の蛸足からは、水分の代わりに充填されている液体金属で成型された無数の金属の刺が、タイタニスを穿つために鋭く延びていた。
パンツァーの質量と攻撃の速度を乗せて襲うが、タイタニスの異能で強化された金色の義手の拳は刺を砕き、威力を相殺する。
液体金属が充填された蛸足自身の威力と質量はタイタニスを伝い、青銅の大地にクレーターを穿つ。
ヒビ割れた青銅の大地から、青銅の溶岩がプラズマと共に吹き出し、タイタニスを熱で炙りって空気を歪ませる。
槍のように伸ばされた伸縮自在の蛸足の威力と、パンツァーの重量を拳一つで相殺するタイタニス。
この程度で倒せるなどとブラウリヒトは思っていない。
攻撃と同時にパンツァーのレガクロス部、背後の〈バルチャーキャリアー〉から〈ソードバルチャー〉が舞い散る羽のように無数に飛び立つ。
動きの止まったタイタニスに、側面から光輝くチェーンソー展開して四方八方から〈ソードバルチャー〉が襲いかかった。
「甘いわっ!」
僅かに腰を落とすとタイタニスはパンツァーの巨体ごと上に向かって跳んだ。
パンツァーの重量を受け止めながら、通常のレガクロスを軽々越える高さに一息で飛び上がるタイタニス。
『普人族の癖にギルマス並みか!馬鹿力め!!』
予期せぬ上昇で発生した下方向のGにブラウリヒトが呻き、急上昇していくタイタニスとパンツァー。
僅かに遅れてチェーンソーを展開している〈ソードバルチャー〉が追いかけるが、タイタニスはスキルで空中を踏みしめ帯状の蛸足を掴み、パンツァーの巨体を振り回してなんと投げ飛ばした。
反応できなかった〈ソードバルチャー〉がパンツァーに繋がるワイヤーで引っ張られ、タイタニスを切り刻むという目的を果たせず一緒に離れていく。
「うおっ!?」
タイタニスが驚きの声を上げた。彼女が掴んでいた帯状の蛸足から、無数の金属で出来た鋭い爪を持つ獣の手足が現れ、タイタニスの身体を爪で襲ったのだ。
爪は彼女の異能で強化された金色のドレスアーマーを傷付ける威力は無かったが、パンツァーの蛸足に爪で固定され離れることが出来ない。彼女は己の膂力を己で味わうことになった。
空中を踏みしめるスキルは長時間使用は出来ず、使用してもタイタニスの膂力で投げ飛ばされたパンツァーの質量と勢いを支えることは出来ない。
タイタニスは為す術もなくパンツァーと吹き飛んでいく。
『返すぞ……!』
金属製の獣の腕を掴んでいる以外の三本の帯状の蛸足から金属の液体が滲み溢れ、巨大な翼を形成して羽ばたく。
翼で大気を掴み、急制動したパンツァーがグルリと巨体を宙返りさせた。
機体を前転させると同時に、百メートル近くタイタニスを捕らえた蛸足が伸びる。
長い帯状の蛸足がドパンッ!空気の壁を突き抜ける音を響かせた。
プラズマが発生し、蛸足が重い青銅の微粒子を含む大気を一刀両断。大きくしなりながらタイタニスごと青銅の大地に叩きつける。
叩き付けられたタイタニスと蛸足が深く大地を抉り、溶岩とプラズマが噴き出す。
翼の急制動で勢いを殺しきれていなかったパンツァーが、蛸足とタイタニスをアンカーがわりにして、青銅の大地を引き裂きながら空中で静止する。
タイタニスを叩きつけた蛸足を引き戻し、〈リボルガンランス〉を構え驚くべき速さで装填されていた弾丸をタイタニスに全弾叩き込んだ。
弾丸は拡張空間から即座に補充され、翼を蛸足に戻したパンツァーは大地を砕きながら着地し、〈リボルガンランス〉を油断なく構える。
超級ジョブをカンストしている程度では簡単に挽き肉になってしまうであろう、カウンターと鮮やかな連撃。
しかし、タイタニスはこの程度では死んでくれない。
ギィィィィン!金属の切断音と火花が飛び散る。パンツァーを支えている帯状の蛸足、四本の内の一本が斬りとばされた。
青銅の大地を掘り進んでパンツァーに接近してきたタイタニスが、溶岩とプラズマと共に大地から噴出し、スキル〈手刀鋼鉄斬り〉発動。
恐ろしいことに、強靭なモンスターの蛸足に液体金属が充填した、金属の強度と軟体動物の柔軟を併せ持つパンツァーの巨大な足の一本を、手刀で切断したのだ。
血の変わりに飛び散った液体金属が、高原の大気に触れて赤熱。プラズマとなって弾けとぶ。斬り飛ばされた帯状蛸足。レガクロス一機に匹敵する重量が大地を揺らした。
ブラウリヒトは直ぐにパンツァーの帯状蛸足を伸ばし、斬り飛ばされた分を補おうとするが、タイタニスはその一瞬の隙をついてパンツァーの巨大な双頭蛸の下半身を駆け登る。
「ケァァァァァァァァァァー!!」
スキルが発動し、輝く金色の拳がブラウリヒトが収まる戦乙女のレガクロス部へと、タイタニスが凄まじい咆哮を上げながら迫る。
タイタニスの異能でアダマンタイトを越える強度を獲得し、彼女のスキルが乗せられた金色の拳。
直撃すれば、表面をアダマンタイトコーティングしているパンツァーの装甲を簡単に貫くだろう。
そう、直撃すればの話だ。
「っ!?」
双頭蛸の身体を駆け上がるタイタニスの真下から、巨大なMPモーターが飛び出した。
両足の装甲とドレスアーマーの装甲と接触したMPモーターから激しい火花が散る。足場に吹き飛ばされて彼女は空中に投げ出された。
抉るような螺旋を描く円錐のMPモーターは、タイタニスを空中に吹き飛ばした一つだけではなく、双頭蛸の全身からも一斉に飛び出していた。
抉るような螺旋を描くMPモーターが回転を始める。
ブラウリヒトの保有するMPを、高出力MP増殖炉で増殖。MPを機体全体に供給と循環。双頭蛸の全身から生えたMPモーターが甲高い回転音を響かせる。
『〈パルサーディストラクション〉!!『
ブラウリヒトの宣言でMPモーターで産み出された莫大なマイクロ波がパンツァーから解き放たれる。
双頭蛸の素材として使われた蛸型巨大モンスター【電磁破壊蛸】は、MPモーターによって開放型電子レンジとプレイヤーに高出力なマイクロ波を生成する。
電磁破壊蛸は水中でMPモーターを使用し、己の周囲の海水を一瞬で帰化させ、巨大な水蒸気爆破を起こしてアイゼルフ王国の軍艦等の敵を破壊するのだ。
莫大なマイクロ波がパンツァーから解き放たれ、亜竜のブレス等、足元にも及ばない破壊力が炸裂する。
魔法装置によって範囲を調節、強化されたマイクロ波がパンツァーを中心に周囲五十メートルにマイクロ波を放出。
タイタニスの金色の鎧は、彼女の異能で電磁波による加熱や放電現象を防いだ。
しかし青銅爆雷高原の電気と、青銅の微粒子に満ちた大気には彼女の異能は及ばない。
ドーム状に放電現象が広がっていく。
遅れて加熱された青銅の含んだ大地と大気が、一瞬でプラズマと化して爆発して弾け飛ぶ。
爆風が大地を目繰り上げ、周辺の大気を残さず吹き飛ばした。
◆
プラズマの爆発が収まると、巨大なクレーターの中心にパンツァーが立っていた。
大地は深く抉れ、クレーターの断面から流れを断絶された電磁誘導の青銅の溶岩流が、アチコチから滝のように吹き出してクレーターの中にドロドロの青銅を溜めていく。
タイタニスに切り飛ばされたパンツァーの足一部から節足動物に似た足生える。
それは、カサカサと足を動かしてパンツァーに向かって行く。
パンツァーの一部である斬り飛ばされた蛸足は、本体と同じくマイクロ波を放出して、パンツァーのマイクロ波とプラズマ爆発を遮断して生き残った。
斬り飛ばされてもブラウリヒトの異能で青く光る内は、パンツァーから切り離された状態でも、彼女が遠隔操作可能だ。
自ら歩みより、帰ってきた蛸足が己の切断面を、本体であるパンツァーの足の節断面に近付ける。
すると、両方の切断面から滲み出した液体金属がお互いを引寄せ合い、ピタリとくっついてしまった。
あれほど破壊をまきちらしたのに足が治ったパンツァーは目立つ傷は存在しない。
〈パルサーディストラクション〉で自爆しないように対策がしてあるとは言え驚愕だ。
威力を増す改造の影響で、MPのロスが多くなっているMPモーターを使用したが、消費したMPも回復手段をたっぷりと用意してある。
損耗は殆どない。
「かぁぁぁぁぁ!やりにくいったらありゃしないねぇ!!」
パンツァーから離れた位置。クレーターが破裂して、地面の下からタイタニスが忌々しげに叫びながら現れる。
驚くべき事に彼女もほぼ無傷だ。
唯一、破壊されているのは鉄や銅等を大量に含んだ国内モンスターの素材にMPモーターや、疑似神経等の魔法装置を組み込んで作成された右腕の義手だ。
彼女は魔法が宿る金色のドレスアーマーと合わせてデザインされた両腕、両足の魔法と科学で作成された義体を装備している。
ドレスアーマーと義体は、タイタニスの異能の効果もあって、強度的には差はない。
なのにドレスアーマーは傷一つなく、執念深く装甲表面に刻まれた緻密な紋様も破損が見られなかった。
これは義体系ジョブのスキル〈メイクボディサクリファイス〉の効果だ。
〈メイクボディサクリファイス〉は義体の一部の破壊と引き換えに、ダメージを無効化するスキルである。
通常ならば、義腕の一本を犠牲にしたくらいでは、パンツァーの〈パルサーディストラクション〉に耐えられず、スキルの許容値を越えてしまうが。
タイタニスの義体はデミゴッズの一級品。更に自身の普人族としての異能〈己が金色だと認識しているモノの強度を上げる〉と【Unlimited】ジョブによる補正によって凄まじい性能を誇る。
重装甲のレガクロスの内部に収まるブラウリヒトとは、比べられない軽装だというのに、タイタニスが右腕一本の犠牲で平然としている理由だ。
「〈メイクボディエクスポート〉」
タイタニスがスキルを唱えると破損していた右の義腕がたちどころに元に戻った。
〈メイクボディエクスポート〉は手持ちの素材を消費。瞬時に破損した義体と同じものに変換する義体系ジョブの自己修復スキル。
タイタニスのドレスアーマーには拡張空間があり、義体の予備の部品がたんまりと入っているのだ。
ブラウリヒトのパンツァーも、タイタニスの義体も、己のスキルや性能で、魔法と機械でありながら瞬時に修復可能。
お互い手詰まりであった。
パンツァーブルーダーは強い。
虫ほどサイズ差が存在するタイタニスを正確に攻撃し、音速戦闘が可能な彼女に匹敵する機動が可能。そしてブラウリヒトはその性能を完全に掌握している。
それでもここまでのサイズ差があって、パンツァーの攻撃を巧みに防ぎ、こちらの防御を破壊できる小さな存在と戦うのは容易ではない。
タイタニスは強い。
パンツァーとのサイズ差を物ともしない破壊力と機動。機械と魔法の義体でレガクロスやキメラ並の持久力もある。
それでもパンツァーは大きく強靭。それ以上にブラウリヒトが戦闘者として一流の中の一流。致命傷を与える攻撃力があっても致命傷以外は平然と修復し、その間殆ど動きが鈍らず、平然と反撃もしてくる。
タイタニスが苦手な範囲攻撃と遠距離攻撃も得意とするブラウリヒトの操るパンツァーを突破するのは容易ではない。
どちらにも勿論限界はある。
ブラウリヒトは、このレベルの戦闘を続ければMPの回復薬が尽きてしまう。MPが尽きると、レガクロスである戦乙女の上半身が機能停止。キメラである双頭蛸の下半身は活動可能だが、戦闘力は半減する。
タイタニスも無限に義体を修復出来る訳じゃないし、手足以外は生身なので飲食が必要だ。
それでもブラウリヒトの強制ログアウトを考えなければ、お互いゲーム時間で一週間はフルスペックで全力戦闘が可能だろう。
しかし、このまま戦い続けると、肝心のオブシディウスとの戦いに多いに支障が出る。
今はトラブルで動けないが、準備ができ次第ブラウリヒトが所属するゲシュタルトから、最終兵器【ゲシュタル・ゲル・ボロス】が出撃する。
オブシディウスは未知の部分が多いが、あの化け物なら関係なく粉砕してしまうだろう。
お互いそれは望まぬ展開だった。
次回更新は未定です。
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