狂金襲来
飛ぶことに補正がつく青銅爆雷高原で採れる、青銅製の翼を広げ、身体に移植されたMPモーターで生成する磁力反発、熱の収束と加速放出の反動で飛ぶコープスとブレイン。
キメラ騎乗ランキングのランカー達が、高級量産キメラのブレイン二十頭にそれぞれ騎乗している。
破壊され抉られた火口から、大地と自分達に向かって流れてくる溶岩流。それを恐れる様子が微塵もないバトルが大地を踏み砕く。
足裏のドリル型特殊機動装置〈ランドスクリュー〉でダイノも同じく躊躇せず、大地を掻き砕きながら滑り走る。
砕き、掻き毟られた青銅の大地から、プラズマと青銅溶岩が吹き出す。
四本ずつ蛸足を束ね、改造された幅広の帯状蛸足を動かす双頭の蛸のキメラの下半身。先頭を走るパンツァーに至っては、既に真正面から溶岩流に挑み。流を踏みにじり吹き飛ばし。青銅溶岩を平然と踏破していた。
その速度は亜音速に達する。
それによりレガクロスの装甲、キメラの皮膚の表面では、高原に満ちる青銅の微粒子と電気エネルギーがプラズマ化して、激しいスパークの閃光と炸裂音を撒き散らしている。
このような無茶な行軍、普通ならこのままプラズマと溶岩に焼き付くされてもおかしくない。
それら全てはゲシュタルト技術由来の装備、個人の努力由来の多数の防御、耐性スキルで尽く無効化されている。
彼等の駆動や飛行になんの支障も与えていない。
ゲシュタルトの保有する技術と技術が、アニメートアドベンチャーで有数の高難度フィールドを蹂躙していた。
先頭を走るパンツァーが、邪魔になりそうなモノを、凶暴な亜竜よりも凶暴な技術の暴力で次々と粉砕して来た。最短距離を走るためだけに。
機体表面で弾けるプラズマを意に介さずパンツァーの異様な巨体が走る。
ゲシュタルトのレガクロス操縦、キメラ騎乗ランキングの両方で殿堂入りを果たしている【Unlimited】ジョブを取得しているブラウリヒト。
その彼女が乗り込むパンツァーにはこの程度、微風に等しい。
ブラウリヒトの異能で強化され青白く光る巨体。帯電する青銅の微粒子に満ちる大気を引き裂き、危険な環境で動きが鈍るレガクロス達の代わりに率先して露払いをする。
後続のプラズマ化現象はパンツァーのお陰で随分と少なくなっていた。
空中のキメラ部隊は、ゲルアルドから提供された、出処不明のキメラの遺体で作成された新型大型キメラのコープスが、その特殊能力で後続の大気のプラズマ化を防いでいる。
最初にそれの接近に気づいたのは、部隊指揮官のブラウリヒトの副官として、キメラ部隊を纏めるコープスに騎乗するギルメン。騎乗士系ジョブの中でも騎獣の制御や索敵能力に優れた【超感覚騎乗士】等の超級ジョブを取得している【ペルソナ】だった。
「警戒、地上左側面……速い!近ぁぁぁぁい!!」
ペルソナが「地上左側面」と言った時点でパンツァー専用の巨大二丁拳銃〈リボルガンランス〉が左に向けられていた。
優雅な鎧を纏う戦乙女然とした造形が美しいパンツァーの上半身。周囲の景色とはかけ離れた涼やかな光を放つ、頭部の金属眼球が、電気と青銅の微粒子で満ちた青銅爆雷高原を音速で走り、大気をプラズマ化させて向かってくる警戒目標を捉えている。
騎乗士系ジョブのスキル〈人騎一体〉によってコープスとペルソナは能力を共有。〈騎獣感覚超拡大〉〈超精密騎乗〉〈第六感〉等で更に強化されている。
ペルソナとコープスの索敵能力は、この場で最もレベルが高いが戦闘力に特化しているブラウリヒトとパンツァーを超えているのだ。
それなのに対象は既にパンツァーの金属眼球越しに、ブラウリヒトが視認できる距離にまで近づいていた。
プラズマの尾を引いて急接近してくる目標は小さい。
時折溶岩噴き出す火口、電磁誘導で高速で流れる溶岩流が点在する青銅の高原。この場所をキッチリ対策したレガクロスよりも早い速度……音速で走り抜けてくる者は、ブラウリヒト達と同じくらいまともではない存在だ。
ブラウリヒトはその存在にとても心当たりがあった。
『直接行かず、こっちに来たか……キレているが冷静らしいな。〈ペネトレイトバレットライン〉〈ハイパーハンマーバレット〉』
呟いたブラウリヒトが即座に障害貫通能力と重打撃威力をスキルで弾丸に付与。装填された弾頭をアダマンンタイトコーティングされた、八十ミリの砲弾のような徹甲弾が〈リボルガンランス〉から飛び出す。
この高原では遠距離武器は大気と衝突で発生するプラズマに焼かれて、焼滅か熱の抵抗でまともに直進できない。
貫通スキルはそれを防ぐための物だ。
発生しているプラズマで姿を視認出来ない目標に弾丸が音速で肉薄する。
ゴンッ!と弾丸が命中したとは思えない重い音。青銅大地が衝撃で陥没する。
激しく大気を引き裂くプラズマの光が膨らんで大爆発する。
生まれたプラズマ爆発の半球から、弾かれ、明後日の方向へと弾丸が飛んでいく。
スキルを目標に叩きつけ終わっている弾丸はプラズマ化。空中に光の軌跡を描きながら燃え尽きていく。
対象周辺の大気が、対象の拳と弾丸の衝突で残らず吹き飛んでいる。プラズマの材料を失ない、プラズマ化した大気で隠れていた人型の金色が露になって輝いた。
コープスの感覚器で観測を続けていたペルソナが、目標を見て叫ぶ。
「目標視認!タイタニス!!」
音速で迫ってきていたのはアイゼルフ王国第三王妃【タイタニス・ヘゼス・アイゼルフ】だった。
全身に金色の鎧を纏ったタイタニス王妃がブラウリヒトのスキルが乗った人が食らえば普通は跡形も無くなる弾丸を、鎧と同じく金色の義腕で弾き飛ばし迫ってくる。
『げろぉぉぉ!なんでこっちきちゃっとぅあー!?』
『……流石人間ドラゴンだな』
「なんで生身で平気なんだ?」
「生身じゃなくてサイボーグ」
「腕だけじゃなかったけ?」
『足もだろ』
『王妃とは一体……』
「いや、あれが異常なだけだから、後の二人は普通(?)の妃だから」
「体組織培養したら良いキメラの素材になりそうよね」
『キメラよりは、レガクロスのキメラエンジン向けだと思うよ』
『全員!遠距離攻撃持ちは全員スキル準備!目標はタイタニス王妃!全員で攻撃後、全力でこの場から離脱しろ!足止めと私が勤める!!』
ざわめくギルメン達をブラウリヒトが一喝し指示を出す。
彼等のメインイベントはビースウォートに向かうオブシディウスの撃破だが、サブイベントの発生の可能性をダイ・オキシンから出撃前に伝えられていた。
いつもの胡散臭い笑みを浮かべた彼曰く、サブイベントの内容は「タイタニス王妃がオブシディウスを追いかけて出てくるかもしれないので、殺してでも止めてください」という物騒すぎるモノだった。
『タイチョーマジでやっちゃんのー?ティータ姫ちゃんのマッマーでしょあれ?』
『メックマン、アイゼルフ王の許可は下りている。復活する準備もあるそうだ、殺す気でやれ!全員攻撃!』
『あいあいざー!』
ブラウリヒトの号令で遠距離攻撃持ちのレガクロスとキメラが一斉に攻撃を開始する。電磁砲、光線砲、重粒子砲、誘導炸裂弾、魔法と機械兵器や純粋な魔法攻撃による様々な攻撃がタイタニスに向かって飛ぶ。
日々戦闘を生業にして、ビースウォートとの戦争に参加したメンバーが揃うこの部隊に住人への攻撃を躊躇うプレイヤーは居ない。
◆
タイタニスは己に迫ってくる、眼前を埋め尽くすような無数の攻撃を見て思わず笑った。
「ははっ!見付かったと思えばこの容赦の無い攻撃!手回し済みかい!」
「だけどね……」執念深く緻密に不可思議な絵とも文字にも見える彫刻が鎧の全体に余すことなく刻まれた、金色のドレスアーマーの奥。隠された金色狂いの戦士の笑みが深まる。
「容赦ないが、そんな殺意の無い攻撃でアタシを止められると思わない事だね!!」
タイタニスの普人としての異能が発動する。
キィン!澄んだ金属音が金色のドレスアーマーから鳴り。金色の輝きが増していく。
その気性から考えると以外だが、タイタニスは戦闘用の防具にもスカートを好んで選ぶ。それも優雅にはためくロングスカートだ。刻まれた魔法によって音速で青銅の大地を駆ける足に、金色の装甲で武装された、金色に染められた金属の布のロングスカートは絡むことは無い。
飛んでくる攻撃に対してあろうことかタイタニスは更に加速した。青銅の大地が更に踏み砕かれて抉られる。タイタニスが通りすぎた大地からプラズマと青銅の溶岩が噴き出す。
◆
シャークムートの背部。翼のように並ぶ戦闘子機〈ホオジロマグネット〉がジェットエンジンの役割を果たす。
レガクロスとキメラの混成部隊の一斉攻撃後。その推力で仲間のレガクロスをワイヤーで牽引、離脱する機体の中。見た目だけは大和撫子な容姿のメックマンは下品に顔を歪めて笑っていた。
『ぶはははははは!?スッゲー姫ちゃんのマッマー!あの弾幕をノーガードで突っ込んで突破してきたウケる』
青銅の大地を揺らす地響き。
それほどの攻撃をタイタニスは正面から突破してきた。
金色のドレスアーマーに陰るどころか彼女は無傷で更に加速してくる。
『……とっとと離脱するぞメックマン』
『へへーい、タイチョーまったねー!』
出力と移動能力に余裕のあるメックマンのシャークムートとハンモウのセンタイヴァイサンがレガクロスを牽引して加速。上空のキメラ部隊は多少の損耗には目をつぶって全力飛行を開始する。
「逃がさないよ!」
発生したプラズマや爆炎、粉塵を突っ切ってタイタニスが逃げるレガクロスとキメラの混成部隊へと向かう。追い縋る彼女の目的は彼等の撃破ではない。
彼女が常々「いつか殺そう」と機会を伺っていた、可愛い愛娘ティータに粘着するグナロークが抹殺すべき対象だ。
グナローク抹殺部隊である、ブラウリヒトを率いるゲシュタルトのレガクロスとキメラの混成部隊の邪魔など、グナロークに利となるような行動は絶対にしない。
タイタニスの目的は……。
「アレを殺しに行くならアタシも連れて行きなっ!」
彼女はゲシュタルトが送り込んだレガクロスとキメラの混成部隊に紛れてグナロークを自らの手で抹殺しようと考えているのだ。
常日頃からティータへの鬱陶しい粘着。彼女の趣味嗜好を存分に再現し、堪能できる黄金離宮ゴルドアサイラムへの攻撃。
それはゴルドアサイラムを襲撃してきた数十体のジャベリンをすべて粉砕したくらいでは到底収まらないい鬱憤である。
一応、これからグナロークが乗り込む巨大レガクロス、オブシディウスと戦うことになる、国境線付近で己が堂々と戦うのは不味いと考える冷静さは残っている。それを止めるという選択肢はタイタニスには存在しなかった。
「チッ!」
タイタニスが舌打ちして急停止。即座にその場から後ろに飛ぶ。
彼女が数秒前までいた場所を幾つもの光軌跡が蹂躙して青銅の大地をバターのように切り裂いていく。
切り裂かれた大地は、後方に跳んだタイタニスの目の前で、真っ赤に赤熱しながら膨らみ、爆発した。
赤熱した青銅、溜め込まれていた電気がプラズマとなって弾けとぶ彼女の見据える先。大地を灼熱の粒子放出で切り裂いた〈ソードバルチャー〉が、砲後部に繋がれた生体金属ワイヤーで引き戻され、主の元へと高速で帰還していく。
刻まれた魔法によって派手な音どころか風切り音すら聴こえない。
無数の羽毛を模したワイヤーに繋がれた機動砲が〈バルチャーネスト〉……パンツァーの機械の上半身背部の翼へとワイヤーを引き戻されて、接続、固定されていく。
タイタニスの目の前に立ち塞がる巨大な影。
異能で青色に染まる美しい機械の戦乙女の上半身と、醜悪な双頭蛸の下半身を持つ双頭怪戦車。
操るのはゲシュタルト最強のレガクロス操縦者にして最強のキメラ騎乗者ブラウリヒト。
「貴女が居ると私が政治に悩まされないといけない、私は戦闘以外に手間を掛けることも苦労を背負うことも拒絶する。
とっと巣に帰れ狂金」
「相変わらず良い殺気を飛ばすじゃないかぁ……ブラウリヒトォ!」
次回更新は、明日の十二時の予定です。
評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。




