青銅爆雷高原
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◆アイゼルフ王国・青銅爆雷高原
国土の六割が鉄と赤錆に覆われたアイゼルフ王国では異色の土地、緑青に覆われた銅と、色鮮やかな酸化銅のモンスターが棲息する回電群草原。
今でも国土の二割占めるこの場所は、その昔は更に広かった。
青銅爆雷高原。
帯電する青銅の大地と大気。
電磁誘導で流れる青銅溶岩の川。
草原から灼熱の高原になっても変わらずに生え続ける青錆草。
地形のあちこちに火口が存在し、地表だけではなく青銅の大地の下にも網のように電磁誘導でドロドロに溶けた青銅を駆け巡り、頻繁に噴火する。
危険極まりない自然現象が発生しつづけるこのフィールドは、元々は回電群草原の一部。回電群草原と同じ種類の青錆草が生えているのがその証拠で、本来は輝く赤銅色だった青錆草が緑青に覆われているのはこのフィールドが発生したせいだ。
二百年前に壊滅した、国境近くを監視していた要塞跡地。
その跡地を国から貰い受けて建設されたゲシュタルトシティは、そんなフィールドの外れ、回電群草原と青銅爆雷高原の境にある。
火山噴火の影響で隆起した大地は標高が高く、恒常的に帯電する大地と大気に襲われ、活発な火山活動で頻繁に発生する地震と、砲金の火山弾に降るこの高原は、レガクロスを有する高い軍事力を持ったアイゼルフでも要塞の維持はとても困難だった。
更に多数の亜竜と、旺盛で危険な自然現象が精霊化した下級精霊までもが棲息し始めた。
それが百五十年前に要塞が壊滅し、再建されずに放棄される事になった原因である。
この場所を軍が進軍し、仮想敵であるビースウォートに攻めこむのはレガクロスでも難しく。
逆にビースウォートの強靭な戦士達でも、ここを越えて進軍するのは不可能と判断されたのだ。
◆
この高原の最強の一角、青銅爆雷亜竜は竜並みの力を持ちながら知能は低く、凶暴なモンスターの亜竜の一種だ。
その姿は長い首を持つ、太古の地球の海に棲息していた水棲恐竜プレシオサウルスに酷似している。
しかし、この亜竜が泳ぐのは電磁誘導で高速で流れる青銅の溶岩の中。
ドロドロに溶けた青銅の圧力と灼熱。膨大な電気エネルギーに耐えて力にする青銅爆雷亜竜は、卵から生まれたばかりの幼体でも、戦闘系超級ジョブ三百レベルに相当する強さを持っている。
一匹の青銅爆雷亜竜が、己の縄張り近づいてくる侵入者の存在を、亜竜の優れた感覚で察知した。
この辺りでは、一番大きな火口を巣とする知性の欠片も無い亜竜。
凶暴な本能に従い、なんの迷いもなく亜竜は迎撃を選択する。
火口から青銅溶岩の中に沈めていた巨体が浮上。固有魔法で青銅の外殻を纏い、武装を終えた青銅爆雷亜竜が、侵入者に向かって威嚇の咆哮放った。亜竜が身体に秘める力が咆哮通して周囲に多大な影響を与え、常に宙を舞う微量の青銅の粒子や、青錆草に覆われた青銅の大地が孕む、膨大な電気エネルギーが亜竜の咆哮で解き放たれた。
ただ咆哮するだけで、触れるだけでも耐性の無いモンスターが感電死する自然現象が、明確な敵意を持って、その身を刃の様に研ぎ澄まして侵入者に向かって破壊を撒き散らしながら迫る。
この個体はとても強い。
ただの咆哮で己の周囲の危険で力の強い自然現象を、簡単に支配して魔法のように操る。耐性があるはずの同種を吹き飛ばす程の威力。この咆哮には戦闘系ジョブ五百レベルに達するプレイヤーでも致命傷を負う威力があった。
だからその個体は結果に少し驚いた。
ただの挨拶でしかないが、明確な敵意を込めた咆哮で相手が一切揺るがなかった事に。
少しの驚きは直ぐに倍以上の憤怒に膨れ上がる。
亜竜の怒りが己の巣である火口を噴火させる。
湖のように広い火口から青銅溶岩が柱のように噴出した。百メートルを越える高さの柱が生まれ、亜竜の長い首と、広い背に生えた幾つもの磁力を生成するMPモーターが高速で回転。
高まる磁力で火口から半身を浮き上がらせた亜竜が、生成された磁力を魔法で操作し、火口から噴出した青銅溶岩を磁力が渦巻くように絡め捕らる。
青銅溶岩が亜竜の口許に収束される。
そして放たれるブレス系の攻撃スキル〈ブロヴォルガノン〉。
亜竜の口許に磁力で圧縮された青銅溶岩が、爆発的な電磁誘導でビームのように己の縄張りを侵入する敵に向かって放たれた。
発射の衝撃で火口の青銅溶岩が亜竜の後方に吹き飛び、大地を抉り焼きながら直進する。
三千度近いドロドロの青銅が、弾けながら迸る雷を纏い、音速を越えた速さで侵入者に迫る。
強い爆発と雷の力を秘めた青銅溶岩を収束して放つこの攻撃スキルは、見た目以上の魔法的破壊力を秘めていた。
直撃すれば熱で焼かれ。質量で粉砕。押し潰される。内部に秘めた電気エネルギー余すことなく対象に向かって炸裂させる。
侵入者は跡形も残らない、亜竜の憤怒が込められた破壊の一撃。
亜竜の優れた感覚で察知した、〈ブロヴォルガノン〉と同時に侵入者が放った小さな礫。
低い知能ながらも嘲る感情を持つ亜竜はそれを笑った。
「そんな礫等でこの一撃を防げる筈がない」など意にも介さず呑み込んでしまう……筈だった。
小さな礫が〈ブロヴォルガノン〉が衝突する……そして亜竜が想像すらしていなかった光景が眼前で生まれた。
礫は〈ブロヴォルガノン〉の先端と正面からからぶつかると、膨大な質量と熱エネルギーに魔法的破壊効果持つ攻撃スキルの一切合切をあっさりと貫通。そ
しては勢いが落ちるどころか貫通した礫は初速の数十倍の速さに加速した。
あまりに速すぎて、強靭で鋭い感覚を備えている筈の青銅爆雷亜竜が、嘲りで歪む顔のまま、頭部を礫が吹き飛ばしまう。
己が死んだことも亜竜は理解することも出来なかっただろう。
更に映像を逆再生するように亜竜が放った〈ブロヴォルガノン〉が己を貫いた小さな礫の後ろに追従。頭部を失い、長い首だけになった亜竜の身体をその質量と熱量、魔法的破壊力が蹂躙して跡形もなく粉砕。
余波で火口が大きく引き裂く。火口を貫くように、亜竜の攻撃よりも深く長い破壊痕が青銅の大地に激しく刻まれた。
破壊された火口から、血すら流す暇もなかった青銅爆雷亜竜の代わるように、抉られた大地に青銅溶岩が流れていく。
◆
一匹の亜竜が巣にしていた火口は無惨に破壊されていた。
それを成したのはゲシュタルトの戦闘を主とする幹部ブラウリヒト。そしてブラウリヒトが乗るパンツァーブルーダーだった。
無残に破壊された歪ながらも円形だった火口は、ブラウリヒトのカウンタースキルの余波で、横断するように抉れた青銅の大地で切り裂かれている。
ブラウリヒトにとっては細々とした、雑魚敵の掃討作業は先程の亜竜に放った銃士系のカウンター攻撃スキルで片付いている。
倒した亜竜はこのフィールドで出現するモンスターの中でもトップクラスの能力を持つ個体。
それゆえに亜竜のブレスを貫いた、パンツァーの巨大二丁拳銃〈リボルガンランス〉で放たれた……〈バレットリベレイト〉は、貫通した物理現象、魔法現象を従え、威力を奪い取り破壊力と速度を増していくスキルの威力は、竜の吐息レベルにまで高まり、射線上のモノを根こそぎ破壊するに至った。
破壊痕は国境近くの青銅爆雷高原の終わり付近まで続いている。
この惨状に流石の低能で凶暴、命知らずで知られる付近の亜竜も逃げ出していた。
ブラウリヒトのパンツァーに率いられた、ゲシュタルトのレガクロス戦闘部隊が青銅の大地を走る。
上空ではゲシュタルト謹製の魔法機械とキメラを融合させたキメラサイボーグが生命力溢れる強靭なキメラの肉体から機械の翼を広げて飛んでいる。
【FCバルディッシュⅣ・シャークムート】。
鮫の頭部を象った特殊な装甲と全身に装備した〈三連装MS〉。背後に翼のように展開している鮫型戦闘子機のポッドを装備した、レガクロス操縦ランキング二位のメックマン専用機。
【FCバルディッシュⅣ・センタイアサン】。
操縦者が種族の特性で生み出す特殊な苔を錬金術で金属化。物理、魔法現象を滑らせる特殊装甲と三十メートルを超える巨大な長柄の儀仗斧を装備する、レガクロス操縦ランキング三位のハンモウ専用機。
【バトル・アックス】
巨大な外付け攻撃腕〈クラッシャーアーム〉を両腕に装備した、バルディッシュⅣをより攻撃的に大強化したゲシュタルト製レガクロス。
【ダイノ・ブローバ】
背筋を伸ばした獣脚類、もしくは地球の娯楽作品に登場する怪獣のような姿と全身の真っ赤なドリルが特徴的な、同じくゲシュタルト製レガクロス。
【コープス・タバール】
長く伸びる芋虫のような蠢く肉塊。その先端には輝く光球、内側に丸めた長い身体の尻の先には金属の長柄に巨大な半月斧刃を備えた、ゲシュタルト謹製新型の大型キメラ。
【ブレイン・トマホークⅥ】
地球のお菓子エクレアのような特徴的な機械の頭部。その頭部には上向きに生えた大きな斧刃。機械の中には錬金系スキルで加工、小型パッケージ化した、モンスターの頭部が納められている。ゲシュタルト謹製量産キメラ。
魔法があることで地球よりも高度な科学で作成された巨人兵器と合成騎獣達。
そして、その両方が合わさった姿を持つ存在。
優雅で美しい戦乙女。
通常の機体の二倍はある巨大なレガクロスの上半身。
強靭で醜悪。
脚だけでも二十メートル近い、双頭蛸の巨大キメラの下半身。
ただ戦闘力を追求したブラウリヒト専用レガクロス
【双頭怪戦車】。
『バッチバッチバッチッチッチー!ちょっともったいなくねーいタイチョー!
ああん!そーやーセンタイちゃん、無事でよかっちゃーねーハンモちゃーん!!』
パンツァーの後ろ、機体の装備で低空を飛行するシャークムートが器用に、とても奇妙なステップを空中で踏んでいる。
よくバランスを崩さないなと、隣を走るハンモウと後続のギルメン達は声に出さないが思っていた。
『……気色悪い呼び方をするなメックマン』
センタイアサンは苔岩の魔人である自身の一部を加工した特殊装甲で守られ、一切のプラズマ現象を起こしていない。
コチラは足先の車輪に加工されたMPモーターで青銅の大地を走っている。
二機のFCバルディッシュⅣは、ジャベリンに寄生されゲルドアルド、ブラウリヒトとそれぞれ戦闘になったが、両者の実力によって迅速に軽微の損傷で確保されたため、追撃部隊に参加が出来た。
他のレガクロスは操縦者が乗り込み稼働中だったため、寄生されずに生き残ったレガクロスだ。
半年ログインしていない、レガクロス操縦ランキング一位の【ヤキブタ】は不在。
彼の専用機【FCバルディッシュⅣ・ブヒモス】は、奪われたのか現在行方不明だった。
『無駄口を叩くなとは言わないが……警戒を怠るなよ』
パンツァーの下半身である双頭蛸のキメラ。右側の縦に並んだ周辺の肉ごと目玉がギョロリとシャークムートを睨む。シャークムートの頭部程ある蛸の目玉は性能に裏打ちされた底知れない迫力があった。
『ひゃぁぁぁぁぁぁ俺様ちゃんちゃんとやってむあす!』
メックマンがガクガクと震えながらシャークムートでふざけた敬礼して、奇妙なステップを止める。
代わりに緊張した様子で手足の揃った行進を、低空飛行しながら披露した。
あまりにわざとらしいその様子を見た他のギルメン達が忍び笑いを漏らす。
キメラに騎乗するギルメン達は、騎乗士系超級ジョブ五百レベルをカンストした猛者達だ。レガクロス部隊もブラウリヒト以外は【Unlimited】ジョブ取得者こそ居ないが、全員が操縦士系超級ジョブを五百レベルでカンストしている。
ゲシュタルトの誇る、恐るべきゲーム廃人部隊。
亜音速で青銅の大地をレガクロスが走り。
電気と微粒子に満ちた重い空をキメラが飛ぶ。
オブシディウスをビースウォートとの国境近郊で襲撃するために、彼女等はゲシュタルトシティから出撃し、青銅爆雷高原を横断している。
この高原はビースウォートとの元国境。隣国から奪い取ったカウンハンゲ占領地まで真っ直ぐ土地が伸びている。
オブシディウスが移動中の磁鉄大沼地とも隣接しており、土地全体が磁力を帯びた鉄の泥に覆われた大沼地よりも足場がましであった。
大気に青銅の微粒子、電気、灼熱で満ちるこの土地は、ベアのように隠蔽能力が無くとも未知の性能を持つオブシディウスからも身を隠せる。
その程度では普通はルートに選ぶには過酷すぎる道程だ。
驚異的な技術力と、その技術力を存分に享受できるゲシュタルトならではの行動である。
次回更新は、明日の十二時の予定です。
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