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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
スーパーレガクロス内戦編

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暴炎と鬼神・4


キィィィィィィィッ!空中をのたうつ触腕の先端から甲高い回転音が吐き出される。


先端には鯉かワラスボのような第二の顔と鰓を備えているため、気味の悪い怪物が鳴いているようだ。


獲物を探すようにワラスボの一対の金属眼球が目まぐるしく周囲を見回す。


ワラスボの触腕を伸ばす頭部の三角に並んだ三つの金属眼球が、同じくギョロギョロと周囲を見回す。

顔の左右に生える上向きに緩やかに歪曲する長く鋭い赤い突起が虫の触覚のように小刻みに動いていた。




グレートキングデーモン。名前の通り悪魔染みた姿。


得体の知れない生物的な挙動。ヌラリと脂ぎった生の皮膚のような薄汚い装甲の相乗効果。

それは見る者に多大な生理的嫌悪と不快な感情を呼び起こさせる。


ジャベリンが破壊されたことで、黒い装甲が鮮やかなオレンジに戻ったバルディッシュⅣを保持するグレートキングデーモンは、だらりと下げていた右腕を、操縦者達の気絶により、落ち行く黒いバルディッシュⅣ達に向けた。


内側に折り畳まれていた四本の大砲のような指〈マジックバレルアクセラレーター〉が手先の延長線上に起き上がる。

左右に拡げられた〈マジックバレルアクセラレーター〉が四方を向くと、砲門が魔法現象によって一斉に輝いた。輝きがピークに達すると眩い光線が放たれる。落ち行く黒いバルディッシュⅣをスポットライトのように光が捉えて機体を照らしだす。


光は魔法スキルを遠距離に高速で打ち出すための道、打ち出されたのは〈念動〉の魔法。不可視の力場を伸ばして対象を掴、引き寄せたり、引き離したりする魔法だ。


操縦者の気絶により行動を停止した黒いバルディッシュⅣが〈念動〉の力場に捕らわれ、機体を軋ませながら空中でピタリと停止した。


微動だにしなくなった黒いバルディッシュⅣ。

背部のジャベリンからくぐもった回転音響き始める。

それはやがて金属を高速で削るくぐもった掘削する音に変わった。


金属のジャベリンの装甲を拘束する高速の擦過音が壁が薄くなるように……実際に削られて明瞭になっていく。


火花を発しながらジャベリンの装甲を突き破り、高速で回転しながら勢いよくジャベリンから飛だしたそれは、グナロークの私兵達……つまり人間だった。


ジャベリンの操縦席から砲弾のように打ち出された彼らは空気を穿ち、高速でグレートキングデーモンに向かって飛来する。




〈念動螺旋引力〉

〈念動〉の引き寄せる事に特化したこのスキルは、対象を生み出した力場で掴み、MP(マナ)で強化して回転を加えながら、高速で魔法使用者自身へと引き寄せるという魔法だ。

自身に向かって恐ろしく高速で回転する物体が飛来することになるので、全く逆の効果の〈念動螺旋斥力〉と違って、スキルを取得しても滅多に使われない魔法スキルである。




遠隔から高出力MP増殖炉を起動とダイ・オキシンの命令でグナロークの私兵達からあるものを回収する命令を受けて、行動を開始したグレートキングデーモン。

強力な三次元レーダーである触腕の両隣、顔の左右から生える真っ赤な牙〈ディメンションピアース〉によって操縦者の正確な座標を把握し、気絶している彼らを無理矢理〈念動螺旋引力〉によって引き寄せたのだ。


ヒュゥゥゥゥゥゥン!と高い音を奏でて回転しながら飛んでくる六人の人間を、グレートキングデーモンは破壊しないよう、とても慎重に加速と回転を緩めながら停止させた。

その時のMP(マナ)の動きはとても繊細で柔軟。

誰も乗っていない機械仕掛けの巨人が行っているとは思えない、見事なMPマナの操作だった。


グレートキングデーモンは呪術系スキルによって、ダイ・オキシン魔法関係の能力を大幅に下げる変わりに、ダイ・オキシン本人が操縦しているのと変わり無い動きと判断能力。機体に秘めた武装や魔法スキルを発動できるように作成された遠隔操作と無人行動に優れたレガクロスなのだ。


これくらいの魔法スキルの制御など朝飯前である。





ただの念動で彼らを薪のように束ねたグレートキングデーモンは、おもむろに触腕先端のワラスボのような第二の顔で束ねた彼らを食らった。


ワザワザ操縦者を無傷で取り出してからのその凶行。副隊長の断末魔の悲鳴が未だに頭に響いて離れない彼等の思考は完全に真っ白で、その末路を黒いバルディッシュⅣの名嘉から見送ることしか出来なかった。


甲高いミキサー刃の回転音を吐き出す口内へと、雑に念動で束ねられた彼等の頭部が呑み込まれる。湿る破砕音が響くのは一瞬だった。想像に容易い悲惨で残虐な作業は、数秒で呑み込まれて消化される。


気絶していたのが彼等の最大の幸福だった。


自身に迫る逃れられない死の回転刃を認識せずに逝けたのだから……ただ見送るだけしか出来なかったグナロークの私兵達に正常な思考が戻っていたら一瞬だけは、そう思ったのかもしれない。


ほんの数分前なのに、その六人が何を聞いて気絶したのか咄嗟に思い出せる者はその場には存在しなかった。




あぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!?ぎぃぃっぃぃぃぃっぃぃぃ!!げぎゃがやがやあ!?痛い!痛い!痛い!あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ痛い!痛い!ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?痛い!痛い!びゃぁぁぁあぁぁぁ痛い!あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ痛い!痛い!ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?痛い!痛い!びゃぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁ!?ぎょおおおがぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁ!?ぎょおおおがぁぁぁぁぁぁあぁぁ痛い!ぁぁぁぁぁぁぁおおおお!?ぁあぁぁぁあぁぁぁ!?ぎぃぃっぃぃぃぃっぃぃぃ!!げぎゃがやがやあ!?痛い!痛い!痛い!あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ痛い!痛い!


聞こえ来たのは六色の声で引き裂くように響く大音量。


生きたまま腑分けされジュースとなる者達の断末魔のハーモーニー。




頭の中に直接響くその悲鳴は、その場に居たグナロークの私兵達の頭をドリルで抉り続けるような壮絶な痛みを突き刺してくる。その痛みは副隊長の断末魔の悲鳴の比ではなかった。


痛みは即座に意識を刈り取るが、余りの痛みに即座に目が覚める。


気絶と覚醒を繰り返す地獄は永遠に続くかと思われたが、数秒で声は唐突に沈黙した。変わりにボジュンッ!湿った音が響き、触腕のワラスボ顔の左右の鰓から不要な部分が排出される。それは血肉であり、骨であり、魂だ。


必要なのはスキルとして肉体と魂に馴染んでいる神秘だけである。


グレートキングデーモンが回収しているのはグナロークの私兵達が取得しているオブシディウスが与えられる特殊なスキル〈イビルテック〉だった。

ついでに他にも文官や武官がデスクワークの為に保有する、書記等のデスクワーク系スキル等だ。

あれば役に立つのだが、育てるのも自力でジョブの補正なしで手に入れるのも、時間がかかって面倒なスキルなのである。


殺しても文句を言われないデスクワーク関連のスキルを持つ住人ダイアレスは貴重だ。

デスクワークなんていうスキルを保有している連中は、戦闘力があれば食いっぱぐれ無いアニメートアドベンチャーの世界では、おおよそ犯罪とは縁遠いまともに事務仕事に従事している住人ダイアレスだ。

中々そういう人材は、国内最大手ギルドのサブマスとして注目を浴びながら活動するダイ・オキシンには気軽に手を出しにくい。こういうチャンスには逃さずゲットしておきたい。




準備運動は済んだ。


ゲルドアルドが鹵獲してくれた初心者狩りをしていたジャベリンで、ダイ・オキシンはおおよそ構造は把握していた。グレートキングデーモンにもその情報は与えられている。


それでも動くジャベリンから操縦者だけを抜き取るのは難しい。

それも先程実践データを得られたのでなにもかも問題も無くなった。


念動により拘束されたままだった操縦者を失った六機の黒いバルディッシュⅣ。念動系の魔法を発動したグレートキングデーモンによって、背部からジャベリンを除去される。

鮮やかなオレンジ装甲を取り戻した後、発動した転送の魔法で無人のバルディッシュⅣはこの場から消え去った。


送られた場所は現在、臨時のレガクロス修理場になっているゲルアルドが居るドーム型多目的試験場だ。

破壊された、破壊してしまったのパーツを集めてバルディッシュⅣをレストア中のゲルドアルド達には事前に連絡を入れてある。

オゾフロを始めとした腕利き揃いの中でも、廃人と上級者プレイヤーが集まるゲシュタル・ゲル・ボロス地下格納庫に送らないのは、現在トラブルが発生していて人手が足りないせいだ。


グレートキングデーモンの触腕と突起を生やしたコブラのような鎌首が持ち上がる。大皿のような胴体を見せつけるように前に突きだされる。


大皿の中央、美しいルビーが実るような魔法装置が起動した。真っ赤な球体の内部、一つ一つに虹彩が出現する。球体内部で蠢く眼球が獲物を求めて世話しなく回転した。


いまだ頭に響いたの断末魔の影響で、動きが鈍い前方の黒いバルディッシュⅣの生き残り向けて一斉に虹彩が向けられ亀裂のように細められる。


レガクロスが横になれるほど大きい、大皿のような胴体の〈アルゴスメーサー砲〉が魔法現象の眩い輝きを宿し、時間を経る毎に輝きを増していく。


あからさま過ぎる強力な武装発動の予兆。

割れるような頭痛に呻くグナロークの私兵達は必死に機体を操作してプラズマ推進機をフル稼働させて脱出を図る。


後先考えない、動力にしている生体を使い潰す〈コアサクリファイス〉を起動したジャベリンから膨大なMPマナが発生して、大量の紫電を生み出して吐き出す翼と尾のプラズマ推進機が、機体を急加速させる。

一瞬で音速を突破した黒いバルディッシュⅣ達が空気の壁を切り裂いて、グレートキングデーモンの金属眼球の視認領域から消えた。


グレートキングデーモンは自在に飛行可能だが、飛行速度はそれほどでもない。

飛行に特化したジャベリンの推進力を持つ黒いバルディッシュⅣを追いかけるのは難しい。


もっとも追いかける必要は無いのだが。




〈アルゴスメーサー砲〉が起動した時点で、遥か上空に逃げ去った黒いバルディッシュⅣ達は幾多の敵を屠ってきた鋭き戦士達の呪怨の視線が捉えていた。

狙った獲物はどこに逃げようと効果を解除するまで〈アルゴスメーサー砲〉は捕捉し続ける。


対象が何処に居るのか正確な座標が分かっているならば、卓越した転移魔法をダイ・オキシンと同じレベルで扱えるグレートキングデーモンは追い付くことも、ここから数ミリも動かずに操縦者を捕らえることも容易い事だ。


直視できない程に輝いた〈アルゴスメーサー砲〉の光が弾ける。


すると次の瞬間には、グレートキングデーモンの目の前に食われた六人と同じく、薪でまとめるように無造作に束ねられた十数人の人間が居た。


一体何が起こっているのかわからない。

間抜けな顔を晒す、現実に認識が追い付いていないグナローク私兵たちにグレートキングデーモン触腕が近づいていく。


先端の鯉かワラスボに似ている第二の顔の大口から漏れる甲高い音に気付いたのは不幸なのだろう。


ボジュンッ!と湿った音が響き、不要な部分がワラスボの顔の左右の鰓から排出される。


天から操縦者を失った黒いバルディッシュⅣが重力に引かれて落ちて来る。

次回更新は、明日の十二時の予定です。


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