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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
スーパーレガクロス内戦編

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暴炎と鬼神・2


音の発信源。皆の注目を集めた方向にあったのは、ゲシュタルトのギルドマスターオゾフロの専用機であるタイラントアーティザン。


アーティザンの頭部の金属眼球が光を集め淡く光り始めていた。


不思議とこの機体に積まれている筈の高出力MP増殖炉の騒音は聞こえてこないが、起動しているのは間違いない。


オゾフロのパーソナルカラーであり、ギルドのカラーでもある鮮やかなオレンジとグリーンの二色で染められたアーティザンの装甲。バルディッシュⅣが痩せた子供に見える巨体と重装甲に包まれた機体からは、MPモーターの唸りが聞こえてくる。


身震いするように機体を震わせ、色のせいで巨大な果実が両肩に乗っているように見える丸く巨大な肩装甲が揺れる。その下にぶら下がる腕はまるで鉄塊だ。

腕の先端には、特別製MPモーターの回転で開閉を行う、大きなマキシマムヘビィアダマンタイト製の顎を持つ〈グラビトンバイス〉を備えている。


部位の一つ一つが、バルディッシュⅣの胴体よりも二周りは太いアーティザンの機体が、鈍い音を立てて今度は痙攣する。


タイラントアーティザンの目覚め、ついに動き出した。


グナローク私兵達は即座に対処しなければならなかったが、それは出来なかった。


通常炉の倍はある中型炉の高出力MP増殖炉を搭載する関係で、アーティザンとグレートキングデーモンはバルディッシュⅣの二倍はある。


大きさだけならば、サンダーフォーリナーやパンツァーブルーダーの方が圧倒的に大きい。


しかしアーティザンは重装甲。使われている素材は異常な結合力と重量を誇るアダマンタイトを、鉱人族の固有スキルで圧縮し鍛え上げ、変化させたマキシマムヘビィアダマンタイト。

オゾフロの技量によって素材の良さを殺さず、量も減らすこともなく軽量化するという正に魔法の鍛造技術によって、その重量は同じ量のマキシマムヘビィアダマンンタイトの半分になっている。


それでもその重量は二倍以上大きいサンダーフォーリナーよりも重いという常識はずれだ。


凄まじい重量のアーティザンが身震いするだけで空気が怯えるように震え、逃げ出すように風が起きる。力が込められた脚部。その重量を全て支えて余りある頑丈と力を備えた大樹のような両足が、悲鳴のような軋みを床に上げさせる。


動かないならば平気だったが、起動したアーティザンは命の無い人形だとわかっていても震えてしまう程の圧倒的存在感をその質量だけで放っていた。


強化外骨格に身を包んだ近くにいた私兵達は、アーティザンの身震いで起きた風に押し倒されて尻餅を付き、レガクロスに操縦者達は無意識に機体を後方に下げてしまう。


「は、破壊しろぉ!」


アーティザンから離れていた私兵が逸早く恐怖を振り払い叫ぶ。


操縦者も居ない上にこの尋常ならざる質量を誇る機体を、MP増殖炉も使わずどうやって動かしているのわからないが、即刻破壊しなければならなかった。


「タイラントアーティザンを破壊するんだ!」


手にもった銃をアーティザンに射ち放ち再度叫ぶ。弾丸は僅かな傷一つその装甲に刻むことが出来ない。他の私兵も追従しレガクロスも動き出す。


それは遅すぎる行動だった。


既にタイラントアーティザンは動けるほどの力を蓄えている。


アーティザンに向かって、ジャベリンが機体名の由来である投げ槍突撃形態へと変型し飛び込んでくる!

飛べる程に広さに余裕のあるレガクロス第四格納庫の空気を引き裂き、アーティザンに突撃したジャベリン。


そしてグシャグシャに潰れたジャベリンだった残骸が生まれた。


潰れたジャベリンがアーティザンの重装甲にへばりついている。


槍の柄のように真っ直ぐ伸びていた下半身が、だらりと力なく格納庫の床に垂れ下がる。


アーティザンのマキシマムヘビィアダマンタイトの装甲はジャベリンの突撃を物ともせず、逆に装甲を貫けなかったジャベリンはその重量に完全に押し負け、自らの勢いで自身をスクラップに変えてしまった。


アーティザンの重量を動かす、特別製の改造MPモーターが、普通のモーターとは違う低い唸るような音を響かせる。格納庫全体に重低音が充満していく。

生身でこの場に居るグナロークの私兵達の内臓をシェイクされるような不快感が襲いかかり、思わず呻いた。


とてもアーティザンが、ただ腰と首を僅かに動かしただけとは思えない音だ。


そんな僅かな動きで大気が震えている。




頭部にハンマーでも乗せているような広く平なアーティザンの額装甲。


これはマジックアイテムの武装である。


前方に突き出す額装甲がにわかに輝くと、装甲にへばりついたジャベリンの残骸に光が走りグリッド模様が一瞬で機体全体に刻まれた。


床に無数の金属が落ちるけたたましい音。


積み木でも崩すようにジャベリンの輪郭が、刻まれたグリッド模様に沿うように崩壊していく。素材ごとに分けられ無数のインゴットにジャベリンが変化していた。ジャベリン使われた金属だけではなく、操縦者と動力になっていた生体までも骨や肉色のインゴット状の物体に変わって床に転がっている。


アーティザンが額装甲から放ったのは呪いの光。


長年オゾフロがゲーム内で強化しながら愛用し。

アーティザンを作成する時にも使われた鍛冶用のハンマーを鋳溶かし作成された頭部武装〈鍛造破壊砲〉。


これはオゾフロのステータスやスキル、アーティザンが発生させる熱量で変形させることができる物体を、操縦者の意のままに成型するという呪いの光を放つ武装なのだ。


操縦者であるオゾフロが乗り込んでいない状態では、用意した素材から一瞬でレガクロスを作成するという真の力は発揮できないが、インゴットに変えることは可能だ。


アーティザンの装甲表面で金属の衝突音と液体が爆ぜる。


格納庫の内部に居た五機の黒いバルディッシュⅣによる〈モンスタースレイヤー〉の一斉射撃だ。オレンジの装甲が〈モンスタースレイヤー〉の弾丸に使われている黒と間違うほど濃緑色の触れた物質を炭化させる侵炭液で汚される。


しかし侵炭液は、本当に汚れとして表面を流れるだけだった。


オゾフロがゲーム時間で三十年かけて、ジョブと鉱人のスキルで鍛え上げられ、圧縮鍛造されたマキシマムヘビィアダマンタイトの装甲には、そこに炭素等という余分な物が入り込む余地はない。




アーティザンに装甲表面に飛び散った侵炭液は、むしろ周囲に居たグナロークの私兵に被害を与える。空中に飛散した侵炭液は周囲の酸素と結合して奪い去っていく。二酸化炭素や一酸化炭素が大量に発生して、アーティザン周囲の人間を酸欠に追い込み昏倒させていく。


最早なりふり構わず突撃していく五機の黒いバルディッシュⅣ。


内部の騒ぎに気付き外で警戒していた黒いバルディッシュⅣ達も、破壊した入り口から雪崩込んでくる。


通常のレガクロスの二倍はあるアーティザンやグレートキングデーモン。

二機の全長を上回るフォーリナーやパンツァーを内部に納める格納庫はかなり広い。


アーティザンの動きを制限して尚且つ数の暴力を生かせる場所だった。


数で攻める程度でなんとかなると勘違いしたのが彼等に災いした。


ガシャン!とアーティザンの頭部装甲。人の口に当たる部分が音を立てて開いた。そこには炎熱操作の魔法装置が組み込まれた排熱スリット。同時に機体の装甲各所にアーティザンの口と同じスリットが解放される。


スリットの内部から赤熱が漏れ光り、周囲の空気を歪ませていく。


そして、次の瞬間には格納庫は灼熱の地獄と化していた。


荒れ狂う灼熱が凄まじい勢いで排熱スリットから吹き出し、アーティザン支える床を舐めながら格納庫全体へと広がっていく。


酸欠でアーティザンの近くで倒れていたグナローク私兵達が灼熱で押し出される大気の移動で吹き飛ばされ、まもなく熱が身体に到達して一瞬で真っ赤になって泡のように爆ぜ飛んだ。


灰すら残さず完全に消滅している。


あまりの熱量に彼らは一瞬で気体になってしまったのだ。


接近し、一斉に金属破壊に特化した〈メタルブレイカー〉で攻撃を仕掛けていた黒いバルディッシュⅣ達にも灼熱は容赦なく襲いかかる。荒れ狂う熱は飛んでくる〈メタルブレイカー〉の魔法の斬撃を粉砕。


先頭に居たジャベリンの正面装甲を爆発するように融かして行く。


抵抗どころ逃げるという行動すら取る間もない。


〈マジックイレイザー〉を纏い防ごうとした機体もあったが〈マジックイレイザー〉はなんの意味も成さず、熔解して次々と爆ぜ飛んでいくジャベリン達。


彼らは熔解した金属の奔流となって壁に叩き付けられていく。


やがて物理法則に従い出口を求めた彼らは、破壊された入り口から鉄砲水のように飛び出していった。




アーティザンにはMP増殖炉の他にもう一つ動力が存在していた。


スライムの特徴である一定の温度で加熱すると、素材の融点温度維持して活動する特性と、ゲルドアルドが時間があれば幾らでも用意できるニトロハニービーの炎熱を吸収してMPに変換する能力を利用した動力。


半永久機関〈灼熱転換炉〉である。


スライムの素材はアダマンタイト。


アダマンタイトの融点温度は恐ろしく高く、ただの鉄等は一瞬で固体から気体へと昇華してしまう。アダマンタイトを鍛造する現場は対策をしていないと炎熱に耐性がある鉱人でも身体が自然発火するのだ。


その凄まじい融点温度をニトロハニービーの炎熱吸収体毛で作成した魔法装置でMPに変換。MP増殖炉で増殖されるオゾフロのMPと併用して使用することで超重量のアーティザンを動かすオゾフロ特製の改造MPモーターを動かす。


二つの動力を併用することでアーティザンは通常のレガクロスの二倍の全長、サンダーフォーリナーを超える超重量の機体でバルディッシュⅢ並みの動きを可能としている。


〈マジックイレイザー〉の効果が無かったのは、これらの現象はファンタジーであるがれっきとした物理現象だからである。


オゾフロが乗り込んでMP増殖炉を動かさなくてもアーティザンが単独で動けるほどのMPを生み出せる〈灼熱転換炉〉だが、重大な欠点があった。


アダマンタイトの融点温度は特性を強化されているニトロハニービーの炎熱吸収体毛でもMPへの変換が間に合わず素材が劣化する。更にマキシマムヘビィアダマンタイトの装甲も強化されているとはいえ元は同じ素材だ。


融点温度に差は余り無く長時間の〈灼熱転換炉〉使用は、アーティザンの破損や融解を招く恐れがあった。


アダマンタイトを大量に入手するには隣国のドルイソワーフからの輸入に頼るしかなく、アーティザンの破損は目玉が弾け飛ぶようなお値段となる。


炉の使用中は変換が間に合わない膨大な熱を外に排出し続けないと行けないのだ。


排出された熱で気体に昇華しドロドロ溶けていく機体周囲の光景を見れば、MP増殖炉が如何に安全なのかよくわかるだろう。




アーティザンから排出され続けている膨大な熱は留まることを知らず、自身が立っている床や格納庫はすらも真っ赤に染め上げ、液体にして爆ぜ飛ばしていく。


排熱機構が正常に動作しているためアーティザン自身が損傷することは無いが、鮮やかなオレンジに染められた、マキシマムヘビィアダマンタイトの装甲が、提灯のように内部から赤い光を発している。


物の数秒で内部に居た、そして内部に突入してきた。

ジャベリンや黒いバルディッシュⅣが真っ赤な泡となって爆ぜ消えた。


格納庫は形を崩し、天井から内側へと吸い込まれるように崩れる。次の瞬間には風船のように膨らんでジャベリン達のように内側から一瞬膨らんで同じく爆ぜる。

飛び散った格納庫や溶け残ったジャベリンの残骸が、外で待機していた残りの黒いバルディッシュⅣ達に襲いかかり破壊していく。


格納庫の外に居たため、辛うじて逃げ出せた二十機の黒いバルディッシュⅣと、一機のジャベリンが空へと逃げ延びることに成功した。


必死に上空に逃げた黒いバルディッシュⅣ達の眼下には、戦慄する光景が広がっている。地獄の釜が開いたような何もかも熔解してしまう赤熱する巨大なクレーターが。


そこに数秒前まで、巨大な格納庫があったとは、襲撃した本人達にも信じられない光景である。


ゴォォォォォ!轟音を響かせ、クレーターの中央で平然と活動する存在が中央から浮き上がってくる。


排熱の方向を操作して下方に集中させることで箇所を廃棄熱を推進力に変換。クレーターの中央からゆっくり浮き上がってくるアーティザン。機体の周囲では溶けた金属が更に気化していた。

気化した金属が上昇気流を作りだし、アーティザンの廃棄熱で飛び散った溶解した金属が映像を逆回しした雨のように空へと登り、そして通常の雨のように空中で冷やされた金属礫が重力に引っ張られ周囲に降っていく。


ジャベリンの装甲に元々仲間や格納庫だった礫が衝突。リズミカルな音を奏でていた。


黒いバルディッシュⅣ操縦者達は堪らず〈モンスタースレイヤー〉や〈アームオキシジェングレネード〉で攻撃を加えるが、全てアーティザンから排出されている膨大な熱が壁になって随分と手前で破壊されていく。


アーティザンの頭部が上空に向けられる。無機質な金属眼球がジャベリンを捉えた。


額の〈鍛造破壊砲〉が再び輝く。



次回更新は、明日の十二時の予定です。


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