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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
スーパーレガクロス内戦編

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暴炎と鬼神・1


◆ゲシュタルトシティ。レガクロス第四格納庫。




グナローク第三王子を信奉する……実際には第三王子グナロークを利用しようと打算で近づきオブシディウスの機能によって洗脳された住人(ダイアレス)……グナロークの私兵達は。

オブシディウスによって召喚されたジャベリン十機。ジャベリンに寄生され、ゲシュタルト所属の証であるオレンジの装甲を黒く染めた黒いバルディッシュⅣが五十機を率いて集まっていた。


格納庫正面入り口は破壊されている。

固く閉ざされていたMPモーターで稼働する頑丈なシャッターはズタズタに引き裂かれ、周囲に散らばったシャッターの残骸は醜く爛れていた。

バルディッシュⅣの額装甲に装備された〈メタルブレイカー〉による破壊痕である。


機体の大半が格納庫周辺で警戒し、中にはジャベリンが三機と二十人の住人(ダイアレス)が浸入していた。


彼らの目的はゲシュタルト幹部専用レガクロスの奪取または破壊だ。


操縦系ジョブやスキルを保有せずに圧倒的な力を発揮する四機の幹部専用レガクロスが秘める技術の暴力は、確実にグナローク第三王子の邪魔となる。


故にこの場には強奪したバルディッシュⅣの半分が投入されているのだが……。

グナロークの私兵達が拍子抜けするほどあっさりと、幹部専用レガクロスがあるレガクロス第四格納庫は制圧できてしまった。


バルディッシュⅣ百機が保管されていたレガクロス第一格納庫は、姿を消した百機以上のジャベリンでの奇襲攻撃。戦闘系ジョブの保有者が少ない生産ギルドであるゲシュタルト所属のプレイヤー(ディセニアン)を多数殺害して奪取を成功させた。


それでも許容範囲だったがそれなりに被害が出ている。

しかしこの、第四格納庫はなんと無血制圧だ。


襲撃時に出てきたのはゲシュタルトが初心者用に売り出しているボールゴーレムのみ。素材を厳選し、初心者用の売り物とは物とは微妙にデザインが異なり高級品だったようだが、黒いバルディッシュⅣの敵では無かった。


バルディッシュⅣ……レガクロスとはアイゼルフ王国にとって誇りと国力の象徴。


それをこんな雑な警備で保管するなんて、呆れを通り越して怒りの感情すら彼らには浮かぶ。推定額だけでも幹部専用レガクロスはバルディッシュⅣの十倍では利かない額が機体作成に投入されていると聞けば尚更だ。


「無能どもの手から取り上げ、我々の真なるアイゼルフ王の役に立たせなければ!」という身勝手過ぎる使命感すら抱き、彼等はグレートキングデーモン、タイラントアーティザンを奪い取るためにジャベリンで近づいていく。


サンダーフォーリナーは後回しだ。ジャベリン一機ではMP量の関係で恐らく動かせないと考えられているからである。他の二機を奪取したあとに運び出す予定だ。







「……気味の悪い機体だ」


間近で異形のグレートキングデーモンを見たジャベリンの操縦者の一人が呟く。


彼は、傲慢だったが才能ある優秀なレガクロスの操縦士だった。


ある日、モンスター討伐の任務で遠征した際に手柄を求めて無理なスタンドプレーで孤立した彼は、遭遇した荷電巨像バスターノズルエレファントに機体を破壊され重傷を負った。


彼はそれがトラウマになりレガクロスの操縦が出来なくなってしまった過去がある。


オブシディウスから授かった〈イビルテック〉で再び操縦できるようになり、腕を買われ、強力なゲシュタルトの幹部専用レガクロスの一機を奪う役目を彼は与えられている。

国軍時代の彼は、傲慢で周囲と折り合いが悪かったため共有機しか任されず不満を抱いていた。

目の前のグレートキングデーモンは彼が待ち望んだ、彼だけの専用機になるわけだが……デザインに大変不満がある。


人型である点だけで言えば、下半身が蛇のようになっているジャベリンの方が異形だが、それを忘れるくらいにグレートキングデーモンの姿は奇抜だ。


まず目につくのは胴体。

胴は巨大な円を描き、中央に向けて緩やかに窪んだその形状は、縦に飾られた大皿。皿の大きさはレガクロスが横になって寝られる程。

その中央には真っ赤な無数の球体を円錐型に並べた、鮮やかな赤色の葡萄型の突起が、皿の底から実るように円錐形の先端を正面に向けている。


皿の上部に頭部、皿の背後から翼、そして皿の左右と下部から猿のように長い腕と、四足獣の後ろ足にも似た真っ赤な鉤爪を持つ持つ脚部。


大皿の上部から生えた頭部は、縦にした皿の四分の一の縁に沿うように幅が広く薄い蛇腹の首が支えていた。

首は先端に行くに連れてすぼまり、先端には緩やかに上下に膨らむ顔があった。上向きに据え付けられた三角に並ぶ三つの金属眼球が虚空を見つめている。

そこだけ見ればコブラを思い起こさせる造形で、その先端からは蛇の舌というには太く長すぎる……通常のレガクロスの腕ほどの太さがある長い触腕が生えていた。

触腕の先端には鯉か、干潟に棲むワラスボのような第二の顔。

機体の膝に届くほど長い触腕の先に、金属眼球と真っ赤な鰓のような機械が顔の左右に見えている。空気を欲するように開かれた大口の奥には真っ赤なミキサー刃が凶悪に輝く。

触腕の付け根の左右には、緩やかに上向きに歪曲した、飾りなのか、何か機能があるのか用途不明の赤く鋭い長い突起があった。


頭部から地続きの幅広く生えた、五指と水掻きに見える奇妙な形した期待をスッポリ覆えるほどの大きな翼。

格納庫の天井から伸びる鎖が、翼の五指に備わる爪に引っ掛けられて吊られている。


ここまで来ると顔のコブラの印象は薄まり、大きな耳(背後の翼)顔から生える長い鼻(長い触腕)長い牙(赤い突起)を持つ象へ変わった。


翼は生体素材に見えるが国内の素材には見えない。裏地は見てると吐き気がする黄色、赤色、桃色が混ざり会う薄汚い斑模様。五つに別れた翼の先端は垂れ下がり、正面からも見えている表地は何故か機体の色と同じ色の毛が豊かに生えている。


整髪油でも塗っているのか妙に艶やかだ。


腕は長く逞しい。背部から伸びる太いアームに支えられ、腕には間接が五つもある。内側に曲げられた先端の長い手には横一列に並ぶ長い四本の大筒が床に対して上を向いていた。


巨大な大砲を並べたような奇妙な手である。


その奇妙な形状をより引き立たせるのが、脂でヌメるような汚ならしい輝き反射する肉色の装甲だ。近くで見ると何の意味があるのか、赤と青の血管のような紋様がうっすらと浮かんでいる。


装甲全体がヌメ光り、更に骨でも浮き上がるようにボコボコと装甲は歪に膨れ。全体に布が引き攣ったような皺が寄っている。

まるで、生物から剥ぎ取ったサイズの合わない皮膚を、別の骨格の生物に無理矢理被せたような印象を抱く。


アイゼルフ王国は勿論、不揃いのMPモーターが理由で、奇形になってしまうデミクロスでも滅多にみない異形である。



「よりにもよって何で象に似ているんだ……!」


グレートキングデーモンの巨大な象の顔に見える機体を間近で見た操縦者は、自分の傲慢が招いた事件で、重症を負わされた大型の象型モンスターをどうしても思いだしてしまう。


死にかけた記憶が甦る。


思わずジャベリンの操縦桿を強く握り締め、身体をブルリと震わせる。


未熟な素人のようにジャベリンに動きを反映してしまい、予期せぬ機体の震えを招いてしまった。


震えのせいで操縦を誤りグレートキングデーモンに接触して擦過音が周囲に響く。反射的に接触箇所を確認するとジャベリンの下半身に小さいが、無様な掻き傷が刻まれてしまっている。


しかしグレートキングデーモンの装甲には浅い傷一つ無かった。脂ぎった皮膚に見える気味の悪い装甲は、見た目と裏腹に頑強であるらしい。


そのことに小さな戦慄を覚え「ディセニアン(プレイヤー)の趣味は理解できん!」と心の中で毒づいて内心の動揺をごまかした。


精彩を欠いた動きでジャベリンはグレートキングデーモンを乗っ取るため、整備用のタワーや通路を蹴散らしグシャグシャと破壊しながら、グレートキングデーモンの背後へと移動する。


背後に回ったジャベリンは蛇の下半身で上へと上半身を押し上げ、グレートキングデーモンの機体に捕まりながら高く持ち上げた。機体の胴体が鏃のような頭部を中心に前後に大きく開き、口のような形状に変形する。

その姿は鎌首を持ち上げる大蛇のようだが、側にいるグレートキングデーモンと比べると些か迫力に欠けている。


「…………!?」


グレートキングデーモンの背後に回った操縦者は正面の大皿や象の顔という印象とは欠け離れた、何かの骨格のような複雑にパーツが組み合わされた背中に一瞬驚き。


そして広げられている翼を間近で見て呼吸が止まった。


彼は翼の素材に何が使われているのか理解した。


理解してしまったのだ。


それは確かに生体素材で国内の素材ではなかった。


艶やかな体毛に覆われた翼の表地は、表面に不揃いな凸凹が存在し複雑な陰影を描いていた。最初は何とも思わなかったが、良く見ると全身が総毛立つような衝撃を受ける形をしていた。




手があった。



お互いに手を伸ばし会うように指を組み合わされた数えきれない手が。



足があった。



渦巻くように並べられた数えきれない足が。



胸があった。



男達の硬い膨らみが、女達の柔らかい膨らみが。



顔があった。



苦痛に呻き、絶望に歪めた、苦しみ抜いて死んだ数えきれない顔が




不気味な翼は人の皮を繋ぎ合わせて作られたおぞましい物だった。




彼がかろうじで操縦席で悲鳴を上げなかったのは勇敢だったからではない。

使われていたどの部位にも、人の形をしていながら濃い体毛が生えていたからだ。


一目で明らかに獣人の皮だと判断できた。


羽毛が時おり混じっているのは鳥系の獣人だろう。


短い角も伸びているのが見えている。


アイゼルフで獣人と言えば、長年火種を国内に持ち込んでくれる険悪な方の隣国ビースウォートの獣人が真っ先に思い浮かぶ。

長年積み重ねた、そしてグナローク第三王子の影響で更に高まったビースウォートへの悪感情が悲鳴を押さえ込むことに成功していた。


彼は気づかなかったが、使われているのは皮だけではない。


先のビースウォートとの戦闘で優秀な住人(ダイアレス)の死体を回収出来たダイ・オキシンは、素材を無駄にすることはなかった。


彼は、骨や牙は翼の骨格、肉は翼の裏地、獣毛の生える皮膚は翼の表地にとして使いきっている。


眼球も胴体のパラボラ型魔法拡大装置〈アルゴスメーサー砲〉の照準装置に加工されて中央に設置。搾り取った脂や体液も特殊な加工を施されて装甲のコーティング材に使用されていた。


魔法で消臭もされているので決して臭くはないが何故か「臭う気がする」と言われしまうのが最近のダイ・オキシンの悩みである。なぜモンスターのキメラがよくて、これはダメなのか知識で理解できても、根本が理解できないダイ・オキシンだった。


魔法で生体を培養しながら作り上げた、その名も〈戦死達の翼〉は、素材に使われた生身で山を砕き、亜音速で大地を走るビースウォートの超級戦士達の生前保有していたステータスやスキルを宿している。


そこから自在に力を引き出し全身に厚く塗布された、ビースウォートの戦士達から搾り取って魔法で培養した脂と体液の呪いのコーティング材を介して、グレートキングデーモンは、本来は素手や爪で発動する打撃や斬撃系の攻撃スキルや防御スキルを発動したり、腕先端の大砲からそれらの効果を内包した魔法弾を発射して、遠距離から効果を対象に叩きつけての攻撃が可能。


味方にステータスを付与したりもできる凄いマジックアイテムなのだ。


残念ながらレガクロスには付与できないが。




素材となった戦士たち同様とても頑丈であり、表地の体毛に覆われた場所は盾としても使えるほど強固だ。防御系のスキル発動すればも一時的にアダマンタイトに超える防御力を獲得する。

ギルメン達にドン引きされたが攻防にも補助にも使え、念入りに対策施されたグレートキングデーモンを介して使用しないと、使用者が呪い殺されてしまうくらいしか欠点らしい欠点の無い武装である。

獣人は種族特性では殆どの魔法系ジョブやスキルと縁はないが、唯一呪術系だけは相性が良い。獣人の呪いは例えスキルを覚えていなくても非常に凶悪である。


グレートキングデーモンを奪おうとしていたジャベリンの操縦者が、その想像絶するおもぞましさを理解してしまったら、この場で幼子のように悲鳴を上げていただろう。


この機体のおぞましい真実の一端知り怯んでいる間にも時間は流れていた。


物言わぬ死体のタペストリー等に気をとられている間に暴炎の職人タイラントアーティザンは主であるオゾフロの命令を受諾し、今まさに動き出そうとしていた。


ドンッ!と内蔵に響く重い音が第四格納庫に響いた。

次回更新は、明日の十二時の予定です。


評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。

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