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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
スーパーレガクロス内戦編

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41/115

バルディッシュVSジャベリン・2

連続更新ラストです。


ブックマーク登録ありがとうございます。


ジャベリンの長大な下半身が見た目通り蛇のように高速で地を這い迫る。


ダイ・オキシンの目の前で、ゴーレムであるがゆえに衰えぬ戦意で下半身だけになっても立ち上がろうとするバルディッシュⅣ。


そこへ〈マジックイレイザー〉を付与したジャベリンが肉薄する。


急接近し、勢いそのままにジャベリンの蛇の下半身がバルディッシュⅣを轢き潰した。


バルディッシュⅣは腰部の〈リニアヒートガン〉でジャベリンを迎え撃っていたが、機体に付与されている〈マジックイレイザー〉によって悉く無効化されている。

通常ならば物理的に生成された圧縮熱を放つ武装で〈マジックイレイザー〉の対象外だが、バルディッシュⅣ自体が召喚された魔法現象由来なので対象になっている。


蹂躙されたバルディッシュⅣの下半身から舞い散る火花のようにMP(マナ)の光が飛び散る。

耐久値を越えるダメージを与えられ、実体も動く力も維持できなくなったバルディッシュⅣが動きを止め、ほどけるように光の粒子になって跡形もなく消滅していく。


障害であるオゾフロが召喚した二機目のバルディッシュⅣを破壊したジャベリンが、猛然とダイ・オキシンに襲い掛かる。

ギルドのブレインであるダイ・オキシンは、第三王子の私怨を一身に受けるゲルドアルド並みに優先順位が高い。生き残っていた武装集団も一気にギルメン達に攻勢を強める。


オゾフロの視線の先では、玉露を呑み込んでいた光の粒子が内側から弾け飛んだ。


黒曜の装甲を煌めかせた、二機目のジャベリン登場。


長大な尻尾はとぐろを巻き、解かれたとぐろの中心には無傷の玉露の姿。

機体全体を這い廻り蠢く燐光が、ジャベリンの全身に〈マジックイレイザー〉が付与されているということをダイ・オキシンとオゾフロの視覚と知識が告げている。


「おやおや、知らない情報ですね」言葉は楽しげに紡がれているが、ダイ・オキシンは胡散臭い笑みを浮かべた表情の眉根を寄せる。知識欲は満たされるのは面白いことだが、GMとしては歓迎できない。


趣味は二の次、邪神討伐が第一なのだ。


機体全身に自在に〈マジックイレイザー〉を付与できるとなると、ジャベリンの戦闘力が跳ね上がる。イベントの難易度もだ。

デッドコピーであるジャベリンにそう言う機能があるのなら、大元であるオブシディウスにもあると考えるのが自然だ。


幸いなのはゲシュタルトが保有するレガクロスの多くは〈マジックイレイザー〉の影響を受けない物理現象が主体の武装が充実していることか……と考えていた所にギルドチャット経由でレガクロス第一格納庫にあるバルディッシュⅣ、百機全て奪われたという頭の痛い情報が頭の中に響く。


ジャベリンから放たれた熱線砲……〈ブラストレイ〉を魔法で反らしながら、器用に頭を抱えるダイ・オキシン。ジャベリンは他の機体に寄生してコントロールを乗っ取れるらしい。

ギルドチャット経由で面倒な情報がドンドン入ってくる。問題なく始末できそうな問題ばかりだが被害額が大変なことになっている。


もしやと思い、ダイ・オキシン専用レガクロス【グレートキングデーモン】を遠隔起動し、魔法で機体の金属眼球に視界を同調させる。

案の定、幹部専用レガクロスが保管されているレガクロス第四格納庫も襲われていた。

特別頑丈な造りであるためまだ破られていないが、敵は背部にジャベリンを背負ったバルディッシュⅣに攻撃されている。破られるのは時間の問題だ。


尋常ならざる高級品の幹部専用レガクロスを奪われるのは不味い。グレートキングデーモン経由で発動した探索魔法が五十機のバルディッシュⅣに寄生したジャベリンが格納庫周囲に捉えていた。

遠隔操作のグレートキングデーモンで余裕で叩き潰せる数だが、守るとなると部が悪い。


そして口伝で伝えられていた情報よりもオブシディウスは巨大だという情報もダイ・オキシンの頭を痛める。




「オゾさんの慧眼を讃えるべきか、あれを動かせるMP(マナ)を用意できるゲルさんを讃えるのか迷いますねぇ」


ゲシュタル・ゲル・ボロスならほぼ影響を受けないだろう……それはともかく。


「オゾさぁぁぁぁぁぁん!【タイラントアーティザン】を起動してください!第四格納庫が襲われてます!!うぉぉぉ危ない!?」


熱線砲では埒があかないと判断したのか、ダイ・オキシンに向かって長大な下半身で床を滑るように高速で這うジャベリンが突撃してくる。


ダイ・オキシンは魔法で床から僅かに浮き上がって高速で移動してその突撃を回避した。ついでに振り向き様に装飾過多の愛用のバルディッシュ……レガクロスではなく本来の意味での儀仗斧(バルディッシュ)だ……を取り出す。

重たい長柄の武器だが、ダイ・オキシンのような魔法職、力の無いタイプの生産職でもある程度振るえるよう〈ストレングスブースト〉と〈斧術〉スキルが付与されている。


〈マジックイレイザー〉魔法を発動。

更に魔法を三重に重ね掛けする〈トリプルマジック〉と魔法効果を強力化する〈マキシマムマジック〉を|儀仗斧〈バルディッシュ〉の斧刃に纏わせ、ダイ・オキシンの真横を通り過ぎようとするジャベリンの装甲に叩き付けた。


「召喚体の癖に〈マジックイレイザー〉が効かないのは反則じゃないですかね……?」


ダイ・オキシンが発動した三重化(トリプルマジック)強力化(マキシマムマジック)した〈マジックイレイザー〉を発動した儀仗斧はジャベリンの装甲を覆う〈マジックイレイザー〉の一部を削ぎ落としたが、ジャベリンの装甲には浅い傷を刻むだけに終わった。


「玉露てめぇぇぇぇ!?」


ダイ・オキシンからもたらされた凶報にオゾフロが怒り心頭だ。


「だからギルマス違いますって!?こうなるかもしれないから恨みっこ無しでお願いしますって話し合って決めましたよね!?」


「?………………………………あぁ」


明らかに今思い出したという間だった。




「理解して貰ったところで……隙あり!」


玉露を守っていたジャベリンが、前腕のプラズマ推進機で急加速しながら蛇の下半身で高速で床を滑り迫る。


オゾフロの虚を突いたジャベリンの左腕が〈マジックイレイザー〉を纏い対峙していたバルディッシュⅣの右腕を砕いた。驚愕の表情を浮かべたオゾフロの目の前でバルディッシュⅣの右腕が光の粒子になって消えていく。


「あぁぁぁぁぁ!?何しやがる!」


一瞬冷めかけた怒りに再び燃料を注がれたオゾフロ。豊かな頭髪がブワリと膨らみ彼女のシルエットが一回り大きくなる。


「一度ギルマスと戦ってみたかったんですよ。どちらも量産機同士、ダイレクトアタック無しのロボットバトルやりましょギルマス!」


「だったらいきなり攻撃してくんじゃねぇよ!ぶっ飛ばすぞ玉露ぉ!〈アイテム作成〉!!」


激昂の咆哮と共に〈アイテム作成〉で作成されたモーニングスター(刺付き鉄球)がレガクロスすら軽々と投げるオゾフロの強肩で投擲され、凄まじい速度で玉露に迫る。

玉露は全く反応出来なかったが、オブシディウスから与えられたスキル〈イビルテック〉で召喚されたジャベリンが素早く対応した。長大な下半身でモーニングスター(刺付き鉄球)受け止める。

驚くべきことにモーニングスター(刺付き鉄球)はジャベリンの装甲に深々とめり込んだ上に、機体を数メートル後退させた。受け止めた衝撃で後退する長い下半身に引っ張られ、バランスを崩したジャベリンの上半身がつんのめる。


オゾフロの投擲には反応できなかったが、モーニングスター(刺付き鉄球)を受け止めた反動で迫ってきたジャベリンにはかろうじで反応できた。玉露は悲鳴を上げながら慌てて後方に転がるように逃げ出した。


「てめぇらもちんたらやってねぇでそいつらをぶっ殺せ!」


召喚した盾やゴーレムの影に隠れて散発的な銃撃を武装集団に繰り返していたギルメン達に、オゾフロの怒りの矛先が向く。


「えー!」「人殺しは勘弁ですよ!」「PKもしたこと無いのにー!」


住人(NPC)は2Dアニメ外見とは言え、ここで生まれ暮らしてきた人である。殺す必要があっても自分で手を下したくないというプレイヤーは多い。


「そんな皆さんにお知らせです」


そう言葉で告げたダイ・オキシンは、ギルドチャットでログインしているゲシュタルトの全メンバーに、ダイ・オキシンに次々と届けられる、バルディッシュⅣ百機が全て奪われた等と言った凶報を発信した。




「死ねやNPCが!!」「電子海の藻屑にしてやる!」「二度と朝日を拝めると思うなよ!」「第三王子殺す!」「待ちたまえ!?私は侵入プレイを楽しんでいるメンぶあぁぁぁぁぁぁ!?」


全体ギルドチャットの効果は劇的だった。凄まじい勢いの手のひら返しである。


銃撃音は倍に膨れ上がり、皆で量産していたバルディッシュⅣを奪われたという怒りを銃撃と一緒に怒声が武装集団に降り注ぐ。


怒りで我を忘れているように見えるが、武装集団に混じっていたギルメンは丁寧にHPではなく主にMP(マナ)にダメージ与える魔法スキルで滅多撃ちにしている辺りまだ冷静だ。


「皆さーん、玉露さん……潜入チームのギルメンを殺すのはダメですよ!

あとオゾさん、アーティザンを起動させてください、格納庫が破られます!」


「そーだ、そーだ!ちゃんとロボットバトル……略してロボットルしようぜ!直は無しでお願いします」


ジャベリンの後ろから顔だけを覗かせた玉露が大声でそんなことをのたまう。


「グダグダうるせぇ!」


オゾフロの苛立ちそのままを乗せた叫びを合図に、右腕を砕かれたバルディッシュⅣが全身のMPモーターを唸らせて走り出す。途中で破損している右肩をジャベリン向けて前に突き出した。

ドンッ!部品強制排除用の作薬が作動し、バルディッシュⅣの壊れた肩がジャベリンの顔面に向かって勢いよく発射された。間髪いれずに今度は全面装甲が弾け飛び、同じくジャベリンに向かって行く。

十メートルの鋼鉄の巨人構成する部品だ。風を切る勢いを加味すれば、本来ならばまともに食らえばジャベリンの装甲は深刻なダメージを負っただろう。


しかし肩や装甲を発射したのは魔法で実体を構成された召喚されたバルディッシュⅣだ。その部品は〈マジックイレイザー〉で簡単に破壊できる。


案の定〈マジックイレイザー〉を全身に付与したジャベリンに触れたバルディッシュⅣの肩の残骸ろ装甲は、ジャベリンになんのダメージを与えることもなく光の粒子になって広範囲にばらまかれていく。


眩いMP(マナ)の光がジャベリンと玉露の目の前で溢れる。

オゾフロの意図に気付いた玉露がギルド支給のハチェットガンを構えた。


「目眩ましか!〈MPバースト〉!」


玉露が両手で構えるハチェットガンの銃口から、MP(マナ)が物理現象に変化する直前の臨界状態で保った状態のMP(マナ)に指向性を持たせて前方に爆発させる〈MPバースト〉が銃口から噴出する。


ただのMP(マナ)は物理的にも魔法的にも干渉できない。干渉するには通称、無属性魔法スキルと言われるMP系魔法スキルが必要だ。

溢れる光の粒子が〈MPバースト〉の爆発で干渉されて吹き飛ばされていく。


晴れた視界の先には目眩ましの間に魔法で修復されたのか、傷一つ無い右腕を振りかぶる、内部の回路骨格を剥き出しにしたバルディッシュⅣの姿があった。

右腕だけは装甲に覆われている。


バルディッシュⅣの右手は赤熱を宿して輝き、鋭く太いダガー〈熔断手刀〉に変化している。


振りかぶり、鋭く突き出された鋭利な赤熱するバルディッシュⅣの〈熔断手刀〉を逆に砕こうと、ジャベリンの黒曜の輝きを放つ右拳が、揺らめく〈マジックイレイザー〉の不気味な燐光を纏って迎撃する。


「ギルマス!ちょっとビックリしたけど召喚魔法である以上、その武装じゃ録なダメージは……!?」


〈熔断手刀〉は迎撃したジャベリンの〈マジックイレイザー〉を纏った拳を容易く貫いた。目の前で思い描いた光景が叩き潰され、玉露が驚愕に目を見開く。


赤熱した太く鋭いダガーに貫かれた拳が赤熱の光を孕んでバラバラと砕け、前腕の先から脱落していく。拳を貫きそのまま前腕に突き刺さる〈熔断手刀〉の高熱が前腕装甲が変形させ、装甲を泡立たせる。


右前腕も真っ赤になって泡立ち溶け崩れ、そのまま突き刺さった〈熔断手刀〉でバルディッシュⅣに勢いよく横に薙ぎ払われる。真っ赤に変色した黒曜の装甲が肘間接を残して飛び散った。


「ジャ、ジャベリン!ブラストレイだ!」


〈マジックイレイザー〉を防いだ方法わからないが、相手のバルディッシュⅣは回路骨格が剥き出しだ。回路骨格もかなり頑丈だが装甲程ではない。

召喚体と召喚者特有の不可視の繋がりで、声に出さなくても命令できるが、玉露は動揺から思わず声に出していた。


玉露の命令を受諾したジャベリンの、右胸部の目玉のような発信機が蠢き熱線砲……〈ブラストレイ〉の砲門が輝く。


「〈アイテム作成〉!」


オゾフロのスキルの宣言が轟く。


回路骨格が剥き出しだったバルディッシュⅣが光の粒子の包まれ、次の瞬間には新品のゴーレム装甲に覆われていた。

一拍遅れ、ジャベリンの〈ブラストレイ〉が至近距離から放たれるが、磨き抜かれた輝きを持つゴーレム装甲は熱線砲を物ともしない。バルディッシュⅣは高熱の赤熱光線を浴びながら、左腕でジャベリンの鏃のような頭部を鷲掴みにする。


ジャベリンの〈マジックイレイザー〉を発動したままだが、その手が消える様子は無い。


装甲と右肩を排除したときに左手も排除していたのだ。

そしてオゾフロの〈アイテム作成〉スキルで作成された装甲と腕に換装。最初にジャベリンに発射した前面装甲以外も作成した装甲に換装されている。

〈アイテム作成〉はMP(マナ)CP(クリエイトポイント)を消費して発動する。CPの消費して発動する作成系スキルは完全に物理的な存在として実体化する。


表面上は物理的存在になった上に強力な炎熱耐性が付与された装甲に換装されたバルディッシュⅣには、〈マジックイレイザー〉も〈ブラストレイ〉も有効打にならなかった。


掴まれた頭部はジャベリンの部品の中では飛び抜けて硬く砕けはしなかったが、悲鳴のような短い金属の軋みが鳴る。

無事な腕が拘束を解こうとバルディッシュⅣの腕を殴打し、蛇の下半身が全力で蠢き引き剥がそうとするが、逆に殴打した拳が装甲に阻まれて砕ける。外れない拘束にジャベリンの首が負荷で軋む悲鳴を上げる。


基本スペックはバルディッシュⅣが圧倒しているのだ。


激しく抵抗しようが、下半身で巻き付こうが電気エネルギーの障壁と、レガクロスを越える巨体で電磁加速し突撃してくる。アイゼルフ国内モンスターを想定した性能を持つバルディッシュⅣはこの程度ではびくともしない。


「うわぁ……ドン引きだ!

ロボットル中のパーツ交換はレギュレーション違反だぞギルマス!?


組み合っていたとは言え、戦闘中に動き回るレガクロスに正確にスキルで作成したパーツを合わせるのは神業だ。


作成時の出現座標の変更。作成直後の数秒間、自在に移動できる現象を利用して、その場でマニュアル装着させるという、変態テクニックを見せつけられた玉露は混乱していた。


戦闘中に動くレガクロスに装甲や部品を装着するには、回路骨格の規格や装甲の接続口に正確に合わせなければならない。

目の前では動かないレガクロスにならば同じことをできるプレイヤーも増えるがそれを戦闘中、しかも自分に背を向けたレガクロスの前面装甲にするとなるとほぼ出来る人間がいない。


機械整備系のジョブにはそういうことができる専用のスキルはある。


しかしオゾフロはレガクロス作成に特化した鍛冶士系ジョブは取得しているが、レガクロス関連の鍛冶作業や性能にボーナスがあるスキル持っていても、そういうスキルは一切取得していない。


オゾフロの努力の賜物である。


混乱の余り「ず、ずるい!ずるいぞぉぉぉぉぉぉぉ!?」語録力を失った玉露が喚きだす。


「うるせぇ、公認レフリーもいねぇ野良バトルにそんなレギュレーションなんかあるか!」


それを一蹴したオゾフロがバルディッシュⅣに命令を下した。


激しくのたうつジャベリンの下半身がバルディッシュⅣの重厚な脚に踏み砕かれ、発動したままの右腕の〈熔断手刀〉がジャベリンの右脇腹を深々と貫いた。

高熱のダガーは殆ど抵抗なくジャベリンの装甲に飲み込まれる。更にバルディッシュⅣのMPモーター唸りを上げ、前腕ごと内部に無理矢理捩じ込む。


内部機構がドロドロに熔解され、バルディッシュⅣのパワーが無事な内部機構を押し潰していく。


ジャベリンの内部から何度も小さく、くぐもった爆発音。爆発する度に機体が痙攣。拳が砕けた左腕。前腕が熔断された右腕。無惨に踏み砕かれた蛇の下半身が奇っ怪な躍りを披露する。

抵抗なのか誤作動なのか、胸部の熱線砲が煌めいて赤熱光線を発射するが、射線は定まらず、赤い光線が無茶苦茶に振り回される。


ゴボリとバルディッシュⅣの前腕で貫かれた右脇腹隙間から、血を流すように真っ赤に輝き泡立つ溶け崩れた内部機構の成れの果てが流出。格納庫の床を汚していく。


滅茶苦茶にふりまわされていた赤熱光線は、息切れのように断続的なり、最後に糸のように細い光線を吐き出し、ジャベリンはその機能を停止させた。




「オゾさーん!ついでにこっちもお願いしまーす!」


床を滑るように低空を飛行するダイ・オキシンが、彼を叩き潰そうと両腕を交互に叩きつけるジャベリンを引き連れて、オゾフロに向かって飛んでくる。


「あぁっ?巻き込まれんじゃねぇぞ!」


ダイ・オキシンの声に振り向いたオゾフロが状況を素早く理解し、バルディッシュⅣに不可視の繋がりを通じて命令を下した。


命令を受諾したバルディッシュⅣが、右前腕に刺さったままの機能停止したジャベリンごと、ダイ・オキシンを追いかけ近づいてくる別のジャベリンに右腕を向ける。

ボヒュン!と空気が抜ける間の抜けた音を放ち、ジャベリン内部で発射された〈アームオキシジェングレネード〉の反動で機能停止したジャベリンが、迫るもう一機のジャベリンに向けて勢いよく飛んでいく。


ジャベリンが刺さった右腕を向けられた時点で、何をするか悟ったダイ・オキシンは魔法で自分を追うジャベリンに向けて強烈な光を放つ球体を出現させた。そしてダイ・オキシン自身は転移で離脱。

〈マジックイレイザー〉で魔法の光は破壊されるが、魔法で作り出した球体から常に光が発生しているため視界が光で埋め尽くされてしまう。ジャベリンは怯んだように攻撃をやめてその場で停止した。


そこへ光を突き破り、内部で榴弾を発射されたジャベリンが勢いよく飛来してくる。


視界を潰され、その場で停止していたジャベリンとの激しい衝突。けたたましい金属衝突音を叩きならしながら、もつれるように転がっていく二機のジャベリン。


回転する度にパーツが脱落していき、最後には飛来したジャベリンの中のグレネードが爆発し二機のジャベリンが粉々になって飛び散った。


「一丁あがりだ!」


「ありがとうございますオゾさん。

それでですね、破壊された入り口や壁から、第四格納庫に多数の武装した住人や、ジャベリンが侵入しているので派手にやっちゃって欲しいのですが」


「チッ!人の玩具箱で好き勝手やりやがって!」


転移で再びオゾフロの隣に現れたダイ・オキシンが胡散臭い笑みを浮かべてそう告げると、オゾフロは不愉快そうに吐き捨てる。


「でもよぉ、俺様のアーティザンでんなことしたら格納庫がなくなるだろが、自力で動けるおまえのレガクロスや熱に強くて頑丈なフォーリナーはともかく、無防備なパンツァーは危ないぞ」


今この瞬間にもカッコイイ発進基地としても作られた格納庫が荒らされている思うと大変不快だが、本気で彼女のレガクロスを暴れさせると周囲が大変な事になってしまう。ダイ・オキシンのように遠隔からMP増殖炉を起動させることが出来ないため、アーティザンは補助動力で動かすしかない。


そうなれば最低でも第四格納庫は跡形も無くなる。


「パンツァーは現在キメラ牧場エリアでギルメンを率いて戦闘中。格納庫にあるのはパンツァーブルーダーを除いた三機のみです。ジャベリンの寄生能力が未知数ですので機体の防犯対策が役に立つかわかりません、決断は早い方が良いですよ」


「……そうかい、だったら派手に叩き潰してやる!」


矢継ぎ早に告げられたオゾフロは魔女を意識したローブの袖を捲る。


そこには見た目だけは可憐な少女のオゾフロにはまるで似合わない、腕に巻かれたゴツイ金属のベルトと、上向きに付けられた円盤にゴテゴテと装甲を纏う腕時計状の装置が現れた。


腕に巻かれたタイラントアーティザン遠隔操作用のマジックアイテムに向かって、オゾフロが叫んだ


「起動しろぉ!タイラントアーティザンッ!!」


暴炎の職人タイラントアーティザンは目覚め、レガクロス第四格納庫は地獄と化す。

次回更新は未定です。


今月中に四章終わりたいですが、たぶん来月になります。


評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。

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