バルディッシュVSジャベリン・1
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ゲシュタルトシティ全体にけたたましいサイレンが鳴り響く。訓練でしか鳴ることが無かった、ゲシュタルトシティが攻撃を受けたときに鳴る敵襲警報だ。
ゲシュタル・ゲル・ボロス格納庫で二人のプレイヤーが対峙している。
二重スパイ。
そんな言葉が出てくるような状況だが、別に玉露がゲシュタルトを裏切った訳じゃない。
「やっぱり、逆らえない感じですか?」
何時もの胡散臭い笑みを引っ込めて、好奇心に色を浮かべて玉露に尋ねるダイ・オキシン。
玉露はオブシディウスに関わると取得できる、特殊なスキルの検証のためにゲシュタルトを裏切ったという体裁で第三王子の下で働いていたギルメンの一人だ。
そのスキルの名は〈イビルテック〉
取得するだけでジャベリンの作成や操縦が出来るようになる他、ステータスも大幅に上昇する。特に器用の値が取得するだけで三倍にまで上昇する。
以前から例えプレイヤーでも、このスキルを取得しているとイベントの時に操られてしまうのではないか?という推測がなされていたが、この状況を見ると正解らしい。
巨人機械を主体に発展した文明に現れる自尊と機械の邪神については、大陸の末裔として口伝で知ってはいるが、口伝にはあやふやな部分も多い。ダイ・オキシンの知識欲が刺激されている。
周囲ではギルメン達VS武装集団の戦闘が始まっているが気にするほどの危険性は無い。
ここに集まっているプレイヤーは殆どは生産系だが最低でもレベルはカンストしている。生産系でもジョブが五つカンストすると戦闘系程ではないがボーナスで頑丈になる。錬金術士系ならゴーレムを盾にできるし、即座に盾を〈アイテム召喚〉で用意することもできる。
格納庫内を飛び交う実弾や魔法弾……光線や雷撃なら生身で受けても一発、二発なら耐える。防具も合わせれば全くの無傷とまでは行かないが、安全マージンを保てる。ゲシュタルトは生産ギルドなので装備は一級品、それくらいの防御力は余裕で持っている。
特にダイ・オキシンのようなプレイヤーならこの程度の銃撃戦等は微風だ。
「厳密には逆らおうと思えば幾らでも行けるんですけど、スッゴイマイナス補正入る。逆に相手に従うとスッゴイプラス補正、今の俺のステータス凄いよぉ!サブまぁっ!?」
突然目を見開き驚きで硬直する玉露。視線はダイ・オキシンではなくその上に向けられている。唐突に止まった会話を不思議に思うダイ・オキシン。そんな二人に唐突に影が落ちた。その影は瞬く間に大きくなっていく。
「?……どうしまし……たっ!?」
影に驚き、頭上を仰いだダイ・オキシンの目に、二人の上に落ちてくるオレンジ色の巨人が飛び込んでくる。
オゾフロとゲシュタルトのパーソナルカラーであるオレンジに塗られたそれは、宙を舞いMP増殖炉の騒音を響かせたバルディッシュⅣであった。
玉露はその場から逃げ出している。
「おぉぉぉぉぉ!?」
言葉にならない驚きの声を上げて無詠唱で発動した転移魔法でダイ・オキシンがその場から消える。ダイ・オキシンが消えた位置とは少しずれた場所にバルディッシュⅣが落下。
上下逆さまに落ちてきた機体は、両腕のゴーレム装甲を風船のように膨らましていた。空気を取り込みエアクッションになった前腕装甲で、巨体に反して驚く程静かに格納庫の床に着地。
機体は勢いそのままに今度は背部のゴーレム装甲をエアクッションにして背を丸めて前転。片膝立ちで着地した。
投げ飛ばされた勢いを殆ど損なわず、バルディッシュⅣは不快な金属の擦過音と火花を上げ、片膝をついた状態で玉露を追いかけるように滑っていく。
「ちょ!まっ!?」
前方に向けられた盾のような左脛装甲が、火を噴き爆発音が連続して轟く。
〈レッグクレイモア〉が発射されて無数の金属球が玉露を容赦なく撃ち据えた。玉露が逃げた方向に武装集団も居たため、広範囲にばらまかれる金属球が襲いかかり真っ赤な花が咲き乱れた。
武装集団と銃撃戦演じていたギルメン達から歓声が上がる。
玉露はダメージを負ったが無事である。
「なぜここにバルディッシュⅣが」
転移で咄嗟に逃れた場所。元居た位置から二十メートル程離れた辺りで周囲を見回すダイ・オキシン。
口では「わからない」と言いながらも自然と吸い寄せられるようにこの場に存在しない筈のバルディッシュⅣを用意できる唯一人物を探し当てた。
「殺す!!」
そこには怒りで我を忘れたオゾフロが居た。彼女の豊かな頭髪がブワリ膨らんでいる。
ゲシュタル・ゲル・ボロスの初陣に泥を塗られたオゾフロの怒りは限界突破している。
その様子を見たダイ・オキシンは、一目でオゾフロが玉露が潜入捜査していたギルメンだということを、綺麗さっぱり忘れているのを理解する。
既にオゾフロは〈ゴーレム召喚〉で召喚した、二機目のバルディッシュⅣを両腕で持ち上げていた。
レガクロスを持ち上げ投擲するという、大変目立つ行動をしているオゾフロが武装集団の標的になるが。
「んなぁ豆鉄砲が効くかぁ!!」
金属の銃弾はオゾフロ生身の皮膚を貫くどころか、火花を散らしながら弾かれる。熱線砲も同様だ。実砲が豆鉄砲ならば光線銃は水鉄砲か。
命中した弾丸の中には触れた物を侵食し炭化する、侵炭液の弾丸も混じっていたがオゾフロのステータスと耐性が効果をレジストしていた。
オゾフロ種族の鉱人は、炎熱に強く、金属や石によるダメージに耐性がある。更に鍛冶士系のジョブは炎熱耐性が得られる。
【Unlimited】ジョブ取得した、ずば抜けたレベルを誇る鍛冶特化ビルドのオゾフロ。その頑丈さはマグマの中を優雅にダイビングできる程である。
「くたばれ三下王子の愚兵が!」
二機目のバルディッシュⅣが投擲された。
十メートルの巨人兵器が信じられない程軽々と宙を舞う。
一機目と同じように受け身を取りながら前転着地。
膝立ちで床を滑った後〈レッグクレイモア〉発射。
赤い花が咲き乱れる。
オゾフロの尋常ならざる飛び抜けた筋力と、技術力が合わさった恐ろしい攻撃。レガクロスとしての内部機構や武装をそのままにゴーレム化……つまり簡単な命令でオートで動くレガクロスを敵地投げ込む馬鹿げた技である。
バルディッシュⅣをゴーレム化すること事態は簡単だが、それは機能や可動を無視した無駄に複雑な構造をしたゴーレム化の場合だけだ。その場合は殆どの機能はゴーレムと一体化して使えなくなる。勿論MP増殖炉も動かない。
レガクロス関連技術を完全に物にしているオゾフロだからこそ自動で動ける、機能や構造を完全に再現したレガクロスを召喚して操る事ができるのだ。
立ち上がった一機目のバルディッシュⅣが玉露に〈アームオキシジェングレネード〉を向けている。
ダイ・オキシンはそれを見て慌ててオゾフロのすぐ横に転移した。
「待って待ってオゾさん!」
ダイ・オキシンに制止の声は間に合わず、強かに全身を金属球で撃たれた衝撃で四つん這いで呻いている玉露に向かって、魔法で圧縮硬化されたオキシジェンスライムの体組織榴弾が、ボシュン!!という間の抜けた音と共に放たれた。
呆然とコチラを見る玉露の顔がダイ・オキシンの網膜刻まれ、玉露は眩い光に包まれてしまった。
グッバイ玉露さん。
ダイ・オキシンは玉露の冥福を祈った。
始まっても間もない段階で、コチラの不手際でイベントから退場させてしまうのでイベントボーナスが微妙になってしまう。
後でギルドとして玉露に補填を考えないといけないなーと、頭の片隅にメモしていたダイ・オキシンだったが、玉露が光に包まれたという不自然な光景に気付いた。
圧縮硬化されたオキシジェンスライムの体組織榴弾は素材がスライム、内部の発火装置は遅延発動する爆発魔法。
つまり素材や起爆方法がファンタジーなだけで地球にも存在するただの爆弾である。当然ながら炸裂すれば真っ赤な爆炎と爆音に衝撃波が発生する。今ダイ・オキシンの目の前の光景にように大量の光の粒子発生するようなファンタジーな爆発はしないのだ。
そしてこの光は、爆発の光ではなくMPの光だ。
「オキシジェングレネードが分解された?マジッククラッシュ……それに、当たる前にMPが集まっていた。このMPの動きは……召喚魔法!!」
「玉露ぉ!!」
オゾフロの怒りに呼応するように玉露に榴弾を撃ち込んだバルディッシュⅣが更に〈モンスタースレイヤー〉を起動して玉露を蜂の巣しようと、メタルスライムの体組織から成形した弾丸をばら蒔き走り出す。
「だから待ってくださいオゾさん!思い出して!話し合いを!?」
銃弾がMPの光が漂い、姿の見えない玉露に殺到する。
しかし実体が崩壊し、光の粒子となってMP拡散するだけで断末魔の悲鳴どころか着弾音一つ聞こえない。
着弾するそばから弾丸の実体が崩壊し、光の粒子になって銃弾が消えているのだ。
「着弾音が聞こえねぇ!?クラッシュじゃないな、マジックイレイザーか!!」
〈マジッククラッシュ〉は魔法構成の核を破壊する魔法スキル……つまり魔法専用の即死攻撃。効果は失敗か成功しかない。
核を見定める必要があるため、襲い来る無数の弾丸の一つ一つの核を見定めて丁寧に破壊しなければならない。
そんな芸当は物理的に不可能だ。
〈マジックイレイザー〉は魔法構成を外から削り取る魔法……魔法専用の特効魔法だ。当たれば力量にも依るが一定の効果が常に出る。爆発や爆風等の不定形な現象や、小さな弾丸であれば〈マジッククラッシュ〉よりも簡単に魔法を破壊できる。
「そういうとこは冷静なんですねっ!ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「喧しい!」とオゾフロが、細身とはいえ、自分の二倍はある長身のダイ・オキシンを、片手で軽々と持ち上げて投げ捨てる。
投げ捨てられ、風を切り突然発生したGで内臓の予期せぬ動きに晒された不快感を体感したダイ・オキシンは、流石にオゾフロに憤りの感情を覚える。そんな気持ちは次の瞬間には霧散する。
ダイ・オキシンが投げ捨てられた瞬間、オゾフロが爆発した。
怒りの比喩ではなく、どこからか飛んできた紫電のプラズマ弾がオゾフロに直撃したのだ。
着弾した紫電の球体が膨張して、オゾフロを呑み込む。破裂して周囲にプラズマを撒き散らす。紫電が大気に拡散しきる前に、次から次へとプラズマ弾がプラズマに呑み込まれたオゾフロに飛来して破裂する。
魔法で風を、自身の重量を操る。オゾフロの凄まじい膂力で投げられた勢いを相殺して、ゲシュタル・ゲル・ボロスを支えられる頑丈な床に音もなく、ダイ・オキシンは着地した。
フワリと幾重にも重ねた法衣のような衣服の裾が優雅に舞う。
「オゾさん!は無事として、今の攻撃は……」
熱による破壊は基本的にオゾフロに大したダメージは与えられない。心配するだけ無駄だ、せいぜい目眩ましくらいにしかならない。
プラズマ弾が飛来してきた方向に目を向ける。二投目のバルディッシュⅣが武装集団と戦っていた方向だ。その方向から聞こえていた筈のMP増殖炉の騒音が聴こえなくなっている事に気付き、嫌な想像がダイ・オキシンの頭を過る。
そこには〈マジックイレイザー〉の魔法を纏った長大な尻尾の一撃を浴びて、上半身が光の粒子を撒き散らしながら砕け、後ろに倒れようとしているバルディッシュⅣの姿があった。
激しく重量のある金属同士の衝突音を響かせるバルディッシュⅣの下半身。砕かれたのは胴体中央、千切れたキメラ武装エンジン根を生やす頭部や、腕が遅れて床に叩きつけられ、耐久値を越えたため光の粒子になって消えていく。
その機体に破壊をもたらしたのは、前腕に翼膜の無い蝙蝠の翼のようなプラズマ推進機を備え、バルディッシュⅣの上半身を砕いた長大な尻尾を引き戻すジャベリン。
ジャベリンの黒曜の装甲が格納庫を照らすライトを反射して怪しくも美しい輝きを周囲に返す。
次回更新は未定……の予定でしたが明日も同じ時間に更新します。
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