決戦兵器の初陣が待ち遠しい
戻り過ぎかなって思うけどそのまま進める。
サブタイが思いつかないけども、番号だけなのは読みたい話を捜すときに面倒なのでちゃんと考えたい。
ブックマーク登録、ポイント評価、ありがとうございます。
◆ゲシュタルトシティ。大工房区地下ゲシュタル・ゲル・ボロス格納庫。
時は遡り、ゲルドアルドがドーム型多目的試験場でディエロとディレッドのレベル上げの傍ら、キメラをティータの要望で作っている頃。
大工房区。
オゾフロの個人工房やギルドの共有工房。ゲシュタルトに吸収され研究部という形で残った、元生産ギルドの工房群が街のように集まる場所。
ゲシュタルトシティの四分の一を占めるこの区画の地下に全長三百メートルの超巨大レガクロス。ゲシュタル・ゲル・ボロスの格納庫があった。
「へへへ、うへへへへへ」
ぶわりと彼女のシルエット膨らませる豊かな頭髪を揺らし、蕩けきった笑顔を浮かべ、可憐な音色の笑い声を漏らしている。ゲシュタルトのギルドマスターオゾフロはかつて無いほど上機嫌だった。
彼女の目の前には、起動の時を待ち焦がれる、ゲシュタル・ゲル・ボロスの異様が聳え立っていた。
全長三百メートル。
巨体を支える二本の足はそれだけでも要塞として機能しそうなほど、太く巨大で堅牢。分厚い装甲表面には、試射会で披露された幾つもの兵器の一つ〈グレートボルトバスターEX〉の半球型砲台が幾つも設置されている。
両肩には〈トライオキシジェンデストロイヤー〉の巨大装置。幾つも吸気口を備え、試射会後に生成したオゾンを操る機能が追加されたため大きく膨れ上がっている。まるで金属で作られた生物の内蔵のようだ。
その下には砲身のように見える長い前腕。その前腕の先には〈マグネティックサイクロンバンカー〉の発射口が鋭く長い爪を持つ五指の掌側に口を開けている。この手は前腕内部の拡張空間に何時でも収納可能。更に空間拡張に収納されている〈ヴォルテックスグランドクラッシャー〉と交換できる。
破城槌のように太く大きく突き出す、胸部装甲を備えた胴体には〈プロミネンスバーストビーム〉発射口。ほぼ胴体に一体化した頭部には複数の金属眼球やセンサー。同じく複数のサンダーフォーリナーと同種の〈ボルトバスター〉。その頭部を挟むように胴体上部の左右に〈ビックパニッシャーバベル〉の稼働する砲身。
そして自身の三分の二に匹敵するマキシマムヘビィアダマンタイトの巨大杭を電磁加速で投射する正気を疑う超巨大破砕兵器〈アルマゲドンキャノン〉を背部に背負う。
全身の至るところに〈四連装モンスタースレイヤー〉の砲台やミサイルハッチが凶悪な輝きを放っている。
作成に関わったギルメン達でも相対すると思わず怯んでしまう、その決戦兵器の異様を前にして、ゴツゴツしていて巨大な物を好むオゾフロは、始終蕩けた表情でニコニコヘラヘラと笑顔を浮かべ続けていた。
その顔は蕩けすぎて、スライムのように顔から落ちてしまわないかと、周囲が心配するほどだ。
しかもその状態で一歩も動かず、ゲーム時間で一日ほどゲシュタル・ゲル・ボロスを眺めながら笑い続けているのでいい加減ギルメン達は怖くなって来ていている。
「うへへへへへへへへへへへ」
はっきり言って不気味だ。
試射会で披露した武装を載せるために、装甲形状を見直し、新たなデザインに作り直されたギルドの誇る決戦兵器。ゲーム時間でつい三日前に完成した。
機体の色をオゾフロのパーソナルカラーのオレンジに、そして装甲の縁をゲルドアルド〈ギラギラゴールド〉で塗られている。
夜間に魔法が使えるものを総動員して隠蔽魔法を掛けられ、密かに行われた起動テストも無事に終えた。ダイ・オキシンが中心になって複数のギルメンで行われた大規模転移魔法で運ばれた先で大地を踏みしめ、動き出したゲシュタル・ゲル・ボロスの姿は、見るものの涙を誘い、胸を打つ感動があった。
気持ちはわかるが、背筋が寒くなるのでやめて欲しいと、ギルメン達は内心思っていた。思うだけで決して口には出さなかったが。迂闊に話し掛け、機嫌を損ねれば間違いなく殴られ、そして死ぬ。
鉱人の筋力ステータスは獣人の次に強く、高レベルの鉱人は皮膚、骨、筋肉が鋼鉄のように重く硬い。並の防具や剣なら普通に素手で砕いてしまう。
ゲルドアルドがやって来て空気読まずに話しかけてくれないかなーと、ギルメン達は願った。彼女に殴られて生きていられるのは、このギルドでは少し砕かれても致命傷にならないゲルドアルドか、普通に耐えられるブラウリヒトくらいである。
「オゾさーん」
なので、ふらりと転移魔法で格納庫に現れた、胡散臭い笑みを浮かべるダイ・オキシンがオゾフロに声をかけたとき、その場に居合わせたギルメン達は、全員その胡散臭い笑みが碎け散る未来を幻視した。
ゲルドアルドとブラウリヒトと同じサブマスのダイ・オキシンだが、種族的にもジョブ構成的にも肉体的に頑丈になる要素が無いので、オゾフロの拳に彼は耐えられない。
ダイ・オキシンが何かを耳打ちした途端。
オゾフロがそれまで頭髪がそのまま逆立つのではないかと思うほど膨らむ。誰もがダイ・オキシンの死を疑わなかったが、その未来は訪れなかった。
「動いたのかぁぁぁぁ!?ついにかぁぁぁぁぁぁぁ!?ひゃぁひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」
声だけは可憐な声色で、しかし深く薄暗い森から響いてくるような不気味を孕んだ無邪気で残虐な、高揚する魔女の笑い声が響く。
オゾフロの異常なテンションの高まり。幸いなことに彼女が上機嫌なのは変わらないが、明らかに笑いの質が豹変する。
その様子を見て、先程まで笑い続けるオゾフロを気味悪がっていたギルメン達が引いてもおかしくないはずだが、逆に前のめりになり活気づいた。
オゾフロ程ではないが酷似した高揚とテンション。彼女と似たような台詞を次々と口ずさみ、浮き足立つ。
彼らはオゾフロの様子で察したのだ、ダイ・オキシンがオゾフロに何を耳打ちしたのか。オゾフロがギルメン達に気味悪がれながら待ち望んでいた、ゲシュタル・ゲル・ボロスの出番がいよいよ来たのだと。
ダイ・オキシンが伝えたのは第三王子に協力している振りをしている、ギルメンからのオブシディウスが動いたとの報告だった。
「ひゃっひゃっひゃっひゃ!
ダイ・オキシン!ブラウリヒトに戦闘員を選抜させろ!ゲルドアルドを連れてこい!てめぇら、ゲシュタル・ゲル・ボロスの発進準備だ!」
オゾフロの号令で慌ただしくギルメン達が動き出す。
あちこちで世話しなく指示が飛び交い始め、この場に居ない鍛冶系、整備系、錬金系、魔術系……様々な分野のギルメン達を呼び集める為にチャットやメールで連絡が飛んでいく。
ゲシュタル・ゲル・ボロスは巨大な金属の塊であり、マジックアイテムの塊だ。発進の際には様々な分野のジョブによる入念なチェックが必要である。
召喚魔法を扱えるジョブのプレイヤー達が【メタルエレメンタル】を召喚。装甲や骨格に不備がないかチェックの為に金属の下級精霊が飛び交い。
整備士や鍛冶士のプレイヤーがスキルを駆使して更に重ねてチェックする。
複雑に組合わさった機体各所のマジックアイテムを錬金術士や魔術士がスキルを惜しげもなく使用して調べていく。
世話しなく周りが動く中、テンションの上昇が止まらないオゾフロが、同じく止まらない笑いを垂れ流し、鍛冶職人ではなく魔女のようなローブ姿でゲシュタル・ゲル・ボロスの機体を素手でよじ登っていく。
素手で登る事に特に意味はない。最終チェックの為に操縦席行こうとしているのだが、勿論ゲシュタル・ゲル・ボロスの周囲には巨大な固定具、メンテナンス用のタワーやリフト等があり、それを利用すべきだし重ねて言うが素手で登って行く意味はない。
何人かオゾフロと同じ行動しているが、ソロ時代にモンスターの影響でレアな鉱石が生える岩壁を登るのに鍛えられた、高レベルの登攀スキルが無意味に輝くオゾフロが断トツで速い。
リフトで上昇するギルメン達よりも速く辿り着きそうだ。
無論ゲシュタル・ゲル・ボロスの起動、動作、戦闘試験全てが実地され、クリアした完成品。
事前に何度も不備がないか確認し、あっても丁寧に潰している。
アイゼルフ最大の生産ギルドのゲシュタルトが技術の粋を集め、完成していると胸を張って言える代物だ。実質動力担当のゲルドアルドが入れば、今すぐにだって発進が可能。
しかし今回の出撃はゲシュタル・ゲル・ボロスの記念すべき実戦での初陣。
それで無様を晒せばオゾフロがどんな状態になるか考えるだけでも恐ろしい。
それが無くてもオゾフロやギルメン達にとって我が子にように手塩をかけて育てた決戦兵器だ。完璧に格好良く、初陣を勝利で飾って欲しいという親心が、関わったギルメン達全てに宿っている。
されどゲーム、たかがゲーム。遊びだからこそ本気で遊ぶ。特にこのギルドは現実をサボっている者達の巣窟。
こういう国や大陸に大きな影響がありそうな事件に関わり貢献すると、換金率が大幅に上昇するという即物的な理由もある。国からも成功報酬がたんまりだ。
あれやこれや現実世界と遊戯世界での夢に満ちた皮算用を、頭の片隅で考えながら楽しげに作業を進める中、命知らずにも水を差すものが現れる。
この格納庫に出入りする唯一の入り口。
呼び出されたギルメンや、あんまり関係ないが祭り参加したいギルメン達が激しく出入りする通路が爆発した。
爆心地に居た数人のギルメン達が文字通りの意味で飛び散り、破片が光の粒子になてって消えていく。発生した爆風で通路から即死を免れた悲鳴を上げるギルメン達が吹き飛ばされ、通路の近くに居たギルメン達を巻き添えにして転がっていく。
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
丁度ゲシュタル・ゲル・ボロスの破城槌の如く突き出た、胸部装甲のオーバーハングを攻めていたオゾフロ。彼女は爆発で驚き、手を滑らしてしまった。二百メートル以上の高さから、真っ逆さまにゲシュタル・ゲル・ボロスの重量を支えられる頑丈な床へと悲鳴を上げながら落ちていく。
落ちても彼女のステータスなら対したダメージにならないのだが、単純に高さが怖い。
「あちゃー予想はしてましたが、やっぱりそういう感じですかー玉露さん」
後ろで発生した頑丈なオゾフロが頑丈な床に叩き付けられた、凄まじい衝突音を聞き流し、ダイ・オキシンがいつもの胡散臭い笑みに苦笑を混ぜる。
その視線は、魔法ではなく爆薬で爆破され煙が漂う格納庫入り口から歩いてくる通路に向けられている。
「ふふふ、そういう感じなんですよ、サブマス」
複数の武装した侵入者と共に現れた、ダイ・オキシンに玉露と呼ばれたプレイヤー、彼はギルドで支給されている軍服を装備していた。
彼はダイ・オキシンに苦笑を返しながら軍服からハチェットガンを取り出しダイ・オキシンに突き付ける。
「スパイ活動お疲れ様です玉露さん」
玉露はダイ・オキシンにオブシディウスが動いたことを連絡してきたプレイヤーだった。
格納庫天井……地上からくぐもった大きな爆発音が鈍く響く。
次回は明日の12時更新予定です。
評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。




