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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
スーパーレガクロス内戦編

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38/115

ゴリラ舞う・4

ゴリラ回ラスト。区切るのに失敗してちょっと長いです。


普通にゲームとしてプレイしていた時はMP喪失の苦痛はカット。巣の支援受けてる状態だとどんな大魔法を発動しても秒ですぐに回復するので平気でした。


轟音がドームに鳴り響く。


メカゴリラ……ハンモウがモヒカンコングと呼んだゴリラ型レガクロス。その背部から二つ、臀部から一つ。爆蜜蜂(ニトロハニービー)の推進力を付与された、虹色の炎と白い煙を吹き出して、八機の黒いレガクロスに向けて鋼鉄のゴリラ達が上空に向かって吹っ飛んでいく。


その数は二十三機。


機体のゴリラフェイスは全て真っ赤に染まっていた。

高熱で顔周辺の空気が揺らめき、憤怒に表情を歪ませた赤熱面が敵を、殺意が可視化した赤く輝く両目が黒いレガクロスを睨み付ける。


その顔は言っている「おまえを殺す!」と。


空中で使いきった各武装の弾の補充。使いすぎた飛行のためのプラズマ推進機のエネルギーの回復。

それに専念していた黒いレガクロス達は凄まじい勢いと、殺意が具現化したような恐ろしい憤怒の表情で迫り来る荒ぶるゴリラの群れに驚愕した。


動揺が機体の挙動に現れている。


事前にある程度情報を入手していた黒いレガクロス達は、モヒカンコングが飛ぶとは思ってはいなかったのだ。

普段、ゲルドアルドが戦闘に参加するのは稀。参加してもサンダーフォーリナーを中に引きこもっている。支援魔法を使うことも滅多にない。

ゲルドアルドは知名度の割に、蜂蜜サーバーや大蜜蜂(ハニービー)を使役することしか余り知られていないのだ。


ジャベリンに寄生されているバルディッシュⅣはとても強い。元より高性能で更に飛行能力を獲得し火力も増強している。しかし、同じ土俵で二倍以上の数で攻められれば流石に勝てない。

ゲルアルドも黒いレガクロス達も知らないことだったが、モヒカンコングは機種転換の払い下げで余ったバルディッシュⅢを素材に作成されたレガクロスだ。

機体の出力は黒いレガクロスが二割も上だが、モヒカンコングの操縦者全員は、複数かつ高レベルの操縦士系ジョブを保有している。対して黒いレガクロスの操縦者は全員畑違いのジョブだ。


オブシディウスに特殊なスキルを与えられ、自在にレガクロスを操れる技量を持っていても、機体性能を上昇させるスキルは無い。二割程度の性能差など容易くひっくり返る。


黒いレガクロスは温存していたバルディッシュⅣの両肩にある〈モンスタースレイヤー〉の二門の砲口を迫り来るモヒカンコング達に慌てて向ける。

名前の通り数々のモンスターを屠ってきた実績あるレガクロス用の機関砲だ。金属を含んだ強靭な皮膚を持つアイゼルフ国内のモンスターを貫く、伝統ある巨大機関砲が火を吹けば、スキルの補正があっても小型モンスター用の武装で装甲が傷つくモヒカンコングは砕け散る。


突如、モンスタースレイヤーはモヒカンコングから明後日の方向へ向けられた。八機の黒いレガクロスの内、二機がそのまま〈モンスタースレイヤー〉を発射する。


激しい爆発音が連続する。黄色い粒子が飛び散り、虹色の爆炎が空中で咲き乱れる。


〈モンスタースレイヤー〉が破壊したのは、ゲルドアルドがモヒカンコングの支援するためにスキル〈ポランミサイル〉の生み出し発射した花粉製の炸裂誘導弾……ミサイルの群れだ。

ゲルドアルドが、ポンプで身体の蜂蜜を無理矢理抜き取られるような、苦しみに耐えて生成されたミサイルの数は百を越える。


黒いレガクロスにとってその迎撃行動は悪手だった。


〈モンスタースレイヤー〉で反撃した二機以外の六機の黒いレガクロスは、素早く背部のジャベリンの翼と長い尻尾を丸めて〈エレクトロシールド〉を発動している。それに比べると二機の黒いレガクロスは、ミサイルの迎撃を優先したため隙だらけだ。


『……まずは数を減らす!

あの間抜けな二機にゴリブラを集中させるんだ!』


『『『『『『『ウッホ!』』』』』』』


緑色機体……全身にスキルで苔を生やしたモヒカンコング乗るハンモウの指示が飛ぶ。ハンモウは機体に生やした苔で空気を滑らして限りなく抵抗をゼロに出来る。結果一番前に躍り出ているハンモウが指示を出していた。モヒカンコング達から一斉にゴリラの威勢の良い、ゴリラの鳴き真似が帰って来る。

黒いレガクロスとの距離は急速に縮み、既に〈ゴリラブラスター〉射程距離。有効舎弟には程遠いが、それも間もなく到達するし、想定してない距離での威力の減衰は、数で補える。


『……合わせろ!〈ゴリラブラスター〉!』

『『『『『『〈ゴリラブラスター〉!』』』』』』


ハンモウがモヒカンコング部隊から見て、一番手前の黒いレガクロスに向かって赤熱光線を放った。ハンモウの苔に覆われた、モヒカンコングのゴリラフェイスが「食い殺してやる!」という叫びが聞こえてきそうな表情で大口を開けた。

その口と両目から叫びの代わりに、合計三本の赤い光が吹き出し黒いレガクロスに向かって襲いかかる。


一拍遅れ、他のモヒカンコングからも三本の赤熱光線がそれぞれ放たれる。


自分に向かってくる、総計六十九本の赤熱光線気付いた黒いレガクロスだったが、〈モンスタースレイヤー〉でミサイルの迎撃してしまったため動けない。

ミサイルを無視すれば光線で焼かる。光線を優先すればミサイルが直撃する。推進用のエネルギーが回復していない今の黒いレガクロスよりもミサイルの方が速い。


他の六機と同様に最初に〈エレクトロシールド〉を展開すべきだったのだ。


ミサイルは間近に迫り、今からでは〈エレクトロシールド〉を展開している時間が無い。


〈モンスタースレイヤー〉でミサイルを迎撃しながら、右腕のグレネード発射口を苦し紛れに迫る光線に向ける。グレネード弾であるオキシジェンスライムの体積は、まだ回復しきっていない。回復していても光線にグレネードは相性が悪い。


放たれたのは〈アシッドクーラー〉。

液体酸素の身体のスライムから生成された、マイナス百八十三度のスライムアシッドが発射口から大量に放水される。それは迫り来る赤熱光線の威力を〈アシッドクーラー〉は僅かに減らすことに成功した。


黒いレガクロスの装甲が耐えられる程には威力を減らせなかっただけで、確かに効果はあったのだ。


六十九本の赤熱光線が重なり、〈アシッドクーラー〉で放たれた低温溶解液は一瞬で蒸発。極太の炎熱の奔流が黒いレガクロスの上半身を飲み込む。瞬く間に黒い装甲が真っ赤に染まり。光線に向かって突き出していた右腕が溶け崩れた。


腕部装甲内の空間拡張魔法が崩壊し、内部から解き放たれる。オキシジェンスライムが赤熱光線に晒され、スライムの回復しつつあった、青い液体酸素の身体に引火して大爆発した。

黒いレガクロスの上半身は跡形もなく吹き飛び、更に左腕のオキシジェンスライムに誘爆して二度目の大爆発。


上半身を失った下半身が爆発で勢いよく落下していく。その背後で赤熱光線の一斉射で破壊された黒いレガクロスと同じく、ミサイル破壊を優先したため、〈エレクトロシールド〉の展開が遅れ、赤熱光線で焼かれた機体が、後を追うように続けて落下していく。


その機体は翼と尻尾のプラズマ推進機が大きく破損していた。


〈エレクトロシールド〉はバルディッシュⅣの装備だ。

黒いレガクロスは慌ててシールドを展開するも、バルディッシュⅣのシルエットからは、ジャベリンの翼と尻尾が大きくはみ出る。モヒカンコングから見て、一番手前の大爆発した機体が盾に、シールドがバルディッシュⅣを守り抜いた。しかし内側に丸めること怠った、シールド範囲外の翼と尻尾のプラズマ推進機は破壊されてしまう。


最初に直撃した機体は完全にオーバーキルだったが〈ゴリラブラスター〉にはゲルドアルドの付与魔法で追加攻撃……爆蜜蜂の〈刺突爆破〉が載っていた。赤熱光線が直撃した翼と尻尾は、炎熱と追加の爆破攻撃でシールド内部にまで及び機体全体にダメージ与える。


飛行能力を失った機体は、爆発の勢いでドームの床へと叩きつけられた。一抹の望みをかけてシールド展開し続けていたが、シールドもエネルギーを消費していた。


その機体は見るも無惨にバラバラに砕け散った。


〈エレクトロシールド〉で身を守っていた残りの黒いレガクロス達が、巨大なオキシジェンスライムの爆発の衝撃で、シールドを張ったまま吹き飛ばされていく。黒いレガクロス達は吹き飛ばされながらシールド解除した。吹き飛ばされた勢いを利用してそのまま散開。しかしプラズマ推進機のエネルギーが不足しているのかその動きは鈍い。


爆蜜蜂の爆発推進で大きくカーブしながら、モヒカンコング部隊が散会した黒いレガクロス達を二手に別れて追いかける。片方はハンモウ、もう片方はメックマンがそれぞれ率いている。


生き残った六機の黒いレガクロスの内、ドーム天井に向かって二機が急上昇。

残る四機が二手に別れて〈モンスタースレイヤー〉を連射しながら、ハンモウとメックマンが率いるモヒカンコング部隊に正面から挑む。

明らかに陽動だが、黒いレガクロスの両肩の〈モンスタースレイヤー〉が唸り、上昇した二機への道を阻んでくる。当たりようの無い場所を狙った威嚇射撃だが、当たればモヒカンコングは落ちる。対応しない訳には行かない。


二手に別れた四機の黒いレガクロスの〈モンスタースレイヤー〉が改めて迫るゴリラの群れに向けられ、火を吹いた。


重い発射音が連なり、一つの長い音になって、ハンモウとメックマンがそれぞれは率いるモヒカンコング部隊に風を切り裂く無数の弾丸が迫る。

それは脆弱な装甲のモヒカンコング屠るには十分すぎる威力がある。手足に当たれば一撃でそれをもぎ取り、赤熱と憤怒に染まる顔面に直撃すれば、頭部から臀部まで突き抜ける。


ハンモウはあろうことか迫る弾丸の群れに向かって、モヒカンコングの手足を大きく伸ばし、弾丸に対して身体を大の字広げて機体を晒した。


「……後ろの四人、俺の手足に飛び付け!〈繁殖強化〉!」


ハンモウの指示で苔に覆われた機体の手足に飛び付いた、四機のモヒカンコングがハンモウのスキルでその装甲を苔に覆われた。後続のモヒカンコング達が苔に覆われたハンモウ達を盾にして、素早くの弾丸から身を隠す。


「〈防御蘚苔〉!」


触れるもの魔法、物理現象問わず滑らせる苔の盾が、機体に触れた弾丸の悉くを明後日方向に滑らせていく。


『ウッホー!効かないとわかっていてもこえー!』

『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

『『ウホホホホホホホ!』』


ハンモウの後ろに居たせいで、ハンモウの指示で盾役をしなければならなくなった四機のレガクロスから悲鳴が上がる。ハンモウのスキルの効果は知っているし、安心して身を任せられる程信頼しているが、〈モンスタースレイヤー〉の威力も知っているため脆弱な装甲のモヒカンコングで無防備に弾丸に身を晒すのは恐ろしい。次々と機体装甲の衝突し、表面に繁る苔で滑り去っていく様子を体感する四人は恐怖で悲鳴と笑いが止まらない。


『見よ、俺ちゃんの華麗なるバレルロール!』


ハンモウが率いるモヒカンコング部隊と違って、メックマンが率いる部隊は至極普通に迫り来る弾丸の嵐に対応していた。機体の両腕を左右に伸ばし、横回転してバレルロールで散開していく。

こなれた空中回避を披露していくギルメン達。幻影魔法を利用したフライトシュミレーターで遊んでいた効果が出ている。


『ぎゃー腕に当たった!両腕が!?』


勿論個人差はある。

悲鳴を上げたプレイヤーのモヒカンコングの片腕が〈モンスタースレイヤー〉の弾丸を受けて砕かれた。鋼鉄樹から採取できる侵炭液を圧縮硬化した弾丸は、衝突で液体に戻り被弾箇所周辺を炭素で侵食し、炭化させてボロボロに崩れていく。


弁明するなら、そのギルメンは最初の爆撃で不幸にも〈アームオキシジェングレネード〉が直撃してモヒカンコングの片腕を失っていた。他の機体と違ってバランスが悪かったのだ。


『がんばれ!まだゴリブラもレッドも残ってるYO!』


拡声器でメックマンの無責任で根拠の無い。おまけに心も篭っていない激励が飛ぶ。ドームには響いたが、両腕を失ったモヒカンコングのギルメンの心には響かなかった。


『やってやるよちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!?』


やる気にはなったようだ。自棄っぱちになったとも言う。


『メっちゃんもハンモウさんみたいに私たちを守ってくれへんのー?』


『いや、俺ちゃん操縦士系しか保有してなっい!からムリムリっちゃーよー』


機体を自在に操り〈モンスタースレイヤー〉の弾丸を回避しながら、聞こえてきた女性の声に適当に答えるメックマン。余裕はあるが、周囲を守る余裕は無い。


『でも、あんな初な乙女にやられっぱなしはメックマンが廃る!!』


『廃れたらええんとちゃうか?』


『〈ヘビーウェポンガレージ〉ひらけごま!』


辛辣な返しを聞かなかったことにして、保有するジョブ【超重装機人操縦士】のスキルをメックマンは使用。メックマンの乗るモヒカンコングの周囲の空間が揺らぎ、何もない空間から、四本の束ねられた大筒……〈四連装モンスタースレイヤー〉がモヒカンコングの周囲に幾つも出現する。

同時に発動した彼女の普人としての異能によって破損した装甲が修復された。無数の歪みやヒビが消えてなくなり、装甲にめり込んでいた金属球が外に押し出されて行く。欠けた部分は彼女の異能では直らないのでそのままだ。

試作品で想定された用途ではアタッチメントの使用を予定していなかった、モヒカンコングの装甲に規格が統一され、レガクロス用のアタッチメントのジョイントが機体の装甲に作成される。


頭部を挟むように胴体上部の左右に計二機。

両肩装甲の上部、側面部、計四機。

両腕に計六機。

〈四連装モンスタースレイヤー〉が合計で十二機。合計四十八門の凶器の砲口がギラリとメックマンの狂喜で光る。


もっひょぉぉぉ(目標)ぜっぽぉぉぉぉ(前方)!フルウェポンモヒカンコング!ファッファッファッ!ファイエェェェェェル(全発射)!』


ギュルギュルと無意味に回転し、空中分解しかねない無茶な機動をしながらメックマンが吠える。ドームに響くその声は、次の瞬間には〈四連装モンスタースレイヤー〉が火を吹いたことで掻き消される。


黒いレガクロスのたかが二門、たかが二機の火力など容易く嘲笑う、弾丸の暴風雨。火線が密集しすぎて荒れ狂う弾丸同士がぶつかり合い、あらぬ方向に飛び交う。前に飛べば良いという乱暴さで、敵の火線からの回避機動で機体を回転しながらメックマンは撃ち続ける。


一機とは思えない凄まじい火力、しかし代償があった。

機体を襲う反動は威力相応に強い。メックマンのジョブのスキル〈スーパーダンパー〉によって、反動の殆どがメックマン自身で処理されているが、それでも何の効果も付与されていない、脆弱な鋳造鉄装甲には負担が重すぎた。


異能で継続的に装甲の修繕を行っていなければ、撃ちはじめて数秒でメックマンが乗るモヒカンコングは空中でバラバラになっている。


それでも狙いが雑だが、圧倒的な面制圧。〈四連装モンスタースレイヤー〉が敵の〈モンスタースレイヤー〉の弾丸を弾丸で弾き返し、そして敵に弾丸が届かせる。


たまらず急降下。狙われた黒いレガクロス二機は〈エレクトロシールド〉を展開して下に逃げる。



拡声器から漏れ聞こえるゲラゲラと下品で異様なテンション。狂喜を感じさせる様子にも関わらず、機体から突き出す〈四連装モンスタースレイヤー〉で、ハリネズミならぬハリゴリラと化したモヒカンコングに乗るメックマンの操作は冷静で的確だ。


スムーズに火線が黒いレガクロスを追従し、追い付いてシールドに弾丸が次々と襲いかかる。激しいスパークが乱れ飛び、黒いレガクロスの機体が激しく揺さぶられる。


上昇した二機の囮の筈が、たった一機に押さえつけられた形だ。


『腕なんて飾りだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


普段、巨人兵器であるレガクロスを乗り回している者の台詞とは思えない、ギルメンの叫びがメックマンの銃撃が響くドームに木霊する。

両腕を失ったモヒカンコングが、急降下した黒いレガクロス二機を猛烈に追いかける。重力の加重も利用した全力の加速。頭部の斧刃が真っ赤に染まり、熔断武装〈レッドホーク〉が起動している。


残りMP量を考えない機体の強化を施し、メックマンから放たれる弾丸を無視して一機に狙いを定め、腕の無いモヒカンコングが黒いレガクロスに肉薄した。

そのままシールド展開する黒いレガクロスに衝突、シールドを頭部の斧刃が貫通した。ゲルドアルドの付与魔法による追加攻撃の虹色の爆炎が相手の黒い装甲を焼く。


シールドの電気エネルギーが流れ、接触したモヒカンコング全体が激しいスパークに包まれるが、構わず機体を加速し続ける。


エネルギー不足で強度を維持できず、脆くなっていたシールドが、遂に加速し続けるモヒカンコングの圧力の前に屈した。

シールドが眩しい光を放ち弾け飛び、〈レッドホーク〉が黒いレガクロスの腹部に激しい衝突音を響かせ、真っ赤な斧刃が深々と突き刺さる。


〈エレクトロシールド〉のエネルギーは最初に充填されていた分を除けば、MPモーターにMPを流す時に発生する電気エネルギー使用する。

つまり機体を激しく動かすことでエネルギーを得るのだが、自由に飛べることで手足のMPモーターを全く動かさない黒いレガクロスは、エネルギー確保することが出来ていなかった。

電気エネルギーを放出、魔法で誘導することで展開するシールドはジャベリン側の動力からのMP供給が意味を成さないのだ。


バルディッシュⅣとジャベリンの運用方法の違いから来る弊害だった。


僚機を両腕の無いモヒカンコングの特攻で潰された黒いレガクロスが、メックマンの〈四連装モンスタースレイヤー〉の集中砲火を浴びた。

侵炭液の弾丸で蜂の巣にされた機体は、濡れたような輝きの黒曜の装甲を艶の無い黒に偏食させて、ボロボロと形を崩しながら落下していった。


全身に苔を纏って突撃したハンモウ率いる五機のモヒカンコングが肉薄し、緑のゴリラ達がハンモウ達と相対していた二機に飛びかかる。


〈エレクトロシールド〉を展開する間もなく機体に取りつかれた二機の黒いレガクロスがモヒカンコングの巨大な拳で滅多撃ちにされ墜落していく。


拡声器から『ウッホー!』と楽しそうなゴリラの鳴き真似を漏らしながら、仲間に無惨な敗北を与える野蛮な様子に絶句し、ドーム天井の破壊した穴付近で固まっていた二機の黒いレガクロス。

彼らは囮の四機が時間を稼いでる間に上昇して、上から〈アシッドクーラー〉を放出してモヒカンコングを一掃するつもりだった。

機械のゴリラ達にに瞬く間の間に、彼らの乗るジャベリンが寄生する国の誇り足るバルディッシュⅣが制圧されるというあまりの光景を見て、思考が停止してしまった。


そして邪魔が排除されたのを見た、手持ち無沙汰の残ったモヒカンコング達が、真っ赤に光る両目をギラリと輝きを強め、自分達に向かっている光景を見て、攻撃を諦め、慌ててこのドームから去ろうと動き出した。撃破ではなく牽制に〈アシッドクーラー〉放水するが、それはいささか遅すぎる行動だった。


激しい金属同士の衝突音。

ドームの天井の穴を背に、上昇していたはずの黒いレガクロス達が自分達が破壊したはずの天井にぶつかる。大きくバランス崩し、混乱しているのが手に取るようにわかる、慌てた挙動を繰り返す黒いレガクロス達が天井に金属眼球を向けた。


そこには、金属質な光沢を持つ、蜂蜜色の何かによって穴を綺麗に塞がれた、鈍い透明度の天井があった。


僅かに外の光景を透かして見せる蜂蜜色の天井が、ドームの外の様子を黒いレガクロスの金属眼球を通して操縦者伝える。


そこには、日が落ちて暗く染まり星の瞬きが見え始めた空を背景に、ドームの外側にへばりついて世話しなく動き回る複数の大蜜蔵蜂(ハニービータンカー)蜂蜜精霊(ハニーエレメンタル)達の姿があった。


大蜜蔵蜂(ハニービータンカー)は規模の大きい大蜜蜂(ハニービー)の巣には必ずいる。

何十トンもの蜂蜜を、体内で貯蓄できる固有スキルは規模の大きな巣では必須だ。近くに大量の蜂蜜が存在しないと存在出来ない、蜂蜜精霊(ハニーエレメンタル)達を巣の外に連れ出すためにゲルドアルドと同行していたタンカー達は、ゲルドアルドの命令で密かにドームの外へと移動していた。


MP増殖炉の騒音を始めとした重火器が飛び交う戦場となったドーム内では大蜜蔵蜂(ハニービータンカー)の削岩機のような羽音も、目立たず静かなものだった。

タンカーが体内の蜂蜜を吐き出し、蜂蜜精霊(ハニーエレメンタル)が行使する魔法スキルで金属化して天井は塞がれている。


黒いレガクロス達に逃げ場はなかった。


時間があれば破壊可能だったが、不幸なのか幸いか。

その僅かな希望と、目に見えて巨大な絶望を意識する前に、再び放たれたモヒカンコング部隊の〈ゴリラブラスター〉一斉射撃によって、黒いレガクロスは赤熱光線に飲み込まれ、破壊された。





次回は明日の12時更新予定です。


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