ゴリラ舞う・2
作品初の生身の主人公の戦闘……転移直後のはノーカンです。
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ゲルドアルドは数々の不思議体験を経験した。
現在進行形で彼が暫定異世界と呼ぶ世界に行く手段を保有し、ゲームには実装されていない痛覚等の五感を持ち、ゲームの世界からログアウトも出来ない。
それでもゲルドアルドは未だにアニメートアドベンチャーをただのゲームだと思っている。そして思っているというのに彼は今そのゲームに恐怖していた。
怖いものは怖いのである。そこには死ぬとか死なないとか、現実だとか虚構だとかという垣根など無い。恐いものはゲームでも恐ろしい。
死なないのはゲルドアルド以外のプレイヤーには分かりきったことなので、来ない死の恐怖よりも今迫り来る飛来物の恐怖である。
自ら魔法系スキルでで生み出し、制御している張本人であるゲルドアルドに伝わってくる。蜂蜜と蜂蜜結晶製の魔法の盾に伝わる衝撃と負荷。
それを感じている彼は雨霰と降り注ぐ黒いレガクロス達の攻撃に恐怖した。そして心の中で「サンダーフォーリナーが欲しい!!」と絶叫する。
残念ながらどんなに強く願っても、サンダーフォーリナーは来てくれない。
他の幹部専用レガクロスならば来てくれるというのに……ゲルドアルドは理不尽を感じていた。
虐めではない。動かすのにMPを底無しに喰らうフォーリナーにはそういうシステムは積めなかったのである。積んでもゲルドアルドが居ないフォーリナーは単独では動けないので意味がないというのが正しい。
バルディッシュがジャベリンに寄生されていると気付いているのに、ゲルドアルドがフォーリナーが乗っ取られる心配をしていないのは、寄生しても録に動かせないと高を括っているのと、既にハニークリスタルポータルを通じて護衛の大蜜蜂がフォーリナーに潜んでいるからだ。
ゲルドアルドが展開した魔法防御……蜂蜜と蜂蜜結晶の盾に、直撃した紫電のプラズマの溜め込んだ熱が弾ける。続いて到達した卵型に圧縮成型、高質化されたオキシジェンスライムの青色のグレネードが、内部に仕込まれた発火魔法で爆発する。
たっぷりとMPを含み、魔法で制御されることで、見た目や名前の印象よりも遥かに頑丈な蜂蜜の盾。敵の攻撃で甘く芳ばしい匂いを漂わせながら弾けて散らし、二種類の爆炎に焼かれて消えていく。
最初に放たれ、逸早く盾に到達したプラズマ弾の百近い群れは辛うじで耐えきった。代償に蜂蜜の盾はその体積を随分と減らし、穴だらけだ。少ない体積を掻き集め穴を塞ごうとするが、蜂蜜の盾のダメージは大きく、動きは緩慢。そして穴は大きく多い。残りの酸素に青色に染まるグレネードが蜂蜜の盾に開いた穴に飛び込んでいく。
バルディッシュⅣの腕装甲内でオキシジェンスライムを加工した〈アームオキシジェングレネード〉の弾は圧縮されて重く、魔法で高質化されて硬い。
蜂蜜の盾ほど疲弊はなく、されど無傷ではない下層の蜂蜜結晶の盾に到達して直接傷付ける。あるいは刺さり、盾で止まることなく貫く。放射状の蜘蛛の巣をヒビで描き穴が開く。
魔法で生み出した蜂蜜と蜂蜜結晶の盾はゲルドアルドの制御と、込められたMPの許す限りの修復を行う。それが間に合わないほど修復されようとするヒビや穴が青色のグレネードに直撃砕かれて行く。そして青色のグレネードが爆発し凄まじい衝撃と爆炎が連続して発生した。
圧縮されたオキシジェンスライムの身体が、内部の発火装置で発生した火に食い尽くされ、激しい爆炎が盾の内外で吹き上がる。防御を固めているゲルドアルドやゲシュタルトのギルメン達に炎と衝撃が襲いかかる。
プレイヤーにとって基本これはゲームの中の出来事である。
熱くもないし痛くもない。爆炎や爆風に晒されれば衝撃やダメージに応じた違和感や「ここが痛いんです」という情報が襲うが、実際には痛くも痒くもない。文字通り。
「うぉぉぉぉ!?」「いやぁぁぁ!?」「死ぬぅぅぅぅぅぅ!?」「やめて!俺は生産職ぅぅぅぅ!?」「私もぉぉぉぉぉ!?」「ウニャー!?」「焼いた雲丹の匂いがするっ!?」「ウミネコさんが燃えてんだよ!」
ゲームで、しかも見た目はTVアニメのような2Dイラストのアニメートアドベンチャーでも、目の前で爆発が起き、爆炎で身体が焼かれ、爆風で煽られるのを五感が殆ど制限されてるとは言えど、実際に体感するのは大迫力。そしてとても恐ろしい。
臨場感が有りすぎて、ゲルドアルドのような小心者じゃなくとも恐ろしいことだ。
生産一筋で、今日ここで戦闘なんて起きるとは思っていなかった生産職のギルメン達なら尚更。召喚したゴーレムに身を守られながらも、情けない悲鳴を上げるのも仕方がない。
それに比べると、レガクロスやキメラに乗っているメンバーは多少ましであった。あくまでも比べるとだが。
『熱ーい!』『熱くないけど!』『熱い!?』『鋳造のただの鉄装甲あかん!?』『HP減ってる!』『うぉ腕が飛んだ!』『ウホォォォォ!?』『〈防御蘚苔〉!』『止めて!ハンモウさん!こっちに攻撃滑らさないで!?』『ハンモウを盾にするんだ!』『誰か開いた穴から迎撃しろ!』『それやったら多分死ぬ!』
悲鳴が飛び交う中、完全に修復が間に合わなくなった盾に開いた穴から〈リニアヒートガン〉〈レッグクレイモア〉から発射された、音速で飛来する圧縮熱塊と、亜音速の数えきれない無数の金属球が飛び込み、ゲルドアルド達を襲う。
〈リニアヒートガン〉も〈レッグクレイモア〉も小型のモンスター、あるいは人を想定した牽制と殲滅武器。
直撃するだけで、爆発しなくても人どころか並みの金属ゴーレムなら砕いてしまう。圧縮高質化され人の胴より大きく、重量のあるオキシジェングレネード弾よりも威力はかなり劣る。
しかし連射力、又は数による範囲に優れた二種の武器は、盾で大半が防がれ散発的だったグレネードよりも、盾の穴から飛び込んでくる数が段違いだった。
強力なノックバックが発生する電磁加速された圧縮熱塊が、小さく目立たない爆発を連続で起こして、ゴーレムやゴリラ型レガクロスを叩いて揺さぶる。
衝突すればどんな場所でも五回威力を微増しながら跳ね回る魔法が込められた、金属球が盾の穴から入り込み、レガクロスとゴーレムの間を凄まじい騒音を奏でながら跳ね回った。
威力はゴリラ型レガクロスの脆く、何の効果も付与されていない鋳造鉄装甲でも耐えられる程度。しかし様々な動作試験で遊び半分に酷使されていた装甲。元より脆かったそれは、細かい歪みやヒビが入っていた。そこに圧縮熱塊が命中すると一部が砕けて目に判るほど歪み。跳ね回った金属球が装甲に易々とめり込む。
大振りな攻撃なら防げたが、〈レッグクレイモア〉のような跳ね回る細かい攻撃はゴーレムシールドでは防ぎきれない。ゴーレムに隠れていた生産職達が悲鳴を上げ。運の悪いゴリラ型レガクロスに乗るギルメン数人が、割れた装甲の隙間から偶然入った金属球に悲鳴を上げる。阿鼻叫喚のそれぞれの叫びは激し過ぎる着弾音で掻き消された。
それでもプレイヤーが死んだ証である光の粒子は見えない。
生産系ギルドの面目躍如。ゲルドアルドの防御魔法の影響が大きいが、非戦闘員にも強力な防具が支給されているゲシュタルトの強大さが伝わってくる。
『大変そうじゃのぅ』
そんな中、美しい黄金の装甲に包まれたクロックロードには僅かな傷一つも存在していなかった。憎たらしいほど余裕のある可憐なティータの声が、ロードの拡声器から聞こえてくる。
特殊なエネルギーシールドで機体を包んでいるレガクロスロードに、今のような散発的な攻撃、ましてや小型モンスター対人を想定した攻撃等は意味をなさない。シールドを突破するには、今の攻撃すべてをロードに集めるくらいしないと一抹の希望も存在しない。
エネルギーシールドを突破しても、滅びた鉱人の希少部族が心血注いで鍛え上げた装甲は恐ろしく頑丈。この程度の威力ではやはり傷一つ付かない。
この状態でティータが手を出さないのは、彼女が冷酷だとか、ゲシュタルト所属のディセニアンが慌てるのを眺めてせせら笑う性悪というわけではない。ここはゲシュタルトに自治権があるギルドホームだからである。
王族であるティータは、気軽にこの場で手を出しては行けない。真っ先にクロックロードで逃げようとしたのもそのためだ。
一人のほほんとしているティータの存在を認識しているゲルドアルドはほんの少しだけそれを忌々しく思い。立場の問題だと直ぐに切り替えて頭の隅に追いやる。どうにもならないことを考えている時じゃない。
魔法で生み出した空飛ぶ蜂の巣に隠れ、大蜜蜂達とバルディッシュⅣ型ゴーレムに守られたゲルドアルド。盾にした蜂の巣はオキシジェングレネードの三発の直撃を受けて砕けて焼かれ半壊している。内部のハニカム構造を晒している。
レディパールとディエロとディレッドを中心に大蜜蜂が毛玉になってゲルドアルドを守るモフモフの防御陣形。これは見た目よりも遥かに堅い。無論防御力的な意味でだ。
頭上、広範囲に展開した蜂蜜と蜂蜜結晶の魔法の盾。そして蜂の巣にスキルを発動したバルディッシュⅣ型ゴーレム。グレネードの直撃や爆発の衝撃を受け止める。爆炎や電磁加速で飛来する炎と熱は、ゲルドアルドを守る毛玉の外側を担当している灼蜜衛蜂が〈炎熱操作〉スキルで受け止め、受け止めた熱を毛玉の外から二層目を担当する〈炎熱吸収〉スキルを持つ爆蜜蜂達に緩やかに流して吸収。MPに変換していく。
面倒な手順を踏んでいるが、炎と熱が一度に押し寄せると、爆蜜蜂達が吸収しきれずに毛玉の三層目を担当する大蜜蜂や、近くに居たので保護した数人のギルメンに届いてしまう。
大蜜蜂は〈炎熱耐性〉を持ち。ギルメンもギルドから至急されている軍服セット、ソルダートヴァッフェ七号を装備しているので多少の熱さは平気だが。
黒いレガクロス達の攻撃が途切れる。理由はバルディッシュの弾切れだ。
〈アームオキシジェングレネード〉は腕の空間拡張された区画に棲む、オキシジェンスライムの身体の一部を圧縮高質化。そして発射する武装。周囲の自然魔力と空気から酸素を取り込むことで体積を増やせるので弾は無限と言って良いが、一定量までスライムの体積が減ると使い潰さないようにトリガーがロックされる。
〈レッグクレイモア〉も似た仕組みで発射用の爆薬としてオキシジェンスライム、金属球生成用にスティールスライムが脚装甲内の空間拡張に潜んでいる。牽制、小型目標の殲滅用であるため元々それほど連射できる武装ではないの同じくトリガーがロックされる。
〈リニアヒートガン〉も砲芯が焼き付きやすく、あれほど連射すれば暫く使えない。
他にも武装はあるが飛距離が短い、ゲルドアルド達の上空に陣取る黒いレガクロス達には角度的に使いづらい武装ばかりだ。
ジャベリンの武装のプラズマ砲は推進機と兼用でMPも消費する。使いすぎると機動力が落ち、飛行にも支障が出る。
後ろに控えていたジャベリンに寄生されたカスタムバルディッシュ・シャークムートと、二機のバルディッシュがゲルドアルドに向かって急降下してくる。シャークムートの攻撃力で蜂蜜の盾を完全破壊して、この場で滞空戦力を持っているゲルドアルドを接近戦で倒す気なのだろう。
もしくはゲルドアルドがゲシュタルトのサブマスだからか、単にジャベリンの操る黒幕が彼を気に入らないだけか。
上に残ったバルディッシュⅣの武装を使いきった八機の黒いレガクロスは空中で弾の回復をしつつ援護するのだろうと、ゲルドアルドは配下の蜂蜜と蜂蜜結晶の盾を裏側から能力で強化、支えていた蜂蜜精霊の視界から見て推測している。
どうやら一番対処しやすい選択してくれたようだ。
大蜜蜂毛玉の中心。レディパールの背中の上で、動揺から間接の隙間から蜂蜜を噴出しながらガクガクブルブルと震え、檸檬型の蜜色の結晶の目を点滅させているゲルドアルドはほくそ笑む。手は世話しなくレディパールの柔らかく美しい体毛を撫でていた。
ただ、残念ながら身体が蜂の巣でできたゲルドアルドの顔は、表情が動かない。緊急だったため妙なポーズで毛玉に取り込まれているギルメン達から見るとが恐怖に震えているようにしか見えなかった。
ゲルドアルドの目が高速で点滅を繰り返している。ギラギラと厭らしく輝く身体との相乗効果で目が痛い。至高の蜂蜜は甘くて美味だが顔や軍服にかかって鬱陶しい。あと吹きこぼした鍋の蓋のような、不安定に揺れるゲルドアルド頭部が見ていて不気味だった。
次回は明日の12時更新予定です。
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