金色の毛玉
描写はありませんが、周囲ではメカゴリラ達がウッホウホしてます。
コメントありがとうございます!
◆ゲシュタルト敷地内。ドーム型多目的試験場。
(了。)
レディパールと同じ真珠色の体毛で身を包む、命令を受けたデストロイヤーの一人がディエロからの命令を受諾。背中から生えた二対の翅をジャキン!真っすぐ前方に向けた。
その翅は見慣れた虫の翅とは違い、肉厚で重々しい。虫の翅というよりは飛行機の翼。とても虫が飛ぶための器官には見えない奇妙な翅だ。それが並行して二枚並び前方に向けられている姿は、背中に平たい大砲でも背負っているかのように見える。事実それは大砲だった。
あるいは発射台という方が正しいか。
普通、蜂には存在しない翅の先の分泌線からドロリと液体が流れ出る。重力に引かれて落ちようとした液体は、突然燐光に包まれると、重力を無視して翅の延長線上を真っすぐに伸びた。伸びた液体は翅から分泌され続ける液体を飲み込んで太く長くなる。
氷柱が伸びる様を早送りにでもしたように、翅の先に長さ六十、太さ二十センチ程度の太い円柱が形成される。それは先に行くほど丸く細まる団栗のような形状で固まった。
(発射。)
(了。)
<ニトロワックスミサイル>
それはニトロハニービーが生成する爆発する蜂蝋が固まった物。
ニトロハニービーの固有スキルで、翅の先に蜂蝋を成型されたこれの用途は単純明快。名前の通り目標に向かって飛んで行き、対象を爆破する。
飛び立つ二発の蜂蝋炸裂弾。目標は前方の十匹のモンスター。
プルプルと震えるゼリーのような身体を持つ、錬金術の産物のゲルドアルドが作成したスライム達である。
野生で見られるプルプル震えながら粘菌のように床のへばり付くような見た目ではない。饅頭のようにゼリー質な身体を膨らまし、体高は二メートル近い。制御核を持つ、人の手で作成された錬金モンスターの明かしだ。
ゴォォォォォォォォォォォ!
デストロイヤーの翅の先に作成された<ニトロワックスミサイル>が後部から火炎と轟音を噴射しスライムに一直線に向かっていく。
それは五十メートル離れたスライム達の一匹、一番手前にいたスライムに命中した。何でアイテムボックスに入っていたのか全く思い出せない、モンスター由来ではない普通の木材で作成された身体。それをプルプルと震わせる様子からは、とても信じられないほど固く粘度の高い身体をミサイルは容易く貫通した。
体高二メートルのスライムの両脇腹を、穿つように突き抜けた二発のミサイル。自らを燃焼して得ている後部の火炎の推進力は、貫通したスライムを更に焼いて散らしていく。
残る九匹のスライム達の中心に辿り着くと、ニトロハニービーの固有スキルで内に秘めた破壊力を解き放った。
ボッ!!
通常のレガクロスを丸々飲み込める爆発の発生した。空気を焼いて押しのけ、熱と衝撃が全方位に伝播する。
水製のスライムが砕ける端から蒸発する。木製のスライムは火の粉になって消えていく。「そこでじっとしていろ」とゲルドアルドに命令されているスライム達は、あっさりと爆炎に飲み込まれて死んでいった。
爆発が晴れるとレベルが高いだけで、適当な素材で作成されたスライム達は、破片一つ残っていない。
ボッ!!
ディエロと少し離れた位置には別固体のニトロハニービーデストロイヤーに命令を下し、ゲルドアルドが作成したスライムを同じく殲滅するディレッド。
ディエロとディレッドがモンスターを直接倒してもレベルは上がるが、クイーンハニービーという元々スペック高目のモンスターでも、生まれたては攻撃力が高く無い。クイーンが直接戦うのは事故も怖い。
なので指揮系固有スキルを持つモンスターとして、強い配下に命令を下し、一切抵抗出来ない相手。ゲルドアルドが<スライム作成>スキルで作成したスライムを倒してレベリングするのが効率が良い。そして安全で楽だ。
レベルだけが高い適当な素材の低コストスライムを、めちゃくちゃ攻撃力が高いニトロハニービーデストロイヤーで爆破する簡単なお仕事です。
モンスターを作成可能なプレイヤーが頻繁に利用し、依頼される通称スライムアッパーである。死霊術士によるリビングボーンアッパーもある。
ゴーレムやキメラでも可能だが、ゴーレムはレベルを高くすると堅すぎて、キメラはコストが高い。簡単に倒せて作成コストの低いスライムやリビングボーンが最適だ。
デストロイヤーならどれでも問題無く破壊出来るが、あまり火力を出しすぎると周囲の安全確保が難しい。
召喚モンスターでは経験値は入らないが、作成したモンスターでは経験値は入る。作成者本人では経験値が入らないので本人のレベリングには使えないが、錬金術士系職の金稼ぎ手段一つである。
このやり方だと戦闘経験は得られないが、倒せる相手を倒しながら順当にレベルアップするのも、良く考えてやらないと対した戦闘経験は得られないので問題ない。
戦闘経験積ませるなら、ある程度レベルとステータスの高い状態で、安全に長時間訓練できる方が身につく。
幸いゲルドアルドには時間も、戦闘経験豊富な身内も沢山居る。
「そういえば、御主は錬金術士であったか」
適当な素材でディエロとディレッドの生贄用のスライムを乱造していると、突然そんなことをゲルドアルドはティータに言われた。そんな彼女はレディパールの体毛を撫でようと突撃して、護衛のレッドハニービーガーディアンのフンワリモフモフの体毛に阻まれ埋もれていた。
ゲルドアルドはよく召喚術士だと勘違いされる。外に出るときは召喚を多用するのでよく間違われるのだ。ゲルドアルドの生産活動はジョブとスキルの関係で、蜂の巣の中に引きこもって行われる。
ハニービー達に任せっぱなしなのも原因だ。
ゲルドアルド個人が外で生産しているのはレアな姿である。
「そうですけど……」と返事をしつつ、また厄介ごとかとゲルドアルドは警戒している。
ティータはレディパールの白夜と極光と星を煌めかせる真珠色の美しい体毛に触れようとして、再度突撃するが、再びレッドハニービーガーディアンに阻まれる。
「うぬー」と唸り、赤いフワフワの体毛に埋もれていく。
ゲルドアルドはそれをレディパールの上から見ていた。
悔しがっているのでこれみよがしにレディパールの体毛の感触全身で楽しむ。
体毛の感触を楽しみつつ、デミゴッズの腰巻きのアイテムボックス機能から、死蔵していた素材を適当に放り投げる。ゲルドアルドの周囲を飛ぶハニービーワーカー達が、六本の脚で受け止めて素材別に一カ所に纏めていく。
「御主に頼みたいことあるのじゃ」
時を止めればいくらでも触れるが、時を止めると柔らかな体毛がカッチカチになってしまう。「妾にも触らせよ!」とティータが目で訴える。ゲルドアルドは無視した。
無視されたティータはレディパールに再度の突撃。時を止めての瞬間移動。フェイントも交えた攻勢。彼女は本気だ。
しかし、攻防をモフンと制したのはハニービー達だった。
ティータがその身に宿すクロックロードの力を本格的に使わなければ、彼女が時を止めれるのは精々五秒程度。更に空気ならともかく、時間が停止した空間ではある程度大きい塊を動かしたり壊すことが彼女の力だけでは出来ない。可愛いハニービーにゲルドアルドには気軽に振るっている暴力をティータは奮いたくない。
素早いハニービー達の連携。逃げ道を完全に潰されたティータ。彼女は包囲網から抜け出すこと出来ず、時間停止の限界が訪れる。
成す術もなくティータは「ぬあー!」と敗者の悲鳴を上げながら、モフモフに埋没していった。
◆
「対価を払うので御主に母上好みのペットを作ってほしい」
「ぐぬぬぬ……」と赤と黄の毛玉に埋もれている姿の見えないティータ。彼女はくぐもった声に悔しさを滲ませ、ゲルドアルドに用件を話しはじめた。
どうやら、レディパールの体毛に触るのは本題ではなかったらしい。
一瞬なぜ誕生日の時に言わなかったのかと疑問に思うゲルドアルドだったが、直ぐに一ヶ月も暫定異世界に行っていた事を思い出し納得した。
そこそこつきあいの長いティータにもゲルドアルドが錬金術士だと意識されてい無かったのは脇に置いておく。
「お言葉ですが、城仕えの錬金術士に作ってもらえば良いのでは?」
魔法と科学の塊であるレガクロスを軍事の要とするアイゼルフ王国。
王城シルバートライデント。ティータの母親、タイタニス第三王妃が住む離宮ゴルドアサイラム。そこにはいくらでも住人の錬金術士が居るはずである。
なんちゃって王妃。金色狂いで血に餓えた人型ドラゴンとゲルドアルドはタイタニスを認識しているし、周囲の認識もそうだ。しかし王妃という肩書は伊達ではない。
第三王子のように国が傾きそうな事を言わなければ、大体は夫である現王陛下のギガルスが叶えてくれる。
彼女が王妃という立場なのはそういう条件だと言うのはゲルドアルドでも知っている有名な話だ。
実際ゴルドアサイラムにはタイタニスの願いで、錬金術士や彫刻士が作成した金色の置物やゴーレムが沢山飾られている。
ゴルドアサイラムの庭にある血の池に潜む。時折、躍動感溢れるジャンプを披露する金色の魚ゴーレムも、国の錬金術士の作品だ。
「キメラとかを金色にしたいと言うならボクが塗りますし」
ティータが持っているレガクロス装甲塗装用に開発されたマジックアイテム、呪染装甲スプレーガン・ギラギラゴールドカラー。このアイテムは生物を染めることできない。
ギラギラゴールドカラーを浴びた影響でゲルドアルドが取得した<ギラギラゴールド>は生物であろうが、なんでもギラギラとした趣味の悪い金色に染められる。
どうせ金色のペットが望みだろうと「染めるくらいならやりますけど、作成はそっちでやって」とティータに言外に伝える。今は生贄用のスライム作成で忙しい。
ゲルドアルドがティータと話している間も、ディエロとディレッドがニトロハニービーデストロイヤー達に命じてスライムを爆殺している。
「それだと、母上に伝わってしまうかもしれないではないか」
どうやらティータはタイタニスにサプライズがしたいらしいとゲルドアルドは理解した。
チラリとゲルドアルドは視線だけで、ディエロとディレッドを見る。目玉など彼には存在しないので何処も動いてない。
彼がティータの話している間もスライムの爆殺は続いている。急激にレベルが上がり、体長五メートルから七メートルにまで二人のクイーンは成長していた。
スライムも六十匹がプルプルと震えながら待機している。恐怖に震えているように見えるが、そんな高度な機能は今回はつけていない。
「……で、ティータ姫殿下。どんなペットを御所望でしょうか?」
そろそろスライムアッパーの効果も薄れ、レベル上昇が緩やかになってきたので、ゲルドアルドはティータの依頼を受けることにした。
ディエロとディレッドにはスライムを使い潰し次第、レッドハニービーガーディアンを率いてお互い対戦せよ命じておく。
両者ともそれぞれ<炎熱耐性>と<炎熱完全耐性>を持っているので今のレベルなら炎熱攻撃が主体のレッドハニービーの攻撃が直撃しても対した怪我はしない。ハニーエレメンタルも複数控えているので、うっかり死んでも大丈夫だ。
折角なのでゲルドアルドは、二人に戦闘経験積ませるためにハニービー以外の手駒も用意する。レディパールの上でティータと話ながらゲルドアルドはスキルを使用した。少し離れた場所で向かい合うディエロとディレッドの側に光が集まる。
光は十メートルの巨大な人型を形成して実態化する。
光の中から現れたのは、ゲシュタルトの兵器群、基本カラーのオレンジに染められたバルディッシュⅣ……とそっくりに作られたゴーレムだった。
見た目こそ装甲や機械的な可動部を備えているように見える。
見えるだけで一体成型の型抜き品。目に見える可動部を無視してゴムのように変形して動く、まごうことなきゴーレムだ。本物のバルディッシュⅣをスライムで型を取って作成したので、表面上は寸分違わずバルディッシュⅣである。
ニトロハニービーの体毛を<超蜂錬金術士>のスキルで金属のような素材に加工して使用。成型後に内部の太い部分はハニカム構造にして軽量化。
炎や熱を構造強化や動くためのMPに変換したり。見た目より軽いため、このサイズのゴーレムにしては動きが少し速くて強いが普通のゴーレムである。
まだ地力が育ちきってない、ディエロとディレッドには相性が悪すぎて倒す手段が無いが、お互い頑張って欲しいとゲルドアルド願った。クロスレンジになってしまうと詰みだぞ。
ゲルドアルドの<ゴーレム作成>スキルで作成されたバルディッシュ型ゴーレムの指揮権を、それぞれ一体ずつ二人に譲渡。後はティータの話に集中する事にした。
<ゴーレム召喚>だと三十分くらいでMPの粒子になって消滅してしまうので、再召喚の手間を省くための作成だ。
「とりあえず色は金じゃな!これは譲ることは出来ぬのじゃ」
今だハニービーのモフモフに埋もれ、姿の見えないティータの声はくぐもっている。「そうでしょうね、わかってましたよ」と心の中で思いつつゲルドアルドは無言で頷く。
「母上は己を鍛える事以外は面倒臭がりじゃから、手間のかからないスライムっぽい生体が良いのぅ。床掃除を出来る程度の知能があるとなお良い」
ゲルドアルドは召喚者や作成者特有の不可視の繋がりを通じ、順番が来るのを震えて待つしかない。死刑囚のようにプルプルしているスライムの一匹を呼び寄せた。
心なしか動きが弾んでいるように見えなくも無い。しかしティータに待ったをかけられる。
「早まるでない。ただ金色なだけのスライム等、母上が所持してないと思うておるのか?」
「思わないですね……」
純金製スライム。
金狂いのタイタニスなら真っ先に頼んでもおかしくはない。財力に余裕のあるアイゼルフだレガクロス飲み込めるサイズ等無茶を言わなければ叶えるだろう。
しかしゲルドアルドはゴルドアサイラムに何度も足を踏み入れたが、純金製スライム、もしくは金色のスライムもゴルドアサイラムで見たことが無い。
「奴らは昼間は庭の血の池沈んで掃除をしとるからのう。見たことがないのさもありなんじゃ」
「夜になると母上の部屋に移動するのじゃ」と続けるティータ。
ゲルドアルドは昼過ぎのティータイムに拉致される事が多いので、そのせいで出会わなかったらしい。
どうやらかなり大きいらしく、それを布団にして寝ているらしいと非常にどうでもいいタイタニス王妃の寝室情報をゲルドアルドは手に入れてしまった。
(……)
寝るときは裸派とか「そんな情報いらねぇよ!!!」心の中で絶叫しつつ、うっかり想像。敏感に察してきたレディパールの頭部がグリンと振り向きと背中に乗っているゲルドアルドを見る。
ゲルドアルドはギラギラゴールドカラーのスライムはそれはそれで欲しいと言われ。呼び寄せた一匹はゴルドアサイラムに引き取られる事になった。
適当な木材とスライム化の影響で、出鱈目な木目を持ったウッドスライムは<ギラギラゴールド>で染められる。彼は爆殺の運命を免れたのだ。
ボハッ!っとモフモフの小山からティータの上半身が飛び出す。両手で、ジタバタと六本脚と翅を動かすハニービーワーカーを一人掲げながら。
「モフモフが欲しいのぅ、こやつらのように美しい毛並みのじゃ!」
「毛の生えたスライムを作れと」
珍妙な依頼だ。
普通スライムに毛を生やすなら、更に手足や頭部も生やして普通のキメラを作成するだろう。
モフモフの体毛を有するスライム。モソモソと床を蠢く毛皮を想像したゲルドアルドは何とも言えない微妙な表情を顔に浮かべた。
当然ながらゲルドアルドに表情筋など存在しないので、他人から見ると無表情だ。
しかも話を聞く限り、お掃除ロボット的な役割も担うらしい。
「まぁ、とりあえず作りましょう」
「サイズは母上が上に乗って寛げるくらいじゃぞ」
「でけーなおい」心の中でツッコむ。
かなり長身のタイタニスを思いだしながら、ゲルドアルドはとりあえずキメラにベースとなるスライムを作る準備をはじめるためにレディパールの背から降りた。
◆
アニメートアドベンチャーのキメラはスライムにモンスターの頭部や手足等の部位を切り張りして作成する。
モンスター固有のスキル等を使わせようとすると、そのモンスターの首が必要になる。なので強く、高価なキメラと言うのはだいたい多頭である。
目玉が飛び出るような高価な素材と、高度な技術があれば<融合捕食>というスキルをキメラに持たせることで、使わせたいスキルを持つモンスターの頭部無しでも、素材は必要だがスキルを覚えさせる事が出来る。
ゲルドアルドはそこまでの技術は持ち合わせていないので出来ない。
そもそも今回は必要ないが。
錬金術士系の魔法スキルや、生体素材にMPを流しながらスライムと融合させ、使用するモンスターの血を使いスライムの核に他のモンスターの部位を操れるように調節する。
同種のモンスターを使うなら、そのモンスターの血で作成したスライムを核に使うと素材が馴染みやすく完成度も上がる。
この一連の作業を終えると<キメラ作成><キメラ召喚>スキルが手に入る。
<キメラ作成>はCPの消費で作成した事のあるキメラを一瞬で作成出来る他。材料を事前に用意すれば頭の中に描いた姿を一瞬で作成できるようになる。
そのせいか、初めてのキメラはスライムにその変のモンスターから切り取った耳や角だけが生えている等、非常に雑な見た目のほぼスライムというのも珍しくない。
今作成したスライムの大きさは球体にすると直径三メートルくらいになる大きさだ。
いくらタイタニスが長身でも大き過ぎるが、小さく作って後から増やしてくれと言われても調節が面倒なのでゲルドアルドは大きく作った。
火や熱に強くなるので基本素材はゲルドアルドの中では定番のニトロハニービーの体毛を樹脂にした物だ。そこに今度は加工をしていないニトロハニービーの体毛を植毛していく。
「よろしくプチハニービー」
ゲルドアルドの前腕の剥き出しのハニカム構造。そこから無数のプチハニービー召喚される。
途中ティータに「前から思っていたのだが、御主が何気なく取り出すその大量のハニービーの毛。羊みたいにハニービーの毛を刈り取っているのか?」と聞かれたが、ゲルドアルドはそんなことはしていない。
彼は<モンスター作成>スキルで作成したハニービーの卵を加工することで、毛等のハニービーの部位を大量に作成出来るのである。
ゲルドアルドはティータの前で実演して見せると引かれてしまった。
三十センチ程の長細い虫の卵から、粘液と一緒に大量のニトロハニービーの毛だけが出てくるのが気持ち悪かったらしい。
人の指先サイズのプチハニービーが、ゲルドアルドが用意してあったニトロハニービーの真珠色の体毛を抱えて飛んで行き、同じく真珠色のスライムにプチハニービー達が植毛していく。
錬金術士系のジョブを複数積んで、ステータスの器用が高いなら。
スキル等でそれこそ瞬く間に終わるのだが、ゲルドアルドはそこまで器用ではなく。錬金術を極めていない。
体毛を抱える固体。その固体から体毛を受け取り<生体移植>スキルで植えていく固体。作業を分担しながら性格で丁寧に素早く作業が終わり。スライムは数分で饅頭型の毛玉に変わった。
「どの角度から見ても後ろ姿の熊……?」
出来上がった動物の熊より大きい、毛玉スライムを見たゲルドアルドの感想である。
「御主はまたよくわからないことを」
変な感想を漏らすゲルドアルドを「何言ってるんだコイツ」という目でティータが見る。
ゲルドアルドは「尻尾とか付けてみます?」と見当違いな返事を返した。
レディパールや、ディエロやディレッドの戦闘訓練に参加していないハニービー達が興味深げに毛玉饅頭を前脚でブニブニと突いている。ゲルドアルドも人差し指で突いてみる。
「うわっ気持ち悪!」
丈夫な皮膚に固い筋肉を備えていそうな見た目に反し、非常に柔らかくズボッ!と何処までも指が沈み込む感覚。そして視覚のギャップに思わず飛びのくゲルドアルド。
毛玉はゆるゆるのゼリーのような感触だ。ゲルドアルド自身が固さの調節をしやすいようにそう作ったのだが、熊をイメージしたこと。実際このサイズの体毛に包まれたモンスターを殴った経験が災いしてして固さのギャップに必要以上に驚いてしまった。
普通の皮膚があったらゲルドアルドの全身は鳥肌がたっていただろう。今も彼の蜂の巣の外殻は似たような見た目だが。
「妾も確かめよう」と言って思いっきり毛玉に体当たり敢行。ティータは毛玉に飲み込まれて姿を消した。
「やはり、柔らか過ぎるのう」
毛玉から脱出したティータは今度は「とうっ!」一国の姫とは思えない掛け声と身体能力で体高二メートルのスライムに真上から飛び込んだ。当然ながら格好は姫様らしいきらびやかな……金色の装飾が悪趣味なほど散りばめられているのできらびやか過ぎるロングスカートの中身が露になってしまう。
王族の下着露出を素早く察知したゲルドアルドの頭部が素早くギュリッ!と音を立てて真後ろ向いた。後ろに控えていたレディパールと目が合い無言で見つ目会う。
スライムに飛び乗ったティータは何処までもスライムの中に沈んでいく。未調整なので当然だが上に乗って寛ぐにはもっと固さが必要だ。
このままでは使用者は毛玉の中で溺れることになる。撫でても手が触れた周辺ごとつられて動くので触り心地も微妙だ。
ティータも大変不満らしく「柔らかすぎる」と予想通りのご意見。
レディパールに「もうパンチラしてない?大丈夫?」と念入りに確認させてから頭部を再びギュリッ!と音を立てて元に戻すと、毛玉スライムに手を触れ、スキルで固さを調節していく。
ティータがズボッと毛玉に埋もれる。
「違うのう、もうちょっと固く」
再び毛玉スライムに手を触れ、スキルで固さを調節。そして再びティータが毛玉に突撃。これを幾度か繰り返すも中々決まらず。背後でディエロとディレッドの三回目の戦闘訓練の勝敗が決まる頃。
「うーむ、もうちょっと……なんというか……そうじゃ!猫じゃ!猫に触れるような感じが欲しいのじゃ」
というティータに具体的な指標が生まれ。表面は柔らかく、内部は少し固くする等と言ったアイディアで猫っぽい感触の、巨大な毛玉が誕生した。
骨などは無いので上に乗ればズブリと沈み込むが毛を撫でる感触は確かに猫だ。ゲルドアルドの<ギラギラゴールド>によってギラギラと輝く趣味の悪い金色に染色される。
「わーなにこれ」
ギラギラと輝く金色のフサフサした、何とも言えない奇妙な物体だ。身体が最初より固くしっかりしたので、体高も高くなっている。ティータは早速上に乗り、体毛をワシャワシャしていた。
愛玩動物にあまりしないほうが良い乱暴な撫で方だ。しかしこれは見た目以外はほぼスライムのストレスとは無縁の毛玉。
どんなに重たい愛を押し付けてもハゲたりしない。
むしろ毟っても生える。そして毟られた毛を吸収してくれる。
そう考えると、無限にプチプチと潰せる、エアクッションの玩具等と似たようなジャンルにこの毛玉キメラは属しているのかもしれないとゲルドアルドは思った。レディパールとハニービー達が居るのでゲルドアルドには必要ないが売り出せば売れるかもしれない。
あとでダイオキシンと相談案件だ。
「とても良い感じなのじゃ!」
日頃あまり付き合ってもろくなめに合わない相手だが、子供が楽しそうにしているのは非常に和む。ゲルドアルド優しい気持ちになっている。
「では、次は尻尾じゃな!」
勝手に終わった気分だったが、まだ依頼は済んでいないらしいとゲルドアルドは知った。
次回で三章ラストとその次がエピローグです。
明日も12時更新です。
評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。




