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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
決戦兵器編

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大罪人

更新再開です。


ダークネスホーリーマスターがどんなプレイヤーだったかをちょこっと。

 


【アルマゲドンキャノン】


 サンダーフォーリナーの両脚に搭載されているメテオキャノンを単純に大規模化したキャノン砲。太さ三十メートル、長さ二百メートルのマキシマムヘビィアダマンタイトの弾頭を持つ金属巨杭を、電磁加速で打ち出すという正気を疑う破砕兵器。


 専用のアイテムボックスで試射場に持ち込まれたこの兵器。


 オゾフロ達は誰もこれが動くとは思っていなかった。


 マキシマムヘビィアダマンタイトの弾頭を持つ長さ二百メートルの巨杭を撃ち出す為に作成された電磁加速装置を起動するには、今までの兵器とは比べものにならないとてつもないMPが必要なのだ。


 ゲルドアルドなら余裕で供給できる量だとは、思いもしなかったのだ。


 不幸なことにティータと蜂蜜を巡る戦いの第二ラウンドに集中していたゲルドアルドが気付かず、オゾフロに言われるがままMPを供給して起動してしまった。


 不幸中の幸いで、見た目は立派な金属巨杭だが、中はスカスカのハリボテの模擬巨杭が装填されていたため、時を止めて回避したティータ以外が死にかけるだけで済んだ。


 発射の余波だけで全員瀕死。もしもマキシマムヘビィアダマンタイトの弾頭巨杭が装填されていたら、生産ギルドのゲシュタルトはアニメートアドベンチャーの世界から消えていたかもしれない。

 ティータも「久しぶりに本気を出したのじゃ」と言うほどの自体だった。


 試射会の最後に、余興として持ち出されたアルマゲドンキャノンだったが、ウッカリギルド存亡の危機招いてしまったので、なんとも言えない雰囲気で解散となってしまった。


 試射場の修繕や後片付けは、ゲルドアルドの大蜜蜂(ハニービー)達に任せてギルメン達は去っていく。


「ゲルさん、いい加減魔人族で【Unlimited】ジョブの取得方法を教えるニャー」


 ゲルドアルドは雲丹猫の魔人ウミネコに絡まれていた。

 ヒンヤリとした猫手海星の手で肩を捕まれ、肩を掴む腕からウミネコの直立二足歩行猫の身体を形成する小さな雲丹が、モゾモゾとゲルドアルドの身体に移動して来る。


 非常に磯臭い。


 ウミネコが手を置いている肩の反対側に腰を下ろしているティータが、手袋型のアイテムボックスから金色の羽箒を取り出し、邪魔そうに雲丹を掃っている。


「取得ジョブを全部超級にしてから出直してくださいウミネコさん」


 ウミネコの要求をバッサリとゲルドアルドは切り捨てる。


 正直な話、ゲルドアルドも魔人族でレベル制限を解放する【Unlimited】ジョブの取得方法を知らないのだ。

 ソロで活動していた時に、気がつくと取得可能になっていたので取得しただけである。


 ゲルドアルドはダイ・オキシンに用があったので、話かけようとウミネコを振り切るが、ウミネコを振り切るゲルドアルドの前に、腕を組んだ仁王立ちでスライド移動してきたハンモウが立ち塞がる。

 微動だにせずにスムーズに移動する簡略化した人型のピクトグラムのような、緑色の苔岩の魔人からは森の香りがした。


「……俺のジョブは全て超級だ。さぁ、教えてくれ。」


「超級になってないのは一個だけニャー、俺にも教えるニャー」


 前門から森の香り、後門からは磯の香り。蜂蜜に臭いが移りそうだ。


 ティータもそう思っているのか、羽箒のを仕舞うと今度は金色の羽で飾り付けられた扇子を取り出してパタパタと扇いでいる。


 面倒臭い。というのがゲルドアルドの正直な感想だ。


 ジョブは最初に下級を取得し、取得した下級ジョブ……下級戦士なら戦闘、素振り、筋トレ等、ジョブにあった行動をすることで経験値が貯まり、中級、上級、超級とランクアップしていく。

【Unlimited】ジョブの共通取得条件と推測されているのがジョブを五つ取得し、全てを超級にするという物だ。


 ハッキリとわかっていないのであくまで推測だ。


 一般的に流布している【Unlimited】ジョブの取得条件は……。


 一、現実の種族とアニメートアドベンチャーでの種族が一致している。

 二、五つジョブ取得して全てを超級にする。

 三、取得したジョブに合った行動を繰り返す。


 なのだが、ゲームオリジナル種族である魔人族は現実には存在しない。

 最初の段階で躓いてしまうが、実際には、現実の種族は獣人である蜂の巣の魔人ゲルドアルドは【Unlimited】ジョブを取得している。

 更にゲルドアルドはダイ・オキシンの紹介で知り合った、自分と同じく【Unlimited】取得している、金魚鉢の魔人モモチュというプレイヤーを知っていた。


 なので現実の種族と一致していなくても、魔人族は【Unlimited】ジョブを取得できる筈なのだが、何故取得出来たのかわからないゲルドアルドには、その方法を他人に伝授する事が出来ない。


 なので困ったゲルドアルドは最終手段を取ることにした。


「モモチュさん主催の【Unlimited】ジョブ取得方法の模索する会が、またドランオスカで開かれるので……一緒に行きますか?」


 ゲルドアルドがモモチュの名前を出した時点で、ウミネコは猫型を崩して、無数の雲丹、猫手の海星、骨格の朱珊瑚と身体形成する生物をバラバラにして、濃い磯の香り振り撒く体内に納めていた海水に流されるように試射場から去り。

 ハンモウはゲルドアルドの前に立ち塞がったの時と同じポーズ維持しながら、音も無く素早く滑り去って行った。


 大慌てで全力で去っていく二人の魔人族の様子を、ゲルドアルドの肩から眺めていたティータは不思議そうに首を傾げた。


「モモチュというのは、たしかドランオスカにある戦闘ギルドのギルドマスターだったな?

 強いとは聴いておるのじゃが、あれほど恐れられるディセニアンなのかの?」


 住人の王族は、国益を左右しかねない国内、国外に関わらず有力プレイヤーの情報を集めている。

 ティータは基本政治に殆ど関わらない、なんちゃって王妃のタイタニスの娘であるが、レガクロスロードを身に宿した国防に関わる者として、戦闘力の高いプレイヤーの情報は頭に入っている。

 ドランオスカの性質上、アイゼルフが攻めることも、逆にドランオスカ攻めて来ることもありえない話だ。


 戦うことはまず無いが、基本自由な立場である純戦闘職の【Unlimited】取得した魔人族のプレイヤーを無視することは不可能だ。


 故に少々変わった人物だが人徳があり、慕われているプレイヤーだという情報を持っているティータにはウミネコとハンモウの反応が不思議でならない。


「……モモチュさん、キャラ濃いけど良い人なのになー」


 そう呟くと、ゲルドアルドは遠ざかっていくダイ・オキシンを追いかけはじめた。


「ダイ・オキシンさん、聞きたいことがあるのですが」


「おや、なんですかゲルさん?」


 ダイ・オキシンに追いついたゲルドアルドは彼を呼び止める。


 振り向いてゲルドアルドを見たダイ・オキシンは目を細めた。間近で見るゲルドアルドのギラギラと輝く趣味の悪い金色ボディはとても眩しい。思わず試射会で使用したサングラスをダイ・オキシンは取り出して顔にかけた。


「ダークネスホーリーマスターってプレイヤー知ってますか?」


 ゲルドアルドの聞きたいこと……暫定異世界で恐らく唯一、ゲルドアルドを殺せる実力があるのでは無いかと思われる、暫定アニメートアドベンチャーのプレイヤーダークネスホーリーマスターの事である。


 ダイ・オキシンはプレイヤーの情報や、魔法技術ついて非常に詳しい。

 優れた生産職でこのゲーム世界出身ならば、ダークネスホーリーマスターの事を彼が知らない筈が無いという確信があった。


 何せ全くのゲルドアルドが無名だった時に何処で聞き付けたのか。

 ゲルドアルドが大きな蜂の巣があれば、無尽蔵に労働力を供給出来るという能力を知り、ギルドに欲しいと言って、ゲルドアルドをスカウトに来たのがダイ・オキシンだ。


 そして、ゲルドアルドの期待に応える反応がダイ・オキシンから帰ってくる。


 涼やかな微笑を、整った顔に浮かべていた彼は、ダークネスホーリーマスターの名前を聴いたとたんに顔色を変えて、色濃い焦りを滲ませた声と表情をした。その豹変ぷりにゲルドアルドがたじろぐ。突然ダイ・オキシンが流しはじめた凄い量の汗を見て「うわぁ……」とゲルドアルドは思わず声を出した。

「思ってた反応と違うな?」とゲルドアルドは思ったが、知っていそうなので話を続けようとすると、ダイ・オキシンが自分よりかなり大きな身体を持つゲルドアルドに飛びつき、慌ててその手でゲルドアルドの口を塞いできた。


 なぜかその視線はゲルドアルドの肩にちょこんと座ったティータに向けられている。


「ちょっとぉ!ゲルさん!なんて名前をよりにもよってこの国の王族の前で出すんですかっ!?」


「有名なプレイヤーなんですか?ダークネスホーリーマスターは?」


 口を……性格には人間であれば口がある部分を押さえられても、そもそも彼の顔には檸檬型の蜂蜜色の結晶の目しか無い。口が無い状態で喋る事が普通のゲルドアルドには何の支障も無かった。


 慌てながら小声で叫ぶという、器用な行為するダイ・オキシンと、明らかに知っているような反応をゲルドアルドの肩の上でしているティータの反応も無視して、ゲルドアルドは話を続ける。


 ゲルドアルドの気のせいでは無ければ、周囲のパッと名前は出てこないが、記憶が確かならゲルドアルドよりもプレイ時間が長いプレイヤーがダークネスホーリーマスターの名前に反応してこちらを見ている気がする。


「あ、ここ口じゃないのか!?ちょっとぉゲルさん!その名前をこの国で出さないでぇ!?そして口は何処ですかぁ!!」


「?……それは身体が蜂の巣になった日から、今日まで続く謎ですねぇ」


 魔人族はファーストジョブを選ぶ段階だと普人と変わらない姿をしている。ゲルドアルドは、身体が蜂の巣になるとは色々な意味で夢にも思わなかった。


「ちょっと!ちょっとコッチに来てください!ラボに!私のラボに行きましょう!?」と魔法で強化したのか、随分と体格差が有るはずのゲルドアルドを無理矢理引きずる力を見せるダイ・オキシン。


 かなり必死だ。


 さっきから無視されている質問の答を返してくれるならと、ダイ・オキシンの腰よりも太いゲルドアルドの巨大な腕をダイ・オキシンの細腕に引っ張られるまま、特に抵抗せずゲルドアルドはティータを肩に載せたまま試射場を後にした。


 一体、ダークネスホーリーマスターとは何者なのか?


 暫定異世界の巣が心配になって来るダイ・オキシンの劇的な反応に、想像以上の難敵なのではないかと、恐怖と心配がゲルドアルドの心の内からコンコンと湧き出てくる。


 ゲルドアルドは不安で一杯だ。

 プレイヤーどころか、住人の王族も注目しているダークネスホーリーマスターに対するゲルドアルドの警戒度が再現無く上昇していく。


 ゲルドアルドは不安のあまり再び幼児退行してしまいそうである。




 ◆




 ダイ・オキシン個人研究室、通称ラボ。


 ティータがついて来ようとするのを頑なに拒もうとするダイ・オキシンと、ついて来ようとするティータとの、お互いの技能を無駄に駆使した無駄に高度な争いが発生したが、先に折れたダイ・オキシンがゲルドアルドとティータごと転移魔法を使用して、三人はダイ・オキシンのラボを訪れた。


「で、なんでゲルさんはアイゼルフでもっとも有名な大罪人……ダークネスホーリーマスターの事を聞きたいのですか?」


「大罪人……?」


 予想外のダイ・オキシンの話の切り出しに、ゲルドアルドの檸檬型の硬質な結晶の目が驚きでピカッと光る。以前目の前でゲルドアルドのハイビームライトを浴びせられた記憶が蘇ったのか、ダイ・オキシンの肩がビクッと跳ねた。


 どうやら聖暗黒教国の唯一神は、悪い意味でかなりの有名人だったらしい。

 ゲルドアルドは暫定異世界転移するまで全く耳にしたことはなかったが。


「その様子だと知らないみたいですね……ゲルさん、初ログインから何年ですか?」


「現実で……十三年かな?」


 ゲーム時間だと約三十九年。


 二十四時間三百六十五日、ログインしているわけでは無いので多少誤差は有るが、それでも実年齢よりも長い時間を、ゲルドアルドはアニメートアドベンチャーの中で過ごしている。

 そのせいか突然暫定異世界で突然ゲームのキャラクターで生活することになったゲルドアルドだったが、ゲームでは五感等がかなり制限されていた筈なのに、蜂の巣の魔人という身体自体には、彼は全く違和感を感じていなかった。


「十三年……ゲルさんが知らないのも無理ないですね……ダークネスホーリーマスターが王族の遺骨を盗んだのは十七年前ですから」


「遺骨を盗んだ?」


「正確に言うと、国の礎を築いた高祖と共にレガリアとロードを造り上げた弟子の一人の遺骨じゃな」


 ダイ・オキシンとティータが語るダークネスホーリーマスターがやらかした事はとても大事だった。


 テックマウンテンから発掘されるレガクロスオリジンを解析し、王族の高祖と共にレガクロスレガリアとレガクロスロードを造り上げた六人の弟子の一人の遺骨を盗んだ大罪人。それがダークネスホーリーマスターだという。

 しかも、アイゼルフだけではなく各国で著名な死者の墓を暴き、遺骸を強奪している。何をやってるの唯一神、とゲルドアルドは思った。


 ダイ・オキシンが言うにはゲーム時間でここ十年は目立った活動はしていないらしく、ログインしているかも不明らしい。

 ゲルドアルドは恐らく、ゲーム時間で十年前にダークネスホーリーマスターは、あの暫定異世界に転移したのだろうと考える。


 十年前に転移して向こうでは六百年前というのがかなり不思議だが、異世界転移という摩訶不思議過ぎる現象の前には些細な問題だと、ゲルドアルドは思い頭の隅に追いやった。


 現実では四年差でも、ゲーム内では十二年も差が出る。

 十二年も立てばどんな大事件でも、あまり日常的な話題には上がらないだろう。

 話題にするのもタブー扱いで、ゲーム時間で十年以上。プレイヤーも住人もダークネスホーリーマスターの姿を見た人は居ないとなれば尚更だ。

 現にゲシュタルトに入る前の、あまり国ともプレイヤーとも積極的に交流せず、巣作りとレディパールを愛でる日々を送っていたゲルドアルドは「そういえば昔、そんな話をどっかで聞いた覚えが……」というレベルだった。詳細など全く把握していない。


「でも、なんで遺骨なんか……?」


 ゲルドアルドが想像していたダークネスホーリーマスター像に剥離が生じる。


 オゾフロのようなタイプでは無く、ダイ・オキシンのような魔法系の生産技能を極めたプレイヤーだと想定していたゲルドアルドには予想外な情報だ。

 遺骨を盗むという行為自体は死霊術士、呪術士というジョブがあるので何となく利用法に思い至るが、この二種のジョブの系統は生産スキルもあるが、どちらかと言うと魔法戦闘系のジョブだ。


 他の生産系ジョブと比べる性能は一段落ちるし、特定の相手を想定した尖った性能のマジックアイテムの生産が得意なジョブなので、暫定異世界で手に入れたような、普遍的に使える武器のようなマジックアイテムを作成するのは難しい。


 あのタイプのデミゴッズの武器を作成するのは、他の生産系ジョブで能力を補っていてもまず無理だろう。


「ダークネスホーリーマスターって戦闘系のプレイヤーなんですか?」


 考えてもゲルドアルドにはわからなかったので、ダイ・オキシンに直接問う。


「いえ、彼は生産系のプレイヤーとして有名ですよ……かなり変則的ですけど。というか本当に知らないんですね」


「変則的……?」


 ダイ・オキシンが語るところによると、ダークネスホーリーマスターは、死霊術士系に特化した【Unlimited】ジョブ取得者で、生産能力の高い死霊(アンデッド)を作成して使役するという独特のスタイルの生産職だった。

 彼の種族は普人で【どんな物の損傷、破損の回復が可能な黒い炎を生み出す】という異能を使い、生産者として著名な住人の墓を暴いて、遺体や遺骨を異能で再生。時には殺して死体にする場合もあった。

 まるで死に経てホヤホヤの遺体を生み出して、ほぼ完璧に生前の生産能力を発揮できる死霊(アンデッド)の作成が可能とのこと。


「ひぇ……!」


 やたら、詳しいダイ・オキシンの情報収集能力の驚きがどうでも良くなる程の衝撃。


 想定よりも遥かに厄介なダークネスホーリーマスターの能力を知り、ゲルドアルドは戦慄する。

 今の話でゲルドアルドは理解してしまったのだ、暫定異世界の聖暗黒教国にレガクロスレガリアとレガクロスロードの技術が流出している可能性に。


 レガリアとロードの開発に関わった人間の死霊(アンデッド)が、あの世界にいる!


 沈静効果のあるマジックアイテムのアクセサリーの御蔭で取り乱すまでは行かないが、ゲルドアルドの内心を表すように渦巻く恐怖と混乱が、の後頭部から流れるベールか長髪のように流れる至高の蜂蜜に露骨伝播し、荒波の如く激しい動きを見せる。


「ゲルさん…………?。

 ところでティータ姫殿下、何やら反応が薄いのですけれど……ダークネスホーリーマスターの名は、タブー扱いだと認識していたのですが……」


 なぜか目に強い光を点したまま、微動だにしなくなったゲルドアルドを不思議そうに見たダイ・オキシンは、話しかけてもゲルドアルドが全く反応しないので、墓を暴かれた王族の一員であるティータに疑問をぶつけてみる。

 アイゼルフでは話題にするのも忌み嫌われているダークネスホーリーマスターの話なのだが、それを聞いたティータはいつも通りに見える。それがダイ・オキシンには不思議だった。


「そういうので憤るのは、陛下や第一王妃、第二王妃、兄上や姉上の役目じゃからのぅ」


 突然動かなくなったゲルドアルドの頭を小さな手でペチペチと叩きながら、興味なさそうにティータは語った。


「役目って……貴女様も王族の一員でしょうに」


「妾は、最低限王族に恥ずかしくない教育は受けておるが、母上があのような方じゃから、愛着はあっても愛国心と言える心は持ち合わせておらんのじゃ」


 実際、ティータは特にダークネスホーリーマスターに思うところは無かった。


「えぇー」とあきれを隠さないダイ・オキシンの言葉にも、ティータはどこ吹く風だ。


「まぁ、面白い話題ではないのは確かじゃな。その名を城で出すと、どこで聞き付けたのかアレがやってきて周囲が引くほど剣幕で誰彼構わず怒鳴り散らかすからのぅ」


「名を言っただけの侍女が、その場で処刑されるそうになっておったのじゃ」と、高祖とその弟子に深い尊敬と敬う心を持っているが、何故かその後継者として相応しいのは自分しか居ないと思い込んでいる第三王子は案の定。ダークネスホーリーマスターことを異常に敵視しているらしい。


「タブー扱いになっているのも半分くらいは第三王子のせいでは?」と思ったダイ・オキシンだったが、口には出さなかった。それを察したのか曖昧にティータは笑っている。


「ひょぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 突然のゲルドアルドの悲鳴。

 装備しているマジックアイテムの効果で直ぐに取り乱さなかっただけで、ジワジワと恐怖が思考を浸蝕していたのか、唐突に絹を引き裂くような情けない悲鳴を上げた。


「のわぁぁぁぁぁ!?」「うわ、ビックリしたぁ!?」と突然に再起動して叫び声を上げたゲルドアルドに、ティータとダイ・オキシンは驚きの声を上げる。


 特にゲルドアルドの肩に乗っていたティータは完全に不意をつかれた為に驚きで肩から落ちてしまった。


 母親のタイタニス譲りの身体能力と仕込まれた体術で、頭から落ちるのはティータは回避した。ドレスのスカートにふわり空気を孕ませて華麗に着地したに彼女だったが、強い憤りを秘めた眼光でゲルドアルドを睨む。


 そしてティータはドレスにも関わらず、切れのあるハイキックをゲルドアルドに繰り出した。


 はしたなくも美しく、そして勢いよく回転してドレスが広がる。

 ドレスの裾の中から、高級で細微なデザインを台なしにする自己主張が激し過ぎるタイタニス趣味に合わせたギラリと金色に輝くショーツがあらわになる。


 ダイ・オキシンはとても魔法系生産職とは思えない、驚くほど素早い動きでティータのめくれ上がるスカートから身を翻してうずくまり、顔を自分の手で覆って「何も見ていませんよ!!」というポーズを取った。


 王族のパンチラは周囲にとって、とても危険である。


 弧を描くティータの細く繊細な足先。膝から下包む、異様に緻密な文様が刻まれたブーツで繰り出された蹴りの軌跡が、吸い込まれるようにゲルドアルドの即頭部に到達。

 インパクトの瞬間にティータの足を無骨だが、ゲルドアルドの身体を彩るギラギラとした脂ぎった欲望の塊のような金ではなく、キラキラとただ美しく光る金色の装甲の幻影が、ティータの足と重なるように出現した。


 ドズンッ!!


 とてもその小さな身体から繰り出されたとは思えない、重量感がある音が、ハイキックが命中したゲルドアルドの頭部から発生した。

 ゲルドアルドの頭部が、首から下をその場に置き去りにして頭部が明後日の方向へと、ギラギラした尾を引いて凄まじい速度で飛んでいく。

 ギラギラとした尾を引いているのは、ハイキックで砕けたゲルドアルドの頭部の破片である。


「ぐべぇ!?」


 ティータの見事なハイキックで蹴り飛ばされたゲルドアルドの頭部はラボの壁にぶつかり潰された蛙のような悲鳴を上げた。

次回の更新は12月4日、昼12時です。


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