試射会・後編
ウミネコさん出番はもっと多かったのですが、気がつくと減ってました。無念。
評価、コメント、ブックマークありがとうございます。
ブラウリヒトが操るパンツァーブルーダーの構えた、通常のレガクロスほどの全長がある円柱状の機械……試作武器マグネティックサイクロンバンカーが、MPケーブルを通じてゲルドアルドから供給されたMPで起動する。
パンツァーの女性型上半身がトリガーを引いた。
円柱の先端からマグネティックサイクロンバンカーは、くり抜いたように半場まで中空になっており、その内部からバシンッ!という音と同時に光の波が撃ちだされる。発生した光波は円柱を中心に、前方放射状に拡散。
ゲルドアルドが撒いて、パンツァーと苔色のバルディッシュの間を空中を漂う花粉が光波に晒されるが、僅かに光波に押される動きをしただけで、光波を浴びた筈の花粉やバルディッシュⅣに全く変化が無い。
光波は<防御蘚苔>で受け流され、ドッシリと大盾を構えた苔色のバルディッシュは全く身じろぎもしない。
余りにも地味な結果に試射場が、訝しむギルメンのざわめきで満たされる。
マグネティックサイクロンバンカーは本領を発揮するのはここからである。
彼女の管轄の部署が開発している武器なので、どういう物なのか知っているオゾフロは、周囲のざわめきにニヤリと笑みを浮かべている。
マグネティックサイクロンバンカーは、サンダーフォーリナーに背面に搭載された、対象を磁化して磁力フィールドで遠ざけたり引き寄せたりするマグネットベクターの発展武器である。
フォーリナーに搭載されている物とは違いMPモーターは使用せず魔法現象で磁力を発生させている。
放出された磁化光波は前方に存在する、ありとあらゆる物を磁化する魔法現象だ。
N極のモノポール化する磁化光波によって、パンツァーが構えるマグネティックサイクロンバンカーの前方に存在する物は、すべてN極のモノポールと化している。
機械が更にゲルドアルドのMPを吸い上げ、今度は大出力のS極磁力を円柱内部から発生してN極モノポール化した空気や花粉を円柱の中に吸い込み圧縮していく。
花粉はこの吸い込む過程を、わかりやすくするための演出だ。
円柱内に圧縮された空気は、機械内部で花粉を巻き込んで発熱し、機械の形に合わせて空気とは思えない硬度持つ、真っ赤に燃える円柱に変化した。
マグネティックサイクロンバンカーとは、この一連の工程で作成した空気の円柱を、魔法で状態保持して、更に電磁加速で打ち出す武器なのだ。
魔法現象によって磁力のバレルが円柱先端から出現する。
ゴガンッ!と轟音が響く。
グレートボルトバスターEXと同じく、オゾフロのカウントダウンで赤熱する空気の円柱が発射された。
発射と同時に魔法のバレルが空気の弾丸に回転を加え、役目を終えたバレルは弾丸を撃ち出すと同時に、割れる硝子のような音を立てて光の粒子となって四散した。
打ち出す瞬間に魔法で成型された円柱は、銃の弾丸のように先端が鋭く尖り、極太の空気の弾丸が空気を引き裂き、凄まじい勢いでハンモウの操る苔色のバルディッシュに向かって直進。
正面から苔色のバルディッシュⅣが持つ大盾と弾丸が激突した。
衝撃を受け流し切れなかった証拠である、激しい衝突音が鳴り響く。
バルディッシュⅣが構えた腕ごと、大盾を大きく歪がませて苔が飛び散った。
手首は折れて、部品が周辺の苔と一緒に飛び、脱落して地面に落ちる前に光の粒子となって消えていく。
物理現象や魔法現象を滑らせる<防御蘚苔>は無敵のような能力だが、弱点はある。スキルの要である苔の耐久力自体は余り高くない。
グレートボルトバスターEXや、マグネティックサイクロンバンカーのような攻撃が直撃すれば土台から剥がされてしまう。
大きく体勢を崩した苔色のバルディッシュⅣに追撃が発生する。
大盾に突き刺さった赤熱する空気の弾丸が、衝突によってその形を維持している力場が崩壊。赤い弾丸型に圧縮と成型された膨大な空気が、その空気が孕む膨大な熱が、一気に解き放たれて爆発する。
空気の弾丸の直撃で、苔を剥がされていた大盾中央が<防御蘚苔>を発動できずに爆発の直撃で大穴が空いた。
大盾に空いた穴で、一点に収束されてしまった爆炎がハンモウの操る機体を激しく打ち据える。
大盾の実体が崩壊し、光の粒子となって消滅。粒子化する大盾の光を、爆発で解放された赤熱光が上書きして掻き消していく。
赤熱光は爆発で砕かれた床を更に焼滅させ、衝突した大盾と中心にクレーターを穿った。
その爆発の威力は十キロ先から魔法の防壁越しにオゾフロ達にたたき付けられた爆風が物語っている。
爆発で破砕され、数メートル低くなった床にハンモウの操る苔色のバルディッシュⅣが滑らかに着地した。両腕はひしゃげているが、それ以外の破損は無く苔も無事だ。
直撃した空気の弾丸の衝撃を受け流せなかったが、爆風はほぼ受け流した為に苔色のバルディッシュⅣは爆発の影響を殆ど受けていない。
爆発で炙られ、熱で空気を歪ませるクレーターに着地した苔色のバルディッシュⅣから、衝撃で僅かに苔がポロポロと落ちる。これは熱で乾燥したためだ。
熱も受け流す事が可能だが、スキルの使用には苔の水分を消費する。ハンモウの苔は水分が足りなくなると極端に効果が落ちるという弱点を抱えている。
普段はこの弱点をカバーするために、ハンモウが操るレガクロスには、水分供給と維持をするための水を発生させる魔法が組み込まれた、貯水タンクが増設されている。
試射場の建材に使われている、爆蜜蜂由来の炎熱吸収素材で冷却が間に合わないため、換気システムがフル稼働を始めた。天井のファンが稼動し、熱を屋外に吸い出していく。
再び試射場の距離が元に戻された。
機体の拡声器でマグネティックサイクロンバンカー評価を簡潔に述べて、ハンモウは両腕が破損した苔色のバルディッシュⅣから飛び降りた。
彼は非常口のピクトグラムを想起させる、全体的に丸い造形の簡略化された人型の姿をしていた。身体の表面が苔に覆われている為、水々しい緑色である。
ハンモウはゲームとは言え、ワザワザ真っ正面から恐ろしい威力の武装での攻撃に晒された。死んだ所で、ゲルドアルドとは違ってなんの弊害は無いが、身体は緊張する。
少しでも緊張を解すために軽く身体のストレッチを始めた。全身が苔に覆われた岩で構成されているハンモウに、筋肉は存在しないので意味は無いが、精神的な意味合いが大きい。
ブラウリヒトが使用感をオゾフロに問われて伝え、ダイ・オキシンが魔法技術の観点からの、小難しい評価をオゾフロに再びバッサリ切られて、ウミネコが顔の雲丹を振るわせながら極普通な感想を言う。
そんな賑やかな端で、大玉西瓜よりも大きな頭部の四分の一を砕かれ、内部の細やかなハニカム構造と、中にタップリと詰まった蜂蜜を晒してゲルドアルドが机に突っ伏していた。
同年代と比べても身体が小さいティータを体格差で大人気なく圧倒していたが、蜂蜜を求める彼女が内に秘めるアイゼルフの誇る超兵器レガクロスロードの時間操作の力を使った本気の攻撃を受けて、頭部のハニカム構造ごと蜂蜜をえぐり取られ、ゲルドアルドは痛みで机に突っ伏すはめになった。
時間を停止して攻撃する。時を扱える一部の特殊な住人のみに行使できる、今だプレイヤーでは誰も使うことが出来ないこの魔法の前ではゲルドアルドは無力だった。
この危ない武装試射会に、住人の王族であるティータが参加しても誰にも咎められないのは、爆発してここが吹き飛んでも彼女は余裕で脱出できるからである。
彼の隣でティータは、えぐり採ったゲルドアルドの一部を、硬い表面の蜂の巣の外殻削ぎ落とし、ハニカムに至高の蜂蜜がタップリ詰まった蜂の巣を可愛いらしい小さな口でモグモグと食べている。
ゲルドアルドは痛みで混乱して咄嗟の対応に支障が出る自体が度々発生しているため、痛みを和らげるマジックアイテムを破損したアクセサリーの代わりに装備していた。
ただ普通にゲームしていた時には「痛覚制限されてるのになんの意味があるのか?」と考え、死蔵していたアイテムだったが、今のゲルドアルドには必須の効果を持つアイテムだ。
その効果で、叫び声こそ上げず、ゲルドアルドは机に突っ伏してビクンビクン痙攣するだけで済んでいた。
このギルドではよくある光景なので、ウロボロス(仮)武器コンテストはゲルドアルドが痛みで痙攣している間もつつがなく進行している。
「なんという美味なのじゃ」
ティータは感動に身体を震わせて御満悦。蜂の巣の魔人ゼークハーブの因子が時間を追うごとに馴染んでいくゲルドアルドの蜂蜜は一口前よりも僅かに美味しい。
身を守るためにもっと強力なマジックアイテムを用意しようとゲルドアルドは密かに決意した。
ハンモウは新たにオゾフロが<アイテム召喚>で召喚したバルディッシュⅣに乗り込み、同じくスキルで召喚された大盾を手にして、スキル苔を生やして準備している。
ブラウリヒトもパンツァーブルーダーで、ゲルドアルドが沈黙しても仕事を行う大蜜蔵蜂が運んできた、試作武器を受け取り構えている。
机に突っ伏しているが意識はちゃんとあるゲルドアルドが、オゾフロに言われるがままにMPを武器に供給して、充分なMP注がれたパンツァーの構える武器が、ハンモウの操る苔色のバルディッシュⅣに向けて発射される。
ゲルドアルドは武器の名前を聞き逃してしまったが、何やら凄まじい振動と衝撃が魔法の防壁越しに伝わって来た。
頭部の破損が修復され、気力を取り戻したゲルドアルドが幻影投影機に目を向けると、透明な例えるなら水の激流のような歪みの流れを、大盾と<防御蘚苔>で受け流しているバルディッシュⅣが見えた。
ダイ・オキシンの無駄に長い解説なのか評価なのかわからない話を聞くと、彼の専用機グレートキングデーモンの両腕に搭載されている重力砲の大型版らしいと、ゲルドアルドはなんとなく理解した。
その後も次々と強大な威力誇るが、呆れるほどMPを消費する武器が、ハンモウの操る苔色のバルディッシュⅣに向けて放たれ、ゲルドアルドは有り余るMPでウロボロス(仮)搭載予定の武器にMP供給しつづける。
【ヴォルテックスグランドクラッシャー】
稀少金属を圧縮成型したマキシマムヘビーアダマンタイト製の掘削円錐ドリルと、超重量の掘削ドリルを回転させる特別製のMPモーターが、起動させるだけで竜巻すら発生させる掘削兵器。
触れた物を分解する魔法が付与された現状最硬のドリルは、理論上どんな物でも貫く必殺のスーパードリルだが、ドリルの重量が重過ぎて一回転させるだけでもサンダーフォーリナーが一時間全力稼動できる程のMPが必要。
【プロミネンスバーストビーム】
特殊な魔法装置内で生成された極小太陽が、放出する光線とエネルギーに指向性を持たせ、前方に向けて照射する巨大な太陽ライトが、真っ白に染め上げながら、なめるようにあぶり尽くす光線兵器。
一瞬、照射すれば目は焼かれ、照射し続ければ目の痛みを感じる前に膨大なエネルギーで対象を粉砕。塵も残さず焼き尽くすスーパーライトだが、極小太陽を生成するのにMPが尽きて制御に失敗した一号機は爆発した。これは二号機である。
【ビッグパニッシャーバベル】
タンクに充填された金属系スライムを加工した液体金属が、瞬時に硬質化して太さ五メートルの巨大パイルに変形しながら、電磁加速で打ち出す超射程破砕兵器。
巨大パイルは打ち出されたら、その間に何があろうとも二十キロ先に瞬時に到達する……筈だったが開発当時はMPが足りず、金属スライムぶちまけるだけで終了した。今回はキチンと動作し、距離設定をミスった試射場を貫通してしまった。
【トライオキシジェンデストロイヤー】
周囲の大気を吸引して酸素を奪い取り、大量の高濃度オゾンガスを生成して放出する。周囲の酸素消費によって引き起こされる酸欠と、ガスによる突風と高濃度オゾンによる中毒で生物を弱体化させ、点火装置によって高濃度のオゾンガスは大量の酸素に転化し大爆発を起こす。
この武装は相性の関係で、ハンモウ操るバルディッシュⅣ相手では効果がよくわからないので、<キメラ召喚>で召喚された複数のキメラが実験台になったが、悲惨な光景だった。
使われたどの武器でも、ハンモウの乗るバルディッシュⅣは原型を留めているため、威力が微妙に思えるが、物理現象や魔法現象受け流すハンモウの<防御蘚苔>が無ければ、どんな素材でも跡形も無くなるという結果は変わらないので、こちらの方がわかりやすいのだ。
今回、ゲルドアルドはウロボロス(仮)の動力源として、武器の消費MPを計り機体に搭載できるか考える役目がある。
いくら強力で、このギルドが酔狂な人物達が揃っているといっても、一応実戦での運営を考えなければならない。
一発撃っただけでMPが尽きるようなロマン武器を幾つも搭載しても、暫定異世界に行く前のゲルドアルドが操るサンダーフォーリナーのように、全力戦闘が三十分しか出来ないのではロマンがあっても格好悪い。
「次はグランドクロス・エクスプロード・ドゥームズディ・ビームエフェクター。開発はモンスタームービー研究部…………おい、ダイ・オキシン、なんで怪映研が武器出してんだ?」
武器コンテストという名目の会場とは場違いな名前があることに気づいたオゾフロが、進行表を用意したダイ・オキシンをギロリと睨みつける。可憐な少女の姿に似合わない凶悪な視線を受けて、胡散臭い笑みを顔に浮かべるダイ・オキシンが立ち上がった。
「会場に来ていますのでどうぞ本人達から聞いてください!」
ダイ・オキシンは笑顔で丸投げした。ついでに魔法で問題のモンスタームービー研究部の頭上に光を発生させて彼らをスポットライトのように照らし出す。ビクゥと照らし出されたモンスタームービー研究部代表の二人の肩が跳ねる。
モンスタームービー研究部……通称【怪映研】はキメラ、ゴーレム、レガクロス等を利用した、その名の通りモンスターが出てくる映画をスキルを駆使して撮影している研究部だ。
アニメートアドベンチャーは一度作ってしまえば怪しげな廃屋等を<アイテム召喚>等のスキルで自由に呼び出せるの撮影が非常に捗る環境である。
捗ってもモンスターが暴れて人々が殺戮されるという映画は、ここではとても見慣れた光景であり、住人にもプレイヤーにも全く需要が無いが。
災害シュミレートと言った方面では少しだけ需要がある。
この世界で人気のジャンルはこの世界で古くから、もしくは地球から輸入された童話や、ドラゴンを倒して姫を救う勇者のような手垢に塗れた英雄譚が好まれている。
ゲシュタルトに吸収された下部の生産ギルドの一つで、ゲシュタルトは吸収したギルドの内、怪映研のように単純にアイテムを作成するのではなく、娯楽作品の研究等をしているギルドを研究部という形で名前を残して活動させていた。
オゾフロは、やたら滑稽で荒唐無稽過ぎて、意味不明でハチャメチャな話ばかりの妙なモンスターが出てくる映画をひたすら撮影している怪映研をギロリと睨む。
「てめぇら!こんなところで油売ってんじゃねぇ!ネオザウルスⅨは何時になったら見れるんだ!!」
そうオゾフロが叫ぶと共に<アイテム召喚>で彼女の手の平の上に召喚された、鋭く短い刺が生えた鉄球が、鍛冶特化の鉱人の、しかも【Unlimited】ジョブ取得者特有の、桁が違うレベルから生まれる凄まじい筋力で投げつけられる。
投擲系のスキル等は使われていないが、その威力は戦闘特化のジョブ構成でも直撃すれば一撃で沈める威力があった。
怪映研は少人数で主役の怪物、部隊、背景製作からアクション俳優まで幅広く自分達でやるため、生産も戦闘もこなせるジョブ構成になっているが直撃すれば間違いなく死ぬ。
そして彼らを含む、この会場に居るギルメンはギルマスである彼女の短絡的な性格をよーく理解していた。
「「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」」」」
魔法現象のスポットライトで照らされた怪映研含む、周辺のギルメン達はオゾフロが手の上に何かを召喚した時点でその場から悲鳴上げながら逃げ出していた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?熱烈なファンだ!!?」
「うれしい!でも怖い!でもうれしいぃぃぃぃ!!」
床を砕き、小さなクレーターを作った、鉄球の着弾の衝撃で吹き飛ばされながらの怪映研の嬉しい悲鳴である。
ネオザウルスとは、彼らの代表作である現代に甦った古代モンスターと人類の戦いを描いたモンスターパニックだ。
現在ネオザウルスⅧまで公開されている。
ギルマスのオゾフロ、サブマスのゲルドアルドと言ったゲシュタルト内でも大きな金を動かせる有力なパトロンの支持があるため、そのなんとも言えない話の内容の割に、映像的なクオリティはとても高い。
彼らが開発した兵器は、やたらとビカビカ光るド派手で色彩豊かな光線を発射して、着弾すると身体に悪そうな色合いの光の大爆発を起こすが、威力の全くない、終末兵器感だけがあふれるジョーク兵器だった。
かなりのMPを消費するが、幻影系の魔法スキルの応用で他の武器の見た目をこれに変更できるそうだ。
面白いのでこれも採用されることになった。
お読みいただき、ありがとうございました。
申し訳ありませんが次回更新は未定です。今月中には第三章終わらせたいのですが、来月まで縺れ込むかもしれません。
執筆が終わり次第、活動報告で連絡致します。
評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。




