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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
決戦兵器編

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超大型MP増殖炉

やっとレガクロスのメイン動力、MP増殖炉の設定を出せた

 


【プロジェクト・ウロボロス】……それはアイゼルフ王国最大の生産ギルド、ゲシュタルトのギルドマスターであるオゾフロが「すっげぇー!でかくてゴッツイの創ろうぜ!!」という鶴の一声で始まった。

 現在最大の大きさを誇るレガクロス(モドキ)のサンダーフォーリナーを超える、三百メートル級の超巨大人型ロボット兵器作成計画である。


 計画名のウロボロスは【己の尾を喰らう巨大な蛇(竜)】というオゾフロのイメージから【蛇(竜)を喰らう巨大なモノ】という理由でつけられている。

 蛇(竜)が指す対象は、今だその蛇の如く長い下半身の大半が黒いテックマウンテンに埋没したままの、邪神オブシディウスのことである。


 十メートル級の人型ロボットのレガクロスを作成し、量産する技術が存在するこの世界であっても、三百メートルという馬鹿げたサイズの巨大なレガクロスを作成するのは様々な問題が発生する。


 問題は大きく分けると五つ。


 一、資金。

 アニメートアドベンチャーはゲームであるが、経済と流通が存在している。まず金がないと始まらない。


 二、国。

 死んでも蘇るプレイヤーを普通の法で縛るのは難しい。プレイヤー同士の色々なイザコザは国や民に被害が及ばない限り関知しないというのが基本だが、国に無断で三百メートルという巨大レガクロスを突然作成して運用ずるのは問題が有りすぎる。


 三、資材。

 この世界に存在するモンスターや魔法、その中にはレガクロスの材料に使える素材が採れるモンスターや、MPとCPを消費してローコストで金属などを生成する魔法が存在する。そんな環境でも三百メートルという巨体を作成にする資材を集めるのは辛い。

 巨体に超人、奇人がインフレしていくこのゲームの世界の戦闘に耐えられる強度を与えようとすれば使う資材は高額、希少、扱いが難しい、の三拍子揃った物になる。


 四、動力源。

 当たり前だが三百メートルの巨体が動くには尋常ならざるエネルギーが必要である。それは通常のレガクロスに搭載されている搭乗者が一定のMPを消費することで起動して、一のMPを十倍~三十倍にする通常のMP増殖炉では到底賄えない。MPの量はレガクロスの攻撃力に直結する。装甲や骨格を魔法で構造強化も行うためMP不足は致命的だ。


 五、重量。

 三百メートルというレガクロス……それは三百メートルの金属の塊と同義である。自重の増加はそれだけで機体の鈍重さを産み、MP消費も増大する。三百メートルという巨体を何も考えずに作成すれば腕を持ち上げただけでMPが尽き、自重で機体全体が崩壊してもおかしくない。せっかく作ったのに動くことすらままならず崩壊すればゲームと言えど作成に携わったプレイヤーの心に虚無が生まれる。


 この五つの問題の内、資金、資材、重量の三つの問題を大体解決出来るのが、ギルドの無限の雑用係こと三人のサブマスターの一人、蜂の巣の魔人ゲルドアルドである。


 生産職ゲルドアルドの最大の特徴が、蜂の巣の規模に比例して生産系のスキル使うのに必要なMPとCPが増えることにある。

 更に生産系スキルを使える大蜜送蜂(ハニービーワーカー)や、大蜜錬蜂ハニービーアルケミストを召喚、作成して使役することが可能であるゲルドアルドは、生産ギルドゲシュタルトに所属するプレイヤーの中でもアイテム作成の為の中間素材や、回復薬等の消耗品の大量生産を、最も得意とする生産プレイヤーだ。


 ゲルドアルドは三百メートルという、巨体を構成する膨大な量の素材を、蜂の巣さえあれば、個人で誰やりも簡単に安く用意することが可能だ。品質もソコソコ高い。


 何も全て高級品で揃える必要は無いのだ。

 何事にも適切な妥協が必要であるし、ゲシュタルトならゲルドアルドが用意した、ソコソコの良質な素材を良質に出来る技術と熱がある。


 重量面も巨体の一部をゲルドアルドがジョブ<蜂巣要塞>の固有スキル<フライングハイブ>で作成できる、浮遊する蜂の巣を利用することで、かなりの重量軽減に成功している。


 ゲルドアルド専用レガクロスのサンダーフォーリナーと同じ方式である。


 残る二つの内一つ、国の問題は元々ゲシュタルトは国との関係が良好なギルドであったため、色々と条件をつけられたが、比較的簡単に解決することができた。


 残る最後の問題は動力源。これもゲルドアルドが解決出来ると最初は楽観視されていたのだが……。




 ◆




「マジか、本当にコイツが起動しやがった」


 オゾフロは防音対策が念入りに行われた強化ガラスに顔をベタリと張り付け、驚愕に大きな目を限界まで開いていた。それほどまでに目の前の光景は彼女にとって信じがたい物だったのだ。


 ガラス越しにオゾフロが見ているのは、通常のレガクロスの一・五倍はある巨大なMP増殖炉。名前はそのまま【超大型MP増殖炉】と呼ばれている。

 これはプロジェクト・ウロボロスの為に用意された物だったが、ある致命的な欠陥が判明したことで倉庫で埃を被る事になったアイテムだ。


「ゲルさん残りMPは?」


 オゾフロと同じように驚愕しているダイ・オキシンが、ガラスの向こう側にある超大型MP増殖炉に繋がるMPケーブルを握っているゲルドアルドに尋ねる。

「起動するのは現状では不可能」と言われ、倉庫に仕舞われていた超大型MP増殖炉をゲルドアルドは起動させたのだ。


 顔を強化ガラスにベタリと、顔面を張り付かせ、平たく端正な緑人の顔を押し潰すダイ・オキシンの姿はオゾフロと違って可愛いげはなく、ただ滑稽だった。


「まだまだ余裕です」と意識して澄ました顔で……彼には表情筋は存在していないのでそのような努力は必要ない……言ったゲルドアルドだったが、超大型MP増殖炉の起動に一割近くMPを持って行かれた事に内心ビビっていた。


 ここはゲルドアルドの自室がある蜂の巣とは別の蜂の巣。


 下手に資金力と技能が高いため、とりあえず限界を超えようとして、良く爆発するゲシュタルト製のアイテムを使った実験をレディパールの住居でもある、マイホームでやる勇気も無謀もゲルドアルドには無い。

 実験用にゲシュタルト敷地内の別の場所に用意されたこの場所で、再び行われた超大型MP増殖炉の起動実験は成功した。


 その結果にオゾフロとダイ・オキシンは驚愕に包まれているが、ゲルドアルドから見ると結果は微妙だった。


 今も暫定異世界で増築が行われている蜂の巣のおかげで、普通にプレイしていては実現不可能な、膨大なMPを保有しているゲルドアルド。その膨大なMPを一割近くも消費するという事実でわかる通り、超大型MP増殖炉にある致命的な欠陥とは、炉を起動するためのMP消費が重過ぎる事である。

 超大型MP増殖炉の完成当時、ジョブの補正で数値にして六桁のMPを保有していたゲルドアルドが、MP全て吸い取られても、起動すら出来なかった超大型MP増殖炉を、今なら起動できるだろうと試してみたゲルドアルドだったが、まさかここまでMPが必要だとは思ってもみなかった。


 MP増殖炉は一人のプレイヤーが、直接身体から搾り出したMPを一度に起動に必要な量を注入しないと起動しないので、実質使用できるのはゲルドアルドだけだろう。MPバッテリー等のアイテムに保存してあるMP等では、MP増殖炉は起動しないのである。


 そしてこれだけ消費しておいて増殖値はたったの十万倍。


 凄まじい数値だ。長い目で見ればゲルドアルドの総MPは、尋常ならざる数値になる。しかしそんな長時間超大型MP増殖炉を利用する状況というのをゲルドアルドは想像できなかった。


 彼から見ると保有する膨大なMPを一割も消費して増殖値はそれだけ。そもそも現状でも使いきれていないMPを無駄に殖やすだけの結果だ。MP増殖炉使用中はMPの自然回復も疎外される。使い勝手が悪すぎた。


 重くて巨大で、今もMP増殖炉特有の騒音……というかもはや何らかの振動攻撃といったレベルで放出されている超振動。防音装置がなければダメージを受けるのでは?と考える程の、駆動音を出すアイテムをワザワザ使用する意味は無いと彼は断言できる。


「いや、MPどんだけあんだよ」


 強化ガラスに顔面をピタリと押し付けていたのが、丸わかりの跡が残るオゾフロの顔がゲルドアルドに向けられる。容姿が可憐なのでどこか微笑ましい。


「それだけあったら普通にウロボロス(仮)動かせそうですね……」


 ダイ・オキシンがオゾフロと同じ行動をするが、容姿の方向性が胡散臭い美形である彼の方は彼女と違って可愛いげがなく、ただ滑稽で無様だ。


 オゾフロとダイ・オキシンの両者に呆れた顔をされるゲルドアルド。

 むしろ使わない方が増殖炉よりも小さく騒音も無く、MPの自然回復がある分、MP増殖炉を使うよりもゲルドアルドは動力源として優秀である。


 ただ超大型MP増殖炉にも使い道が無いわけではない。


 最近取得した呪い系魔法スキル<ギラギラゴールド>を使っている内に判明した、ある効果を利用することでゲルドアルドには面白い事が可能になっていた。せっかくなので二人提案してみたゲルドアルドに二人から好感触が帰ってくる。

 不幸中の幸いでゲルドアルドが暫定異世界に言っていた間、動力源の目処が立たないウロボロスの関係の作業はストップしていた。ゲルドアルドの提案に必要な作業は極僅かな変更で済む。


 実行に移せば色々な事が可能になる提案に、三人は生産談義で花を咲かせて盛り上がった。

 そして三人してその話題で盛り上がっていたため、その異変に気付くのが遅れてしまった。


 ビキィ!


 という硬質な物にヒビが入る不穏な音に、最初に気づいたのは誰だったのかわからない。三人が音がした方向に向いた時には既に手遅れだった。

 大型MP増殖炉の殺人的な振動にも耐えた、強化ガラスは全体に無数のヒビ走り、その向こう側が白濁して見通せなくなっていた。


 ヴァォォォォォォォォォォォォォォォォー!!!!


 完全に強化ガラスや魔法装置で遮断されていた筈の超大型MP増殖炉の駆動音。それが強化ガラスの断末魔の悲鳴と破片を撒き散らしながら響きだす。


 そして限界を迎えた。


 振動対策の魔法装置の効果をぶち抜かれ。様々な防御措置が施された強化ガラスを粉砕した、超大型MP増殖炉から発生した騒音は、音や振動等といった枠組みを逸脱し、ただの破壊エネルギーと化している。

 そのエネルギーをまともに浴びた、三人の中で最も耐久性が低いダイ・オキシンが木っ端微塵にはじけ飛んだ。ダイ・オキシンは光の粒子となって消え失せる。


 不幸にも、その振動に耐えられる耐久性を持っていた、ゲルドアルドとオゾフロは、そのままガラス破片とともに吹き飛ばされ、壁にたたき付けられる。


「「ーーーーーーーーっ!?」」


 二人の悲鳴は圧倒的な破壊エネルギーに掻き消され、一切聞こえない。壁に圧倒的なエネルギーの圧力で押さえ付けられ彼らは指一本動かせない。


 オゾフロが装備する、デミゴッズの強力なマジックアイテムの筈のトンガリ帽子や、豪華なローブは金属の装飾が砕け散り、袖や裾の端から裂けて細切れになっていく……しかしそれはゲルドアルドに比べると随分とましなダメージだった。デミゴッズの高性能なマジックアイテムの数々が自ら犠牲にしながら、オゾフロの装備で覆われていない剥きだし素肌も守っているからだ。


 装備できる大きなアイテム枠が、腰部一つしかないゲルドアルドはデミゴッズのアイテムを一つしか装備していない。

 小さなアクセサリーアイテムなら他に複数装備しているが、小さなアクセサリーは高くてもミソロジーだ。デミゴッズ位階に仕上げるのはゲシュタルトでも非常に難しい。

 作成できるプレイヤーはゲシュタルトに所属しているがコストが高く量産できない。殆どがブラウリヒトが率いる戦闘班に融通されている。


 彼の装備は腰部に装備したデミゴッズの腰巻き以外は、粉々に砕け散り消滅した。不幸なことに、防御とは別の能力に要領を使っていたその装備は、オゾフロの装備のようにゲルドアルドの身体を守る能力に欠如していた。


 ゲルドアルドの顔にある、檸檬型の密色の結晶の目が振動でひび割れて砕け散る。そればかりかギラギラと趣味の悪い黄金色に輝く身体の全身に無数のヒビが走った。

 ヒビが入って脆くなった身体が、エネルギーで押し潰され、割れた目や全身のヒビ、間接から大量の至高の蜂蜜が押し出されて血の代わり周囲に飛び散って行く。


 三人には強化ガラスがヒビで白濁して見えていなかったが、ゲルドアルドが起動させままだった超大型MP増殖炉は、自らの振動で様々な場所に破損が発生していた。

 自壊して停止するならまだ安全だったが、そこは「とりあえず限界を超えよう」とするやり過ぎゲシュタルト製のマジックアイテム。


 耐久値限界を迎えた超大型MP増殖炉は、その巨体と注がれたMPの量に相応しい、ド派手な爆発を発生させる。発生した爆発で流石の頑丈さを誇るが鉱人のオゾフロもHPが全損し光の粒子となって消えていく。


 そして不幸にも最後に残ったゲルドアルドは……。


「ゲァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァー!!?」


 何処にも聴こえる事が無い悲鳴を上げて一人耐えていた。


 蜂の巣の中での実験だったのが災いする。


 ゲルドアルドの防御に関するステータスは低い。しかし蜂の巣の中に居ることで、ジョブの効果で得ていた膨大なHPはそれを補って余るものだった。

 最初に半分以上HPが消し飛んだ為、見た目の損傷こそ酷い物だが、振動のダメージや爆発のダメージをジョブのスキルで発生しているHPの秒間回復が、爆発のダメージを相殺してしまい、ゲルドアルドに終わらない苦しみを与えつづけている。


 本来なら「身体が潰れて痛い」「爆発で焼かれて痛い」という情報がそこそこの衝撃と共に脳に伝わるだけなのだが、現実にこの世界に存在してしまっているゲルドアルドにはその痛みが痛覚に直接襲いかかる。


 潰されても生命維持に支障が出るような重要器官が存在しない、という蜂の巣の魔人としての肉体の特性が、全身が砕け、すり潰され、炎で焼かれるという苦痛を、ゲルドアルドの貧弱な精神に余すことなく届けていた。地獄である。


 救いはゲルドアルドの能力すべてが、裏目に出ている地獄は長続きしないという事だった。大地震に襲われたような超大型MP増殖炉が生み出す振動にも爆発にも、耐えている実験場となっている蜂の巣だが、その頑丈さはゲルドアルドの<蜂巣要塞>のジョブの補正に依るものだ。


 超大型MP増殖炉の崩壊で発生した爆発は通路を駆け巡り、ある部屋へと到達する。そこには蜂蜜結晶で作成され蜂の巣と蜂の巣を繋ぐハニークリスタルポータルのある部屋だ。

 部屋に到達した爆発が中を蹂躙してハニークリスタルポータルを破壊した。これにより暫定異世界の巨大蜂の巣との繋がりが消滅したゲルドアルドは、今いる実験場になっている蜂の巣の規模の補正しか受けられなくなった。


 HPが激減し、それに合わせてHPの自然回復量も大幅に下がる。


 ダメージを相殺出来なくなったゲルドアルドは、爆発の熱で焼き尽くされて光の粒子となって消え去る。間もなくゲルドアルドが消滅したことでジョブの補正を受けられなくなった蜂の巣も爆発に耐え切れなくなり、ゲルドアルドの後を追うように巣は内側からはじけ飛んだ。


 不幸中の幸いで、この蜂の巣の実験場は暫定異世界に行く前から他の純粋な魔法職プレイヤーと比べても、莫大なMPを保有できるゲルドアルドをエネルギー源にして実験が行われる場所だ。


 そのため爆発したときの対策が入念に行われている。


 蜂の巣の周りは分厚い金属の筒で覆われており、被害が拡がらないように巣が吹き飛ぶような爆発が発生しても、爆炎と衝撃が上に向けて抜けるようにしてある。

 専用に用意された魔法装置でも爆発の誘導が行われ、今回の爆発事故でもそれは完璧に動作した。


 実験場から立ち上った巨大な火柱は、遠くアイゼルフ首都にある王城シルバートライデントからでも見えるほど、とても立派で美しい物だったという。

次回更新は、明日の昼の12時の予定です。


お読みいただき、ありがとうございました。


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