プロローグ・扇動者達
第三章投稿開始です。
でもまだ執筆終わってないので途中で更新止まるかもしれません。
余裕が無いので映画の感想も無しで行きます。
ゲルドアルドが普通にゲームをプレイしていたころの無双話をチラッと。
染み一つ、埃一つ存在しない純白の四角い部屋。
同じく染みも埃も存在を許されない、白い円卓に並べられた五つの席に普人族、獣人族、緑人族、鉱人族、魔人族の五人の人物が座している。
彼等はアニメートアドベンチャーを大勢の人間達が思っているように普通のゲームのように語るのならばGM、もしくは運営という立場のディセニアンである。
「えーというわけで、私が担当するアイゼルフ王国から行われた、世界精霊への攻撃と思われた現象の元凶及び原因は全く不明という訳です」
一週間前に発生した未曾有の大事件。アニメートアドベンチャーの舞台となっている【大陸】を管理する世界精霊の一柱が、致命傷を負わされ、機能を停止した事件の調査報告を終えた緑人の男性が、肩を竦め説明を終えて席へと座りなおす。
彼はアイゼルフ王国でディセニアンの扇動担当している人物。
ギルド【ゲシュタルト】創立に関わり、多くのディセニアンを導き彼等の目的の一つ、アニメートアドベンチャーを盛り上げることに多大な貢献をしたことで名誉ある円卓の一員に選ばれた者。
名は【ダイ・オキシン】とこの世界では名乗っている。
世界精霊と、世界精霊が制御しているコマンドメニューやログイン、ログアウト処理、セーブポイント等のゲーム的な部分を担当しているのは別の部署なのだが、事件の発生地点がダイ・オキシンが担当するアイゼルフと推定されているので円卓メンバーとして彼も調査に加わっていた。
「死ね」
緑人の隣、円卓に座する白と黒の縞模様の体毛を備えた獣人の女性が汚物でも見る目で、絶対零度の声色の言葉のナイフがダイ・オキシンに放たれる。殺気すらも声には滲んでおり、無関係な残りの円卓メンバーを寒くも無いのに背筋をひやりとした感覚が襲う。
「気持ちはわかりますけど、幾ら何でも辛辣過ぎませんか?」
知識はあるが、発生地点がアイゼルフだったとはいえ、世界精霊に関する事は本来はダイ・オキシンの担当外。
とはいえ、名誉ある円卓に座する者として情けないにも程がある調査結果だったので、そう言いたくなる気持ちは彼女の私怨が過剰に混じっていると察していても、ダイ・オキシンにも痛いほどわかるが、その言葉は余りにも本気で鋭過ぎた。
尿意や排泄等の生理現象に関する事柄はゲームとして公開するなら邪魔でしかないのでディセニアンには実装されていないが、実装とされていたら、彼女からたたき付けられた殺気で、漏らしていたかもしれないとダイ・オキシンは考えてしまった。
「あぁ、すまないねぇ。ちょっと公私混同してしまったよ、忘れておくれ」
その言葉とともに漏れていた彼女から滲み出していた殺気がピタリと収まる。彼女以外の四人は安堵の溜息を漏らした。
彼女はアイゼルフの隣国、修羅の国と呼ばれる【ビースウォート】を担当する人物。この世界では【カイナ】と名乗る獣人の女性だ。
彼女も方法は違うがビースウォートでダイ・オキシンと同じように多大な貢献をして円卓のメンバーに選ばれた者であるが、ビースウォートは約一ヶ月前にアイゼルフに宣戦布告されてアイゼルフ軍とゲシュタルトの技術とメンバーによって多大な被害を被った。
単体の戦闘力は各国の中でも一番、国民全員が戦力等と呼ばれていたビースウォートはアイゼルフ相手に前評判を覆されて大敗。取り分け戦闘力に自信とこだわりがあった彼女の誇りは派手に傷付いた。彼女の言う公私混同とはそういうことである。
(いやーもーやりくいですねぇーまさかギガルス陛下のあの性格でビースウォートに喧嘩を売るとは思わなかったですし、邪神戦用に構想を練っていたサンダーフォーリナーのメテオキャノンを隣国に真っ先に撃ち込むことになるとは思わなかったですし……もー!ゲルさんもー!!別にゲルさん一人のせいじゃないけど、もー!!!)
心の中で荒ぶりながら、顔には涼しげな笑みを浮かべるダイ・オキシン。突然金色に変化したギルドに所属する蜂の巣の魔人に巨大な回転研磨機を押し付けて震わせるイメージを想像して心を鎮める。
磨けば磨くほど、再現無く輝く金色の身体が気に入ったのかゲルドアルド配下のモンスターのハニービー達が彼を磨いている姿が最近ギルドでよく見られる。
(まさか、呑気に蜜蜂を愛でてるゲルさんにあんな恐ろしいスキルがあるなんて想像できる分けないですよ!!)
ダイ・オキシンはGMと言える立場だが、ディセニアンの保有スキル等自由に観覧できる訳ではない。ましてや、ファーストジョブと個人のパーソナルで、ジョブやスキルが自動生成される魔人族であるゲルドアルドが保有するスキルを把握するのは不可能だ。
アイゼルフとビースウォートの戦争で一番活躍したのは誰か?と問われれば、真っ先に名が上がるのはゲルドアルドである。
敵の城を一撃で傾かせたメテオキャノンとそれを放った巨大レガクロス、サンダーフォーリナーの異様。
そしてその後に起こったゲルドアルドのたった一つのスキルによって起きた惨劇は筆舌に尽くしがたい。
城を破壊され、怒り狂ったビースウォートのダイアレスやディセニアンを地獄に叩き落としたスキルの名は<アレルゲンポランミサイル>。
ゲルドアルドのジョブ【重花粉誘導弾】のジョブスキルは、ステータスのHP、筋力、頑強、敏捷……俗に言う物理ステータスが高い程、症状が重くなる【重花粉症】という、通常の状態異常の回復方法では回復できない、バッドステータスを発生させる花粉を無差別に広範囲にばらまくスキルだった。
強者であれば必ず持っている状態異常の耐性スキルや、耐性系マジックアイテム等を装備で更に症状が酷くなるというおまけ付き。
それは肉体的に強ければ強いほど重症化し、治すには毒等の状態異常や、ステータスを低下を引き起こす魔法効果や薬を使うか、花粉が無い場所まで逃げるしかない。
物理ステータスが他の種族より早く大きく成長する獣人が、ダイアレスやディセニアン問わず多数所属するビースウォートにとって、そのスキルは余りにも致命的であり、空調装置が標準装備のレガクロス等の戦闘車両が標準のアイゼルフには有利でなんの影響も無いスキルだった。
呼吸困難になるほどの激しいくしゃみに、前が見えなくなるほどの涙と鼻水を溢れさせたビースウォートの戦士達を、ゲシュタルトが開発したバルディッシュⅣが草でも狩るように容易く葬っていく光景を地獄といわずなんと言うのか。相手のステータスが落ちる分けではないのでバルディッシュⅣの性能があってこその光景だったのだが。
特にダイアレスの有名所の無惨な死に様は未だに鮮明に目に焼き付いている。ディセニアンであれば死ぬと死体は消えるがダイアレスは残るのだ。
小山を砕き、音速で戦う一騎当千のビースウォートの猛者達。
それがまるで泣き疲れて眠る幼子のように、顔の穴という穴から、液体を垂れ流し、グチャグチャに顔を汚して、息も絶え絶えで地面に横たわる姿。
敵と言えど実行犯でも無いのに……いや、実行犯じゃないからこそダイ・オキシンは余計に罪悪感で胸がいっぱいだった。
(まー虫の息や死にたての有力者を回収したり、焼き払ったのは私なんですが……長いんですよねぇ、高レベルの獣人の復活可能時間……おーっとダメですね。今は目の前の事に集中しなければ……)
ビースウォートのダイアレスの強者の死体を回収して利用してる等、カイナに知られれば間違いなく殺し会いになる、戦争中の行為をしれっとゲルドアルドになすりつけているダイ・オキシンであった。
ダイ・オキシンは気持ちを切り替えるために、頭の中の想像上のゲルドアルドにより強く、回転数を上げた回転研磨機押し付けるイメージをしてそれた思考を軌道修正する。「あつつつつつつつ!あっつ!?」と想像上のゲルドアルドが高速で振動しながら悲鳴を上げているが無視する。
「……報告にはまだ続きがあります。精霊巫士達によれば世界精霊が結果的に傷付いただけで、あれは精霊に対する攻撃ではなかったそうです」
ダイ・オキシン以外の円卓に座する者達は揃って首を傾げる。世界精霊が一柱が致命傷を負って沈黙した。予期せぬ大陸のリセットが発生しかけたあの事件が方法はわからないが攻撃で無かったら何なのかと。
「あらぁんそれはどういうことなのぉん?」
円卓に席の一つに置かれている巨大な金魚鉢からゴボゴボとした音が聞こえる。それは円卓のメンバーの耳に届くとわざとらしい女言葉で喋る野太い男の声に変換されて脳内で再生される。
その声の発生源は、子供一人ならスッポリ収まるほど金魚鉢の中で泳ぐ、三匹のピンク色の金魚の内の一匹、金魚鉢の魔人族【モモチュ】だ。モモチュは頭部を担当する金魚が器用に小首を傾け、クネクネと金魚の身体で器用にしなを作りダイ・オキシンの話を即す。
彼は魔人族の巨大集落【ドランオスカ】を担当している。
「ディセニアンではない何かが、この大陸から地球へと侵入しようとしたというのが世界巫士達の出した見解です」
ダイ・オキシンの言葉に円卓がざわめく。この大陸の存在する何かが地球に侵入しようとした。彼等の目的とする事に非常に近いことだが、それだけにありえないと断言できることだった。
しかし彼等以上に世界精霊に詳しい精霊巫士達が出した見解となると無視することは出来ない。
「巫士の言葉を疑う分けじゃ無いけれど……とても信じられないわぁん、そんなことぉありえるのぉん?」
彼等の円卓に座する者達……とその関係者達の目的は、ディセニアン達がプレイ中に大陸でHP、MP、CPを消費することで発生する現在の地球には存在しない特殊なエネルギー資源と魔法や魔法が必要な技術等の知識の回収である。回収するエネルギー資源はリソースと呼称されている。
液体でも気体でもなく、ましてや固体でもないリソースには物質的特徴は無く、質量すら存在せず科学に縛られた技術では観測することも難しい。
魔法という精神と知識でリソースに干渉する技術を用いることで始めて利用することが可能になる。
リソースはディセニアンの大陸での仮初の身体に蓄積され、ログアウトと同時に世界精霊によって回収。地球に存在する施設へと贈られる。つまりこの大陸から地球へと繋がる道が存在している。
「これがなんとありえたのですよ……今回始めてわかったことですが」
リソースや知識以外のモノがそこを通るというのは不可能だ……と思われていた。
「そして今回の件の調査結果を元に巫士達と私はある仮説を経て、世界精霊の演算能力でシュミレートしてもらった所……私達は大発見をしました!!」
「と言っても先の事件を考えれば誰かが先に発見していたわけですが……!」その発見をした時の興奮を思いだしたダイ・オキシンの身振り手振りが興奮の余り大仰な動きになる。頬が朱色に染まり、声には喜色が含まれて楽しくて愉快で堪らないという様子だ。
込み上げる気持ちが彼の肩を震わせ、笑い声が漏れそうになる出しそ口を両手で左右から抑えるが忍び笑いが隠しきれない。
「貴方のその様子からして魔法に関する事だと思うのだけれど……勿体振らずに話を進めて欲しいわね」
「あかん、あかんってダイ・オキシンはん!ほらボクと君の隣見て隣!カイナはんが爆発しそうでボクオシッコちびりそうや!」
鶴の彫刻あしらった兜飾りの白い具足鎧を装備した普人の女性【村正】と関西系の訛りで話す艶のある赤茶色の分厚い生地の前掛けを装備する鉱人【オーサカスカブト】が慌ててダイ・オキシンの話を即す。
愉快そうに笑うダイ・オキシンを苛立ちを隠そうともせずカイナが睨みつけている。その横で興奮したダイ・オキシンに負けず劣らずの大仰なリアクションで自分の事を指し示すオーサカスカブトをギロリとカイナが一瞥した。
「煩いよオーサカ……!」
殺気こそ押さえられているが怒気で空気が歪んでいるように隣の席に座るオーサカスカブトには思えた。
円卓のメンバーは全員、第六ジョブの【Unlimited】を取得したレベル制限解放者。しかし、オーサカスカブトは鉱人なので筋力と頑強はソコソコ秀でているが細工系を中心の生産職なので、隣で純戦闘職のカイナに暴れられたらたまったものではない。
「ふふふふふふふふふっふっふぅぅぅー……っと失礼しました村さん、オーサカさん。カイナさんも怒りを収めてください」
三人に向かって丁寧に頭を下げたダイ・オキシンは静かに深呼吸して身体の熱を追い出す。熱に浮されてだらし無い表情を晒していた顔を引締め、ダイ・オキシンの眼に真剣な光が宿る。
「私が巫士達と発見したこととはですね……この身体で地球へ行く方法ですよ」
ダイ・オキシンの言葉で円卓が静まり返る。
魔法の奇跡と神秘が地球に元々存在していたのを知っている、円卓を囲む沈んだ大陸の末裔としてそれは夢のような言葉だ。
何も知らない古代人の創作神話だと、ファンタジーだと信じている島国の一般市民にとっても、それは誰もが夢見る言葉だ。
普人は自分だけの特別な異能を。
獣人は雷の如く速く強い身体を。
緑人はどの種族よりも強い魔法を。
鉱人は土と語り合い、金属を鍛える力を。
プレイヤーはアニメートアドベンチャーにそれを求め、自分と同じ種族を選んで大陸へと降りる。
時には好奇心からアニメートアドベンチャーのオリジナル種族の……真実を知る者はかつて存在し、大陸と共に滅びた奇跡と神秘の体言者である魔人族を選んで降りる。
自然とダイ・オキシンに視線が集まる。私怨を抱え込むカイナですらゴクリと喉を鳴らしてダイ・オキシンの次の言葉を待っている。
「まー理論上可能というだけで現実にはほぼ不可能なんで、次の議題に移りましょう」
そう言い終えると肩竦めるダイ・オキシン。
円卓のメンバーはガクリ肩から崩れ落ち、オーサカスカブトに至ってはリアクションオーバーに椅子ごと後ろに倒れた。「下手やなぁぁぁぁぁぁぁ!」というオーサカスカブト叫びが円卓の間に木霊した。
ドンッ!円卓に拳が荒々しくたたきつけられ、歯を向きだし怒りを表すカイナが椅子を後ろに蹴飛ばしてダイ・オキシンに飛び掛かる勢いで立ち上がる。
先の戦争ではサンダーフォーリナーを一撃で粉砕した圧倒的な筋力でカイナに蹴飛ばされた椅子は、円卓の間の壁に激突しその勢いのままに跳ね返りリアクションで椅子ごと倒れていたオーサカスカブトに襲い掛かった。「あかぁぁぁぁぁぁぁん!?」っと絶叫しながら必死に床を転がりオーサカスカブトは辛うじてで椅子を回避することに成功した。
円卓の間は大陸から切り離された、よりゲーム的な空間になっており、円卓や椅子等の備品は破壊できないように設定されているので壊れることはない。
「ふざけるのもいい加減しなダイ・オキシン!!」
声というよりは振動と言った方が正しいカイナの咆哮が爆発した。円卓の間を揺らし、他のメンバーの鼓膜を襲う。真っ正面からそれを浴びたダイ・オキシンは魔法スキルで障壁で防ぐ。
咄嗟に張った障壁は座標固定が曖昧で軋みながら障壁ごとダイ・オキシンは咆哮で押し込まれ後退してしまう。
「お、おおお落ち着いてくださいカイナさん、オーサカさんが愉快な事になってますよ!?」
他のメンバーは自分の得意とする方法でそれぞれ防いでいたが、一人
椅子を回避するために行動がワンテンポ遅れたオーサカスカブトだけはカイナの咆哮に吹っ飛ばされて倒れ伏していた。
円卓の間ではダメージ判定は行われず、HPも減らないので気絶等のバッドステータスは発生しない筈だが、滑稽なポーズで床に倒れているオーサカスカブトはピクリとも動かない。
「チッ」
舌打ちするとカイナはその場で座り直す。蹴飛ばされてその場に無いはずの椅子が何処からともなく出現してカイナを柔らかいクッションで受け止めた。
先程まで倒れ伏していた筈のオーサカスカブトもいつの間にか元の位置で「ヒッドイめにあったわー」と愚痴を言いながら座り直していた。
モモチュや村正も何事もなかったように元の位置で座っている。
「あーこの身体で地球へ行く方法ですが、気になる方は論文としてまとめて【アーカイブ】に上げておきますので、個人で御鑑賞ください。実行はまず不可能ですし、実行出来たとしても私達の悲願は潰えて地球に行った後のその後の展望が致命的にありません。
観覧するのも非常に面倒な手続きが必要ですし、勿論実行しようとしたものには重いペナルティー……最悪処刑も視野に入りますので百害あって一利なしですよー。
あと、この件は完全に精霊巫士達が管理、調査を行うことに決定しましたので個人で調べるとかも無しになりました。この話はこれで終了です」
話終えたダイ・オキシンの手から世界精霊襲撃事件の資料が消滅した。
そして新たに別の資料が出現する。
「えー次の議題は近年、大陸各地で活性化している邪神についてです」
それぞれが担当区域で集めた邪神に関する事。
発見は出来ているか、対策は出来ているのか報告が上げられていく。
発見が出来ていなければアーカイブに保存されている過去の邪神の出現条件を見直し、対策お互いの手札を開示して、今できる手段の等の相談をする。最終手段として他国である担当者の個人の伝で戦力を貸し借りはできるか話し合う。
それは真剣そのものであり、カイナも舌打ちをしながらダイ・オキシンに相談する。なぜなら邪神は大陸滅ぼすモノであり、邪神を破壊できなければ大陸は滅びてリセットが発動する。
リセットが発動すれば彼等積み上げたものが消滅し、地球に輸入され使われている魔法の技術が消滅してしまう。知識は残るが再現できなくなるのだ。
彼等は邪神を破壊しなければならない、大陸の末裔として。
先祖の悲願を成就させるために。
次回更新は11月13日の昼12時の予定です。
お読みいただき、ありがとうございました。
評価、コメント等あればとても嬉しいです。




