邪神の投擲槍
スーパーミニプラ邪神兵が届いてテンション上がっていた時に草案考えてたので、ジャベリンと名前だけ出てるオブシディウスの下半身は蛇になりました。
降りてきたばかりのディセニアンを狩る命令を受けて、狩り場を占拠していた存在達は、黄金色に輝く主の宿敵である巨大レガクロスに最後の攻撃をしかけようと空中で力を溜めていた。
長い蛇のような下半身をまっすぐ伸ばし、両腕の前腕から蝙蝠の翼のように幾つも伸びる筒状の推進機構からプラズマの光が輝いた。
本来その存在達は、戦いに不得手の者がよく利用する狩り場で弱いディセニアンを倒すのを目的としていたが、主の命令で急遽空に出現した黄金の巨大レガクロス、サンダーフォーリナーに攻撃を仕掛けることになった。
しかし結果は芳しくない。
主の記憶と違う黄金の姿で現れたフォーリナーには彼らの主要武装である熱光線や電撃は炎熱エネルギーを吸収してMPに変換する装甲の前にはほぼ無力だ。
故に鏃のよう鋭く、攻撃の為に装甲を厚くしている頭部による身体全体を使う、存在達の名前の由来になっている体当たりによる攻撃を仕掛けていたが、主が保有する情報よりも強固なフォーリナーの装甲の前に、鏃の頭部は装甲を貫く前に潰れてしまっている。
これが最後の突撃である。
後先考えず動力からMP搾り取り、安全性を無視して出力を限界以上まで高める。
蛇の尾と両腕のプラズマ推進機構が悲鳴のような唸りを上げ、しかし存在達に備わる強力な隠蔽能力によって一切周囲には聞こえない。推進機構の寿命と引き換えに生まれた大出力が咆哮を奏で、存在達の金属の身体をフォーリナーに向かって吹き飛ばした。
一瞬にして音速まで加速し、瞬く間にフォーリナーに衝突する……筈だった。
空中で何かを通り抜けたと感じた存在達は、次の瞬間にはその思考は衝撃で吹き飛び、黒曜の装甲はただの金属塊と化して永遠に動かなくなった。
●
「何か思ってた結果と違うけど、倒すことは出来たので良しとしよう」
「あっけない最後であったな」
重力に引かれて落ちていく、二つの金属塊を見送る。
スキルを解除し背面の瘤から磁力の放出とそれを球状に展開するための魔法装置がアイドリング状態になる。
サンダーフォーリナーが使った武装スキル<マグネベクターフィールドN>は、膨大な電力で物理的に生み出した磁力を魔法で球体状の磁力場として展開、フィールドの範囲内に居る存在を同時に発動する魔法でN極モノポールと化するスキルだ。
ゲルドアルドはこれで磁化した姿の見えないPKを展開した磁力フィールドで磁力反発でとりあえず追い出すという効果を期待したのだが。
謎のPK達はフォーリナーがスキルを使うと同時に後先考えない全力の突撃を敢行。己の寿命と引き換えに搾り出した推力だったが強制的に磁化された機体とフィールドが反発。まるで空中に壁でもあるかのようにぶつかり煎餅のように潰れてしまったのだ。
推力を失った無惨な二つの残骸はフィールドの外に磁力で弾かれ地面と衝突しバラバラだ。
あれでは操縦席も完全に潰れているので中に居たプレイヤーがじゃたなら即死だろう。
地上に激突したそれは原型を留めていない。破損して隠蔽が解かれたので、辛うじてPKはレガクロスに匹敵する大きさの金属で出来た黒い何かだったということがわかるくらいだ。
恐らくレガクロスだったのだろうが、この黒いレガクロスは何処のギルドの機体なのか?
ゲルドアルドは不思議に思う。
国が所有するレガクロスではない。国力の一端を担うかもしれない初心者プレイヤー相手にこんなことする理由が無い。かと言ってプレイヤーズギルド製のレガクロスでも、プレイヤー同士の殺し合は罪に問われないが、あからさまに国の不評を買うような行為をするとは思えない。
ゲルドアルドは首を傾げた。
レガクロスには人材も金も大量に必要だ。
ある程度大きな拠点と資金力も不可欠。
ブラウリヒト率いる精鋭部隊の目をごまかせる程の隠蔽機能や、飛行機能を備えた特異なレガクロスの製造と運用には莫大な費用が筆ようになる。
時間をかければ必ずジョブを五つ取得出来るプレイヤーであれば個人でもやりようはあるが、わざわざレガクロスを利用するより戦闘系のジョブを積んで本人の戦闘力を高めた方がPK稼業は手間が無くてやりやすい。
それに人型ロボットはアイゼルフの顔だ。
国内でレガクロスやゴーレムであまり無体な事をすれば、国に目を付けられ、開発設備や整備設備を取り上げられる可能性が出て来る。
「とりあえず磁力を帯びてる訳だし、磁力で背中に引っ付けて回収してギルメンに調べてもらおうか……ん?」
「どうしたのじゃ?」
ゲルドアルド意思と操作に応じてフォーリナーが棍棒のような太く長い腕を無造作に前方に振り抜いた。ゴガン!と同時に響く重い金属の破砕音。
破損し隠蔽能力を失った、音速で飛んできた通常のレガクロスよりも長い全長を持つ黒いレガクロスが金属の破片を撒き散らしながら地上に落ちて行く。
「見事なのじゃ」
「ま、まぁ見ることが出来れば性能は勝っているのでこれくらい簡単です」
現在もフォーリナーの周囲にはゲルドアルドの莫大なMPに任せて<モンスター召喚>によって大量のプチハニービーガードの群れが数百メートルに渡り飛び交っている。
プチハニービーガードは弱い。謎の黒いレガクロスの高速の突撃を受ければ死ぬ。強力な隠蔽能力で触れられても気付くことが出来ないが、プチハニービーガードが死ねばゲルドアルドと召喚モンスターとの不可視繋がりを通じてどの方向のハニービーガードが死んだかで襲撃者を擬似的に見ることが可能だった。
「ところで今破壊した黒いレガクロス、とても見覚えがあるのですかティータ姫?」
「奇遇じゃな、妾もとても見覚えがある」
フォーリナーに迎撃されて半壊した黒いレガクロスは姿形が認識できる程度には原型を留めていた。鏃のような頭部に蝙蝠の翼のような両腕、下半身は蛇のようの長く細い。全長だけなら普通のレガクロスの二・五倍はある。
「「ジャベリンだ(じゃな)……」」
【ジャベリン】とは、アイゼルフ王国の最新鋭の量産レガクロスの名だ。
国と関わりが深いゲルドアルドの所属ギルド。ゲシュタルトのメンバーは色々な理由で国土精霊との契約等で縛った上で機密兵器扱いされているジャベリンを知っている。
こんなプレイヤーが大勢やってくる場所で晒すのは非常にまずい代物だった。
元になった黒いテックマウンテンから発掘された怪しい黒いレガクロス。オブシディウスと名付けられたその機体の量産機であるジャベリンを、この国の王は施設から出すことを許可をしないだろうし、プレイヤーの邪魔をするように初心者向け狩り場でPKさせたりもしない。
周囲に展開していたハニービーガードが、隠蔽を解いて出現した黒いレガクロスを新たに二機発見した。
ここに最初から居たのは原型を留めていない二機と先ほど迎撃したの一機を合わせて三機。
PKに占拠されていた狩り場は三ヶ所。一つは狭いエリアなので、恐らく狩り場を占拠していたと思われる謎のPKの正体であるジャベリンが全てがここに集合している。
隠蔽を解いた理由はMPを戦闘に回すためだろう。
「これはいよいよアレの命が危ういのじゃ」
「腹違いとは言え、実の兄をアレよばわりですか」
オブシディウスとジャベリンを管理し研究しているのはこの国の第三王子である。
「言うまでもないが、アレを兄と思うて慕うのは親の仇を赦すよりも難しく、多大な労力が費やさなければ出来ぬのじゃ。可哀相な境遇であり同情心はあるがの」
酷い言われようだが、第三王子の評判はゲルドアルドがアニメートアドベンチャーのプレイし始める以前から地に落ちている。そして更に下へと向かって留まることを知らない。
「わー露骨に証拠隠滅しようとして来たー」
一機のジャベリンが、フォーリナーの腕の一撃で破壊されたがまだ原型を留めている残骸に向かって熱光線を照射する。
左胸に眼球のような発射口から放たれる熱光線はフォーリナーの驚異ではないが。
構造強化魔法が機能停止しているジャベリンの残骸なら、なんの証拠にもならないゴミにするには充分過ぎる威力があった。
第三王子の思考はわかりやすい。
司令官がそうなのでその配下の行動も実に分かりやすかった。
ゲルドアルドは特に慌てずフォーリナーの巨体で射線を遮る。
ギラギラとした黄金色の装甲に照射された熱光線のエネルギーはMPに変換されてゲルドアルドに還元された。背面武装のマグネットチェンバーを再び起動し武装スキル<マグネットベクターキャノンN>を発射する。
魔法で誘導された磁力が半壊しているジャベリンに命中しN極のモノポール化。N極のモノポールと化したままの最初に破壊した二機のジャベリンのバラバラの残骸と共に今度はS極の磁力を放射してマグネットチェンバーに引き寄せて回収する。
これで背面残骸を保持するためにマグネットチェンバーが必要ないくつかの武装スキルが使用不能になるが問題ない。
「建前は大事なのじゃ、妾がここに居る時点でなんの意味も無い行動じゃのう」
「哀れだ……」
ゲルドアルドが第三王子を哀れんでいる間に二機のジャベリンが二手に別れてフォーリナーに向かって来る。
一機はフォーリナーにそのまま正面から突撃して来た。縦にぐるりと身体を回転させ勢いの付いた細長いが強靭な金属の蛇の下半身を鞭……というよりは鉄鞭か節棍のように使ってフォーリナーに襲いかかる。掴み取ってやりたいとゲルドアルドは思うが、残念ながらこの機体はそんな器用と素早さを合わせ持った動きはできない。
仕方なく右前腕を機体の上段に翳して振り下ろされる長い下半身を受け止めた。それだけでは長い尻尾が背中に回り込んで残骸を打ってしまう、受けると同時に蛇の尾を跳ね退けるように右腕を振る。ガギン!と金属同士の衝突と動きの反動で浮遊するフォーリナーが僅かに沈んだ。
下半身を跳ね上げられ、大きく体勢を崩したジャベリンに向かってフォーリナーの頭部、金属眼球を囲む六つの金属球が目の前のジャベリンに電磁パルス照射。僅かな溜めの後、電撃誘導砲<ボルトバスター>が六つの金属球から青いスパークと共に放たれる。
相手の隙を突くタイミングだったがジャベリンには回避されてしまった。
電撃誘導砲は光速で放たれ回避は難しい。しかしフォーリナーの武装スキルは直接魔法や弾丸を放つのではなく物理的に発生させた電気エネルギー使って攻撃するので、チャージ時間や電撃誘導用電磁パルスで狙いを定める等でタイムラグが発生する。機動性が売りのジャベリン相手では当てるのは難しい。
目の前のジャベリンを相手にしている間にもう一機のジャベリンが強力な隠蔽を発動してフォーリナーの後ろに回り込んでいた。
狙いはフォーリナー背面の瘤、マグネットチェンバーに磁力で回収されているジャベリンの三機分の残骸だ。
威力の高い攻撃を放つために隠蔽を解いたジャベリンを認識したゲルドアルドは、第三王子に操られているジャベリンは哀愁が漂うほど行動がわかりやすく涙が出そうだとゲルドアルドは思った。
涙腺なんて彼には存在しないが。
ゲルドアルドの操作でS極の磁力を発生させているマグネットチャンバーが大出力でN極の磁力を発生。N極のモノポール化しているジャベリンの残骸がマグネットチャンバーから吹き飛んだ。
フォーリナーの背後に回り込んでいた金属の塊であるジャベリンに磁化された残骸が殺到する。三機分の残骸が背後のジャベリンに磁力で纏わり付き急激に増加した重量に対応できず背後のジャベリンは高度を落とした。再びS極の磁力を大出力で発生させたマグネットチェンバーに引き寄せられた残骸は無傷のジャベリンを巻き込んで、フォーリナーの背中に衝突するように捕獲された。
「ひー分かってても後ろに無防備に回り込まれる恐い……。
<モンスター召喚>……こういう機体は捕まると自爆するのがお決まりだと思っていたのだけれど、しないなー自爆」
「何故残念そうなのじゃ?」
(プチレッドハニービーソルジャー、後ろのジャベリンの動力を殺せ)
ゲルドアルドはティータの疑問を軽く流し、召喚したモンスターに捕獲したほぼ無傷のジャベリンの無力化を命令。命令を受諾したプチレッドハニービーソルジャーがフォーリナーの背後で抜けだそうと残骸に埋もれながらもがくジャベリンに殺到していく。攻撃力は武装に頼るジャベリンではマグネットチェンバーから発生する磁力から逃れることは出来ない。
間もなくジャベリンの装甲は彼女等の火で穿たれ、中に侵入し動力の殺害は完了するだろう。
ガギン!ガギン!ガギン!ヴィィィィィィ!!
証拠を隠滅するどころか、ほぼ無傷の機体が捕獲されてしまった事に焦ったのか、正面で格闘戦を仕掛けて引き付け役していた残る一機のジャベリンの攻撃が激しくなる。両腕も使い蛇の下半身の連撃、全く効果が無いのもわかりきっている胸部の熱光線までも使い始めた。
近距離で撃たれてもフォーリナーの装甲に熱破壊が主体の攻撃は無意味だ。しかし長い腕の内側に入られてしまっているのでフォーリナーの壊滅的な格闘能力では全く対応できない。
両腕と蛇の尾の末端にあるプラズマ推進機構で、器用にフォーリナーの長い腕の内側を縦横無尽に動き回るジャベリンにフォーリナーは一方的に攻撃されていた。機動兵器としてはジャベリンの方が何倍も優れているのでやりづらいことこの上ない。
捕獲の過程を見せつけたので、先程の二の舞を演じるのを恐れ、背後に回って来ることが無いのが救いだ。
ぐるりと機体ごとフォーリナーの長い腕を振り回して攻撃する。
威力はあっても大振りな攻撃を簡単にジャベリンは掻い潜るが、仲間のジャベリンの残骸を貼付けたフォーリナーの背中が自分の方を向いたことに気づき、尾の先のプラズマ推進機構で前方に向かって吹かして慌てて後方に距離を取る。後退しながら前腕下部から生えた筒状のプラズマ推進機構が素早く動き前方を向く。まるで砲のように狙いをフォーリナーに定めたプラズマ噴出孔から紫電の輝きの尾を牽くプラズマ弾が幾つも発射される。
両腕で合計八つの噴出孔から次々と飛び出すプラズマ弾がフォーリナー背面のジャベリンの残骸に向かっていく。
腕を振り回す勢いそのままに一回転したフォーリナーが背後の残骸を庇うようにプラズマ弾を正面から平然と受け止める。まばゆい紫電が着弾したフォーリナーを中心に撒き散らされた。全くのノーダメージだが視界がプラズマ爆発で遮られてしまう。
それがジャベリンの狙いだった。
距離を取り目つぶしに成功したジャベリンの両腕からプラズマを噴きだし高度を維持しながら鏃のような金属の頭部を機体ごと前方に向け、後方に真っ直ぐ蛇のような下半身を伸ばした。下半身の間接が金属音と共にロックされる。
名前の通り巨大な投擲となったジャベリンの石突きから動力の寿命を犠牲に搾り取ったMPを注がれたプラズマの紫電が輝く。機体の構造にも強化を施し、悲鳴のような音をプラズマ推進機構から鳴り響かせながらジャベリンはフォーリナーに向かって飛ぶ。
一瞬で音速を突破したジャベリンは瞬き一つ不可能な僅かな時間でフォーリナーに到達する。
ギギャァァァン!
ジャベリンの予想よりもほんの僅かに早く訪れた衝突の衝撃。ジャベリンの鏃の頭部の先はフォーリナー貫けず、逆にフォーリナーの片腕で受け止められ潰れていた。フォーリナーの腕の先端が四本の爪で衝撃で潰れたジャベリンの鏃頭を掴み止めている。
「ほほっ!ふひひひ!ドキドキしたぁぁぁぁぁーやっぱりボクより戦い慣れしてないね第三王子」
緊張と恐怖のあまり横隔膜の制御を失ったゲルドアルドが変な笑い声を漏らす。ジャベリンの攻撃は彼の予測通りだったが小心者には辛い瞬間であった。
ちなみにゲルドアルドの身体には横隔膜は存在しない。
「前から疑問だったのだが……御主は心臓など無いだろうにいったい身体の何処がドキドキしているというのじゃ?」
「やめてください、抜き身の短剣を持ちながらそんこと言うのは」
視界を遮られた状態でのジャベリンの全力の突撃は距離も短く、ゲルドアルドのステータスでは反応すら出来ない速度だった。
直撃して今のスーパーグレートサンダーフォーリナーが傷付くかはともかく、直撃は免れない筈だったが、フォーリナーの周囲はゲルドアルドが召喚した無数のハニービーガードが飛び交っている。
フォーリナーの視界を潰したくらいでは隠蔽するためのMPも推力と構造強化に費やした余裕が無いジャベリンでは、周囲のハニービーガードと五感を共有出来るゲルドアルド視界を潰すことは不可能だった。
彼は積極的に戦うタイプではないが、大なり小なり戦闘力を要求されるタイプのゲームであるアニメートアドベンチャーでレベル制限が完全解放される六枠目の特殊ジョブ【UNLIMITED】を取得してるのは伊達じゃない。
隙の大きいジャベリンの全力突撃の準備を観察してタイミングを見計らい、ジャベリンが向かって来る場所に向かって有り余るMPで構造強化したフォーリナーの腕先をおいて置くことで勝手にジャベリンが機体の手に収まってくれる。
ジャカン!
ジャベリンを受け止めたフォーリナーの右腕の肘から、強固な円柱の芯を持つ肉厚で鈍らな側面の金属剣が飛び出す。ゲルドアルドの莫大なMPを甲高い回転音を響かせてMPモーターが吸い上げ物理的に電気エネルギー変換して電圧が高められていく。
「<ビッグパニッシャー>シュート!」
ギィィィィィィィィィン!
武装スキルが宣言され、高められた電圧が一気に装置に叩き込まれた。
肘から飛び出す四十メートルオーバーの肉厚な金属剣杭が電磁加速によって火花を散らしフォーリナーの腕の先端から飛び出す。
電磁加速でフォーリナーの腕の先端から押し出された金属剣杭は、ジャベリンの頑丈な鏃の頭をなんの抵抗もなく押し貫いて内部機構を完全に破砕。
超高速で金属塊を打ち込まれた圧力でジャベリンが打ち込まれた先端から醜く歪み、装甲を弾けさせ、断末魔の代わりに激しく裂けて飛び散る金属音を響かせる。
鏃の頭部から尾の末端まで一瞬の遅延なく押し貫いた金属剣杭が飛び出した。
ブシュゥゥゥゥゥゥー!!
<ビッグパニッシャー>を放ったフォーリナーの右腕から勝利を宣言するように高らかに余剰熱を排出する廃熱音が鳴り響く……とてもカッコイイとゲルドアルドはこの武装スキル使う度に思う。
実はフォーリナーに使われているニトロハニービー種素材の効果で炎熱吸収能力があるため廃熱機構など必要ないのだが。ゲルドアルドを含んだサンダーフォーリナーの作成に関わったメンバーの総意で<ビッグパニッシャー>放つと、わざわざ魔法で蒸気を作り出し、腕の周囲から廃熱しているように吐き出す機能が付けられていた。
そこそこMPを喰うので演出はON/OFFが可能だ。今のゲルドアルドはMPの残量など気にする必要がないので常時ONでも問題ない。気体噴出音も複数用意されている。
ジャベリンだった残骸が長大な金属剣杭から剥がれ、重力に引かれて地上に落下していく。
「まず逃げないとは思ってたけど真っ正面から飛び込んで来るとは……隠蔽使って回り込むなりすればこんな綺麗に<ビッグパニッシャー>がヒットすることも無いのですけど」
「アレは戦いとは無縁じゃ、それに御主を過剰に敵視しておるのじゃ、数と飛行能力が頼りのジャベリンが同数になった時点で勝ち目など万に一つも無いくらいは頭は悪くないので理解はしているだろうが、相手が御主ではプライドが邪魔して逃げることは出来ぬ相談じゃな」
フォーリナーの操縦席にゲルドアルドから溢れ出した嫌悪と面倒臭い気配が合わさった気配が充満する。ティータは表情筋など無いはずのギラギラと黄金色に輝くゲルドアルドの顔が大きく歪むのを幻視したような気がした。
「はぁ……死ぬほど面倒臭いです」
気持ちを口から溜め息と共に搾り出したゲルドアルド。第三王子の執着と嫉妬にうんざりする。死んでも復活するかしないかに関わらず、巣に引きこもった方がいいかもしれないと彼は思った。
監督ウェス・ボール
映画【メイズ・ランナー】
映画化シリーズが完結する中、今更観たメイズランナーが面白かったです。「予想を超えた衝撃のクライマックス」という煽り文句は、そこそこ映画見ているので何の興味も湧かないのでビジュアルがそんなに好みに思えなかったのもあってスルーしましたが、非常に好みの映画でした。巨大な壁の閉じ込められた青年達、ハイテクでうごめく迷宮、迷宮を徘徊する怪物……この怪物が非常に好みです。
明らかに人工物だと分かる機械の多脚と薬剤注射機能が付いた尻尾。そして生っぽいキモい造形の胴体と頭部。それが迷宮に入ると奇声を上げながら襲ってくるのが楽しい。
こういう閉鎖空間が舞台だと魔女狩り的な話の印象がデカくなりやすいですが、内部分裂しても名前を名乗らない脇役達が文句も言わずに主人公に従うので非常に話がスムーズに進み好みです。
記憶を失った主人公達と主人公達を閉じ込める明らかに人工物の迷宮の神秘と謎が肝ですが、何をするにしても怪物との全面対決が必要不可欠で、手製の貧相な槍で必死に陣形組んで怪物に挑む終盤が非常に好みで楽しかったです。
クライマックスは完全に予想の範疇に収まってました。というかむしろこの手の映画としては非常にポピュラーなのではないかと個人的には思います。




