呪染装甲スプレーガン
ゲルドアルドはパーティーグッズとして需要がある
◆アイゼルフ王国・回電群草原
太陽が真上に輝く空を、機体に組み込んだ魔法装置で姿を消したフォーリナーが飛行している。
長い両腕を翼のように左右に広げ、後方に真っすぐ脚を伸ばした十字架の思わせる飛行姿勢で飛ぶフォーリナーは、魔法装置で姿を消して居なければ怯えたモンスターの集団移動が発生しそうな迫力がある。
フォーリナーの眼下は長閑な半金属の青錆草が築く草原が広がり。赤錆び色の金属の光沢を反射して風で波打っている。
そんな草原で頭部左右にMPモーターを生やしている金色の酸化銅の皮膚を持つ回電金牛の集団が、青錆草をのんびりと食べている。
大人しそうに見える回電金牛達。
フォーリナーの高度からは分かりづらいが回電金牛の体高は四メートルもあり、彼等は非常に興奮しやすく、一度走り出すと決して止まらない。
走っている時に岩やモンスター等の障害物が目の前に有ると、一回り大きく大回電金牛を中心に鏃陣形で群れが電撃を纏って加速する電撃の破城槌と化して、進路上にあるものを粉砕しながら走り続ける。
魔法で強化された鉄の塊のアイアンゴーレムでも粉砕する威力があるので、決して正面から挑んではいけないモンスターだ。
彼女たちが追われていた回電銅狼の群れも一匹の回電銅狼に電気エネルギー集中し、角から高出力長射程のパルスレーザーを発射する危険なモンスターである。
そんな通称合体攻撃と呼ばれる特殊な攻撃方法を持つモンスターの群れがうろつく回電群草原で、何故彼女たちのようなレベルの低いパーティーが危険を冒して狩りをしていたのか?
「姿の見えないPKの大規模初心者狩りねぇ……隣国の嫌がらせかな?」
彼女たちからゲルドアルドが話を聞いたところ、三つある初心者向けのフィールドの全てで、姿の見えない何かが初心者プレイヤーを殺害し続けているらしい。大変迷惑だ。
特定の縄張りを持たない徘徊型モンスターではないかと彼は思ったが、その何かは住人は襲わずしかもレベルの低い初心者プレイヤーしか今のところ襲われていない。なのでプレイヤーによるPKと思われている。受験が一段落して新規の学生プレイヤーが始めやすい時期だと言うのも理由の一つだ。
加入したばかりの新人を倒されたプレイヤーズギルドが討伐に赴いたが、レベルの高い上級者が討伐に赴いた時は一切姿を現さない。
現すも何も襲撃時も姿は最初から最後まで見えないらしいがともかく、その見えないPKの集団は既にゲーム時間で約七日、リアルだと二日と半日以上も三ヶ所ある初心者の狩り場を占拠している。
人のことを言えた義理ではないが、プレイヤーが犯人だとすると凄い熱意だとゲルドアルドは思った。
ゲルドアルドが所属するゲシュタルトも動いたらしいが姿を見ることも出来ず諦めたらしい。
ギルドの幹部のブラウリヒトが精鋭部隊を率いて討伐しようとして見つける事も出来なかったと「大規模な初心者狩りが起きているけど把握してる?」とダイ・オキシンに聞いたことで判明。
ブラウリヒト達が取り逃がすとは信じられないと、目を瞬かせる代わりにフォーリナーの操縦席で激しく硬質な檸檬型の目を点滅させるゲルドアルド。聞き間違いかと思った彼だったが真実らしい。
キメラの五感や探索用スキル、レガクロスの科学と魔法を駆使した探索装置全てを掻い潜るとは尋常じゃない。
また運営の正気を疑う頭のおかしい効果が発動する、位階がゴッズの超激レアドロップのスーパーマジックアイテムでも出現したのだろうか?
「しかしこの国じゃ本当に嫌がらせでしかないなぁ」
「全くそなたの言うとおりじゃな」
アイゼルフ王国は魔法と科学を融合させた技術で栄えている国だ。
魔法式や科学式の銃火器や、国の主力兵器のレガクロスを始めとした戦車等の武装車両、ゴーレムやキメラ等、外部に用意した強力な外付けの力を扱うものが戦闘職系ジョブの人でも多数を占める。
なので、レガクロスや戦車に乗ればジョブやスキルの補正で亜音速での高速戦闘や、小山を砕く一撃を平然と耐えられる人でも、生身だと弱い事が多い。
アイゼルフに所属するプレイヤーが得られるボーナスも生産や騎乗、操縦に関するものばかりなので戦闘に関わるプレイヤーは勿論、戦闘に関わる住人も殆どが生産系のジョブ、もしくは生産と戦闘能力も併せ持つ複合系ジョブの取得者だ。
そういうもの達はワザワザ外に戦いに行かなくても生産系スキルや騎乗、操縦スキルに関する行動をする事で経験値を得てレベルが上昇する。複合ジョブの人もある程度は生産活動で経験値を獲得可能だ。
各職業に応じた斡旋場は存在していて、都市の外に出なくても生産系ジョブの人も経験値をちゃんと稼げる。
レベルが高くなれば服飾系の生産職でも<ゴーレム作成>スキルを込めた、マジックアイテムでヌイグルミ等をゴーレム化することで、素材にもよるがかなりの戦闘力が獲得可能だ。一度でもゴーレムを作成すれば<ゴーレム召喚>や<ゴーレム作成>スキルを取得できる。
そこまで来ればMPやCPで簡単に人手を増やせて、仕事も戦いの幅が大きく広がる。
採れる素材の品質が低い初心者用のフィールドにこだわる必要は無いのだ。なので今回の事件は……。
「「鬱陶しいだけで実害はほぼ無いに等しい(のじゃ)」」
なぜかゲルドアルドの声が誰かの声と重なって聞こえた。それに独白に何故か返事が返ってきた事に彼は遅まきながら気づいた。
「……え、誰!?」
慌てて首だけが木が軋むような音を発て、真後ろを向いたゲルドアルドの蜂蜜色の檸檬型の硬質な目に艶やかな紅金が映る。紅金髪の持ち主は左右にナイフのように突き出した耳を備えていた。
見覚えのある真珠色の優雅なドレスと金細工を身に纏った少女の正体を悟った彼は思わず叫んだ。
「うわぁぁぁ!第二王女殿下だぁぁぁ!?」
「我を化け物のように呼ぶでないわ、それに呼び方が堅苦しい。
可愛くティータ姫と呼ぶが良いのじゃ」
子供らしからぬ言葉使いで話すゲルドアルドが第二王女殿下と呼んだ美しい少女は言葉の通り、彼が所属するアイゼルフ王国の正統なる血縁にして、緑の髪と白い肌を持つ通常の緑人とは違う。紅金の髪と褐色の肌を持ち、時折肌にコンピューターの回路図に似た模様が浮き上がる美しい少女。
第三王妃の娘、第二王女ティータ・ヘゼス・アイゼルフその人であった。
「どうやってフォーリナーの中に……!?」
ゲルドアルドは妙な空気の流れを感じて、視線を天井に向けた。見上げた先にフォーリナーの分厚い装甲を外まで貫いた調度小さな姫君が通れる位の穴が開いているのを見て悲鳴をあげる。
「ぎゃぁぁぁぁ!?<アイテム作成><モンスター召喚>!プチニトロビーワーカー!急いで穴を塞いで!?」
CPとMPを消費して必要な巣の建材とモンスター召喚して急いで穴の修復に向かわせる。ゲルドアルドは外に出るのが怖くてフォーリナー持ち出したのだ。穴が空いているなんて看過できない。
フォーリナーはその特殊性によりゲルドアルドしか運用できない。そしてレガクロスであり、彼の蜂の巣であるフォーリナーに乗り込むときは、彼の持つ特殊な転移スキルで乗り込むため入口が作られていないのだ。故にゲルドアルド以外がフォーリナーに乗り込むもっとも簡単な方法は、機体に穴を開けて入るのが一番手っ取り早いことになる。
今年で十三歳になる幼い姫様は、フォーリナーの装甲に穴を開けて入ってきたのだとゲルドアルドは理解した。
「我は御主が降りて来てくれるを首を長くして待っていたのじゃ」
アニメートアドベンチャーの世界の住人である彼女はプレイヤーがこの世界にやって来ることを降りて来ると表現する。
「三日後に我が母上の誕生日なのじゃ。宴の席で御主の至高の蜂蜜を母上に味わって貰いたい……あむ」
彼女はフォーリナーに乗り込んで来た要件をゲルドアルドに伝えると、小さな指先にこれまた小さな林檎に似た見た目と味の果物を左手の魔法で空間を拡張されたマジックアイテムの手袋から取り出した。それをゲルドアルドの後頭部から流れる蜂蜜に潜らせる。
絹の質感を持つ真珠色の高級そうな手袋に蜂蜜が触れるが、蜂蜜を弾くニトロビーの体毛で編んだ手袋は蜂蜜で汚れることもなくサラサラと上を蜂蜜が滑る。
彼女の小さな口でも一口で食べられる小さな果物がタップリと蜂蜜を纏った状態で口の中にほうり込まれ、種は無く芯も軟らかい果物と蜂蜜を頬張り静かに咀嚼した彼女は笑顔を浮かべ幸せそうに「んー!」と可愛くうなる。
そのまま食べると酸味がキツくジャムや砂糖漬けにしてパイ等にする果物だが、ゲルドアルドが生成する至高の蜂蜜を潜らせることで蜂蜜の蕩けるような甘さに酸味のアクセントが加わり、王族を夢中にさせる素晴らしいスイーツに変身する。
「そんなことの為にロードを持ち出したの!?あ、いや、持ち出したのですか!?というかボクでハニーフォンデュするのやめてください!ボクは便利なパーティーグッズじゃないのですよ!!」
至高の蜂蜜を生産するゲルドアルドはレガクロスロードを継承しアイゼルフで頂点に近い武力を持った、小さな姫君に妙に懐かれていた。
彼女は事あるごとにゲルドアルドが絶え間無く頭部からベールか長髪のように垂れ流す蜂蜜を茶請けにお茶会を開こうとする。
ゲルドアルドの言う通り便利なパーティーグッズだと思われているのは確実だ。
敬愛する母上の誕生日をそんなこと呼ばわりされた少女の花咲く笑顔がむっと陰る。
幼くも聡明な彼女は王族が護衛も連れずにゲルドアルドでハニーフォンデュするためだけに国家の至宝のレガクロスを持ち出して、かなりの高度を飛ぶフォーリナーに乗り込んできたことを指してそんなことと言っているのを、聡明な彼女は理解はするが、彼女は子供らしく感情的な反応を返すことを選択する。
「母上の誕生日をそんなことだと……?それはゆるせん!罰としてその地味な蜂の巣ボディを母上好みの色に染めてやるのじゃ!」
ティータは手袋の甲から果物と同じように何かを取りだした。
それは太くて短く円いペンシル状の物体の下部に、拳銃のような持ち手と引き金をつけた銃を模す厭らしい輝きを放つ黄金色の玩具だった。それほど大きな物ではないが、彼女の小さな手には少々余る大きさだ。
一般人に毛が生えた程度の精神強度のゲルドアルドは銃口を突きつけられ一瞬小さな悲鳴を上げたが、直ぐに玩具だと分かり安心した。
例え本物の銃だったとしても、蜂の巣であるフォーリナーの内部にいる状態なら至近距離で撃たれても平気な筈だが、彼の精神は玩具といえど人の命を奪う銃を突き付けられて心臓が早鐘を打っている。彼に心臓なんて存在しないが気分の問題だ。
しかし安心したのも束の間、玩具に見覚えがあることと「染める」という言葉でゲルドアルドはその銃がただの玩具ではないことに気付いて戦慄する。
「母上は基本は質素だが、趣味の悪いキンキラキンが大好きなのじゃ!」
銃口から吹き出す粒子状でも変わらぬギラギラと厭らしい輝きが目を引く、黄金のエアロゾルがゲルドアルドに襲いかかる。
ティータが彼に突き付けたのは銃の玩具ではなくレガクロス装甲塗装用の銃を模したマジックアイテム【呪染装甲スプレーガン:ギラギラゴールドカラー】だった。
不敬を理由にしているが端っからパーティー用にゲルドアルドを染めようと持ち出したアイテムだ。ゲルドアルドが幼児体型でありながら二メートル越える巨体と巨大な腕を持つことから、様々な装置を詰め込んでいる通常のレガクロスよりスペースに余裕のあるフォーリナーは、普通のレガクロスよりもかなり広い操縦席を持つ。
しかし前方に勢いよく広範囲に噴射されるエアロゾルを避けれる程の広さと手段は、フォーリナーにもゲルドアルドにも存在しなかった。
ちなみにスプレーガンはダイ・オキシンが呪術系魔法スキルで開発したゲシュタルトで販売している商品である。
レガクロスの装甲を呪いで色むら無く染め上げ、激しい戦闘でも決して色落ちしない強固な染色力が魅力のヒット商品だ。
監督フレッド・オーレン・レイ
映画【シャーク・アタック!!】
水陸両用スーパーシャークVS秘密兵器四脚戦車な映画です。
嘘です。めっちゃ強くて大きいスーパーシャークが海底地震で目覚めて大暴れする映画です。当たり障りのないモンスターパニックな話ですが、鮫の動くが良いので以外と面白いです。表紙もカッコイイ。
嘘と言いましたが終盤で四脚戦車も出て来ます。軍の秘密兵器でダグラム辺りで見かけたクラブガンナーっぽいです。本編で目一杯軍相手に大立ち回りを演じたスーパーシャークと戦います。
観測範囲では低予算のVS物は最後の最後に衝突して尺があまり残っていないせいかどっちかが相手を手早く処刑して終了するのを多く見かけます。暴れ回る怪物達を見てだいたい満足しているのでそんなに気にならないのですが、やはりちゃんと戦っているところも見たい。そんな願いをこの映画一分くらい叶えてくれます。
なんと四足戦車と巨大鮫がちゃんと戦かってくれます。戦車が撃てば鮫は回避し鮫が反撃すれば戦車も蹴り返す。それぞれの特徴を生かした動きで相手を倒そうと隙を狙い動く。四足戦車と陸でも平気な鮫という変なのが凄い真面目に争ってるのがとても素晴らしい映画です。
基本は鮫映画なので上記の戦いは一分程度で終了。戦車は爆散でグッバイ最高だったよ!そこ抜きでも楽しい鮫映画です。セクシービキニ女性も一杯出て来ます。




