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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
ドーン・オブ・ザ・ゲルドアルド

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パンドラの蜂の巣

大変お待たせしました

 


 「いっそのこと地球とやら諦めるというのはどうじゃ?」


 ティータの言葉にダイ・オキシンの脳裏に旧世界目録の根幹をなす秘宝が思い浮かんだ。


(馬鹿な!人造生物の末裔(ダイアレス)が精霊王の扉の存在を知って……いや、それは有り得ない!知りようが無い筈だ!)


 とんでもない異常事態に次々と直面したダイ・オキシンは混乱し疲弊していた。


 旧世界目録の使命が外野(ゲルドアルド)に達成されると同時に危機に陥る地球。

 旧世界時代に破壊されたされた筈の本物の邪神(ドラゴンスレイヤー)に伴うよる地球の危機。

 倒した邪神のラストアタックで迫る月と木星の混合大質量弾ジュピタームーン衝突による地球の危機。


 絶叫する寸前でダイ・オキシンはニッコリと胡散臭すぎる笑みを作り耐えた。ゆっくりと形作られ、ギシリと音が聞こえるほど固まった無理矢理な笑顔を見た周囲の人間がうわっと一斉に身を引く。


 一連の事件への対応で眠れていないその笑顔には濃い隈が浮き上がる。


(落ち着けぇ落ち着くんだ!ダイアレスが知っている訳が無いじゃないか!旧世界目録に所属する人間は大陸アニメートアドベンチャーでそれを話せないようになっているし、そもそも永い年月を経て人類として定着して安定している彼女達のアイデンティティーを揺るがす事実をワザワザ流布なんてするわけがない。旧世界目録に所属する人間以外はそもそも知る術が……ゲルさんっ!?)


 かなり限界が近いダイ・オキシンの視界に光が見えた。


 それは希望の形容ではなく、蜂蜜結晶の目をピカー!と光らせ顎に手を当てて「なるほど、それもありだね」みたいに四分の一ほど齧られたように欠けた丸い蜂の巣でできた頭を小刻みに上下に揺らすゲルドアルドだった。


(畜生!コイツが居た!とんでもない秘密を抱えてるギラギラに輝くの黄金の蜂の巣(パンドラボックス)が!?)


 現状ではダイ・オキシンの平静を粉砕する災厄だった。


 ゲシュタルトのメンバーに利益を分配しながらも、裏で暗躍し自分の手柄が最大になるようにギルメンを利用してきたダイ・オキシン。

 その情報の収集と扱う能力はギルドの中でも、旧世界目録の中でもトップクラスに優れた手腕を持っていた筈だった。


 そんな彼が、よりにもよって旧世界目録どころか地球滅亡の危機という極限状態で、ゲルドアルドという暗躍とは無縁だと思っていた存在に情報面で完全に敗北している。


(お、恐ろしいっ……!)


 ダイ・オキシンはゲルドアルドがどんな情報を握っているのか殆ど知らない。


 一応、最低限情報の共有は行った。


 だからこそ地球上に機神ゲシュタル・ゲル・ボロスという超級戦力が召喚され、自分達も大陸アニメートアドベンチャーで使用するアバターの姿で対面するというハチャメチャな事が実現できた。


 しかし、本当に最低限の情報しかゲルドアルドから引き出せなかった。


 道半ばどころか土台を整えている段階の旧世界目録を差し置いてゴールのその先にまで到達しているとしか思えないゲルドアルド。

 その所業は、かつて旧世界を襲ったMP(マナ)の消失現象に抗い大陸アニメートアドベンチャーを作ることで命がけで魔法技術を後世に残した六人の魔人族の伝説に匹敵する奇跡だ。


 ゲルドアルドが自力で地球に再臨した魔人族なのもあって、現人神と呼んでも讃えても差し支えない存在にまでなってしまっている。


 そんなゲルドアルドとティータは仲良しだ。

 こちらが知られたくないことも知っていてもおかしくない。

 そう、地球が滅びても大陸アニメートアドベンチャーと呼ばれるあの世界には何の影響も無いということも。


 全てがひっくり返ってしまう。


 作ったのは旧世界の偉大な先達で管理権限を持っているのが現代を生きるその末裔であろうと、抗えない立場の逆転が起きてしまう。


(何か思っていた反応と違うのぅ?)


 一方、地球を諦めようと発言した住人(ダイアレス)のティータはダイ・オキシンの彫刻のように固まった胡散臭い笑みに困惑した。


 「てめぇ!アタシの故郷を見捨てろだって!?」


 「………………」


 即座に噛みついてきたゲシュタルトのギルマスであるオゾフロと無言で大蜜蜂(ハニービー)が飛ぶ青空を仰いだブラウリヒトの反応などは想定通りだが。

 サブマスであるダイ・オキシン、ハンモウ、ウミネコの反応が妙であった。


 前者は怒りと苦渋。

 後者は恐怖と絶望。


 特に後者は絶対に服従する筈のテイムモンスターに喉笛を噛み千切られたテイマーのような信じられないことに遭遇したという雰囲気。


(ふむ?これはあれじゃな!オゾフロとブラウリヒトがディセニアンの一般枠で、ダイ・オキシンその取り巻きが普段は顎で使われているように見せて真の支配者だったとかそういう立場勢力に所属していた枠なのじゃろうな!)


 後者が自分達の世界を箱庭のように管理していた勢力なのだろうと悟ったティータだったが、特に興味はなかったので気にせず話を進めた。


 ティータもゲルドアルドも大陸アニメートアドベンチャーの真実など知らないしどうでも良いのだ。


 彼女は地球のことなどほとんど知らない。

 孤児だった彼には未練が少ない。


 地球を見捨てることでディセニアンがどうなろうと、ディセニアンという管理者が居なくなることで自分達(ダイアレス)の世界に大きな影響を与えることになろうとも。


 隣で「なるほど、それもありだね」とフムフムと頷いて目が光ってる愉快な弟分と同じ方向を向いているなら。


(妾も母上もどうでも良いのじゃ)


 「……どうせ間に合わぬのじゃ捨ててしまえば良い。皆でこのゲルドアルドが見つけた異世界とやらにでも行けば良いのじゃ」


 「い、異世界!?」


 白目を剥いたダイ・オキシンが金切り声を上げる。ティータはそれも含めてざわめく周囲の空気をあえて読まず言葉を続けた。


 「頭を担うのが面倒というなら上には妾が立っても構わぬぞ、なーに不必要に偉そうにしたりなどせぬ!いつも通りじゃ!自由で縛られないゲシュタルトと同じ立場を保証するぞ」


 ティータは隣のゲルドアルドに肩を寄せて密着する。


 「ここにしっかりと教育を受けた高貴な血と、甲斐性のある夫(ゲルドアルド)もあればな!」


(おまえもそうじゃろ?レディパールよ!)


 そう言うとティータは蜂の巣の頬に軽くキスをした。

 その瞬間にゲルドアルドから濃密な殺気と嫉妬が迸った。


 物理的な衝撃も伴うそれが円卓に集まっていたメンバーを円卓と座席ごと浮かせて転倒させて、蜂の巣の中に作られた草原を駆け抜けていく。


 「えぇ…………うぎぃ!グっ!ギィィィィィィィィガァァァァァァァァァァ!?」


 キスをされたゲルドアルドはそれらに反応できずにいたが唐突に頭を抱えて苦しみ始める。


 今のゲルドアルドは少々おかしいとティータは感じていた。


 感情を見せてじゃれてくるゲルドアルドを愛しく感じていたが、彼の感情とは別に不純物が混じっていると。


 それは全くの異質な物ではなかった。

 特定の対象から顔を会わせる度にいつも叩きつけられていた。


 何故か姿が見えぬレディパールの強烈な感情をゲルドアルドからティータは感じ取っていた。


 苦しみのたうつ彼を側で満足げに眺めるティータ達の周囲に自由気ままに働いていた大蜜蜂(ハニービー)達が集まる。


 異変を感じてゲルドアルドにまとわりつくのではなく、何かを待つように静かに草の上に降りて黄、赤、白、黒色の毛玉達が草原を埋め尽くす。


 ゲルドアルドの異変に呼応して【蜂巣神界】で作られた異空間が激しく音を立てて振動し始める。


 竜殺しの呪いとファーストジョブの喪失の影響で欠けたままだったゲルドアルドの頭が再生していく。

 更にその上からギラギラと厭らしく輝く金色の柔毛が生えて全身に広がっていく。


 「ィィィィィィィィィアギャアァァァァァ!!?」


 大勢の配下と同じようなモフモフになったゲルドアルドが一際大きな悲鳴を上げると、丸い頭が左右に割れて何かが飛び出した。


 それは金色に輝く。

 恐ろしく巨大な一対の虫翅だった。


 「なんだいなんだい、気配は感じても姿が見えないと思っていたらそんな所にいたのかい。見ないうちに随分と育ったじゃないか!まぁ、蜂らしいと言えば蜂らしいさね」


 「ふむ、母上。このサイズは予想外じゃが、これで一手くらい増えたじゃろうし、地球とやらもなんとかなるかも知れん……偶然じゃが一石二鳥じゃな!」


ティータがそう言って楽しそうに高笑いをした数分後。


巨大化したレディパール。


ゲルドアルドが操るジャイアントサンダーフォーリナーⅡ。


機神ゲシュタル・ゲル・ボロス。


三種の巨大戦力の連携によりジュピタームーンは跡形もなく安全に消滅。


地球は救われた。



次回更新は未定。

次話で最終話を予定しています。


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― 新着の感想 ―
どんな結末になるのか楽しみにしています!異世界はどうなったかと思ったらここで来るのか...
[一言] 最終話かぁ・・・おもしろかったな
[良い点] 面白いです! 特に、この世界観が個人的にとても好きです。 [一言] 次で最終話だと思うと時の流れを感じます。 この作品は頑張ってスコップした思い出があるので寂しくも感じます。 良い小説…
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