幻想に現実を諭される
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戦いの幕切れは呆気ないものだった。
ゲルドアルド2号に敗北したティータは、蜂蜜わたあめのフワフワした拘束によって優しく草原の上に転がされている。
それは見た目に反して、首から下が全く動かない強固な枷で彼女は指一本も動かせない。
クロックロードは蜂蜜濡れで草原の上に倒れていた。
「MP創成炉を持つ妾のクロックロードがMP切れになるとはの……良かろうこの身体が焼くなり煮るなり好きにするが良いのじゃ!」
表情だけは誇り高き王族の顔を作り声高に叫んでいた。
「ぬも」
そんな彼女の柔らかい頬を、世話役を任されていた大蜜蜂が飛んできて前脚で左右から突いて面白く歪ませる。
「あぁぁぁもう!何がしたいの!」
普段ならそんな表情で溜飲を下げられるが、治らない頭部の破損による頭の疼きと苛立ち。衝動的にゲルドアルド2号は頭をかきむしり。
「いったぁ!?」
破損し剥き出しになった蜂の巣頭のハニカム構造を抉って悲鳴を上げた。
「ハニカムぅぅぅっ」
「ぬも……大丈夫かの?」
その様子に、流石に弟分の様子がいつもとかなり違うように感じ取ったティータ。
頬は相変わらず大蜜蜂に左右から歪まされているので、本人の心情とは裏腹に笑いを誘う蛸口になっていたが。
近頃、ゲルドアルドに他のディセニアンよりも人間味が出てきていると嬉しく感じていたティータは、体調が悪いのかもしれないと今更ながらに思い始めていた。
「ディセニアンの……つまりお主の世界を見聞してみようかと思ってのぅ」
彼女は秘蔵のセクシーおちょくりネタを封印することにして素直にゲルドアルド2号に話し始めた。
「………………なんてぇ、えっ?うん?なん言いました?」
「お主の世界を見て回ろうと思ったのじゃ」
ゲルドアルドは未だに大陸のことをただのゲームだと思っていた。
なので、ティータというゲームのキャラクターに「ちょっとそっちに行こうと思った」と言われて大変混乱している。
「あ、えぇ……行けかっわけないでしょ???」
ゲームのマイキャラと異世界に渡って手にいれた力で現実世界……地球を蹂躙しているゲルドアルドが言うと。
ただの常識的な返答が、狂気と無知という罪にまみれているように見える。
「蜂の巣のぶち破った先にあるじゃろ?」
「何いっとです?」
ゲルドアルド2号は混乱とダメージを受けている頭が状況処理しきれないのか呂律が回っていない。
自分が色々試して帰れなかったというのに、蜂の巣の壁を破壊すれば、その先に地球があるとなぜゲームのキャラが思うのか本当に理解できなかった。
頭は殴っていないはずと別の焦りで困惑が深まった。
「んな、いや、そこにあるのは……何処とも知れない異世界じゃないかなですよ???」
突然、見知らぬ異世界に転移した経験がある彼はそう思っていた。
「ふむ?なぜ見知らぬ世界だと思うのか判らんが、お主が持つ転移能力は複数の蜂の巣を同士を繋ぐことで成立するのじゃろう?」
「んん?」
「ディセニアンの世界にはお主の身体が、蜂の巣の魔人の身体あるのじゃから、行き先は決まっておろう?
空よりも高い場所にあのような敵がいるとは聞いておらんかったがのぅ」
行ったことは無いし詳しくもないが、ゲルドアルド達が住んでいるディセニアンの世界という異世界があることを知っている彼女はこう考えた。
ゲルドアルドの蜂の巣の魔人の姿しか知らないティータの考察は的外れだったが。
何故か外れた矢は的の中心を貫いて真実を言い当てていた。
「いや、え、いやいや、蜂の巣じゃないし……あ、いや蜂の巣じゃなくても……?あれ?その方が妥当?」
偶然にも真実を、自分よりも頭が良いと思っているゲームのキャラに指摘されたせいか、第二の見知らぬ異世界へと来てしまったと考えていたゲルドアルドの思い込みに一石が投じられる。
(もしかして肉体ごと変化して異世界転移したと思ってたけど意識だけがゲームの外装を纏って転移してた?肉体は現実に置き去りになっていた?)
彼はサブカルチャーを嗜んでいる。そういったシチュエーションにも覚えがあり。
今回の異世界転移が地球に置き去りになっていた肉体を起点に行われた可能性にやっと思い至った。
(あ?ん?ダイ・オキシンさんの話ってボクのせいか?)
ゲルドアルドは、死が迫りそれに恐怖しても、現在の状況を根本ではゲームの延長のようにしか思っていなかったが。
夢のようなゲーム大陸から目覚める時が来た。
ゲームはとっくに終わっている。
ログアウトしたことにも気付いていなかった彼は取り返しがつかないほど現実をぶち壊して、誰にも理解が追い付かないほど急変させた。
「………相当ヤバい状況なのでは?」
ギラギラとした趣味の悪い金色に輝く蜂の巣の肌で無ければゲルドアルド2号の顔は真っ青になっていただろう。
「これくらいゲシュタル・ゲル・ボロスでもできるじゃろ?」
無知もここまで重ねてしまえば大罪と呼んで差し支えがない。
彼が世界を巻き込んでその精算を行う時が迫っていた。
「ふぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅもっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!あっやばっ」
背中で俺は永遠を許さないを押し潰そうと奮闘していたゲルドアルド1号の不穏な台詞を聞いたゲルドアルド2号は。
近くに居る筈なのに居所がわからないレディパールに無性に会いたくなり、近くに飛んできた黄色いモフモフの柔らかい毛をワシャワシャとかき混ぜた。
次回更新は未定。
今月に更新する気持ちはあります。
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