怒りのゲルドアルド2号
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「〈レセプタービルド〉」
ティータがスキルを宣言。特殊なアイゼルフ王族専用のジョブによって彼女と一体化している機械仕掛けの巨人を呼び起こす。
既に時は止められており、停止した時空の中でゲルドアルドの趣味の悪い〈ギラギラゴールド〉の嫌らしい輝きとは違う、純粋に美しく輝く黄金色のパーツが彼女の身体を覆い隠していく。
複雑な部品がパズルのように組み上がりレガクロスロードの一機。
黄金の重装甲を纏うクロックロードが完成した。
蜂の巣の中に発生させた拡張異空間を意のままに操り。
神のごとき力を振るえるゲルドアルドの【蜂巣神界】と言えども、時空への干渉に特化したクロックロードの全力の時間停止には抗えない。
しかし、それも絶対ではなかった。
蜂の巣の大きさ、大蜜蜂の数、蓄えられた蜂蜜から無尽蔵に力を得られるゲルドアルドが操るエネルギーは膨大で、それはクロックロードに搭載されたMP創成炉の出力を遥かに凌駕している。
時間との勝負だった。
クロックロードの時間停止がゲルドアルドの暴力的出力で押しきられて解除される前に。
「振り切れクロックロード!この空間を突破し!ディセニアンの世界を探索するのじゃ!」
ゲルドアルドが「とっととゴルドアサイラムに帰れ」という意味を込めて大陸への帰り道は開きっぱなしなのだが、地球への道は現在、この空間内に存在していない。
ティータはゲルドアルドが忙しいのを理解し、自分の力だけで外に繰り出そうとしていた。
余計な気遣いである。
俺は永遠を許さないを蜂蜜で押し潰そうと大変な努力を行っていたゲルドアルドは、そのティータの動きを敏感に察知した。
流石の凡庸で鈍感な彼も、自身が神の如く君臨できる空間では、その感覚は空間の隅々まで研ぎ澄まされている。
その感覚がクロックロードの出力で【蜂蜜神界】のジョブの力を押し切ってしまうのを感じ取った。
彼は咄嗟に思った。
今すぐ止めねばならない!
おい、待て、おてんば姫止めんか!
と、ゲルドアルドは無意識に走り出した。
不思議な事に、停止した時間を乗り越えて走り出したゲルドアルドの背後には俺は永遠を許さないを押し潰そうと必死なゲルドアルドとそれを手伝う大蜜蜂達の姿があった。
実物を外へ出すには制限はあるが、蜂の巣の内部であれば何でも作り出せる彼の力が、己を複製させてゲルドアルド2号と言うべき存在を産み出し、ティータの行動を止めに走らせてたのだ。
ティータが地球への門をこじ開けて旅立つ前に、ギラギラゴールドで嫌らしい輝きを放つ金色の彼が、まさに宝と思わせるキラキラと輝く機械仕掛けの黄金の巨人へと到達する。
「ぎょん!」
『ぬわー!?』
勢い余ったゲルドアルドは直立して背を向けていたクロックロードの膝裏へと全身で衝突し奇妙な声を上げた。
彼の身体が、荘厳な黄金の機体に膝カックンする形になり、そんな予期せぬ衝撃にティータも驚きの声を上げた。
機体が背後に横転する。
「ぎやぁぁぁぁぁ!」
膝裏に突撃したゲルドアルドは、横転するクロックロードの金色に着色されたオレイカルゴス装甲。その脹脛と太股に運悪く挟まれて押し潰されてしまう。
止める事に意識を向け過ぎて、自身の防御にまで気が回らなかったのだ。
何処にそんなに収まっているのかと問いたくなる量の蜂蜜が絞り出されて噴出し、機体の脚をドロリと汚していった。
芳醇な蜂蜜の香りとゲルドアルドの悲鳴に気付いた大蜜蜂達は一斉に顔を向けると、一瞬思考が真っ白になった。特にディラックと配下の罠蜜蜂達の驚きは大きい。
ペンチで潰されるように蜂蜜と断末魔を絞り出すゲルドアルドについてはそれほど驚きはない。
不快感はあってもそこそこ見慣れた光景だったが、苦心して次元を越えて引き裂かれそうな愛し至高の巣の肉体と魂の救助を行い。
望む展開ではなかったが解決した筈の問題が、唐突に再燃したように見える、ゲルドアルド2号の登場は衝撃が大きかった。
実際には彼女達が考える危険性は、魂も含めて完全に複製された存在であるゲルドアルド2号には無いのだが、見た目だけではそれは分からない。
彼女達は思わず駆け寄りそうになるが……。
「ぎぃぃぃぃぃ!!」
目の前には、色彩異なる黄金コンビの漫才のような行動を無視して、遠く宇宙の木星軌道にいる俺は永遠を許さないを破壊しようと力み続けるゲルドアルドの姿があった。
これを放り出してクロックロードに潰されている突然出現したゲルドアルド2号に駆けつけるのは余りにもリスクが高い。
巣の存続に直結する強大な敵を相手にしているのである。今の錯乱寸前の状態でも十分に危険だ。
特に彼の大雑把な攻撃を補正している罠蜜蜂達は目の前のことに集中しなければならなず動けなかった。
『おのれ!抜かったのじゃ!よもや分身するとは思わなかったのじゃ!』
本当だよ!珍しくとこの場にいる大蜜蜂達とティータの心が一つになる。二度とは無いだろう奇跡だった。
「人が死闘を演じているというのに!何を物騒なことをしようとしてるんじゃですかこの……姫ぇぇぇ!」
そんな空気を無視して高速で砕けた蜂の巣の体を再生するゲルドアルドが叫んだ。罵倒しようとして微妙に止めた、妙な言葉使いで腕を振り上げたと思いきや、あろうことかそのまま感情のままにクロックロードを赤子のような体型とは不釣り合いに大きな前腕で殴打する。
普段の彼では考えられない行動である。
頭に受けたダメージの後遺症で微妙に理性が危うい上に、咄嗟に罵倒できなかった分が行動に出たらしい。手加減はしていたようだがオレイカルゴス装甲に大きなヒビが入った。
『ぬぅぅぅ、判ってはいたが、生身のゲルドアルドにここまでのパワーが!?』
「ここで好き勝手できると思うじゃありま……せぇぞ!」
『ほほう!いつになく気合いが入っとるなゲルドアルドよ!いや、ゲルドアルド2号と呼ぼうか!』
時間を加速して立ち上がり仁王立ちするクロックロードから、嬉しそうなティータの声が響く。弟に構われて嬉しいお姉ちゃんの笑みが自然と彼女に浮かんだ。
本当に彼らはこんな事をしている場合では無いのだが、それを一番わかっている筈のゲルドアルドの複製体。ゲルドアルド2号は、両腕をグルグルと回す子供がやるような幼稚過ぎる攻撃でクロックロードに挑みかかる。
一度表に出してしまった暴力衝動が引っ込んでくれないようだ。他に幾らでもやりようがあるというのに直接殴ることに拘って暴走している。
『ゲルドアルド2号よ!なんじゃその攻撃は!』
砂時計をモチーフにした上下に肉厚な斧刃を備えるクロックロードの巨大な武器が時間加速により刹那で振り下ろされ、ゲルドアルドの欠けた頭頂部から股まで真っ二つに切断する。
それだけで、見た目とは裏腹にクロックロードを粉砕できる破壊力を持つグルグルパンチの威力により、左右に分割されたゲルドアルド2号は蜂蜜を撒き散らしながら勢い良く飛んでいってしまった。
『威力は十分じゃが、流石にもっと見た目に気を使った方が良いぞ?非効率じゃ……むむっ!』
【蜂蜜神界】の異空間をクロックロードの高性能な金属眼球でも視認できなくなるほど遠くに吹っ飛んで行ったゲルドアルドだったが、ティータのアドバイスへの返答は無言の攻撃だった。
10メートルの機体全長を容易く飲み込む質量の蜂蜜が彼が吹っ飛んだ以上の速度で、クロックロードを左右から飲み込んだ。
次回更新は未定。
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