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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
ドーン・オブ・ザ・ゲルドアルド

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異邦人・3

お待たせしました。



 俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)は装甲の上で好き勝手に暴れる異邦人達に手を焼いていた。


 今すぐに排除したかったが、機体を貫通していった恐るべき威力の兵器を使わせないように牽制するのが精一杯だった。


 高い汎用性を持つ俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)だったが、その本質は超遠距離から不死身の竜種に一方的に死を宣告する巨大な呪術砲である。


 竜種を完全に殺すその性能と怨念を呪術で練り上げた機体は強力なれど、竜種以外にその威力を完全に発揮することは不可能。

 ましてや、ゲルドアルドの補助も込みで俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)が作られた旧世界にもそうは居なかった戦闘力を発揮しているタイタニスとサンダーフォーリナーにクロスレンジまで肉薄された状態では、身を切らねば撃退も逃れることも難しい。


 そして、身を切りわけても、タイタニスが操るサンダーフォーリナーとゲルドアルドを撃滅せねば、宇宙の彼方へと去っていった竜種(ドラゴン)全てを滅ぼし尽くす至上目的も危うくなる。


『呪怨リアクター破損部13%を本体から完全分離』


 蜂蜜。何故そんな物が俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)に対して猛威を振るうのか、その理由の大半は蜂蜜精霊(ハニーエレメンタル)が原因だ。

 キラキラと輝く天の川のように蜂蜜の中で瞬く、無数の精霊達が浄化の力を滾らせることで、鑢のように呪詛を削り蜂蜜が穴を押し広げて、制御システムが必死に機体の穴を塞ぐ努力を蔑ろにして穿孔していく。


 遠からず呪怨リアクターに浄化の力に満ちた蜂蜜は到達する。


筐体(レガクロス)構築……完了』


 俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)が紡ぐ呪詛は竜種専用で蜂蜜に紛れ込んだ異物を見境なく浄化、消滅させる大量の蜂蜜精霊(ハニーエレメンタル)相手では部が悪かった。


 本来は機体の圧倒的な出力でどうにでもなる筈だが、数の暴力で出力さえも負けている。


『分離部の呪怨リアクターのリミッターを完全解放』


 なので俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)は身を削りそれを解放する。


 竜種を殺すだけの兵器として、呪詛を練り上げて機体を作った張本人を。




 ◆




(おや?)


 タイタニスの戦場で培った感性が殺気の質が変化したことを感じ取った。


 唯、義務を遂行するだけの無機質な機械の殺意から。

 ドロドロとした執着と息遣いを感じる生物の殺意に。


 望み通りの研ぎ澄まされた殺意に、頭部に損傷を受けて狂い気味のゲルドアルドが、素に戻ってドン引きするほど駄々をこねた甲斐があると彼女は獰猛に笑う。


『ははっ!』


 殺意の源はサンダーフォーリナーの真下からやってきた。


 逃げるためではなく殺しに来た。楽しそうな相手を確認するためにタイタニスは機体に俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)の装甲表面を踏み砕く勢いで蹴り飛ばして機体を直上に移動させる。


 実は二発しか無かったゲルドアルドの虎の子の《メテオキャノン》用のアダマンタイト製巨大弾を使いきって貫徹された穴から入り込み、俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)の装甲を内部から浄化していた蜂蜜と蜂蜜精霊(ハニーエレメンタル)を押し出して現れたのは。


 見覚えのあるシルエットの銀色の巨人。


『レガクロスかい!?』


 タイタニスは、敵を確認するや否や機体を上下反転させて敵レガクロスと思われる相手に向かって加速。

 その勢いのままサンダーフォーリナーの長く先端が鉄球のような拳を未知の機体に叩き付けた。


『そういうのがあるんならさぁ!とっと出せば良かったじゃないか!戦力の出し惜しみは女を退屈させるだけさね!』


 嫌らしくギラギラと輝く金の拳が、鏡合わせのように煌めく銀の拳に受け止められている。


 その光景に怯むどころか笑みを深めたタイタニスは〈ソードパイル〉を起動するが、電磁加速された剣杭が銀色の腕を貫いて粉砕するより速く、粘土が高く精霊の制御下にある筈の蜂蜜を切り裂いて銀腕が動く。


 前腕先端からアダマンタイト製の剣杭が飛び出した時にはサンダーフォーリナーの機体が軽々投げ捨てられて、その場から強制的に離脱させられていた。


 投げられた勢いは頑丈な機体が軋む程だったが、周囲の蜂蜜とそれを操る精霊の助力で勢いを殺して停止したサンダーフォーリナーは、即座に体勢を建て直して背部のMPモーター群に甲高い合唱を演奏させながら、殴りがいがありそうな敵レガクロスに嬉々として向かう。


『ゲシュタルトの連中と同類かい?』


 目標は、不思議なことにサンダーフォーリナーに酷似していた。ただし、その色は銀色。趣味の悪い嫌らしさを微塵も感じさせない鏡のような美しい銀。


 何故、敵がわざわざ銀色のサンダーフォーリナーの姿を取ったのか?


『偽物のロマンか!アタシにはわからんがね!』


 そんな疑問をよく知る連中(ゲシュタルト)の趣味と同一視してバッサリとタイタニスは切り捨てた。


 タイタニスの機体操作がサンダーフォーリナーの性質を完全に無視して、ゲルドアルドが操ることを想定している機体をフル活用して無茶な行動を要求する。


 ただの機械であるサンダーフォーリナーは、その無茶に全身のMPモーターから悲鳴のような絶叫を上げながら答えるしかない。


『見かけ倒しなら!』


 サンダーフォーリナーの背部武装〈マグネットベクターフィールドN〉により、周囲の蜂蜜と機体をN極モノポール化。

 モノポールの強烈な磁力反発と周囲の蜂蜜の蠢動が機体の前方に押し出して猛烈に加速させる。


 加速しながら頭部から〈ボルトバスター〉最大出力で目標に叩きつけながら機体に両足での飛び蹴り……ドロップキックの体勢をさせると、そのまま電撃砲を浴びてバチバチと美しく輝く銀色の偽サンダーフォーリナーに、機体の質量と機体を押し加速させていた蜂蜜の重量全てが乗った蹴りが炸裂する。


『これで死んどきな!!』


 ドロップキック命中と同時に〈メテオキャノン〉が放たれたる。


 発射されたのはアダマンタイト製ではない。常備されているハニーメタル製通常弾だったが、放つのは金属粒子が土壌に大量に含まれたアイゼルフ王国の大地を派手に陥没させる対邪神用に開発された大威力電磁投射装置。

 カンスト級どころか並の【Unlimited】ジョブ取得者でも消し飛ぶ兵器をフル活用した強烈な連撃だ。


 強烈すぎてサンダーフォーリナーから不穏な破断音が聞こえてくる。


 どこかで機体の部品が限界の先へ逝った音だろう。


 機体内部でタイタニスや大蜜蜂(ハニービー)達が思考加速して、キメラを通じて運用されたが故の限界越えた行動が、速やかにゲシュタルトに持ち帰り念入りにオーバーホールした方が良い状態にまで機体を痛め付けていた。


 タイタニスの異能と、ゲルドアルドやオリハルコンの強化がなければ、とっくに機体が崩壊している。


『……!』


 銀色の偽サンダーフォーリナーはそんな攻撃をまともに食らいながらも揺るがなかった。


 それどころか〈メテオキャノン〉が胴体に風穴を開けながらカウンターで頭部から〈ボルトバスター〉のような激しい電撃を彷彿させる黒い呪詛を放つ。

 黒い電撃はサンダーフォーリナーを打ち据えて俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)の装甲表面に叩き付けた。


 呪詛の余波は蜂蜜精霊(ハニーエレメンタル)に及び、その数をゴッソリと減らしてしまう。


『キィィィィィヤッ!』


 咄嗟に両腕で電撃砲を防ぎながら背中から機体を叩きつけられてしまったタイタニスは、本気の咆哮で喜色を表し精霊の補助が減り鈍った機体に構わず、浮かび上がったサンダーフォーリナーの脚部を風車のように回転させた。


 偽サンダーフォーリナーを蹴り飛ばして起き上がり、間髪入れずに、機体が想定していない四足の肉食獣のような動きで偽サンダーフォーリナーへと肉薄して襲いかかる。


 前腕や肘の先から剣杭を激しく前後させて放つ殴打の加速や自由に変化する間合いが、銀色の機体を切り裂き、または打ち砕こうとかんと振るわれる。


 タイタニスの異常な格闘センスと、人よりも自由な関節構造を持つ機械化された身体での戦闘経験が、初めてサンダーフォーリナーを操るとは思えない華麗に各部が曲線を描いてグルグルと高速回転して振り回される独創的な輝く黄金の連撃が即興で産み出されて、偽サンダーフォーリナーを襲う。


『低能が』


 少年の声が銀色の機体から漏れる。


 胴体に大穴を開けた偽サンダーフォーリナーが、今生まれたばかりの金の連撃と全く同じ攻撃で鏡のように銀色が応じる。


 両機体の〈ソードパイル〉の剣杭が激しく前腕と肘の先端を前後させて様座な角度と間合いから、先端を高速で打つ電磁加速の刺突、腕の動きで剣杭で直接切りつける斬撃、腕部と脚部の直接打撃がお互いを襲い、金と銀が蜂蜜色の中で煌めき機体を削り会う。


『ケァァァァァァァ!』


『こんな遊びで』


 申し訳程度に俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)の装甲表面を触れていた両機の脚部が離れる。

 元より地に足着けて殴り合う機体ではなく、飛行を常とするレガクロスとしてマイノリティの破壊兵器。

 ましてや現在は蜂蜜に包まれて真空とは言いがたいが宇宙空間でのバトルは、上下左右に拘る必要は無い。


『俺を煩わせるんじゃねぇ!』


 縦横無尽に位置と方向を入れ換えながら。

 金と銀が相手を破壊せんと躍り狂う。


『俺は天才だぞ!死して失われたこの世で最も尊き存在だ!そんな俺が死しても成す偉業の邪魔をするなっ!』


 幼さが残るその声には異常なまでに高い自尊心と憤りで溢れていた。


 呪怨リアクターの根幹を形成する呪詛は凄まじい。


 リミッターを外した途端。唯、竜種を殺すだけの呪いから元々の人格が再生するほどの常軌を逸した感情が込められている。

 そして、感情の赴くままに、サンダーフォーリナーを駆るタイタニスに襲いかかった。

 姿と能力を模倣したのは、彼が自分の有能さを敵に見せつけるためだけに行われていた。


 彼は我慢できない。


 己の墓石が、永遠にこの世に名を残すための俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)が。

 趣味の悪いギラギラとした黄金に輝くレガクロスに苦戦していることが。


『……!?』


『伏して讃えろ!』


 酷使されたサンダーフォーリナーに遂に限界が訪れた。


 装甲自体には無数の裂傷が刻まれてもその役目を十分果たせる状態だったが、全体の強度からすると比較的弱い関節が砕けて金色に輝く右前腕が戦いから脱落する。


『冷たい地面の上で俺の喪失を感じとれ!』


 タイタニスは蹴撃も多用するが、もっとも得意なのは腕による殴打。必然的に左腕に負担が集中し根本から失われる。


『涙を流して嘆き続けろ!世界から俺が失われた悲劇を!』


『やっるっ!?』


 流石のタイタニスとサンダーフォーリナーでも両腕が失われた状態では、同格の銀色の偽サンダーフォーリナーと戦いにならず、無理に繰り出した攻撃で両足も失ってしまう。


『あははははははははっ!』


 銀色の偽サンダーフォーリナーに顔があれば、他者を下した愉悦で浮かべていただろう嘲笑を響かせる。


『見たか!俺は天才だ!』


『参ったねぇ、楽しかったのに……所詮は蜂蜜坊や用の玩具か』


『なっ……に?』


 四肢を失ったサンダーフォーリナーの中で聞こえている筈の少年の声を完全に無視して、酷使した機体の脆さをタイタニスは嘆いた。


『この俺を!天才の俺を!世界に襲った悲劇を!俺の死を無視するな!!?』


 その事に気付いた彼は激怒して叫んだ。


『しょうがないねぇ、お色直しの時間さね』


 全く相手にしようとしないタイタニスの言動に彼が更に怒り狂う前に、金と銀の両機体が、なんの前触れもなく発生した衝撃で大量の蜂蜜と共に吹き飛ばされる。


 それは木星と同等の質量を誇る俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)が、ゲルドアルドの地球からの攻撃によって、その場から強制的に移動させられたことで発生した衝撃だった。


次回更新は未定。

今月に更新する気持ちはあります。


ブックマーク、コメント、ポイント、いいねしてくれると、とても嬉しいです。

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[良い点] ワクワクする! [一言] ヤバい、もしかしたら三つ巴になりそう
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