異邦人・2
お待たせしました。
前話の題名を異邦人・1に変更しました
『あーはっはっはっはっは!』
機体の拡声器からとても楽しげな女の声が響く。
その目の前では俺は永遠を許さないが呪怨リアクターに損傷を与えた最も厄介な敵を排除しようと、自身の装甲を変形させたワーム型モンスターのような外見の即席の攻撃用アームでサンダーフォーリナーを包囲する。
その太さは通常のレガクロス並み。アームの長さは全長五十五メートルのサンダーフォーリナーの数倍はあった。
先端に備わる衝角が持ちあげられ一斉にサンダーフォーリナーに向けられる。
『はっ!』
タイタニスがそれを見て鼻で笑う。
蜂蜜精霊の浄化に耐える強度と粘度の高い蜂蜜の圧力の中でも弾丸のように動く力を備えるアームが襲いかかる。
急造だがタイタニスが操縦できるように改造されたサンダーフォーリナーの操縦席で彼女が踊る。
残像を残して手足の先端が見えなくなり、その動きに追従した機体が、これも蜂蜜に沈んでいるとは思えない速度で迫る攻撃を全て殴り返した。
アームの衝角がほぼ同時に砕け散る。飛び散った破片が即座に精霊の浄化能力で消滅。
長いアームの先端が衝角を失い。サンダーフォーリナーのギラギラと輝く趣味が悪い黄金の輝きを中心に花咲くように勢いよく仰け反った。
「なんだいなんだい!ウスノロだって聞いてたのに、こんなにも動けるじゃないか!」
機体の操縦室でタイタニスは仁王立ちし、自身よりも遥かに劣るレガクロスにしか乗ったことがなかった彼女は戦いの高揚とは別の興奮で頬を染めて口角を上げる。
「蜂蜜坊やめ!アタシに隠していたなんて……隅に置けないねぇ!」
その周囲では、忙しなく働く大蜜蜂達の姿があった。
本来はタイタニスの言う通り、機動兵器のレガクロスとしてはウスノロの筈のサンダーフォーリナーがここまで動ける秘密は彼女達にある。
ゲルドアルドのスキルで空間が拡張された機体の操縦席は、本来の機体操作用の装置が撤去されていた。
代わりにタイタニスが陣取る部屋の中央に周囲の床よりも一段高い舞台のような場所が設置されている。
そこは急増した彼女用の操縦席。舞台と対となる天井に設置された無数の大蜜蜂の頭部でできたキメラがタイタニスの動きを読み取り。
同時にサンダーフォーリナーの視界と各種センサーが捉えた周囲の状況を彼女と彼女達に伝えている。
大蜜蜂達はそれで得た情報とタイタニスの動きに会わせて、機体の周囲に侍る無数の蜂蜜精霊働きかけて蜂蜜を操作。
蜜の圧力で無理矢理サンダーフォーリナーにタイタニスの動きをトレースさせているのだ。
サンダーフォーリナーも大蜜蜂達も、音速を超える打撃を繰り出すタイタニスの動きを追うためにゲルドアルドのスキルと莫大なMPで強化されている。
『ほぉ更に大きなモノで?』
容易く攻撃を凌がれた俺は永遠を許さないが浄化に耐えながら更に巨大なアームを作り出し再び衝角を向ける。
『わかりやすいねぇ、嫌いじゃないよ』
タイタニスの動きに合わせてサンダーフォーリナー拳を振りかぶる。
肘にあるスリットから肉厚な剣杭〈ソードパイル〉が飛び出す。
『だけど、もっと大きくしないと……』
弾丸よりも早く鋭い。繰り出される太さだけでもサンダーフォーリナーを越えるアームの衝角はそのギラギラとした趣味の悪い黄金の機体を襲い。
突き出した激流のような蜂蜜の流れを纏うサンダーフォーリナーの右腕に迎え撃たれて止められる。
「物足りないねぇ!」
同時に肘から飛び出していた剣杭が電磁加速投射装置を内蔵した長い前腕内部を高速移動。
剣杭は腕の先端から飛び出して貫いた。
ヘビィアダマンタイトと金属化した蜂蜜の合金で作られた剣杭は、敵のアダマンタイト合金を変形させたアームへと一気に押し込まれ、側面の溝に固められた爆蜜蜂の爆発する蜂蝋ニトロワックスによって内部から爆砕する。
先端を完全に吹き飛ばされ、爆発で真っ二つに裂かれたアームが蜂蜜精霊の浄化で更に削がれて破壊されていく。
〈ソードパイル〉を使用したサンダーフォーリナーの腕から蒸気が派手に噴出して蜂蜜に轟音を響かせた。
尚、剣杭の電磁投射のカッコイイ演出として蒸気噴射の幻術が魔法で組み込まれているだけで、特に排熱などは行っていない。
『みえみえだよ!』
正面から襲ったアームを囮に、同サイズの攻撃用アームをサンダーフォーリナーの背後に形成していた俺は永遠を許さないの奇襲を突き出していた右腕で肘鉄を繰り出して迎撃。
腕の先端から飛び出していた剣杭は再び電磁加速で前腕部を移動して今度は剣杭が肘から飛び出す。
内部に引き戻される過程で素早く再充填されたニトロワックスを起爆してアームを破砕する。
『少しは殺意を……隠しな!』
更に遠くの離れた装甲位置からサンダーフォーリナーの真上に長い攻撃アームを伸ばした頭上からの急降下攻撃を左腕の〈ソードパイル〉によって爆砕。
剣杭の一撃で真っ二つに割れたアームの先端が、急降下の勢いで押し拡げられて左右に別れなる。
そのまま俺は永遠を許さないの装甲表面をのたうち、浄化で削られるように崩壊していった。
竜種への憎悪と殺意から生まれた呪詛が原点である俺は永遠を許さないには殺意は隠せない。
タイタニスに……正確には竜種の気配がする蜂の巣がベースのサンダーフォーリナーに隠すこと無く迸らせる殺意を感じて攻撃を探知するのは、闘争の熟練者たる彼女には容易いことだった。
『ガキみたいに殺意ばら蒔いてんじゃないよ!もっと研ぎ澄ましな!』
周囲に幾つも高まる殺意。アームの生成と攻撃を感じ取ったタイタニスはワンパターンには興味がないとサンダーフォーリナーの背部のMPモーターを唸らせる。
湯水のようにゲルドアルドのMPを注ぎ魔法で威力を強化された莫大な電力が頭部電撃砲からビームのように直進する電撃〈ボルトサンダー〉として放たれる。
電磁パルスで直線に誘導された電撃は機体の首の動きに合わせて、大蜜蜂達が作った蜂蜜の隙間を通り、機体の周囲の敵の攻撃用アーム生成の基点を全て薙ぎ払い。
周囲ごと吹き飛ばして破壊していく。
「こういうのは好みじゃないと思ってたが、やってみると中々楽しいねぇ」
素手でジョブカンスト者が操るバルディッシュⅣを一方的に破壊し、超高級の幹部専用戦闘特化レガクロスのパンツァーブルーダーや国の至宝の一つレガクロスロードと渡り合えるタイタニス。
そんな彼女の動きに耐えられる機体は、それこそパンツァーブルーダーやレガクロスロードやレガリアくらいだった。
それらの機体は、前者は操縦者であるブラウリヒトの能力に合わせられた癖があり過ぎる機体で、後者は王族の血統にしか動かせない。
それゆえ彼女にとってレガクロスとは戦えば面白いが、自分で扱っても高級な玩具が置物程度の魅力しかない存在だった。
それは、タイタニスでもまともな手段では勝てないと確信できるゲシュタルトの最終兵器の機神ゲシュタル・ゲル・ボロスを見ても変わらなかった。
機体が強すぎて操縦できれば、幼子でも敵を叩き潰せる。
己の強さを反映する必要がない雑な戦闘手段に彼女は興味を持てなかった。
それにタイタニスのジョブにレガクロスを強化する能力は無い。レガクロスに乗っても、普通に戦えば赤子の手を捻るように倒せるアイゼルフの一般兵士に負けてしまうだろう。
乗る理由なんて存在しないのだ。
大陸とは違ってMPがほぼ枯渇している現実の世界へと彼女が飛び出さなければ。
『はーっはぁ!さぁ、まだまだネタはあるんだろデカブツ!もっと来な!好きなだけ相手してやるよ!』
宇宙服代わりにタイタニスに貸し出され、魔法戦はそれなりに得意でも、近接格闘は素人だったゲルドアルドには皆無の近接戦闘能力を手にしたサンダーフォーリナー。
心なしかいつもよりもギラギラと輝いて見えた。
(後で蜂蜜坊やにねだるか……アタシ用の金色のレガクロスを)
それは、元々機体を染めるギラギラゴールドが、狂金と呼ばれるタイタニスの金に対する執着を核に作られている呪物だからかもしれない。
異能を操る普人族であるタイタニスは、金色の物体を強化する力を持つ。
ギラギラゴールドで染められたサンダーフォーリナーは、MPを介した彼女の操作を受けやすくなっている。
相性は悪くないどころか、これ以上無いくらい良好だった。
次回更新は未定です。
早目に投稿したい気持ちはあります。
感想、ブクマ、ポイント、いいね、して貰えると嬉しいです。




