ゲシュタルト緊急オフ会
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日本が世界に誇る美しき霊峰富士。
その美しさを守るためという名目で、千年前から一般大衆の立ち入りを周辺の樹海と共に禁じられていた。
しかし、実際には、富士山内部を丸々埋め尽くす、地熱を動力の一部として利用した旧世界目録の巨大な本部基地が存在することが理由である。
美麗なる富士山の内側は彼等の魔法文明への妄執で埋め尽くされている。
そんな基地の一室に現在、地球が迎えている危機的状況をなんとかできる可能性を持った人物達が集められていた。
一人は自宅マンションより拉致されたオゾフロ。
もう一人は……。
◆
◆富士山内部。旧世界目録本部基地。
「……ルマス、ギルマスらしき人!起きろー!」
「んがっ?」
起床を即す少女の声によって、闇に沈んでいたオゾフロの意識が急速に浮上する。部屋の眩しさに目細め、無意識に目を擦ろうとした彼女の行動を体にグルグルに巻き付けられた鎖が阻んだ。
自身を椅子に縛り付ける鎖の存在にギョッと驚き、寝起きで鈍い頭が覚醒する。
「はっ?んだよこれ!」
辿れば先端に錨でも繋がっていそうな太い鎖だった。それが彼女を椅子の背もたれにキツく縛り付けていた。
「起きたかギルマスらしき人よ」
「あぁ!誰だてめぇ!」
オゾフロは右から聞こえてきた少女の声に対して噛みつかんばかりの勢いで振り向き叫ぶ。鎖と椅子がギーギーギチギチと震えて悲鳴があがる。
「落ち着け、鎖が軋んで煩い。よく聞こえないぞ、ギルマスらしき人。私はおまえがよく知ってるかもしれない女だ」
「ギルマスらしき人」と、曖昧で奇妙な呼び方をする胸に有名ブランドのロゴが入った青いジャージ姿の少女は、弾け飛びそうな鎖の様子に一歩、オゾフロから離れてから返事をした。
頑丈そうな金属の椅子も、このままでは危ういように見える。
「意味わからん!逃げんじゃね!どこだ!ここは!?この鎖はおまえか!とっとと解きやがれ!」
「……凄い既視感ある罵声だ」
暴れて大声で巻くして始めたオゾフロ。そのまま暴れ続ければ、要求通り鎖は解けてしまいそうだなと冷静に観察している少女は、殴りかかられる前に気になる本題に入ることにした。
「ギルマスらしき人……もしやアニメートアドベンチャーでオゾフロというアバター名でプレイしてないか?」
少女の問い掛けにピタリとオゾフロの動きが止まる。その顔は驚愕に眼を見開いていた。
二次元アニメ調になるとは言え、ネットリテラシーの欠片も無い。無加工フェイスで、ゲームをプレイしていた彼女の胸中を様々な想像が駆け巡った。
「その顔はやはりそうなのか、それでは、コチラでは初めましてだなギルマス、私はブラウリヒトだ」
「ぶ、ぶらうりひとっ!おまえが!?」
オゾフロは名乗られた名前を聞いて驚く。瞬時に高身長のモデル体型、それがハッキリと判る身体の線にピタリと張り付いた青いライダースーツ。そしてフルフェイスヘルメットで顔を隠している、ギルメンであり友人の姿と目の前の少女の姿を見比べた彼女は吠える。
「嘘だ!ストイックなアイツがアバターをあんなに欲望ギチギチに盛ってる訳がねぇ!ふざけんなよ!!」
オゾフロは、友人を騙る似ても似つかないを姿の少女に激怒した。戦闘技術に関して一切妥協せず、ギルドから提供されるレガクロスや武器に恐ろしい水準を要求。自身もそれを扱えるように誰にも文句を言われないほど徹底的に鍛えて磨く。
それがゲシュタルトの雇われ幹部の片割れ。同じ雇われ幹部ゲルドアルドとは対極に位置する。
徹底して質を高める女、ブラウリヒトである。
バキリと鎖の一部が砕けてオゾフロの拘束が緩む。オゾフロは勢いづき、抱いた怒りを燃料に鎖も椅子も破壊しようと暴れ始める。
「おぉ凄いな……過大評価してくれるなギルマスよ。日本人にあの体型は盛らないと無理だ。あそこに引きこもりすぎて価値観変わってないか?良く思い出せ、この姿は日本人の標準だ」
胸を張ってもジャージの上から起伏をまるで確認できない、ブラウリヒトを名乗る凛々しい目付きの少女はそう主張した。因みに彼女の年齢は今年で五十歳になる。
「あん?」
そういえばそうだったか?と指摘されたオゾフロは怒りを忘れて首を傾げた。そんな彼女も四十を越えている。
どちらも見た目は少女。オゾフロは低身長で身体が丈夫な鉱人族。普人族のブラウリヒトよりも身長が低く、幼女に針が傾く姿だ。
プレイヤーの多くが外国のメリハリある体型に憧れ、完全意識投入型ゲームだと言うのに、特盛でアバターメイキングするのが当たり前の大陸。更にゲーム内の体感時間は何倍にも加速しており、廃人達の中には百年以上ゲーム内で過ごしている者も多い。
そんな廃人達の一人であり、リアルとほぼ断絶した生活のオゾフロの価値観は、成人しても子供にしか見えない日本人とは、かけ離れた体型の人間ばかり登場する外国やゲーム内の娯楽作品にドップリ浸かり、汚染されていた。
日本は連邦と連合所属の市民たちから妖精の国と呼ばれるほど、愛らしい外見をした者達しか居ない。
不思議な国である。
「……あんたがブラウリヒトだとして、じゃあなんで拉致して鎖で縛るんだ?」
「それは、私ではないぞ?私もソチラと同じく強制的に連れてこられた口だ。そこまで酷い扱いはされなかったが……」
ブラウリヒトは、二時間ほど前に旧世界目録の特殊部隊に襲われた。地の利を生かしてゲリラ戦法で部隊を翻弄して対抗したが。敵の援軍。大鬼が私有地の森の木々を蹴散らしながら現れた時点で降参した。
彼女は改めて周囲を見回した。二人が居るのは妙に天井が高く金属地が剥き出しの部屋。
椅子に鎖で縛られたオゾフロの目の前壁だけは一部が、マジックミラーかモニターらしき、壁の端から端まである、長方形の素材の違うツルツルとした黒い部品が嵌め込んであった。
『あーテステス、そちら声は聞こえていますか?』
「あ(ん)?」
突如聞こえた第三者の声。同時に黒いツルツルとした壁の正体がモニターだと判明する。
「聞こえてますね?映ってますかー?あ、映ってますね?おっほん」
黒い壁が発光。どこか二人が見覚えのある胡散臭い笑みを浮かべた整った顔を包帯や絆創膏でやや損なった緑人の少年が映り、喋りだした。
「こんにちは、オゾさん、ブラウさん、ゲーム外で顔を会わすのは初めてですね」
画面の中で少年は丁寧にお辞儀をする。その動作で二人はまさかと、頭の中である人物を思い浮かべた。
「私の名はダイ・オキシン。あ、本名を名乗っても私たちには意味がないですし、向こうの名前を名乗りますね」
「「ダイ・オキシン(サブマス)!?」」
『はい、ダイ・オキシンです。ゲシュタルト幹部が揃った所で話し合いましょうか……旧世界からやって来た怪物達との交渉と排除という地球最大のイベントの攻略について』
「何言ってんだてめぇ!人の顔をぶん殴った挙げ句に鎖で縛りやがってド変態が!!家に返しやがれ!壊した窓も弁償しろ!」
遂にオゾフロの怒りに屈した鎖が弾け飛ぶ。彼女は椅子を蹴飛ばし、壁一面のモニターに映った巨大で、いつもと違う顔のサブマスに食って掛かる。
満ちていくMPの影響で大陸の身体に徐々に近づく彼女の顔には、青痣一つ無いが、オゾフロを確保しにいって全滅しかけた旧世界目録の特殊部隊が、大鬼まで持ち出して制圧されたので大変御立腹だった。
「そうっだぞっ!同意もなく縛るのは恋慕していてもダメだ。あと、おまえがサブマスとして、ゲルドアルドが居ないが?」
ブラウリヒトは散弾のように飛んできた鎖の破片を華麗に回避しながら、サブマスを名乗る胡散臭い顔に、あらぬ疑いをかけながら、一人欠けていると疑問を投じた。
『流石ですね二人とも、謎の組織に拉致されたというのにまるで動じない……その胆力で是非とも!地球を救うスーパーヒロインになっていただきたい!ゲルさんはオゾさんの交渉次第です』
「「は?」」
『地球SOS!信じがたいでしょうが青い地球は絶対絶命のピンチに陥っています!救えるのはオゾさん!貴女だけなんです!!』
モニターの中のダイ・オキシンが指を鳴らすと、彼女達から見て左の壁の一部が動き、何かが競り出してきた。
「俺の服……?」
出てきたのはマネキンに着せられたトンガリ帽子とローブ。それはオゾフロが大陸で着用している魔女をイメージした専用装備と、そっくりの衣装だった。
「拉致して、鎖で縛った上でコスプレを要求……ヤバいな」
ブラウリヒトは自分のコスチュームプレイ用の衣装が無いことに安堵した。
『あのーブラウさん?そろそろ洒落にならない疑い止めて貰えませんか?本当に真剣な話なんですよ、人を誘拐するほどにね』
「まずは、気持ちを正面から伝えるのが先決だぞ」
「気持ちわりぃ」
『ち・が・い・ま・す!引かないで!とっとそれに着替え……うぉぉぉ!?嘘でしょ!あの蜂の巣ぅ!ぶっぱなすのが早すぎる!?』
言葉の途中で二人には見えない位置にあるだろう何かを見たダイ・オキシンが慌て出す。
『くっそ!着替えたら行きますよ、詳しい説明は移動中です!』
その声を合図に部屋にオゾフロとブラウリヒトを襲った特殊部隊の黒服達。更に左の壁が割れて大鬼までも入って来た。
「ぬあー!何すんだ!」
「また、移動なのか……」
『ここで説明したかったのですが申し訳ありません。たった今、猶予が無くなりました。動き出したゲルさんが地球を踏み砕く前に、機神をコチラに喚ばなければならないのです』
大鬼の機械の剛腕に抑えられて強制的に着替えと移動をさせられるオゾフロ。そんな友人の後ろでブラウリヒトは丁寧にエスコートされて部屋から連れ出される。
こうして、ドタバタと忙しなく、録な説明も受けられないまま、彼女達は触れることになる。
この世界の秘密と、それを無自覚に破壊しようとする二体の旧世界の怪物達に。
俺は永遠を許さないが弾丸となって地球へと迫る日は近く。それを知ってか知らずか、旧世界の怪物の一体は無数の下僕を従えて動き出す。
旧き新生と旧き呪詛の、第二ラウンドは、甘く芳醇な蜂蜜を溜め込む史上最大の蜂の巣の先制攻撃から始まった。
次回更新は未定。今月に更新したい気持ちはあります。
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