第六稿 妖鬼
スマホ版の仕様なのか、段落の最初の一字下げが上手く行きませんでした。PCが使用可能になり次第訂正します。
「ったく、なんなんだこりゃ…」
ゲンダが偽神について大まかな概要をゼロから教わってから2日後、零が目を覚ました。ゼロ曰くもう少し早い予定だったらしい。
「どうしたの?おじさん。」
不思議そうに零がゲンダを見つめる。元々ポテンシャルはあるはずだとは思っていたがこうもずば抜けているとは。
「零…お前一体どうしたらうちの敷地のど真ん前に魔物の死体の山が出来るんだ…しかも…」
サバイバルでもする気だろうか。死体は全て血抜きされ、内臓も取り出されていた。ゲンダは内臓はどうしたのかと聞こうとしたが、少し遠くから野犬の鳴き声が聞こえて来たので尋ねるのをやめた。
ネメシスの隠れ家は、隠れ家と呼ぶにはかなり大きいし、敷地もとても広い。隠れ家とされている建物の正面には巨大な広場があり、そこに家を建てて生活する一般の民もいるため、現在のガリウス派とは宗派と言うよりは巨大な人民コミュニティに近い。ナリウス派程組織化されてはいない為、軍ではなく武闘集団として日々闘っている。
「傷の方はもういいのか?」
「うん、お兄ちゃんが診てくれたから。もう運動してもいいって。」
「その運動がこれか…」
今更ではあるが、ゲンダは改めて零が人間ではないと認識した。だがこの少年は恐らく親と呼べるものが現時点でいない。流れとしてはゲンダ自身が親代わりをするのが妥当だろう。ゲンダは自分が零の親代わりとなり、せめて人格面ではしっかりと支えて行かねばと心に決めた。
「ふむ…」
""どうしたゲンダ、悩み事か?'""
「いや、そういうわけじゃないんだが…って、お前、どこから顔だしてやがる!?」
ゼロの声がする方へ顔を向けると、刀の柄の部分から白い球体が紐のようなものを伝って風船のように浮いている。
""ああこれか、魂をこの刀の柄から空間に投影してるんだ。上手いこと出来てるだろ?""
「あ、あぁ。そうだな…」
""人でも神でも、目と目を合わせて会話しないと失礼だと思ってな。応急処置だ。""
妙な心遣いは神特有のものなのかそれともゼロの個性からくるものなのかは、ゲンダには判断できなかった。
""これからの事だが…正直な話すぐにでもここを出たい。""
「例の目覚めの刀剣の話か。」
""そう。実は少しだけ思い出した事があってな、まぁそれはこっちの事情なんですぐには話せない。""
「そうか、まぁ記憶が戻りつつあるなら進展はあったな。」
""進展があったかどうかはここを出てから決める事だ。まずは協力者を探す。""
「協力者ってここの奴らじゃダメなのか?」
""ああ。それもこっちの事情なんだが、この世界に神話と深い繋がりがある一族が複数あるはずだ。まずはそこを当たる。""
「神話に繋がりがあるって言えば、ここから一番近くて神谷か、もしくは宇賀神だな。」
""…よし。まずは神谷の元を訪ねよう。""
「よし、早速準備だな。」
""待て、ゲンダも行くのか?""
「そりゃあ、乗りかかった船だからな。闘いはお前たちの足元にも及ばないが、こっちの世界歩くならガイドが必要だろう??」
ゲンダは得意げにゼロを説得した。ゼロとしては、偽神が絡んでくるこの件に巻き込みたくは無い。それに、偽神の全員が全員カグツチのように人間を見て軽蔑の目を向けない訳ではない。寧ろ下劣な存在だと毛嫌いする者もいる。目を離した隙になぶり殺され続ける可能性もある。その可能性を考慮しても、ゼロはお人好しだった。恩人の頼みを聞けない筈がない。かなり悩んだ末、ゲンダにも付いてきてもらう事にした。
""よろしく頼むよ。""
「よし!そうと決まりゃあーーー」
""待て、一つ気に留めて欲しい事がある。""
「な、何だ?」
""あくまで俺の勘なんだが、少し嫌な予感がする。何かあってもなるべく俺が対処するが、一応気をつけて置いてくれ。""
「お、おう。わかったぜ。」
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旅の道中は魔物や盗賊の襲撃に注意しなければならない為、ゲンダは常に気を張っている。途中、近道のために森林の中へ入った。するともうゲンダはずっと戦闘態勢。自分の剣の持ち手を握りしめる手からはかなり手汗が浮き出ている。ここまで極限に集中し続けると、無駄に体力も消耗してしまうし、何より精神的にも疲れてしまう。ゼロはそんなに気を張らなくてもいいと言うが、ゲンダはここで予想外の巨大な魔物が現れて全滅なんて御免だと言わんばかりに無理に気を張っている。
「おじさん…少し楽にした方がいいよ。」
「でもなぁ…」
""安心しろ、こっちには俺に勝てる生物は偽神以外まずいない。""
「それはわかってるんだけどなぁ…」
""何だ、何が不満なんだ?""
ゼロは人間と接する事が今までほとんどなかった為、このゲンダの不満の元が何なのかわからなかった。困惑するゼロと零を見つめながらゲンダはこう言った。
「人間にはよ、プライドってのがあるんだ。頭ではお前たちに任せた方がよっぽど楽だと分かってても、自分の身位は自分で守りたいんだよ。そのプライドがお前たちに任せっきりにする事を許さないってな具合にな。」
「それでもちょっと…」
""うん。気を張りすぎだ。それじゃあ新米の戦士と何ら変わらんぞ。それに、その無駄な集中が切れた時に自分の身を滅ぼす原因になれば本末転倒だろう。""
ゲンダが零とゼロに、人間が持ち合せるプライドについて説いている間に、ゼロが3人に近づく気配を察知し、「この話は後だ。」と言いながら零とゼロは戦闘態勢に入る。
その気配の正体は、零に顕現の隙を与えず突然襲いかかってきた。
「くっ…おも…」
鳴り響く金属音は、その攻撃の力強さを示すようであった。死角から剣のような何かで確実に零を倒しに来ている。
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""零、こいつは多分…""
「偽神…でも僕らに一体何の用が…?」
""分からんがとにかく応戦するぞ。隙を見て俺を出せ。""
「やってみるよ。」
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人間の会話のそれとは全く別の方法、テレパシーに似た方法で意思疎通を取る事ができる偽神は、それを刀の主人にも応用することができる。だがこれには内密にしたい会話には向かない欠点があり、近くにいる偽神にその会話内容を聞かれてしまうというところだ。つまるところこの意思疎通手段は本来偽神達が相手に悟られずに連携を取るためのものだ。
だが今回、零とゼロはこれを逆手に取り、相手が偽神であるかの最終確認の為にわざとこの方法を利用した。
「ふん。無駄な事を企みよる。そいつを出しても結果は変わらんと言うのに。」
掛かった。黒だ。
零は相手が斬りかかって来た瞬間を狙いカウンターを仕掛け、相手が怯んだ隙に顕現を始めた。
ゲンダと始めて遭遇した時のように、白い覇気に包まれてゼロが現れる。
""顕現 神将ゼロ""
ここで初めて相手をしっかりと確認することが出来た。黒いローブを身に纏い、腰には刀の鞘。間違いなく刀の主人のそれであった。
「仕方ない。こちらも本気を出させてもらうとしよう。」
風が再び相手を目視出来なくするほど強く吹き荒れ、やがて全身を包み込んだ。やはり相手も顕現してくる。
「俺の姿を見て驚かないでくれよ…?」
""顕現 妖鬼黒夜叉""
風の中から現れたのは鬼だった。
白かったであろう結膜は黒く染まり、瞳孔は赤く光りを放つ。その殺気は零やゲンダに突き刺さるような衝撃を与えた。




