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第五稿 偽りの神

 ゼビウス軍最高幹部の1人、隻眼のアルドラ『アルドラ・ザメク・フォールン』は会議室で、大賢者セラフ『セルフィー・メル・ノーヴァ』と共に、"目覚め"の捕獲へ向かわせたリグレット将軍の帰還を待っていた。

 "目覚め"の力は強大である事が予想されるため、慎重に立ち回るようにと伝えはしたが、実際のところ、2人にとってリグレットは捨て駒に過ぎなかった。

 強大な力を持っているはずの"目覚め"に真っ向から挑んでも勝ち目はない。そのため、"目覚め"についての手掛かりをほんの少しでも掴めればそれでよいのだ。


 「失礼致します。リグレット・コーラルです。」

 「入れ。」


 アルドラとセラフの帰還したリグレットを一目見た感想は、やはりかといった感じのものだった。

 "目覚め"の捕獲を命じてから数日、定期報告も無かったため、一度死に値する攻撃を受けたのだろうと予想はしていた。しかし、捨て駒として扱ったとはいえ、リグレットは現役の魔導師、魔女を合わせてもトップクラスの実力を持っていたため、傷だらけの体から"目覚め"の恐ろしさが伝わってくるようだった。


 「どうだった。"目覚め"は。」

 「何か、特徴や能力はわかったかしら?」

 「奴は…恐らくは人間の手には負えないでしょう。あれは明らかに人の域を脱していました。」

 「ふむ…そうか…」


 やはり2人の予想通り、人の力では"目覚め"には到底敵わないようだ。


 「ですが、"目覚め"に対抗できるかもしれない力を手に入れました。」

 「…?それは何だ?」

 「恐らく、"眠り"かと。」


 リグレットの言葉にアルドラとセラフは凍りついた。よもや彼女が"眠り"に選ばれようとは。


 「そうか…リグレットよ。お前は今後どうしたい?」

 「私は…」


 リグレットの脳裏にセシルとシャノムの顔が過ぎる。あの2人を、大切な部下を助けなければ。


 「この力を手に入れる際にある契約を"眠り"と交わしました。」

 「契約?」

 「えぇ、それを成し遂げるためには、私の単独行動を認めて頂かなければなりません。」

 「何なの?その契約とは。」

 「詳しくは言えませんが、この戦争に大きく関わることになります。」

 「…」

 

  ここで彼女の要求を却下すればどうなるかわからない。刀の所持者の人格が、所持する前と後で変わるというのは、ゼビウス軍の中では有名な話で、ある魔導師が刀を手にした途端、敵味方問わず惨殺し、遂には自らも刀の魔の手によって死んだと言う話もある。

 彼女も、手に入れたという"眠り"の力でアルドラとセラフを殺し、単独行動に出るのか。それとも大人しく従うか。この決断は賭けになるだろう。


 「いいわ、あなたの好きになさい。」

 「セラフ…!」


 アルドラは思わず席を立ち上がり、セラフを睨みつけた。この決断を誤るという事は、《不死戦争》の終幕どころか、人間を絶滅の危険に晒す事を意味するのだ。


 「今は…彼女にかけるしかない。元々我らの目的はこの戦争の終戦。うまくいけばこの闘いに大きなアプローチをかけられるかもしれないわ。」

 「しかし…」

 「この契約は…恐らくこの戦争の終わりに大きく関わることになります。」

 「それは何故だ。」


 アルドラはリグレットに視線を移し、彼女の契約の一部を聞いた。アルドラはその内容に箝口令を出し、リグレットの単独行動を認めた。


 「これからどうするの?アルドラ。」

 「…"眠り"を監視しろ。下手をすれば、我々の判断が本当に人類を滅ぼしかねん。」


 静かに、そして念を押すようにアルドラは言った。


 「何があっても、"目覚め"を我らがナリウスの元に…!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 零があの謎の少女の襲撃に遭い、気を失ってからもう5日経つ。あの少女が去った後、ゲンダは気を失った零を連れて、ガリウス派武闘集団ネメシスの隠れ家に連れ込み、ゲンダの自室で零の看病をしていた。未だに目が覚めないどころか、呼吸はあるものの寝返りも打たない。


 「そろそろ目を覚ましてもいい頃なんじゃねぇか?零…」

 ""すまないな、あと2日は目を覚まさないだろう""

 「あぁ、そうかよ。…ん?何だ今の…」

 ""俺はここだ。""

 「うぉ、何だお前!!!」


 零が持っていた刀を立てかけておいたはずの場所に、零が変身した姿と同じような見た目をした青年が胡座をかいて座っていた。


 「な、なんでお前…」

 「驚かせてすまないな。俺はゼロ。元々はそこの主の中に魂を入れてたんだが、俺が中にいたままだと回復が遅いんでこっちに魂を移した。」


 そう言いながら彼は手に持っている刀を指差した。


 「はぁ…ちょっと前まではただひたすら闘わされてただけだってのに、なんで急にこんな訳の分からん事になっとるんだ。」

 「お前が巻き込まれたのはただの偶然だ。主を助けてもらって感謝している。」

 「それいいんだが、そもそもお前らはなんなんだ?零がやったあの顕現といい、明らかに人じゃ不可能な域にあるその闘い方。もう魔物とか神とかじゃなきゃ説明高ねぇぜ。」

 「うーん、まぁいいか。」


 ゼロは自己紹介を兼ねて自分達のことをゲンダに教えた。その話をゲンダはまじまじと聞いて、時に驚いたり、納得したように頷いたりして聞いている。


 「まず俺達の事についてだな。俺やさっき会ったカグツチってのは、元は絶対神レビアン様率いる、近衛戦士団の団員、そして俺はその団長みたいな役をやっていた。」

 「あのレビアンの…?」

 「そう。ただ多分、俺達の事は神話には書いてないから、分からなくても当然だろう。」

 「そりゃどうしてだ??」

 「偽神、偽りの神。近衛戦士団は、俺やカグツチのような偽神から構成されててな。ある意味落ちこぼれみたいなもんなんだよ。」

 「偽りの神…?お前神様なのか!?」

 「まぁニアピン賞ってとこだな。俺達偽神以外の神は、それぞれ固有の感覚を持っててな、人に例えて言うなら、耳が異常に良かったり、身の回りの物や人を探知したりとか。少し脱線するが、そう言う神由来の感覚を一時的に身に付けるのが、ナリウス派の魔法使い達が使っている身体強化や探知魔法だ。」


 その他にも、あらゆる事象は全て神のが絡んでいたりだとか、この人という種族の繁栄は神なしでは成し得なかったなど、自慢に近い形で雑学を教え込まれた。


 「それ以外にもーーー」

 「わかった!!お前らのとこの神がすげぇのはわかった。んじゃあ偽神はなんなんだ??」

 「偽神は、今言ったような特徴、所謂固有特性を持たなかった者たちさ。」

 「固有特性を持てなかった…?」

 「そう、神にも人間みたいに向き不向きがあってな。自然を司る神だったら、普通は風の声を聞けなきゃいけなかったり、そういう必要最低の特性を持ってなきゃいけないんだが、俺たち偽神はそう言った物は無かった。というか持てなかった。」

 「持てなかったのか?そりゃまたどうして?」

 「原因は分からないが、この特性は後天的に現れるもんじゃなくてな。俺たちが落ちこぼれなのはまぁ否定できないんだよ。」


 ゲンダはゼロの顔が少し切なげに見えた。ふともう一つの疑問を思い出した。あの少女が言っていた"目覚めの刀剣"についてだ。


 「あぁ、それか。すまないがそれに関しては記憶が飛んでてな、どうも思い出せない。」

 「そうか…まぁ、とりあえず零が目覚めるまではここでゆっくりしてくれや。」

 「感謝する。いつかこの借りは返そう。」

 

 期待しないで待っとく。と言い残し、ゲンダは自室を後にした。明日からはまた戦線に戻らねばならない。隠れ家の共同寝室に入り、また戦争に戻るため眠りについた。

今回は状況整理回とさせて下さい笑

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