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第三稿 眠りと目覚め

 ″神薙流剣術二式 紅喰い″


 「…バカ…な…」


 腹部を切り裂かれたリグレットは、大量の血を流してその場に倒れこんだ。


 「気の毒にな…どんなに深手を負い、仮に死に至るほどどの血を流そうとも、逝けずに苦しみ続けるだろうな。」

 「ふむ…」


 倒れたリグレットを気遣うゲンダ、そして何か腑に落ちないという顔で見つめる零。

 零は戦いの最中に何かを感じていたようで、その旨をゲンダに伝えようとした時、後ろに何かの気配を感じて振り返った。


 「なんだ貴様。」


 振り返った先には、零の姿が変わる前程の背丈の少女が立っていた。


 「えー、あなたが目覚めの刀剣なの~…つまんなーい。」

 「何を…」


 ″顕現 炎帝ヒノカグツチ″


 少女の周りに炎が巻き起こり、やがて少女を包み込み膨れ上がる。

 先ほど零がやって見せた顕現のそれと、炎が巻き起こっているところを除けばほぼ同じだった。


 「アメノオハバリか…自虐か?カグツチよ。」


 零が挑発するように言った。


 「これしか残ってなかったんだ!!ったく、相変わらず口だけは達者な野郎だ、ゼロ。」


 膨れ上がった炎から現れたのは、やはり先ほどまでの少女とは全くの別人だった。

 零と似たような装束の上から、朱色の鎧を着こみ、腰には刀の鞘。今度は顕現状態の零と同じ年齢のように見える女性が現れた。やはり零やあの少女がやって見せたあの″顕現″は、刀の能力なのだろうか。

 顕現の過程が終わるのを待ってから、零がカグツチと呼んだその女性に話しかけた。


 「目覚めの刀剣とはなんだ、いったい何の話をしている?」

 「うーん、お前、人格とか一部の記憶は確かにゼロだが、今のお前の大部分を構成してんのはあの零とかいうガキだな?」


 零はカグツチの言葉を理解しているのかしていないのか、ゲンダはつかめなかった。零は表情を変化させず、ただ沈黙するだけだ。

 カグツチは零の様子を見てから静かに語った。


 「やっぱりな。元の(・・)お前は零に必要最低限の力、記憶、肉体しか与えなかったらしいな。」

 「恐らくはな。思えばここに来てから昔の記憶が抜け落ちたように思い出せん。」

 「あぁ…何から話したもんかな…仕方ない一から十まで話してたら戦争が終わっちまうから要点だけ言うぞ。目覚めの刀剣、そしてもう一つ、眠りの刀剣についてだ。」

 「目覚めと眠り…」

 「ああ、やっぱり思い出すのは無理か。対になっちまったお前は、この世界の人間たちに追われる身になってる。」

 

 零はあまりにも突飛な話についていけず、とっさにカグツチの言葉を遮った。


 「まて。わしが対になった?人間に追われている?いったいなぜ?」

 「ああ、すまねぇ。そろそろ私も限界だ。意識が、、遠ざかって…」

 「お、おい。カグツチ?いったいどうしたというのだ。」


 カグツチは立ったまま意識を失ったかのように、首を前に垂れた。

 意識を失ったカグツチから、零も、もちろんゲンダも見たことのないような黒いオーラがカグツチを包み込んだ。

 

 「お、おい。そこのねーちゃんどうしちまったんだ?」

 「…隠れろゲンダ。今あなたがここに入れば塵ひとつ残らず、肉体の再構成に10年はかかるだろう。10年間その痛みと戦い続けることに―――」

 「心配するな。私がそこの人間に手を下せばもう肉体の再構成はおろか魂が己の肉体に戻ることすら不可能になるだろう。あぁ、可哀そうに…」


 目の前からカグツチの声が聞こえる。しかしその口調は先ほどまで零と会話していたカグツチのものとは全く別のものだった。まるで何かが取り付いているかのような、そんな状態だった。


 「…貴様は誰だ。」

 「さっき会ったじゃん!!あのプリティーな姿を忘れちゃったの??神薙零君????」


 あの少女がこの禍々しい気迫を放っていいるとは、到底信じ難い。それになぜあの少女が零の名を知っているのか、疑問は尽きないが、二人はおとなしく彼女の話を聞いていた。


 「うーん、あなたたちにあれ以上のことを知られると面倒なのよね。私たち(・・・)にとってはね。でも私個人としては、君たちがこれからどうなるのかとーっても気になるから、これからとーってもおいしいヒントを教えてあげる!!でもその前に…」


 カグツチを操っているであろう少女が持っていた刀を鞘から抜いた。


 「君の力、今どこまで出し切れるのか、私に見せてよ!!」


 零は無言で身構える。その額からは脂汗が浮いていた。今のあの少女は零よりも圧倒的に強い。それは何十年も戦ってきたゲンダの長年の堪がそう言っていた。負ける、そう思いゲンダはその場から離れるように零に促す。


 「おい。こいつはやばい…お前死ぬぞ…」

 「死など何度も経験している。それに、今こいつに背を向けたらそれこそ死ぬぞ…」


 その会話を聞いていた少女はとても満足げな顔をしてこう言った。


 「さーっすが!オリジナルは歴代最強神将と言われた神徒様だね!!」

 「神徒…だと…?」


 ゲンダは神話についての知識はあまりなかったが、神徒というのはこの世に生きている人間のほとんどが知っていてもおかしくない。神話にのみ存在するといわれた偽神で、この不死戦争を始めた、絶対神ゼウス、そして不死の呪いの元凶ヴァルキュリア直属の騎士団だ。そして神将はその中でも一番神に近しい存在と言われている。

 

 「零、お前…」

 「疑問は沢山あるだろうが、今は集中させてくれ。」

 「いいねぇ!これなら二割くらいなら出せそう!!」


 少女の言葉を皮切りに、零は一気に間合いを詰め、リグレットを圧倒したあの技を繰り出す。


 ″神薙流剣術二式 紅喰い″


 刃と刃が交わる凄まじい金属音が、辺り一面に響き渡る。

 その音とは裏腹に、カグツチ、もとい少女の表情は全く変化しておらず不気味な笑顔のまま、品定めをするような眼をしている。


 「こんなんじゃ、まともなヒントは上げられないなぁ?」

 「お前はいったい何だ…?カグツチはそんな力を持っていたのか…?」


 少女は答えず、ただ零に笑いかけるだけだ。

 

 「答えぬのなら力づくだ。」


 ″神薙流剣術一式 神威″


 零から放たれる斬撃は蒼い波動を纏いながらとてつもない速度で不規則に少女に襲い掛かる。

 それを受ける少女もまた、完璧にそれを見切り、少し表情を強張らせながら零の斬撃を受け流している。零もかなり本気なようで、体力的にもかなり辛くなっているようだ。


 「うーん、こっちに来て初めての顕現にしては及第点かなー。もう限界超えてるでしょ君。」

 「なぜそう言える、、、」


 強がる子供のように抵抗するような反応を見せた。

 すると少女の表情は今までになく殺気に満ちた表情に変わり、口調も一気に変わった。


 「いい加減認めたらどうだ。この世界での貴様の力量などその程度なんだよ。顕現の限界時間も把握できないような雑魚が調子に乗るなよ?」


 それでも尚反抗的な表情を直さない零に呆れたのか、少女は戦闘をやめ、顕現を解いた。


 「もうやめ~。これ以上やったら体持たないよ零君。」


 少し間をおいて零も顕現を解いた。そしてかなりの疲労が溜まっていたのか、そのまま倒れてしまった。

 少女は「情けないな~」と言いながら起きたら伝えてとこう言い残して転移した。


 「眠りの刀剣があなたを待っている。あなたと一つになるその瞬間を、祈りの大地で待っている。ってね!!」


 


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「まーたあの子余計なことしてくれちゃって…」

 「あの小娘…やはりあの方(・・・)の遣いとはいえ自由に歩かせるのは危険すぎたか。」


 ナリウス派ゼビウス軍最高幹部室。魔法の栄えたナリウス派は、生活の水準、魔法を使った兵器の開発など、あらゆる面でガリウス派の上を行っており、この戦争も最初期はナリウス派の圧勝だと確実視されていた。しかし、不死戦争が始まってすぐに、あの刀が現れた。

 出現した八本の刀は、それぞれの宗派に主を求め、この地に舞い降りた。

 それぞれの刀は様々な経緯をたどり、最終的にそれぞれの宗派に4本ずつ保管されることとなった。


 「そしてまた二つの刀が再びこの地に舞い降りた。我々はこの二本の刀を確実に手に入れねばならん。」

 「そうね、この不毛な戦争を、私たちの世代で終わらせなければ。」


 ナリウス派最高幹部四人衆のうちの二人、隻眼のアルドラ、大賢者セラフ。

 二人は知略を巡らせ、この戦争を終わらせるために、その身をささげる覚悟であった。例えそれがこの世の禁忌に繋がってしまったとしても。


 「眠りと目覚め。二つの刀剣を一つにし、不死の理を破壊する。」


 アルドラとセラフの目は、大いなる大義の炎に燃えていた。

 

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