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終章――進んでゆこう

とりあえず終了。気が向いたら続きを書きます。

今回は霊がたくさんでたので、次は超能力者かな?

 鬼面蟹との戦いから六日。睡蓮と有希は、エアコンで冷やされている居間にいた。


「そこ間違ってる。あとそこも。これも」

「あう~~……」


 睡蓮に指摘され、有希はタブレットに書き込んだ回答を消してゆく。睡蓮の視線はエアコンから流れる空気より冷たく、有希の頭は知恵熱で外よりも暑い。


「おうユーキ、この数日なにしてたん」

「す、スイも知ってるでしょ。入院だよ、入院」


 戦いが終わった直後、睡蓮は超能力を使い過ぎたため意識を失い、有希は有希で霊力を消費し過ぎてしまい酷い疲労と筋肉痛で動けなくなり、二人は病院へと運ばれていた。


「一日だけな。ベット隣だったからな。知ってるぞ」

「そうでした……」


 次の日には動けるようになり退院した有希と違い、睡蓮は熱と頭痛が引かず、退院できたのはつい昨日のこと。


「だってのに、なんでアタシゃ勉強を教えてんだよ。はい、理由を答えて」

「……私が勉強してなかったからです。ずっと鍛錬してました」


 期末試験は二日後から始まる。入院の後半、熱と頭痛が引いた睡蓮はヒマ潰しがてら教科書を眺め、ついでにごく簡単なテストを作っていた。それも自分のではなく、一学年上の有希のモノを、だ。軽くでも勉強をしていれば解ける問題のはずだったが、有希は尽く間違い、こうして勉強を教えるハメになった。


「わかってるなら手と頭ぁ動かせ。夏休み消えるぞ」

「はーい」


 睡蓮は座卓に肘をつき、せこせこと睡蓮特製の期末対策テストを解いている有希を眺める。自分の分は済ませているので、これはこれでヒマ。姫狼が近くにいれば撫でまわして遊ぶのだが、有希に呆れているのか外で日向ぼっこをしている。


 庭に目を向ければ、崩れが壁が目に入る。襖で隔てた隣の部屋は現在立ち入り禁止、屋根にはブルーシートがかかっている。


「のー、ユーキ。大丈夫なんだよね」

「私も夏休みはつぶしたくないからなー」

「そっちじゃのーて、幽霊のほう」


 画面の上を走らせていたペンが止まる。


「しばらくはね。前回ので、この辺りの霊鬼は完全に姿を消したから」


 夏凛たちも無事、霊鬼を祓い、周辺の悪霊や霊鬼は一掃されている。清い水は汚れに弱いといっても、水の量が多ければ汚れるにも時間はかかる。新地街周辺は、それだけ大きな空白地帯となっていた。


「それとスイが心配してるのは、その原因のほうでしょ」

「……んだす」


 鳴谷螢の存在は、神代宗家や空杜氏族でも大いに問題になった。鳴谷一門に突っ返そうにも滅んでいるので無理。ならば神代か空杜で保護するか、監視をするか。一部の者の間では、監禁や殺害してしまおうといった案も出たという。


「結局は、監視で落ち着いたんだけどね」

「そらアタシっていう前例があるからねー。しゃーないねー」


 飲み物でも取ってくるかと睡蓮が立つと、ちょうど外から車の音が聞こえてくる。


「お、きたか。ほれ、お出迎えにいくぞい」

「うん」

「ユーキがちゃんと勉強してれば、母と一緒に迎えにいけたのに」

「それはごめんってば」


 勉強を続ける雰囲気ではなくなっていたところ。休憩がてら、二人は外へ出る。


「これからどーなるのかね」

「私にもわかんないよ」


 二人の前で門が開き、なずなの車が入ってくる。停まった車から降りてきたのは、運転手のなずなと――螢の姿。


 監視の役目はなずなが手を挙げ、泉家が引き受けた。新地街から離れている來豊山ならば、なにか起こっても対処しやすい。人里に迷惑がかからず、戦うにしても、見捨てるにしても。そう文句を言う人々を説き伏せて。


「でも、なんとかなるでしょ」

「せやね。なんとかなるか」


 二人は車から降りたまま動かない螢の前までゆくと。


「今日からよろしくね、螢君」

「よろしくしてやるぞ、弟よ」


 笑顔で手を差し出す。


「は、はい」


 螢は恐る恐るとだが、二人の手を取る。手の平に広がる温かさが、現実だと教えてくれる。


 螢は自分に関係した人はみな、不幸になると思っていた。その手でなにも掴んではいけないのだと、そう思っていた。けれど、手を伸ばしてくれる人がいた。自然と浮かんできた涙を飲み、握り返す。


「さ、いこ。部屋は片付けてあるから」

「勉強しないでな」

「んぐ……またすぐそういうこと言う」


 二人に手を引かれ、玄関をくぐる。


「おじゃまします……」


 そう言って入ろうとした螢を見て、睡蓮と有希は顔を見合わせた。


「それは違うよ、螢君」

「そうだぞー。ここは今日から弟の家だ。家に帰ったら、なんて言うんだっけ?」

「家に……」


 知っている。でも、忘れていた。長く根無し草生活を続けていたせいか、使う機会もなかったから。その言葉が合っているか、心配になってしまうほどに。


「あの……た」


 両脇にいる二人の顔を見ると、微笑みながら先を促される。きっと合っている。だから、意を決して口を大きく開き。


「ただいま! です!」


 家族の住む家に帰ってきたことを告げる。


「うん。おかえり」

「おかっりー。一緒にキオでもモフろうぜー」


 そして家族に迎えられ、螢の顔に初めて笑顔が浮かんだ。

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