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はじめてのおともだち


 探すことおよそ二分。

 手頃っぽい獲物を広場内で見つけました。


 体格や顔立ちから察するに恐らくは十代前半。

 髪色は薄い金。緩いウェーブのかかったロングヘア。

 服装や雰囲気から判断するにそれなり以上に裕福な家のお嬢さん。

 しかし、一人で出歩いているということは外出の際に護衛が付くほどの家格ではない。あるいは家の者に黙って外出してきた。どちらかというと前者が好ましいですが、この際どちらでもかまいません。

 先程のマッチョさんに用事があるのか、あるいは彼女もおっかけの一人なのでしょうか。

 話しかけるタイミングを図っている様子ですが、彼の周囲は他のファン達が人垣を作っていて当分は話しかけられそうにありません。

 オドオドと人垣の周囲を右往左往していますが、混雑の中に飛び込む勇気が出ない様子。

 視線を下に落としがちなのは自信の無さの表れでしょうか。



 しばらく気付かれぬように観察して素性の把握に務めましたが、プロファイリングはこのくらいで充分でしょう。あまり慎重すぎて機を逸してしまっては元も子もありません。


 私はなるべく人畜無害な風を装って、あくまでも善意の協力者であるかのように少女カモに話しかけました。



 「さっきからウロウロしていますが、何かお困りですか?」


 「え? あ、はい。お父様からお兄様を呼んでくるよう言われたんですけれど、人がいっぱいいて話しかけられなくて……」


 「お兄さん? ……もしかして、あのマッチョさんですか?」


 「マッチョさん? あ、はい、あの筋肉の人がお兄様です」



 似てない兄妹ですね。

 まあ、それはこの際どうでもいいので、早いところ貸しの押し売りと参りましょう。



 「あの人にお父さんが呼んでいると伝えればいいんですね?」


 「はい、あっ……」


 返事が来る前に人垣に飛び込みます。

 たしかにすごい勢いですが、スーパーのタイムセールを主戦場とする歴戦の主婦たちに比べると所詮は小娘の群れ。小柄な身体を生かして僅かな隙間に潜り込み、人の動きを五感で読み取れば最前列まで来ることなど造作もありません。



 「おや、君は……」


 「お忙しいところ失礼、『お父様が呼んでいるから来るように』と、あちらの妹さんからの伝言です」


 「え、ああ、ありがとう。皆、今日はこれまでだ、また今度会おう!」



 列の後ろにいた妹さんにようやく気付いたマッチョさんは、手慣れた様子でファンの娘さんたちを解散させると、小走りで去って行きました。みっしょんこんぷりーと。。


 案の定、私の後ろからさっきの妹さんが近付いてきました。世の中、タダより高い物は無し。さて、それではお嬢さんに世間のルールを優しく教えてあげましょう。




 「あ、あの、ありがとうございます!」


 「どういたしまして、お安い御用です。ええと、お名前をうかがってもいいですか?」


 「え、あ、申し遅れました。わたし、ミアと申します。ミア・マシーリアです」



 昨日のうちに村長さんから仕入れた情報によると、この辺りの地方では名字持ちは貴族だそうです。貴族といってもピンキリなのでこれからの見極めが重要ですが、ひとまずは私の眼力に間違いはなかったようですね。


 とはいえ、いきなりガッついては警戒されてしまいます。まずは軽いジョークを交えながら、相手の懐に入っていきましょう。



 「ミアさんですか。偶然ですね、私もミアって言うんですよ」


 「そうなんですか? すごい偶然ですね!」


 「そうですね。いま考えた偽名と一緒だなんてビックリです」


 「確信犯じゃないですか!?」



 おや、おっとりした雰囲気の割になかなかキレの良いツッコミをする子ですね。



 「まあ、今のは冗談なのでお気になさらず。軽いジャパニーズジョークです。本当は三条理子と申します。理子が名前で三条が名字です」


 「ええと? じゃぱ……ナントカはよく分かりませんけど、リコさんでいいですか?」


 「はい、気軽にリコ様って呼んでくださいね」


 「いきなり優位に立とうとしましたね!?」


 「それがイヤならあだ名で『名前を呼んではいけないあの人』でもいいですよ」


 「コミュニケーション取る気ないですよね、ソレ!?」



 こちらのボケに瞬時に的確なツッコミを返すとは、このミア嬢、なかなかの逸材かもしれません。気に入りました。



 「ミアさん」


 「……はぁ、今度はなんですか?」



 慣れないツッコミ芸を連発したせいで疲労が溜まっているようです。

 が、お構いなしにミアちゃんの両手を握って、正面から目を見据えて言いました。


 「お友達になりましょう」


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