表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/105

リコの悩み事


 特に目的のない、ただ歩くだけの散歩というのもたまには良いものです。

 この街に来て数日が経ちましたが、当然まだまだ行ったことのない場所のほうが多いですし、歩いているだけなのに自分でも意外なほどに退屈を感じません。


 惜しむらくは文無しの悲しさ故、ちょっと気になったお店などがあっても入れない事でしょうか。武器や防具はともかく、お菓子や可愛い小物のお店ならミアちゃんも興味があるでしょうし、場所を覚えておいてまた今度一緒に来るとしましょう。



 「って、これ完全にヒモの思考ですね」



 今更といえば今更ですが、人におごってもらう事を前提に買物の予定を立てようとしていた自分に戦慄しました。自分に対してドン引きですよ。

 意識して自分を律していないと、果ては友達に金品を貢がせたりしかねません。絶対にそういう事をしないと断言できるほど、私の倫理感は強くないのですよ。


 なんだか無自覚のうちにどんどんクズ度が上がっているようで、我ながらちょっと心配です。カルマ値的な隠しパラメータがあったらバッドエンド直行コースですよ。まあこの世界、最初に想像していたのと違ってゲーム的なステータスだのパラメータだのは無いみたいですが。


 ミアちゃんはとても良い子で色々と尽くしてくれるタイプなのですが、この場合はその相性の良さが逆にマズい気がします。特に彼女は対人関係の経験値が不足しているせいで他者との距離を調節するのが苦手なようですし、下手をすると二人してズブズブの共依存の関係になってしまうかもしれません。







 「そこのお嬢ちゃん、何か悩み事かな?」


 「ん、私ですか?」


 自分の業の深さについて考えながら歩いていたら、見知らぬお爺さんに声をかけられました。どうやら自分でも知らぬうちに悩みが顔に出ていたようです。



 「まったく、若い娘がそんなしかめっ面で出歩くもんじゃないよ。可愛い顔が台無しだ」


 「おや、お上手ですね。褒めても何も出ませんよ」



 これが若い男性ならば私も多少なりとも警戒心を持ったでしょうが、こんなごご老体ならばナンパ目的という事もないでしょう。

 これも何かの縁でしょう。私はこのお爺さんに先程の悩みを伝えてみました。



 「少々、友人との人間関係について悩んでいまして」


 「ほう、ケンカでもしたのかね?」


 「いえ、むしろ仲は良好なんですが、私が将来的に彼女に金品を貢がせたり、自分にとって都合のいい道具扱いをしないかが不安で」


 「……最近の若い者は進んでおるのぅ」



 進んでいるのでしょうか?

 むしろ、ニュアンス的には思いっきり後退している気もします。



 「あのですね、詳しくは言えないんですが、一番最初にその友人と出会った時から私には下心があったんですよ。あ、下心といってもエロ系のではないですよ」


 「その補足は別にいらんよ」


 「それで、その子は当初の思惑通りに私に色々と良くしてくれているのですが、私も次第に彼女に情が湧いてきたといいますか。一方的に騙しているようで負い目を感じているのですよ」



 話しているうちに、自分の中で漠然と感じていた悩みの輪郭がはっきりしてきました。どうやら私はミアちゃんに対して後ろめたさを感じていたようです。



 「なあ、お嬢ちゃん、お前さんはそれでどうしたいんだね?」



 いっそ、何もかも打ち明ければすっきりするのでしょうが……私がこの世界で生活していく上で、もはや彼女の協力は不可欠。魔法を利用すれば当座の食い扶持くらいは稼げるでしょうが、現在のような快適な暮らしはとても望めません。

 今になって思えば、あの日、あの広場でミアちゃんに出会えた事は望外の幸運だったのでしょう。



 「このまま、彼女には私の企みを隠したまま付き合っていく……現状維持が得策でしょうか」



 そうすれば、いくらかの負い目があったとしても、そう悪い方向に転ぶ事はないでしょう。しかし、お爺さんは、私の答えを聞いてこう言い捨てたのです。



 「ふむ、そうかいそうかい。お嬢ちゃん、アンタ頭は回るようだがバカだな」


 「バカ……ですかね?」


 「ああ、大バカだな」



 こうもはっきり断言されると、不思議と腹も立ちません。



 「その負い目っていうのはな、ゆっくり回る毒なんだよ」


 「毒……」


 「ああ、身体じゃなく心を腐らせる猛毒だ。こいつは曲者でな、お嬢ちゃんがその友達と仲良くする度に酷く痛むんだ」


 「痛いのは……イヤですね」



 このお爺さんにもそういう経験があるのでしょうか?

 私に語りかけるというより、何か遠い記憶を思い出しているような雰囲気を感じます。



 「今は大した事ないだろうが、こいつは時間が経つほどに痛みが強くなるし、治すのも難しくなる。ま、治すなら今のうちだな」


 「……どうすれば治せますかね?」


 「別に聞かなくてももう分かってるんだろう『私は貴方にこれこれこういう悪い事をしました、ごめんなさい』ってな具合だよ。許されるかどうかは相手次第だがね」



 すでに分かっていた?

 ええ、確かに最初から私は分かっていたのでしょう。気付かないフリをしていただけで。ただ、それには今の関係が壊れるリスクが伴います。私は、どうすべきなのでしょうか?



 「まあ、自分に出来なかった事を無理にしろとは言えんしな。後はお嬢ちゃんが決める事だ。じゃあ、頑張りなさい」


 「あ……ありがとうございました」



 お爺さんは、そう言うと歩調を速めてそのまま歩き去っていきました。『自分に出来なかった事』……やはり彼は自分の過去と今の私の状況を重ねて見ていたようですね。



 「さて、どうしたものですか」


 そんな風に形だけ自問してみましたが、実のところ、この時点ですでに答えは決まっていたのです。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ