手記 2
薬草の知識があったお母様は、医者と共に、なんとかお父様の病気の進行を止めようとしていた。だが、お父様は、徐々に病に侵され、弱っていった。
そして、私が14歳になった年、お父様は眠るように息を引き取った。
慕われていたお父様の死を、誰もが嘆いた。私も、酷く泣いた覚えがある。
お父様の葬式から数日後、私はお父様の部屋で佇むお母様を見付けた。
お父様の死によって混乱していた家臣をまとめ、立派な葬式を執り行ったお母様は、とても疲れた顔をしていた。
「お母様、顔色が悪いです。少しは休んでください」
「ありがとう、サーラ。でも、大丈夫よ」
微笑んだお母様は、お父様が大事にしていた指輪を持っていた。
それを見た私は、はたと気付く。
お母様は、お父様の死後、一度も泣いていない。――違う。泣けなかったのだ。私を含めた誰もがお母様を頼ったから、彼女は泣く暇すらなかったのだ!
「お母様!」
堪らず、私は彼女に抱き着いた。
「ごめんなさい。私、お母様に甘えてばかりでした。お母様だって、悲しいはずなのに!」
「いいのよ。わたくしは、あの人が大事にしていた人達を支えると決めていたのだから」
「だったら、私がお母様と一緒にこの領地を守ります。だから、1人で我慢しないで…」
そう言った私の頭に、雫が落ちてきた。見上げると、お母様の目から涙が零れている。
私を抱き締め、静かに涙を流すお母様にしがみついて、私は心の中でお父様に話し掛けた。
安らかに眠ってください。私達は大丈夫です、と。
それから数年の間、私達は家臣に支えられながら、領地を運営した。相変わらず、それほど丈夫でない私は、城に引き籠もってばかりだったが、それでもできる限りのことをした。
時折寝込みながらも大病に罹ることはなく、無事に17歳になった年のこと。私に、婿取りの話が持ち上がる。
いつかはその話が来ると思っていた私は、淡々と婿取りを受け入れた。その年は不作だったので、結婚によって、領地を支えるつもりだった。
いくつかの縁談があったが、最有力と言われていたのは、隣の領地を治めていた若き領主。彼と結婚して、領地を1つにするという話だったが、お母様はあまり乗り気ではなかった。その領主には、良くない噂が付き纏っている、というのが理由だった。