手記 1
次の日、少女は領民に開放されている、城の図書館に出掛けた。
借りていた本を返した彼女は、新たに借りる本を選ぶために本棚を見渡す。その時。
「何これ。誰かが置いていったのかな」
彼女は本と本の間にひっそりと置かれた、古い小さな手帳を見付けた。
持ち主の手掛かりがないかと手帳を裏返した拍子に、挿んであったらしい紙がひらりと落ちる。慌てて紙を拾い上げた少女は、それに書かれた短い文章に、目を瞬かせた。
――この手帳を見付けた人へ。これは、私の先祖が記した物で、あの昔話"領主の娘と魔女"の真相です。この話を誰かに知って貰いたくて、手帳を図書館に置いていくことにしました。
「えっと、読んで欲しいってことかな?」
興味を持った少女は、手帳を持って窓の側の椅子に座った。古びた手帳を慎重に開くと、整った文字が並んでいる。出だしは、「私はサーラ。かつては、領主の娘だった」となっていた。
私はサーラ。かつては、領主の娘だった。
今、私の正体を知る者は誰もいない。皆、ただの町娘だと思っている。
この地は、私の一族が代々治めていたが、数年前、別の人間が領主となった。
もし、この手記を読んでいる人がいるなら、どうか最後まで読み進めて欲しい。これから記すのは、私のお母様の物語である。
お母様がお父様と結婚したのは、私が10歳の時だった。
物心つく前に生みの母を亡くした私は、お母様に会うのをとても楽しみにしていた。体が弱くて城からあまり出られなかったこともあり、私は"母親"という存在に憧れていたのだ。
城にやって来たお母様は、とても美しい人だった。そして、私が想像していた以上に素敵な人だった。
私達はすぐに仲良くなって、私はしょっちゅう彼女の後を付いて回っていた。
今考えると、この時期が一番幸せだったのかも知れない。
幸せが陰りを見せたのは、それから僅か2年後のこと。
その年、お父様の体に、病気が見付かった。