昔話
昔々、王国の北にある城に、裕福な領主がいました。
領主の奥方はすでにこの世を去っていましたが、愛らしい娘が1人おり、親子は仲良く暮らしていました。
ある日、領主は後妻を迎えます。新たな奥方は若々しく美しい女性でしたが、実はとても恐ろしい魔女でした。
領主の財産を狙っていた魔女は、手始めに夫を殺すことにしました。領主は魔女の呪いによって弱っていき、やがて死んでしまいました。
魔女は悲しむふりをしつつ、内心では勝ち誇っていましたが、物事は彼女の思い通りにはなりませんでした。
家臣達が、領主の娘に婿を取らせて、後を継がせようとしていたからです。
怒り狂った魔女は、娘を地下に閉じ込めてしまいます。
突然消えた娘を、婿候補だった若者達は懸命に捜しましたが、地下に続く扉の存在は誰も知らなかったので、誰も娘を見付けることができないままでした。
そんなある日、婿候補の1人だった隣の領地の若き領主が、地下を続く扉を見付けました。
真相に気付いた青年は、魔女と戦い、彼女を倒して鍵を手に入れました。
地下に降りると、そこにはすっかり弱ってしまっている娘がいました。若き領主は、すぐさま娘を救い出しました。
見目麗しい2人は恋に落ち、やがて結婚しました。そうして、2人はいつまでも仲良く暮らしました。
めでたしめでたし。
家にあった昔話の本を眺めていた少女は、側で編み物をしていた母親に話し掛けた。
「お母さん、この話って、この領地が舞台なんだよね?」
「そうらしいわね」
母親の返事に頷いた少女は、表紙に"領主の娘と魔女"と書いてあるその本を閉じた。