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チート問題児の異世界旅行  作者: 早見壮
第零章:そうだ異世界に行こう
9/26

泉涼祭と問題児 祭り・前編

大変お待たせしました。


お詫びに二話連続投稿です。

 前夜祭当日。


 夏の日差しが本領を発揮し始めた頃、学校内は活気で満ちていた。どこを見ても最後の追い込みで忙しなく動いている生徒たちが目に着く。

 そんな中、楓たちは今や日の光の届かない闇に満たされた部屋の中にいた。

 つまり、お化け屋敷の準備をした部室である。


「なぁ~、蓮」


「なんだぁ~、楓?」


 蓮にやる気のない声で問いかけるが、対する蓮も負けず劣らずやる気のない声で返す。いや、きっと俺よりもやる気ないな、こいつ。


「前夜祭ってこんなに暇だったっけ?」


 去年は、もう少しドタバタしていた気がする。うん?してたよな?・・・・・・していたはずだ。


「んなわけねぇだろ」


「ちょっと早く準備しすぎちゃったね」


 ちなみに今、部室にいるのは俺と蓮と葵だけである。

 思えばこの組み合わせはかなり珍しいものではあるが、俺たちに繋がりがないわけじゃない。一応俺たち三人は同じクラスなのである。ただ、俺はほとんどクラスには顔を出さないので必然的に三人が揃うことはほとんどない。


「俺らのクラスは、何の準備もいらないからな」


「正義たちも部活の準備で忙しいしな」


「桜たちはクラスの出し物の手伝いに行ってていないしね」


 俺たちのクラスは、現在ホールスタッフの接客練習と当日の飲み物の作り方のおさらいを行っており、今のところ俺たちの出番はない。

 部活の出し物もお化け屋敷の準備は式神にまかせているのですでに準備は終わっている。

 どちらもあとは、当日を待つだけである。


「ん~、屋上でも行くか」


「いいけど、何するの?」


「昼寝」


「はぁ~、まぁ、たまにはそれでもいいか」


「そうだね。今日は、一日中のんびりしてようか」


 そういって、楓たち三人は屋上に移動した。だが、そこには先客が一人いた。


「あれ?楓兄さん?」


「ん?茜か?どうしたんだ、こんなところで」


 そこには茜がいた。クラスの手伝いに行ってるはずなのに、なぜここにいるのか疑問に思ったので質問すると茜は困ったように笑ったあと話し出した。


「ん~、私がクラスにいるとみんな遠慮してなんだが気まずい雰囲気になっちゃって。仕方ないから、休憩はいるって言って出てきたんだ」


「あ~、なるほど。俺らはいい意味でも悪い意味でも目立つからな」


「特に私はほとんど兄さんたちと一緒にいてほとんどクラスにいないから浮いちゃって。それで、兄さんたちはどうしてここに?」


 茜は授業こそ受けているものの休み時間になると部室に行って俺以外の奴らにに会いに行ってるので、いまだにクラスメイトと馴染めていないのだ。


「やることがなくて、暇だったから楓が昼寝しに屋上に行こうって言いだしてね」


「なんだったら、茜も一緒に昼寝するか?」


「そうだな、たまにはこういう日もいいだろ?」


「そうだね。じゃあ、私も参加しようかな」


 茜も昼寝をすることが決まり、俺は魔術を使って結界を作り日差しと気温を和らげる。


「よし、昼寝日和の出来上がり!」


「なんで、魔法じゃなくて魔術?」


「あっち行った時にうっかり魔法使わないように今のうちから慣れておこうと思ってな」


「ふ~ん、俺もそうするかな」


「そんなことより寝ようぜ」


「それもそうだな」


 そういって、俺は横になり蓮も続いた。その様子に葵と茜が可笑しそうに笑い二人も横になった。

 四人のいる屋上に夏ならではの蒸し暑い風と鋭い日差しが照り付けるがそれらは結界に遮られ、後に残ったのはさわやかな風と暖かな日差しだった。


「あ、あの雲綿あめみたい」


「あ~、本当だな」


「いやいや、蓮。ちゃんと突っ込もうよ~。雲なんて大体綿あめみたいだよ~」


「おいしそうだね~」


 四人ともふわふわした気分になり、会話も意味がなくなってきた。唯一突っ込みをしている葵も全くキレがない。

 するとそこに、凪と雫がやってきた。


「それにしても楓たちどこに行ったんだろうね?」


「・・・・・・どうせ、昼寝でもしてる」


「楓はともかく、他のみんなは流石にないと思うよ」


 それはない、と笑いながら歩いていると不意に雫が立ち止り、指を向けた。


「・・・・・・昼寝してた」


「・・・・・・へ?」


 雫の指の向けた方向には、楓だけでなく蓮、葵、茜までもが横になり空を眺めている姿があった。


「ん~?凪に雫じゃないか。なにしてんだ?こんなところで」


「それはこっちのセリフよ!楓は良いとしても蓮たちまで何やってるのよ!」


「なんかひどくね~?」


 凪の発言に楓が文句を言うがやはり言葉に力が入っていない。

 そして、凪が蓮たちを問い詰めているうちに雫はさっさと楓の隣に腰を下ろして横になっていた。


「雫が裏切った!?」


「・・・・・・みんなだけ仲良く昼寝なんてずるい」


「そ、そうだよ!部室に行ったのに誰もいなくて寂しかったんだからね!ってそうじゃなくて!なんでみんなで昼寝なんてしてるの!?」


「かくかくしかじかでね~」


「わかるか!」


 仕方なく、凪と雫にこれまでの経緯を話す。凪は聞き終わった後、深く溜息を吐きいまさら言っても遅いと開き直っていた。雫は話の途中ですでに寝ていた。


「それで、凪たちもこのあと暇だったら寝ていくか?雫はもう寝てるけど」


「わかったよ!寝るよ、寝ればいいんでしょ!」


「・・・・・・・・・・・・ん」


 ということで、凪と雫も昼寝に参加することになった。


 凪たちとそんな話をしていると、不意に屋上へとつながる階段のドアが開いた。

 いまだに半分ほど夢の中から帰ってきてない楓が、うつらうつらと開けられたドアの方を向こうと体を上げると聞きなれた声が聞こえた。


「ふ~、ようやく準備が終わったな~」


「本当よね。まさかあそこまで準備ができてないなんて思ってもいなかったわ」


「私は途中から生徒会にも呼び出されて大変だったよ~」


「ふふっ、お疲れ様、桜」


「笑い事じゃないよ~!」


 屋上にやってきたのは、桜、薫、椿だった。三人とも今までクラスの準備があったらしい。桜は、生徒会でも呼び出されていたようだ。


「よう、桜~。おつかれ~」


「あれ、楓ちゃん?それにみんなもなんでここに?っていうか何してるの?」


「実はかくかくしかじかでさ~」


「そうなんだ。暇だからって前夜祭に昼寝って楓ちゃんらしいね」


「なんでそれで伝わるのよ・・・・・・」


 ちなみに、椿は蓮たちと所で何やら話している。どうやら、蓮と葵に用があるらしい。


「んで、用って何なんだ?」


「えーっと、一日目のイベントにミスコンってあったよね?」


「それがどうしたんだ?」


「その審査員になってほしいんだよ」


「はぁ?別にいいけどよ。なんで俺らなんだ?」


「性格に判断できる人と女性目線で身内びいきしない人ってイベントを担当してる先生に頼まれて・・・・・・」


「それで、私たちになったと。まぁ、面白そうだし私はいいよ」


「さっきも言ったが、俺も別にかまわないぞ」


「良かった。助かるよ!」


 椿はこの時、先生から言われた『常識がある人』という言葉を言わなかくて良かったとちらりと楓と桜の方を見て心底思ったのだった。

 楓はともかく桜にこのことが知れたらと思うと考えるだけで恐ろしい。


「?どうかしたの、椿ちゃん?」


「い、いや、、何でもないよ!」


「そんなことより、暇なら一緒に昼寝しないか?もう昼は過ぎてるけど」


 ようやく夢から帰ってきた楓が、またしても昼寝をしようと桜たちを誘う。

 何がなんでも昼寝をしたいらしい。


「そうだね。たまには良いかもね!」


「そうね。久しぶりにこのメンバーだけだし。そういうのもいいかも知れないわね」


「そういえば、そうだな。最近は正義たちや愛歌と一緒にいることが多くて九人だけってのもなかなかなかったからな」


 薫の言葉に楓も同意し、みんなでいそいそと横になる。

 体育館からは歌が流れてきてそれと同時に生徒の歓声が聞こえる。どうやら、愛歌がライブをしているらしい。


「そういや、前夜祭って体育館でイベントやるんだっけ?」


「あ~、そういえば正義たちがそんなこと言ってたな。あの四人もバンドで出るんだってさ」


「ふ~ん、どうする、楓ちゃん。観に行ってみる?」


「いや、ここで聴いていよう」


 そう言ったきり俺は、目を閉じて愛歌の歌と観客の歓声に耳を傾ける。

 桜たちもそんな俺を見て、まぁ、こんな前夜祭もいいか、と考えたようだ。互いに目を合わせ俺と同じように目を閉じ聞こえてくる喧騒に耳を傾けた。

 体育館では、ちょうど一曲目が終わったらしい。


「明日からはいよいよ当日だ。たぶん最後の学祭になるだろう」


「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」


 バラード系の曲を聞きながら俺は言葉を紡ぐ。桜たちは黙ってその言葉を聞いていた。


「だから・・・・・・」


 そこで言葉を区切って俺は勢いよく立ち上った。


「悔いの残らないように、思いっきり楽しまなきゃな!」


 俺の言葉に最初はぽかんとしていた桜たちだったが、すぐにとても幸せそうに笑い桜が立ち上がった。


「うん!せっかくだし楽しまなきゃね!」


 桜の言葉をきっかけに蓮たちも立ち上がり頷き合う。

 楓たち九人はやる気に満ち溢れたようでどこかすっきりした顔をしていた。














 泉涼祭・本祭 一日目


「さて、どうするかな。蓮と桜は生徒会の仕事に行ってるし、凪と雫はクラスの出し物、椿と葵は二人で泉涼祭を周ってるし、薫と茜はお化け屋敷の受付やってるしなぁ・・・・・・」


 ちなみに薫と茜だが受付をやっているのは自分たちに似せた式神で本人たちは部室の周辺を歩き回っている。

 なぜ部室の周辺かというと式神に不具合が起きたときにすぐ駆けつけられるようにである。また、式神は最初に込めた呪力で発動しているため呪力が切れたら補充しないといけないのである。

 まぁ、楓たちの込めた呪力が今日一日で切れるはずもなく、そのため薫と茜も半径一kmほどならどこに行ってもいいためほとんどいけないところはないのだが・・・・・・


 ちなみに、オカルト研究部の部活は三階の中央付近の一番いいところに陣取っている。もともとは、演劇部の部室だったのだが、演劇部の部員が数人しかいなかったことと楓の交渉という名の脅迫により、おかる研究部の部室となっている。


「とりあえず屋台から周っていくか。祭りといったら屋台巡りだよな」


 薫と茜の事情などはほっといて俺は玄関を出て屋台が立ち並ぶ正面入り口までやってきた。入り口から見てみるとさまざまな屋台が並んでいることがわかる。

 三十を超える屋台が出ており、定番の焼き鳥屋やクレープ屋、チョコバナナ、綿あめなんかも売っている。


「とりあえず、定番は買わないとな。綿あめは買い占めるか。ん?なんだここ、パフェ屋?」


 俺は定番と呼ばれる代表的な食べ物を買い、綿あめ屋を喜びなのか悲しみなのかわからない屋台泣かせをしたあと、一風変わった屋台を見つけて並んでみることにした。

 まぁ、新しく作ればいいだろう。まだ、材料あるみたいだし。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?


「おっ、順番か。えーっと、スペシャルチョコレートパフェとミックスチョコレートパフェとチョコバナナパフェとチョコ&イチゴミルフィーユパフェを一つずつください」


「えっ?えと、は、はい。かしっこまりました。少々お時間頂きますがよろしいでしょうか?」


「大丈夫です」


 店員がうろたえるのも仕方がないが、楓は大の甘いもの好きなのである。特にチョコレートをこよなく愛している。

 チョコレートを食べるためだけにベルギーにまで行ったほどのチョコレート好きである。


「お、おまちどうさまでした。会計はさ、三千六百円になります」


「ありがとう。はい」


 そういって楓は、目を輝かせながらお金を払う。


「丁度ですね。ありがとうございました」


「おいしかったら、宣伝しておきます」


 楓はパフェに目を向けたまま屋台に声をかけて歩き出す。


「さて、どこで食べようか。どうせなら外が良いよな、中庭に行くか」


 そう呟いて中庭に歩き出す。楓は気付いていないがこの時大好物を目の前にして楓の口角は自然と上がっていた。

 皆さん覚えているであろうか。楓はその性格さえなければ、正義たちをも超える正真正銘学年一のまるで神と見違えるほどのイケメンなのである。そして、周りには楓の性格を知らない他校の生徒や、地域の住民であり、ましてや気の許した人以外にはほとんど表情を変えない楓が微笑んでいるのである。

 その楓がパフェを片手に笑顔を振りまき、周囲の女性だけでなく男性客までもが恍惚とした表情を浮かべていた。その結果どうなるかというと―――


 ―――この日、パフェ屋は午前中に売り切れになったらしい。


 楓は中庭に置いてある椅子に座り買ってきたお菓子や食べ物、デザートなどをテーブルの上に置く。


「とりあえず、パフェから食べるか。溶けるしな」


 そういって俺は、パフェを口に運ぶ。

 パクリ。

 やばいな口がにやけてしまう。この暑い日差しの中、溶けかけのアイスとチョコソースが絡み合い絶妙な甘さを醸し出していた。

 俺はにやけた口を隠すように慌ててパフェを口に運ぶ。


「結構うまいな。パフェだけを専門に売っているだけはある」


 パフェを一通り食べ終え、買い占めた綿あめや焼き鳥などをを中庭にいるほかの客に気付かれないように時空間魔法に放り込む。


「まだ、受付の交代まで時間あるしどうするかなぁ?」


「あれ?楓さん?」


 楓がその声に振り向くとクレープを持った愛歌がいた。


「ん?愛歌か。おはよう」


「おはよう、楓さん。楓さんも休憩中なの?」


「そんな感じかな。ということは愛歌も?」


「うん」


「じゃあ、一緒に回るか」


「えぇっ!?うっ、うん。いいよ」


「? とりあえず、体育館に行ってみよう。あそこならなんかやってるだろう」


 そういって俺は体育館に歩き出す。愛歌は慌てながらも楓の後を追っていった。

 体育館に着くとどうやら生徒会主催のミスコンが行われているらしい。


「そういえば、愛歌はミスコンに出ないのか。結構いい線行くと思うんだが・・・・・・」


「ああ、それは、私にはファンがいたりするから、公平な審査にならないってことでミスコンには出ないように生徒会の人から言われたの」


「なるほど。そういや、桜たちもそんなこと言ってたな」


「だから、桜さん達も出てないんですね」


「そうなるな。でも、里香と麗子は出るって言ってたな」


「だったら投票しないとだね。一人ずつ投票しようか?」


「そうだな。んじゃあ、俺は里香に投票しよう」


「じゃあ、私は麗子ちゃんだね。って投票箱どこだろ?」


「こっちだ」


 そういって、楓は愛歌の手を引っ張って投票箱の方に走っていく。愛歌は楓に手を握られてから投票箱に着くまで顔を赤らめていたが楓に気づいた様子はない。

 投票箱に着いた楓は、受付をしていた係員に投票用紙をもらい里香の名前を書いていく。隣では愛歌が同じように投票用紙に名前を書いていた。

 名前が見えないように仕切りがあるため見えないがおそらく麗子と書いているはずだ。


「投票用紙に名前を書いたら二つ折りにして投票箱に入れてね」


 そう言われて声の主の方を見ると桜だった。隣には蓮もいる。


「なんだ、生徒会の仕事ってミスコンのことだったのか?」


「うん。正確には生徒会の手伝いで私たちは泉涼祭が終わってから忙しいんだけどね。暇だったから手伝いに来たんだ」


「会長もだけどな。実際、俺らがいなかったら収集付かなかっただろうし」


「確かにこの人だかりじゃあな」


 楓たちのまわりは今もすごい熱気に包まれている。


「てか、会長もってことは聖羅ちゃんもきてんだ」


「ちょ、楓さん!?泉導院先輩のことそんなふうに呼んでるの!?」


 楓の会長への呼び方に愛歌が慌てて問いかける。

 泉涼高校生徒会長・泉導院聖羅は、泉導院財閥の会長令嬢で一年生の時から二年連続で生徒会長やっている現在高校二年生の優等生である。会長令嬢ということもあり、成績優秀、容姿端麗、それに近寄りがたい雰囲気を合わさり生徒も教師も聖羅から少し距離を置いている。

 だが、楓たちにとっては人との接し方がわからない世間知らずなお嬢様といった印象だ。

 楓たちに世間知らずと評されるということが、いい事なのかは置いておくとして・・・・・・


「ああ。聖羅ちゃんとは中二んときからの付き合いだからな」


「へぇ、やっぱり楓さんたちはすごいんだね!」


「そうでもないよ」


 実際に楓の言ったことは事実である。

 楓がしたことといえば、たまに話しかけたり、一緒に食事したりといったことしかしていない。

 ただし、他人と違うことは楓と聖羅は他人からの評価がとてもよく似ていた、という点だ。そのため、聖羅も特に気負うことなく楓と話せただけだったのである。


「さてと、俺はそろそろ受付交代の時間だから行くわ。愛歌はどうする?」


「そうだね、休憩もしたしそろそろクラスの手伝いに戻るよ」


「そうか、頑張れよ。桜たちは?」


 愛歌が体育館から出るのを見送りながら俺は桜に尋ねた。


「私たちはまだミスコンの手伝いがあるから」


「そうか。ちゃんと休憩取れよ?」


「わかってるっつの。そもそも手伝いだからそこまで忙しくねぇよ」


「んじゃ、俺は薫と茜のところに行って受付交代してくるわ」


 去り際に手を振り俺も体育館から出ていく。

 俺は念話を使って薫と茜に連絡を取り、受付を交代する。とはいっても行動範囲が部室から半径1kmに変わっただけだが・・・・・・


 俺はその後、椿と葵に会ったりクラスの喫茶店に入ってみたり、受付を凪と雫に代わってもらってまた歩き回ったりと大いに祭りを楽しんでいた。

 そして、お気に入りの場所である屋上にきていた。


「ふぅ~。結構歩き回ったな。明日はみんなで周るんだっけか」


 そういって、校門から続いている屋台を眺めながら明日のことを考えている楓に声がかかった。


「やっぱりここからの眺めはいいですね」


 楓がゆっくり振り返るとそこには泉涼高校の生徒会長が佇んでいた。


「ん?聖羅ちゃんか。ミスコンの方は終わったのか?」


「はい。桜さんや蓮さんのおかげでつつがなく終わりました」


「そうか・・・・・・っっ!!」


 昔馴染みでもある聖羅となんてことない会話をしていると楓がふと痛みをこらえるように顔を顰めた。

 そして、それなりに長い付き合いになる聖羅がそれに気付かないはずがなかった。


「どうかしたんですか?」


「・・・・・・いや、何でもない」


「? そうですか」


 だが、それでも桜たちほど以心伝心しているわけでもないので、少し不思議に思うくらいで済んでしまった。

 ここで、詳しく質問していれば聖羅も未来で起こることに対する心の準備ができたのかもしれない。


「それで、聖羅ちゃんはなんでここに?」


「・・・・・・なぜか、楓さんが遠くに行ってしまうような気がして、探していたんです」


「・・・・・・そうか」


「あの、楓さんはどこにもいきませんよね?ずっとここにいますよね?」


「ずっとはいないだろう。少なくともあと二年ちょっとでこの学校は卒業するんだし」


「でもっ・・・・・・」


 聖羅は言葉を紡ごうとするが楓がそれをふさぐように言葉を紡ぐ。


「それに、俺がどこかに行っても聖羅ちゃんは俺の後を追うような気がするしな?」


 俺がからかう様にいうと聖羅は途端に顔を赤くし俯いてしまう。そこには、泉導院会長でもなく泉導院グループの会長令嬢でもないただの泉導院聖羅という少女がいた。


「もう、ほんとに楓さんはずるいですね!」


 楓がニヤニヤ笑っているのに気付いた聖羅は怒っているように屋上から出て行こうとした。


「聖羅ちゃん」


 だが、それを楓が呼び止める。

 その声に真剣味が含まれていたことを感じ聖羅は足を止め振り返る。


「できるだけ早く『仙水流』ていうところの滝本さんって人に護身術を教えてもらった方がいい。俺の方から連絡しておくから」


「わ、わかりました」


 楓のあまりの真剣な表情に少し面食らいそれしか返事のできなかった聖羅はぎこちない動作でドアを開け室内へと入っていく。


(あんな真剣な表情の楓さん初めて見た・・・・・・。帰ったらお父様に相談してみよう。楓さんに言われたって言えば納得してくれるよね)


 ちなみに楓は聖羅の父親とも仲が良い。たまに、娘のことを相談されるくらい信頼されている。


 そしてそのころ楓は額に手をやり天を仰いでいた。


「ハハハッ、まさか二人共とは・・・・・・もう一人の方も対処しないとな・・・・・・桜や正義たちには・・・・・・いいか、言わなくて。言っても仕方ないしな」


 こうして、泉涼祭・二日目は終わった。




おかしい。

今回で終わるはずだったのに・・・・・・

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