閑話 恋と歌と問題児
大変お待たせしました。
週別ユニークユーザが一気に増えていて驚きました。
新キャラの登場です。今回は、その新キャラ目線です。
~side 愛歌~
私の名前は水岸愛歌、私立泉涼高校の一年生だ。今は、五月の終わりごろで大多数の生徒が、そろそろ新生活にも慣れるころである。
でも、私はまだ慣れてはいなかった。アイドルという仕事の関係で、今年この学校に入学してまだ約二ヵ月。その二ヶ月間も仕事でほとんど学校には来れなかった。
他の生徒のように中学時代からこの学校に通っているわけでもないので、友達もまだできていない。なにより、アイドルとして活動しているせいで他の生徒から距離を置かれているのだ。
今も、少しでも授業に出ようとすでに六時間目が始まっているが、教室に向かっていた。
急いで階段を上がって、一年B組の教室へと向かう。
(少しでも、授業に出なきゃ!)
だが私は、焦る気持ちの所為か階段を上がっている途中、足を踏み外してしまった。
「・・・・・・へ?」
私は次に襲ってくるであろう痛みにギュッと目を瞑ったがいつまでたっても痛みは襲ってこなかった。疑問に思いゆっくりと瞼を開けてみる。
「大丈夫か?」
そこには、この世のものとは思えないほど整った顔立ちの少年の顔があった。
「おーい、聞いてるかー?」
少年が何か言ってるが私の耳には全く入ってこない。私はただ、少年の姿に魅入っていた。
「もういいや、おいていこう」
少年は私を抱えたまま階段を上り、上りきったところに私をゆっくりと下ろした。
「気をつけろよ」
そういって少年は、去って行った。途端に私は、さっきの状況を思い出して顔を真っ赤にさせる。
(私、お姫様抱っこされちゃった!ずっとあの人の顔見ちゃってたし!)
「ってそうじゃなくて!お礼も言ってない!」
おもわず口に出してしまい、はっと口をふさぐ。危ない、今は授業中だった。そのあと私は何事もなかったように教室に入り、たった二十分だけ授業を受けた。
授業が終わり、放課後になると私は比較的よく話すクラスメートに話しかけた。
「ねぇ、ちょっといい?」
「は、はひっ!」
そんなに緊張しなくても、と思うが今はそんな些細なことは置いておく。今、気になっているのは階段で私を助けてくれた人だ。
「さっき教室に来るとき、男子生徒にあったんだけど誰だかわかる?授業中だったのに歩き回ってたから気になっちゃって・・・・・・」
「ああ、あの人にあったんですね」
「知ってるの?」
「はい。有名人ですよ、この学校では。いい意味でも悪い意味でも」
「それってどういう意味なの?」
「えーっと、この学校には四天王って呼ばれている人たちがいるんです」
「四天王?」
私は初めて聞くその名称に訝しむ。全く聞いたことのない名前だし、その名前から不良集団のような印象を受ける。
どうやらそのクラスメートも私が考えていることに気づいたらしく慌てて否定してきた。
「いや、素行の悪い生徒とかではなくてですね。なんというか、学校のアイドル的な存在なんです」
その言葉を聞いて安心する。ということは、あの人はそのうちの一人だということなのだろうか。
「すごいんですよ。四人とも同じ一年生なのに成績も運動神経もよくて、そのうえ人格者という完璧超人なんです」
この学校にそんなグループがいるとは、やはり友達がいない状況ではそんな情報も知ることができないのだろうか。
「それでその中の一人が、私の会った生徒なの?」
意を決して聞いてみると、そのクラスメートは少し俯きがちに答えた。
「いえ、違います。彼らと対となる存在がいるんですけど、愛歌さんがあったのはそのうちの一人だと思います」
「対となる存在?」
「はい。『残念な九美系』と呼ばれている九人の生徒たちです」
「『残念な九美系』?」
そう言われても、どこが残念なのか全然わからない。むしろ、私を助けてくれたいい人だと思う。
「容姿も成績も運動神経もすごくいいんですが、性格がめちゃくちゃなんです!」
そこでいきなりヒートアップしたクラスメートに若干引きつつ周りを見ると、何人もの生徒が頷いていた。
「まず、九人が入っている部活がオカルト研究部なんですよ!イケメンや美女にあるまじき部活です!そして、一番ひどいのが風月楓さんです!」
こんなに怒ってるのに『さん』付けなんだな、と私はちょっと現実逃避気味に思った。どうやら押してはいけないスイッチを押してしまったらしい。
「蓮さんや桜先輩は生徒会役員だからまだいいけど、規格外な人達と気が合うなんて同類みたいなものです!椿先輩と薫先輩は一件常識人に見えるけど、一つのことに集中しだすと全く周りが見えなくなる変人だし、葵さんは椿さんやほかの七人以外はどうでもいい人だし!凪さんや茜ちゃんは楓さん至上主義だし!雫さんは八人と食事以外のことには全く関心がない人だし!全員問題児すぎます!」
ちょっと言い過ぎじゃないかと思って周りを見ると、激しく頷いている人やもっと言ってやれ、と煽っている人もいてもうわけがわからない状況だ。果てには泣いている人もいる。
どうやら、その九人はかなり周りに迷惑をかけているらしい。
「あれ、それでその風月って人は?」
今までの話には、風月くんって人が出てきていないことに気付きつい口に出してしまった。
『あいつなんかもう知らん!!!!』
「ひぅっ!!」
何故かその場にいる全員から怒鳴られて変な声が出てしまった。だが、どうやらその風月くんって人が一番迷惑をかけているらしい。
私はオドオドしながらも話しかけていたクラスメートに恐る恐る話しかける。
「そ、それで、私があった人ってその中の誰なの?」
『風月楓だよ!!!!!』
・・・・・・どうやら今日は厄日のようだ。
そのあと私は、クラスメートたちにさんざん風月くんという人に迷惑をかけられた話を聞き、ちょっとノイローゼ気味になっていた。このあと仕事が入っていなくてよかったと心底思った。
みんなの話を要約すると、まず授業にほとんど出ないのにテストではいつも満点。理事長を脅してオカルト研究部を認めさせた。理事長や教師を取り込んでいるらしく、どれだけ休んでも単位が減らない。注意していた生徒が半年後にはノイローゼに。
そして、生徒たちが一番迷惑しているのが他の部活に乱入して、模擬試合を行いボロ負けさせて帰っていく。
つい最近では、放課後に残っていた風月くんのクラスメートがサッカーに巻き込まれてボロボロにされたという。
(でも、なんでだろう?すごい迷惑な話なのにみんな生き生きとしてたな。迷惑かけられることを楽しんでいるような)
そう思うとなんだかうらやましく思った。迷惑かけられても笑っていられる関係を私は持ってないからだろう。
だけど、今回のことで少なくてもクラスメートとの距離は縮んだと思った。
(そのことに関しては、風月くんに感謝してもいいかな?)
だが、良い事は続いてくれないらしい。
「水岸愛歌ちゃ~ん、ちょっといいかな~」
校門を出て少し経った頃、気味の悪い笑顔を浮かべた三人組に囲まれてしまった。そのまま、人通りの少ないところに連れて行かれる。どうやらこの人たちは、私が学校から出てくるのを待っていたらしい。
私は、恐怖で震えそうになるのを堪えながら声を出す。
「何の用ですか?私はこれから帰るところなんですけど」
そう言った途端、男の表情が変わった。
「いやぁ、ちょっとお兄さんたちと遊んでくれればいいんだよぉ」
そういって、男は私の腕を引っ張る。私は必死に抵抗するが後ろからほかの男に体を押さえつけられて動くことができない。
「ハハッ!アイドルとヤれるなんて今日はついてるぜ!」
「おまえが終わったら次俺な」
「ちっ、わかったよ。まぁ、時間はたっぷりあんだしなぁ!」
そういって、男たちは私の服に手を出してくる。
「い、いや、やめてぇ!」
「ふん!いまさら騒いでも無駄なんだよぉ!」
遂に、服に手をかけられ私は目を瞑り、泣くことしかできなかった。だが、そこに聞き覚えのある声が響いた。
「そうそう、いまさら騒いでも無駄だ」
その声に、男たちも声のした方を振り返る。そこには、いつのまにか一人の少年が立っていた。
男たちはその少年を見た途端、声を張り上げた。
「なんだてめぇ!何時からいた!」
しかし、少年はそんな男たちの声には見向きもしない。
「君たち、うちの生徒に何してるんだい?」
「おいおい、正義の味方気取りか?かまわねぇ、やっちまえ!」
「ぐはっ!」
「うがっ!」
リーダー格の男がそういって仲間の男たちを見るが、すでに男たちは地に伏していた。二人の男たちを瞬時に片づけた少年が、ゆっくりとリーダー格の男に近づいていく。
「なっ、・・・・・・そ、それ以上近寄ってみろ。この女がどうなっても知らねぇぞ!」
男は追い詰められて、私を人質に取り少年に顔を向けるがそこに少年はいなかった。
「別にもう近寄らなくてもお前は殺れる。まぁ、殺しはしないけどな」
少年は、いつの間にか私と男の後ろに立っていた。男がその言葉に振り向こうとした瞬間、鈍い音が響く。
数秒経ってから男が地面に崩れ落ちる。
「大丈夫か?」
少年―――風月楓―――が真剣な表情で聞いてきた。
「は、はい。」
私が何とか答えると風月くんは少しおかしそうに笑いながら、話しかけてきた。
「ははっ、今度はちゃんと答えてくれるんだな」
「あっ・・・・・・」
その言葉に私は顔が真っ赤になるのがわかった。でも、それと同時に覚えていてくれて嬉しいという思いも湧いてくる。
「えっと、その節はどうもすみませんでした」
しかし、私の口から出たのは謝罪の言葉だった。あのとき、お礼も何も言えなかったのがとても気になっていたからだ。
そのため、私は必死に頭を下げた。
「別に気にしてない。どっちかって言うと、感謝される方がうれしいかな?」
「そうですね。ありがとうございました」
風月くんは苦笑しながら、本当に何でもないように言ってきた。私もそれもそうだと思い、改めて感謝の言葉を口にする。
「どういたしまして。俺は風月楓、一年A組だ。組章を見るに同じ一年だろ?なら、敬語はいらない」
この学校では、組章の縁の色で学年がわかる。一年生が青で、二年生が銀、三年生が赤だ。
「あ、えとっ、私は一年B組の水岸愛歌。よろしくね、風月くん」
「よろしく、愛歌。俺のことは楓でいいぞ」
どうやら、今日は厄日ではないらしい。私は、沈んでいた気持ちが少し軽くなったのを感じた。それから私は楓さんに駅まで送ってもらって家に帰った。
家に帰った私は、楓さんのことばかりが頭に浮かんで密かに悶えていた。
あれから私は、学校に来るたびに楓さんの姿を探している。どうやら私は、楓さんに恋をしてしまったらしい。
だが、なかなか楓さんに会うことはできなかった。もともと、仕事であまり学校に来ることができないので、会うチャンスがなかなか訪れない。
そこで、クラスの数人に楓さんが普段どこにいるのか聞いてみることにした。
「あの、ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
私は美月紗奈という名前の比較的よく話すクラスメイト聞いてみることにした。
「えっと、風月楓って人について聞きたいんだけど・・・・・・」
「いいけど、私もあんまり知らないわよ。なんたってA組の人すらあっちから会いに来ない限り見た人すらほとんどいないんだから。まぁ、放課後なら部活やってるから部室にいると思うけど」
「ホントっ!?」
これはいい事を聞いた。やはり持つべきものは友達だ。居場所さえわかればこちらのものだ。
「え、ええ。でもあまり関わらない方がいいわよ。ろくなことにならないから。まぁ、それでも近づくのは四天王の四人くらいじゃないかしら」
「四天王ってあの?」
「ええ。風月楓だけじゃなく『残念な九美系』のことを詳しく知っているのはあの四人くらいじゃないかしら。最近は、よくオカルト研の部室にも行ってるみたいだし」
「へぇ~、そうなんだ。わかった、ありがとね。」
そういって、私は彼女の下から離れる。彼女も気にしなくていいよ、と言ってくれた。
それにしても、思わぬ情報を手に入れた。次は、四天王のところに行ってみようと思う。
・・・・・・なんか字面だけ見たら最終決戦前の勇者みたいだなー。
たしか、A組だったよなーと思い、A組を訪ねてみるがすでに部活に行ってしまっていないらしい。そのときに四天王の名前を教えてもらった。考えてみれば私は四天王の名前も知らなかった。
四人の部活が終わるのを待っているわけにもいかず、楓さんのことを聞くのは今度にしようと思い私は家に帰った。
一週間後。ようやく仕事が休みになり、学校に向かう。しかし、まだ授業中なのでどうしようかと少し考えていたところ、不意に歌声が聞こえた。
とても、不思議な歌声だった。どうやら、屋上で歌っているようだ。
私は歌声に導かれるように屋上へと向かった。
――空は高く 風は吹き 花は舞う――
――春の日差しを浴び 夏の爽やかな風を感じ――
――宙を造り 神を生み 時が動く――
――秋の切なさに身を任せ 冬の温かさと共に眠り続ける――
・・・・・・とても不思議な詩だった。歌っていたのは、私が会いたいと望んでいた楓さんだった。でも、楓さんはどこか悲しそうな顔をしているように見えた。
楓さんは私に気づいたようで、途中で歌うのを止めてしまった。
「ん?愛歌か。どうかしたのか?」
「え、えっと、廊下歩いてたら詩が聞こえてきたから・・・・・・」
「ああ、この詩か。物心ついた時には覚えていたんだけど、いつ覚えたのかわからないんだよな。桜たちも知ってたから多分同じときに覚えたんだと思うんだけどさ」
「そうなんだ。なんか不思議な詩だね」
「歌ってると懐かしい気分になるんだ。最初の一文は俺たちの合言葉みたいになってるしな」
「いいの?そんなことを私になんか言っちゃって」
「いいんだよ。なんか言わなきゃいけないような気がしたからな」
何のことを言っているのか私にはよくわからなかったが、ただ、そういった楓さんには何か確信めいたものがあるような気がした。
気になった私は聞いてみることにした。
「なんでそう思ったの?」
「ただの勘だよ」
「ふふっ、なにそれ?」
「結構当たるんだぞ?」
そのあと、チャイムが鳴り楓さんは部室に私は教室に帰ることになった。
結局あんまり話せなかったけど、少しは楓さんと仲良くなれたかなと思うと無性に嬉しくなった。
それからは、学校に来るたび私は屋上に向かい楓さんと話すようになった。他の『残念な九美系』と呼ばれている人達や『四天王』と呼ばれている人たちとも仲良くなることができた。
たまにオカルト研究部にも行ってみたけど、お茶してばかりでほとんど活動らしい活動をしていなかった。まぁ、でも楓さんらしいといえばらしいなとも思ったけど。
そして私は、念願の友達も作ることができた。まぁ、その友達が学校のアイドル的な存在と学校の問題児的な存在しかいないというのはどうかと思うが。まぁ、それでも友達は友達だ。
そのおかげで、学校祭も一人で回ることもなく楽しく過ごすことができた。その後すぐ夏休みになり、仕事も忙しくなって楓さん達と会うことができなくなったがもうすぐ二学期だ。学校が始まれば楓さん達にも会える。学校だけは毎日来ているのだから。
そう思って向かった始業式。
――楓さん達『残念な九美系』の全員が学校を辞めた――
・・・・・・一人称視点が難しいです。
これから、学校の行事で更新が遅れがちになると思います。
申し訳ありません。
あっ、ちなみに本日誕生日を迎えました。
これで大人の仲間入りです。
評価、感想・アドバイスなどがありましたら、ご指摘ください。
4/20 詩の内容を変更しました。
※詩の内容はまた変わるかもしれません。