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チート問題児の異世界旅行  作者: 早見壮
第零章:そうだ異世界に行こう
5/26

銃とサバイバルと問題児

今回は少し湿っぽい話になっています。


何故か書いていたらそうなりました。

 楓が発案した強化合宿2日目。


 道場に隣接する光政の家で楓を除いた12人は朝食を取っていた。蓮たちは慣れた様子で食事をしているが正義たちは居心地の悪い思いをしていた。

 理由は、正義たちと一緒に三人の師範も一緒に食事を取っているからである。稽古以外で話したこともあったこともない三人との食事でどう接したらいいかわからないのだ。


「そ、そういえば、楓はどうしたんだ?」


 居心地の悪さに耐え切れず正義が蓮に話を振る。


「寝てるよ。あいつ、予定のない日は基本昼頃まで寝てるからな」


「寝てる?いいのか、それで」


「っていうか、予定ならあるでしょ。サバイバル術だっけ?教えてくれるんじゃないの?」


「ん?いや、俺たちはやらないぞ。お前らはこの道場の裏山で一日半ほどサバイバル生活してもらうけど」


「え?蓮たちは来ないのか?それに裏山ってかなり広いぞ。もし、遭難でもしたら・・・・・・」


「俺たちはいかないけど、静香ちゃんが監督してくれるよ」


「よろしくね。正義君」


 そういった静香に慌てて頭を下げる正義たち。そこでふと疑問に思ったことがあったので蓮に聞いてみる。


「そいうえば、その間蓮たちって何するんだ?稽古とかか?」


「部活」


「部活?オカルト研って土曜日もやってたのか?」


「いや、今回は特別でな。ほら、前に言ってた銃が届くんだよ」


「ああ、そういえば言ってたな。てか、もうすぐ届くって二日後だったのかよ」


「俺も昨日楓に聞いて知ったんだけどな。ま、そういうことだから頑張れよ」


「ああ。りょーかい」


 ちなみに、このとき蓮以外のオカルト研メンバーはすでに食事をすませて学校に行く準備をしていた。善継たちは正義と話していてそれに気づかない蓮を見て同情のまなざしを向けていた。

 ちなみにこの後、桜たちがとっくに自由行動に出ているのを知った蓮が復活するまで十分程かかった。


 朝食を終えた正義たちは静香に連れられて道場の中にある武器庫に来ていた。政義が刀や槍、弓などの武器を見ながら移動していると不意に静香が足を止めた。


「ここにあるナイフから好きなものを二本選んで下さい」


「ナイフですか?刀や弓ではなく」


「はい。今回の訓練では必要最低限の物で、裏山の中で一日半過ごすという訓練です。今回持っていけるのは、ナイフ二本と水1リットルだけです。それ以外は、自分で食糧から寝床の確保までしなければいけません。もちろん、裏山にある素材は自由に使ってもらって構いません」


「ナイフと水だけですか?携帯食料やテントなんかは?」


「風月くんからあなたたちが異世界に落とされることは聞いています。落とされるときに携帯食料やテントなんかを持っていると考えているんですか?水があるだけありがたいと思ってください。実際、風月くんたちはナイフも水も無しに二週間裏山で過ごして見せましたよ」


 静香にもっともなことを言われて正義たちは反論出来なかった。といか、楓たちはナイフも水も無しにどうやって二週間も耐えたのかが気になったが、どうせろくでもないことだろうなと無理やり意識から追い出す。

 そのあと、それぞれ三十分ほど悩んでナイフを決めて静香から水をもらい、いざ出発と思ったところで静香から再び説明が入る。


「では、これより裏山に向かいます。あ、言い忘れていましたが裏山にはヘリで向かいます。山の中腹地点で降ろしてもらい、そこからサバイバル訓練のスタートです。訓練が終わったら迎えが来るようになっています。それでは、行きましょう」


 聞いてない、と突っ込みそうになるが楓たちにさんざん振り回されて慣れてきてしまっているのか溜息をつくにとどめた。

 そして、非常識なことに慣れてきていることに頭を抱えたくなる正義たちなのであった。


 一方そのころ、会話に全く参加していない楓はというと・・・・・・。


「バカめ・・・・・・それは、じゃがいもではなく、まんじゅうだ!・・・・・・ぐぅZZZ」


 絶賛熟睡中だった。実は楓、昨日まで銃の改造に使おうとしている魔法陣を考えていて2日間ほど寝ていなかったのである。だが、気持ちよく寝ている楓に黒い影が迫ってくる。


「いつまで寝てんだコラァ!!」


 桜たちに相手にされず項垂れていた蓮が八つ当たり気味に楓を起こしに来たのだった。











 楓を起こしたオカルト研の一行は学校に来ていた。学校に到着した楓たちは、まっすぐ部室には向かわずに理事長室に向かった。銃の受け渡しは理事長室で行われるからだ。

 ちなみに、楓はいまだに8割がた寝ている。楓たちが理事長室の前に来てノックして入ろうとしたとき、寝ぼけた楓が理事長室の扉に体当たりした。

 その後、扉はゆっくりと開き楓は頭を押さえてうずくまり、周りは静寂に包まれる。


「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」


 あ痛たたたたた!うぉおおおおお!?なんだ!?敵襲か!?って違うこれドアだ。なるほど、うっかり寝ぼけてぶつかってしまったのか。

 あれ?みんな静まり返ってどうしたんだ?


 楓が額を押さえて悶えている中、会ってすぐの人からも天然だと言われる真性の天然である桜が呑気な声で空気をぶち壊す。


「こんにちは。銃、貰いに来ました~」


 その言葉にこの空気を作り出した張本人である楓が未だに痛む額をさすりながら突っ込みを入れる。


「桜、違うよ。貰うんじゃなくて買うんだよ」


 そこが問題ではない、とその場にいる全員が声を大にして言いたかったが、まだその前の衝撃が大きすぎて言葉にすることが出きなかった。


「そうだっけ。まぁ、どっちでもいいじゃない」


「ははっ、それもそうだな」


「ふふっ、そうだよ」


 そこで、ようやくフリーズしていた楓と桜以外の全員が再起動して一斉に二人に突っ込みを入れる。


「「「「「「「「「笑い事じゃない!!!」」」」」」」」」


「おわっ!、びっくりするだろ。いきなり叫ぶなよ」


「はぁ、まぁいい。早く買い取って部室に行くぞ」


「そうだな。じゃあ、そこのおっさん。寄こせ」


「脅迫かよ!そんなんで渡してくれるわけないだろ」


 だがその言葉とは裏腹に声をかけられた防衛省の役人はビクッとふるえて顔面蒼白になりながら手にしていた箱を楓に渡す。


 役人ビビりすぎだな。まぁ、さすがにあれはやりすぎたかなと思ってたししゃあないか。

 てか、蓮。そんないかにも言いたいことがあるような顔で俺を見るな。


「ホントに何したんだよ、楓」


 おおう。まさか、ホントに聞いてくるとは。まぁ、言っても大丈夫か。


「いや、門前払いくらったからちょっと無人島消し去っただけだよ。そのあとは、ちゃんと話聞いてくれたし二つ返事でOKもらったし」


「やりすぎだ!」


「まぁまぁ、それより銃も貰ったんだし早く部室に行こうぜ」


「もういい。お前に常識を求めた俺がバカだった」


 そういって楓たちは部室へと歩き出す。楓たちが出ていった後の理事長室には二人分の安堵のため息が出ていたという。


 よし、これで、銃が手に入ったぞ!銃を改造して銃弾を複製してっとやることがいっぱいだ。これが終われば、あとは時空間魔法陣を完成させるだけだ。


 部室に来た楓がご機嫌にアタッシュケースから銃を取り出していると桜が疑問を口にした。


「そういえば楓ちゃん。どんな銃にするか決めたの?」


「ああ。大体は決めてある」


「んで、結局どうするんだ?」


「まぁ、銃自体は一種類しか作らないよ。その分、銃弾にバリエーションを作ろうと思うけど。それは、桜たちにやってもらおうと思ってる」


「たしか銃弾は属性の魔法陣を刻んで作るんだよね?」


「うん。弾自体の構造はこれに書いてある通りに作ってくれ。さっきも言った通り数種類作るから基本の属性だけでなくこんなのあった方がいいなって属性を組み込んでもいいし。属性だけでなく、普通の攻撃魔法を魔法陣にして組み込んでもいいよ。いや、むしろそっちの方が何かと都合がいいと思う」


「わかった。それで、楓は何をするんだ?」


「俺は、銃本体を改造、というより製造するよ。こっちもいろいろやってみるけど、たぶん二、三〇分でできると思うからそのあとみんなで試し撃ちして発動するかの確認と改良を重ねて行こうと思う」


「りょーかい。こっちは、一つの属性の銃弾造るのに一〇分程度ってところだな。まぁ、ほかにも魔法そのものを込めた銃弾も作ってみるわ。そっちができたら声かけてくれ」


「よし、じゃあ造るか」


 そういって、楓たちは作業に没頭する。

 楓は、五つある銃のうちの一つを完全分解して組み立てる作業を二回ほど行い、銃の構造や射出工程への理解を深めていた。


(M92Fか・・・・・・。銃のことは詳しくないから一から覚えないとな)


 そのあと、マガジンに制御術式を刻み込んでいく。これは、魔法銃を放った余波で他の弾が暴発しないための措置だ。一度にすべての弾が発動したら大事故どころじゃすまないからな。それと同じ術式を本体にも刻み込み、持ち手部分に魔法銃としての性能を持たせるための魔法陣を刻み込んでいく。

 一見簡単そうに見えるが、この魔法陣は百分の一単位のずれで正常に発動することができないような精密な作業を手作業で行うという高度な技術力が必要なのだ。つまり、これができる俺凄い!ってことだ。まぁ、だいぶ練習したからなぁ。

 さらに魔法陣を刻み込みながらその銃に合うように魔法陣を構築しているので、生半可じゃない集中力と頭脳が必要になる。


 ちょうど三〇分経ち、魔法銃が完成したころ蓮たちも大体作業が終わったようなので連たちと合流する。

 蓮たちのところに行くとちょうど最後の一つを作り終えたところだった。


「つーか、お前ら。どんだけ造ってんだよ」


「いや、造ってるうちに楽しくなっちゃって。気付いたらあと一〇発しか銃弾残ってないや」


「三〇〇発も買ったんだけど。まぁ、いいや。残った一〇発は俺にくれないか?俺も造りたいモンがあるんだ」


「ふーん、何造るんだ?」


「それはできてからのお楽しみだな。俺が造ってる間に蓮たちは複製魔法で銃を人数分と換えのマガジンを一人三つずつ、銃弾は五四九発ずつ用意してくれ。っと、でもその前に何種類か数発複製して試し撃ちしてみるか」


「それはそうだけど、どこでやる?さすがにここじゃ狭すぎるだろ?グラウンドや体育館は運動部が使ってるし」


「屋上があるじゃないか!」


「そうか、確かに誰も使ってないな。でも鍵は?」


「教頭からもらってる。的は二週間前に刀造ってる時に暇つぶしに作った。」


「準備が良いな。んじゃ、屋上行くか。」


「「「「「「「「おー!」」」」」」」」


 というわけで全員で屋上に向かう。そのあと、(まと)を準備して周囲に幻影魔法と防音結界、隔離結界を張り試し打ちの準備をする。


「さて、準備もできたしさっそく試し撃ちするか」


 楓がそういった瞬間、この場が緊張に包まれる。


「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」


 誰も一言も発せず、お互いを見つめるだけだ。まさに一触即発の雰囲気だ。なぜ急にこんな雰囲気になったかといえば簡単で、銃は一丁。しかし、人数は九人。なら、九人分複製すればいいじゃないか、と考える人もいるだろう。

 だが、今回の試し撃ちは銃弾が機能するか調べるためのものではない。銃弾が機能するのは銃弾に施された魔法陣を見ればわかる。

 今回は、精密な魔法陣を施した銃がちゃんと機能するかを見るためのものなので、無駄に複製するわけにはいかないのだ。

 ものがものだけに簡単に捨てることはできないし、持っていても邪魔になるだけである。

 そして、ついに長いようで短い静寂が破られた。


『最初はグー!じゃんけん―――!』


「「「「「「「「負けたー!」」」」」」」」


「勝った―――――!!」


 結果は、蓮の一人勝ちだった。そのあと、楓に使い方の説明を聞き、蓮は銃に魔力を込め何発か試し撃ちをして魔法銃として発動するか確かめる。

 数種類試した後で楓は蓮に使った印象を聞いた。


「どうだった?使い心地は」


「魔法は問題なく発動するけど、反動が大きいな。身体強化してれば問題ないけど、してなかったら連射は難しいかもな」


「そうか、それなら今刻み込んである魔法陣に少し書き加えれば大丈夫だ」


 そう言いながら、楓はその場で魔法陣に術式を書き加える。改良は、五分ほどで完了した。

 それを蓮が問題ないか試し撃ちして、異常がなかったので部室へと戻った。ちなみに、異常がないとわかってから全員が一度ずつ魔法銃を試し撃ちした。











「さてと、やる事もやったし暇つぶしに遊ぶか」


 部室に戻ってきた俺たちは、やることも思いつかないので遊ぶことにした。


「そうだね。何して遊ぶ?」


「ん~、どっかの部活に顔でも出すか。ん?なんでこんなところに銃弾が転がってんだ?」


「いや、お前が造りたいモンがあるって言ったんだろうが、って俺たちも銃弾複製してなかったわ」


「あ~、忘れてたな。じゃあ、ちゃっちゃと造っちまうか」


 そういって楓は、銃弾造りに取り掛かる。楓が今造っているのは、特殊な銃弾である。

 魔獣の中には、魔術や魔法が効かない個体も存在する可能性もある。また、隠密性の高い攻撃でないと当たらないような魔獣もいるかもしれない。

 そのために、見えない銃弾や加速し体積の増える銃弾などを造ろうとしているのだ。その他にも、必殺の威力を持つ銃弾なども考えている。

 一通り作り終わると蓮が声をかけてきたので楓もそちらに向かう。


「楓、こっちは終わったぞ」


「こっちもちょうど終わったところだ。俺が造ったやつはそのうち俺の方で複製しておくよ」


「わかった。ん?まだ一つ残ってるじゃねぇか」


 そういって、蓮はまだ加工されていない銃弾を手にした。それを見ながら楓は、蓮だけでなく全員に話しかける。


「それは、今後なんか造るときそれを複製して増やせるように空間魔法でしまっとくんだ。他の銃弾も九発ずつ余計に造ったのもみんなが一発ずつ複製用に保管するためだ」


「なるほど。確かに消耗品だし向こうに行ってからだと入手できなさそうだもんね」


「そういうこと。蓮、それちょっと貸してくれ」


 そういって、蓮から銃弾を受け取ると複製魔法で九発にしてみんなに一発ずつ配る。


「オリジナルの銃弾も一発ずつ持っておいた方がいいだろう」


「そうだね。あっ、複製した二九〇種類の銃弾みんなに分けちゃおうよ」


 そういって、それぞれに銃弾を分け終えた後はいつも通り思い思いにチェスや人生ゲームをして過ごしていた。

 一通り遊び終えた後、凪がふと気づいた。


「そういえば、銃ってあと二丁あったよね?それはどうしたの?」


「あっ、忘れてた。いま、複製してみんなに配るわ。」


 そういって、楓は銃を人数分複製し全員に配った。配り終えた後、まだ疑問の残っているような顔をした葵がさらに楓に質問する。


「それで、もう一丁は?」


「ああ、こっちはまだ用途が決まってなくてな。切り札っぽい性能の銃にしようと思ってるんだけど、まだ良いのが思いつかないんだ。まぁ、異世界に行くまでには造っておくから、それまで待っててくれ」


「そうなんだ。じゃあ、今度なにか案考えてくるよ。その方が造りやすいでしょ?」


「おお!それいいな。じゃあ、各自どんな銃が良いか考えて俺に教えてくれ。んじゃ、もうやることもないし帰るか」


「「「「「「「「りょーかい」」」」」」」」


 時刻はすでに六時を過ぎて、日も傾いてきている。楓たちは、さっさと帰り支度をして学校を出た。

 光政の家に帰る途中で楓はあることを思いついた。すぐにそれをみんなに伝える。

 すると、みんなも同意してくれた。


「あっ!そうだ。忘れてた」


「ん?どうかしたのか、楓?」


「ああ、俺今日は師範のところに帰らねぇわ」


「は?なんか用事があんのか?」


「ああ。源のおっちゃんのところに行く予定だったんだ。・・・・・・四時半に」


 ・・・・・・現在の時刻、六時三十分。


「二時間前もじゃねぇか!」


「そんなわけで、これから行ってくるわ。たぶん、明日の昼頃には帰ると思うから」


「わかった。源さんによろしく言っといてくれ」


「ああ」


 そういって楓は、時空間魔法を使い源総一郎の元へと転移していった。楓が総一郎のところに転移したのを見送った後、蓮たちは光政の家に着き夕食の準備をしていた。

 ちなみに今日の夕食は、クリームシチュー、コッペパン、ポテトサラダだ。純和風の造りのこの家には全く似合わないメニューだ。


「それにしても、楓がいないと違和感があるな」


 食事をしながら、光政がふと思ったことを口にした。


「そうか?別にいつも一緒に居るわけじゃないからな」


「そうなのか?お前らを見てるといつも一緒に行動してるような気がするけどな」


 どうやら、蓮の答えは意外だったらしい。光政は少し驚いた顔をして思ったことをそのまま口にした。それに答えたのは椿だった。


「そうでもないよ。子供のころから楓や桜はしょっちゅうどこかに行ってたしね。九人全員で行動したことの方が少なかったんじゃないかな?」


「学校に通うようになってからは、学年も違ったから余計一緒にいる時間は短くなったわね」


 椿の言葉に薫が補足して、桜たちも頷いている。


「そうか、そうかもな。道場にもそれぞれ自分にあったところに入っているしな」


「でも、やっぱり物心ついたころから一緒にいるから誰よりも安心できるし、何があってもずっと一緒にいてくれるってお互いに信じてるってところはあるかな」


 桜がその場にいる全員を見ながら、そして、今頃総一郎と一緒に何かやっているであろう楓を想いながら少し照れたように語る。

 その様子に他のオカルト研のメンバーも同じように楓のことを思い浮かべる。そして、しばし、無音の時間が流れた後、蓮が空気を変えるように話だす。


「まぁ、俺たちが一緒にいるときってのは、だいたい楓が絡んでるからな。今回の合宿とか異世界に行くこととか」


 蓮のその言葉で今までの空気が変わり、一気にゆるい空気になる。それからは、それぞれが楓への文句を口にして最終的に光政は苦笑するしかなかった。


(・・・・・・なんだ、意外と子供らしいところがあんじゃねぇか。つまらない大人みたいな考えしてんのかと思ってたが、本質はただ無邪気で純粋な子供なだけじゃねぇか)


 光政は安心していまだに楓に対して文句を言っているオカルト研を眺めていた。その眼は、どこか父親のような温かい眼をしていた。


 こうして、合宿二日目が終わった。












 強化合宿最終日。


 サバイバル術を学んでいる正義たちは現在とてつもない窮地に立たされていた。


「くそぉ、もう魚には飽きた」


「いい加減、肉が喰いたい・・・・・・」


 道場の裏山に入ってから丸一日。正義たちは、ほぼ魚しか食べていない。もちろん、米や調味料の類もない。


「せめて、塩だけでも・・・・・・」


「昨日食べたウサギ肉が恋しいわ」


 正義たちが肉を食べたのは、昨日この山に来て拠点を決めているときに静香が狩ってきた兎だけだ。

 なんでも、解体の仕方を学ばせるためだけに人数分狩ってきて捌き方を教えたのだ。そのときは筋張ってておいしくないと感じたものだが、今なら喉から手が出るほど欲しい獲物だ。

 ちなみに余った肉は狩ってきた静香に回収された。そのときに、魚の捌き方や食べられる草と食べられない草の見分け方、火付けの仕方などを教えられたが、それからは別行動のようなもので近くにはいるが正義たちの手助けをすることは全くなかった。


「楓たちはこんな生活を二週間も続けてたのかよ」


「それは違いますよ」


 正義たちは静香の声を聞き周りを見渡すが正義たちの周囲には誰もいなかった。そこに、また静香の声が響く。


「こちらですよ」


 声は正義たちの頭上から聞こえてきた。静香の姿を確認した後、麗子が真っ先に気になったことを確認する。


「なんで木の上にいるんですか?」


「それは簡単なことです。木の上は外敵から狙われることが少ないですから」


「「「「あっ!!」」」」


 今まで失念していたことに気づき思わず声が出る。異世界には、自分たちの敵となる存在がいてもおかしくない。その存在に全く気付かなかったことに、正義たちは改めて異世界がこの世界の常識ではやっていけないということを痛感した。


「それで、楓たちと俺たちの何が違うんですか?」


「先ほどのこともそうですが、風月くんたちはもっと生き延びることに貪欲でした。あなたたちが残している魚の骨も小骨はすべて食べていましたし、頑丈な骨は石をすり合わせ釣り針にしていました。魚の皮も何枚も組み合わせて雨風をしのぐテントのようにしていました」


 その言葉を聞いて正義たちは絶句した。楓たちの発想にではない、楓たちとの覚悟の差に、だ。

 普段、自由奔放で人のことを気にしない楓たちが、ここまで真剣に異世界で生活することを考えているとは思わなかった。

 政義は、自分たちが楓たちにおんぶにだっこで何も考えていなかったことを恥じた。

 正義たちは今まで異世界に落とされたら漠然と草原なんかに落とされて、そのまま街に向かう集団でも見つけて街で冒険者になって生活する、ぐらいにしか考えてなかった。


((((ここで覚悟を決めないと、後で絶対に後悔する))))


 そう思い、意を決して正義たちは静香に声をかける。


「あの、静香さん」


「どうかしましたか、正義くん」


「俺に、俺たちに楓たちが二週間やっていたことを教えてください!」


「「「よろしくお願いします!!」」」


 静香は正義たちの言葉に少し目を見張り、穏やかな微笑を浮かべながら頷いた。


「いいでしょう、私が知っていることを教えましょう。覚悟はいいですか?」


「「「「はいっ!ありがとうございます!」」」」


 正義たちは静香に勢いよく頭を下げる。こうして残り十数時間にして正義たちの本当のサバイバル生活が始まった。


 所変わって光政の道場では、桜たちが地下修練場で汗を流していた。とは言っても、激しい訓練をしているわけではなく、むしろ全く動かずに自然と一体化していた。

 自然と一体化することで、必要最小限の動きで且つ不自然にならないような動きをすることができる。

 暗殺などでとても役に立つがそれだけでなくこの状態で生物に正面から歩いて近寄っても相手がそれを察知することができないのだ。

 桜たちがかれこれ三時間近く動かずにいると、光政が地下修練場に入ってきた。


「あれ?桜たちはどこに行った?」


「あっ、光政さん。朝食ができたんですか?」


「おわっ!!桜どっから出てきた!?」


 いきなり桜の声がして思わず声が出た光政だが、誰もいない空間で不意に声が聞こえてきたら、この反応も仕方がないだろう。

 ちなみに光政は、桜たちが行っている修行を事前に知っていて、どんなことができるかも教えてもらっている。知っていてもこんな反応しかできないのだ。

 だが、一応これにも見破る方法があり、その方法は同じく自然と一体化するという無理難題といっても過言ではないくらいの無茶ぶりだ。


「それにしても、全くわからんな。今だって桜が声をかけてきたからわかっただけで、しかも声をかけられた直後にはまたどこにいるのかわからなくなっちまった。というか、飯にするからもう解いてくれないか?」


 この一体化の厄介なところは、声をかけられてもその一瞬だけその場に誰かがいると認識できるだけで、しかもまたすぐに認識できなくなるという点だ。


「そうだな、腹も減ったし。そろそろ飯にするか」


 そういって桜たちは、一体化の状態を解除して姿を認識できるようにする。その様子に光政はあからさまにほっとしていた。

 どうやら、そこにいるのに認識できないというのは、精神的にかなり堪えるらしい。


 道場とつながっている光政の家で食事をとると、今日は午前中は予定もないのでそれぞれ自由に行動する。

 桜と雫はいつもどおりチェスで暇つぶしをして、蓮と凪、茜は道場で組み手をするらしい。薫と椿、葵は、裏庭で昨日造った銃の射撃訓練をするようだ。


「そういえば、楓ちゃんも正義くんたちも今日の夕方に帰ってくるんだっけ?」


 桜が、駒を手で弄びながらふと思ったことを口にする。


「うん。静香姉さんから連絡あった。予定に変更なし」


「じゃあ、お昼ごはん終わったらみんなで買出しに行かなきゃね」


 そういった桜に頷き、満足そうな顔で雫が駒を動かす。


「チェック・メイト」


「えっ!?雫ちゃん、いつの間に!?」


「これで、九連勝」


 雫が桜を――チェスで――叩きのめしていたころ、蓮、凪、茜は交代しながら一対一の組み手をしていた。ちなみに現在の戦績は、

 蓮 十二戦 対茜 四勝二敗 対凪 三勝二敗一引き分け

 凪 十一戦 対茜 三勝二敗 対蓮 二勝三敗一引き分け

 茜 十一戦 対凪 二勝三敗 対蓮 二勝四敗

 今は、凪と茜が十二戦目をしている。蓮は、審判役だ。今回は地下ではなくて地上の修練場を使っている。そのため、蓮たちの組み手の様子は他の門下生も見ている。いや、眺めているといった方が正しいだろう。

 実際二人の組み手は速すぎて目で追うことができないからだ。それに眺めている門下生たちも半ば現実逃避をしていて現状に目を向けることができないでいる。

 そうこうしているうちに決着がつき、今回勝ったのは茜だったようだ。


「うぅ~、負けちゃった」


 凪は年下の茜に負けたことを気にしているようだった。そこに蓮がフォローに回る。


「まぁまぁ、俺だって茜相手に二敗したんだし。気にしてもしょうがないって!」


「それに、勝率でいえば一番低いのは私ですよ。凪姉さんがそんなに落ち込んでたら私の立場はどうなるんですか!」


 茜の追撃も加わったことで、渋々といった感じで納得する凪。

 そこに、椿たちがやってきた。


「ん?椿、射撃の訓練は終わったのか?」


「ああ、家に入ったら桜にそろそろ昼飯だから呼んで来てくれって言われてな」


「そういえば、もうそんな時間か」


 そういって、蓮は片づけを始める。凪や茜、呼びに来た椿たちも片づけを手伝い、数分で片付けは終わった。


「そういや、椿たちは銃の射撃してきたんだよな?どうだった?」


 片付けが終わり家に向かっている途中、蓮が銃の性能がどうだったのか気になり椿に聞く。


「これは、すごいと思うよ。それほど魔力を使わずに魔術はもちろん魔法よりも強い威力が出せる。それに、込める魔力により威力も変わるから手加減だってできるよ」


「銃のくせに随分使い勝手がいいな」


「本当にね。楓はどうしてこんなことを考え付くんだろうね」


「それはみんな気になってるわよ。蓮は何か知らないの?桜よりも一緒にいることが多いんだし」


「それがわかればいつも苦労してないっての」


「ふふっ、それもそうよね」


「それにしても、あんまり一緒にいることもないのにどうして桜はあんなに楓と仲が良いんだろうね?」


 葵は、その話を聞いていて気になったことを薫に聞く。


「そこが私にもわからないのよね。まぁ、気が合うってのはあるんだろうけど・・・・・・」


 そんなことを話しながら、道場の横の家に入っていく。リビングに行くとすでに料理がならべてあった。


「もう、遅いよみんな。雫ちゃんなんかお腹減りすぎてさっきから料理しか見てないんだから」


 蓮たちが入ってきたのに気づいて、桜が声をかけた。


「お腹空いた。早く食べる」


 桜に追随する様に、雫が料理に釘づけになりながら蓮たちに訴えた。そんな雫の姿に苦笑して蓮たちはそそくさと席について食事をとる。

 昼食のメニューは、炒飯に餃子、八宝菜である。中華のど真ん中なメニューであった。


「ということで、これからみんなで買い物に行きます!」


 桜が食事が終わりそれぞれが寛いでいるときにそんなことを宣言した。


「ということでって、いつそんなこと決まったんだ?」


 蓮がもっともなことを聞き返す。しかし、それに答えたのは雫だった。


「蓮たちが来る前。チェスしてる最中」


「それをどうやって俺たちに知れと!?」


「蓮、うるさい」


「俺の扱いひどくないか!?」


 すでに蓮は涙目である。蓮から抗議を受けた雫は何食わぬ顔でごま団子を頬張っている。


「まぁ、落ち着きなさいよ。ほら、昨日楓が言ってたでしょ?」


「昨日?・・・・・・ああ、なるほど。そういうことか」


 ちなみに蓮以外の全員はすでに気づいていた。


「ってことは、昨日お前らが言ってたことホントにするのか?」


 ここで、今まで黙っていた光政が全員に問いかけた。


「「「「「「「「もちろん!だって楽しそうだから!」」」」」」」」


楓がいなくても、こいつらは問題児だった、と光政は痛むはずのない頭を押さえた。


 桜たちは揃って頷き、買い物に行く準備を始める。

 買い物の費用は楓と桜が経営している会社の収入から出しているので全く問題ない。他の七人も規模は違うが数百万なら軽く出すことができる。

 ちなみに、楓と桜は数億単位なら軽く出すことができるらしい。二人が会社経営するに至った理由は散歩にお金が必要になるから、らしい。なぜ散歩に数億円も金がかかるのかは触れない方がいいだろう。

 その他にも、散歩ついでにカジノで稼いだ金やマフィアを壊滅させて奪った金などもあるらしい。


 それはさておき、準備ができた桜たちは出発しようと玄関に向かう。

 ・・・・・・何故かリアカーを二台も引いているかは聞かない方がいいだろう。


「よし。じゃあ、買い物に出発だよ!まず最初は北海道だね!三時間くらいで終わらせたいからキビキビ行動してね!」


 ・・・・・・こうして、桜たちは出発したのだった。












「ただいまー!」


 三時間後。午後四時に桜たちは買い物から帰ってきた。桜は、元気に家の中に入っていくが他の七人は心底疲れたような顔をしていた。

 その様子に、本能的に聞いてはいけないと思いながらも光政は聞かずにいられなかった。


「大丈夫か?それで、何があったんだ?」


 そういった光政に蓮が答える。ちなみに、蓮たちは息切れなどをしているわけではなく、精神的な疲れが体から滲み出ているのだ。


「まさか、ラスト三十分でイギリス、フランス、中国に行くことになるとは・・・・・・」


ちなみに、入国手続きは当たり前のようにしていない。


「そ、そうか。まぁ、とりあえずご苦労さん。リビングで休んでな」


「そうもいかないわ。これから仕込みを始めないと夕食までに間に合わないから」


「そうだな。量が量だけにみんなでやらないと終わらないからな」


「そんなに買ってきたのか?」


「うん。門下生のみんなにも食べてほしかったから、二百人前くらいずつ買ってきたよ」


 光政の問いに葵が答える。ちなみに、門下生は三つの道場合わせて百数人だ。どう考えても多すぎる。

 光政がその疑問を口にする前に凪が説明する。


「余ったら、みんなで分け合って空間魔法に保管しておくんです。そうすれば、異世界に行っても食べれますから」


「なるほどな」


 そういって、椿や薫が空間魔法で買ってきたものを出す。どうやら、リアカーだけでは載せきることができずに空間魔法にも食材を入れてきたらしい。

 蓮たちが料理の仕込みをしていると楓がいつの間にか玄関まで来ていた。そこでは、蓮が炭で火を起こしていた。


「よぉ、蓮。ただいま」


「おかえり、みんなもう準備してるぞ。お前もさっさと手伝え」


「そうか。正義たちは?」


「まだ帰ってきてないけど、そろそろだろう」


「んじゃ、桜の手伝いをしてくるかな」


 楓は、手を洗いキッチンに入ると桜と一緒に最上級の牛、豚、鳥の肉を適当に切り分けていく。カルビやサガリ、肩ロースなどは切り分けて皿に乗せる。内臓類は洗って凪と雫に渡す。

 そうこうしているうちに、門下生の一人から裏庭に正義たちが帰ってきたと連絡があった。楓は、切りのいいところで作業を終了し、後は桜に任せえて裏庭につながる道場に向かう。


 楓が道場に着くとちょうど正義たちが裏庭から入ってきた。楓は、若干やつれ気味の四人に少し苦笑しながら、その眼に宿っていた覚悟を視て安心した。


(どうやら、異世界とこの世界の違いがわかったようだな)


「おかえり、少し痩せたか?」


「そうだね。かなりきつかったよ。でも、楓たちに比べたらまだまだだ。」


「そう思うんだったら、まだ上に行けるさ。さてと、じゃあ合宿の最後にある魔法を覚えてもらおうかな」


「まだ、合宿終わりじゃないのかよ。」


「まぁ、これで最後だし。もうちょっとだけがんばれや。あっ、ちなみに覚えれなかったら晩飯抜きな」


「「「「なっ!?」」」」


「覚えてもらう魔法は複製魔法だ。結構便利な魔法だから覚えといて損はないぞ」


 そういって楓は複製魔法の性質、利用方法、イメージの仕方を正義たちに教え始める。正義たちもなんだかんだいいながら、新しい魔法を覚えることができると聞いて乗り気だ。・・・・・・単に最後の修行と聞いて気合いが入っただけかもしれないが。


 複製魔法は、かなりイメージが複雑なもので二時間かけてようやく使えるようになった。正義たちは空腹と魔力の使い過ぎですっかりバテていた。


「さて、全工程が終了したことで、お前らに俺から選別をやろう」


 そういって、俺は意味ありげに笑った。俺のその様子に正義たちは思わず身構えている。ああ、これは絶対に勘違いしてるな。まぁ、身構えるのはあながち間違ってないけど。


「ほらよ。受け取れ」


 俺は一人一人に細長い布袋に入った棒状のものとアタッシュケース一つ、それに小さな箱を一八〇〇箱渡した。正義たちの顔はすでに引きつっている。どうやら、中身に気付いたようだ。


「か、楓、これって・・・・・・」


「得物がないと、異世界に行ってもすぐに死んじまうからな。使い方の説明はそれぞれ中に入ってるから暇なときに呼んでくれ」


「刀に銃とこっちは銃弾か。は、ははは、全部本物だよ、これ」


「銃と刀は昨日造ったもんだ。銃は魔法銃だし、刀も魔剣みたいなもんだぞ」


とはいっても、刀の方は名無しの刀を複製魔法で増やしただけだけどな。


「で、でも、どうして今これを?」


 ここでようやく政義が冷静さを取り戻し、楓に質問した。それに対する楓の答えは簡単だった。


「銃弾は複製魔法がないと数が増やせないからな。それに、全員異世界で生きていく覚悟ができたみたいだったからな。違うか?」


「・・・・・・・・・・・・」


 その言葉に四人とも押し黙る。


「さて、最後の修行も終わったし。そろそろ飯にするか。四人ともついてきてくれ。」


 そういって楓は歩き出した。四人は楓についていくが楓の行く方向を見て首をひねる。どう考えてもそっちはリビングの方向でもキッチンの方向でもない。というか、このままいけば外に出てしまう。


「ちょっと、楓?どこに向かってるの?」


 さすがに不審に思い、楓に質問するが楓は何も言わずに歩き続け、遂に外に出てしまう。


「「「「っ!?」」」」


 そして、そこで四人は絶句した。












 そこは、とにかく騒がしかった。正義たちの目の前に広がる光景は焼肉やあらゆる食材を使った様々な料理を口にする桜たちや三人の師範、そしてその門下生たちだった。


「あっ!楓ちゃん遅いよ。待ちきれなくてもうみんな始めちゃったよ」


「悪い悪い」


 そういって楓は、四人を引っ張ってみんなの前に移動する。


「さて、正義、善継、里香、麗子。この二日間の合宿、よく頑張ったな」


「「「「は、はい」」」」


「これから異世界に行けばもっと辛いこともあるだろう。でも、お前たちは今回の合宿で生きるってことの覚悟を学んだはずだ。それさえあれば、たとえ異世界だろうと強く生きていくことができるはずだ。だが、今はそんなことはどうでもいい。今は、無事に強化合宿が終わったことを祝って飲んで、食って、騒げ!」


 ここで楓は、一度言葉を区切って正義たちを見る。正義たちはすでに号泣しており、その様子がこの合宿の厳しさを物語っていた。

 そして楓はあらためて皆を見渡し満面の笑みで叫んだ。


「宴だぁああああああ!!」


『うぉおおおおおおおおお!!』


 そのあと正義たちは、泣きながら料理を口にしその美味しさにまた涙していた。

 それもそのはずで、肉や野菜、果ては調味料に至るまで現地まで行って調達してきたのだ。それもすべて最高級の食材である。

 それをプロも顔負けの腕を持つオカルト研のメンバーが調理したのだから、これでおいしく無かったらこの世の全ての食材が口に合わないだろう。


 その日は、日付が変わるまで飲んで、食べて、果てには歌って、踊って、とにかく騒ぎまくって合宿の疲れや日々の生活の疲れを癒した。

 宴が終わると正義たちはもちろん、師範や門下生たちも泥のように眠った。


 そして、楓たちは片づけ終わって明日の朝食の分の料理を分けて、残りを空間魔法で保存した。ちなみに、正義たちの分も用意してあり、それは冷蔵庫に保存しておき明日渡す予定だ。


「たまには、こういうのもいいな」


 片付けが終わり、オカルト研のみんなが集まったところで楓がふとつぶやいた。


「そうだね。正義くんたちはもちろん。光政さん達や門下生のみんなも普段こんな機会ないだろうからね」


「俺たちもいつまでもここにいるわけじゃないしな」


 桜の言葉に蓮が答える。すでに、異世界に行く準備はあと一歩のところまできている。


「正義くんたちも私たちと同じ世界に飛ばされるかは分からないしね」


「だから楓は正義たちに武器を作ったんでしょ?複製魔法まで教えてさ」


「そうだね。死んで欲しくはないしね。せっかく仲良くなったんだし」


 薫がそういって、椿と葵もそれに同意する。


「それなら、この強化合宿自体楓が仕組んだんじゃない?」


 凪のその言葉に楓がビクッと反応する。それを見て周りのみんなが噴き出す。


「ふふっ、兄さんはホントに素直じゃないですね」


「楓、優しさがわかりにくすぎ」


「うぅっ・・・・・・」


 茜と雫からの思いがけない攻撃に恥ずかしそうに俯く楓。


((((楓(兄さん)(楓ちゃん)かわいすぎる!!))))


 その様子に四名ほどが内心悶えていたが、楓が何とか冷静になるにはこちらも平静を取り戻した。


「ま、まぁ、またそのうちこんな風に騒ぐのもいいかもしれないな」


 まだ、少し動揺しているがそんなことを口に出すものはここにはいない。


「「「「「「「そうだな(ね)」」」」」」」


 そのかわり口に出たのは、心からの同意の言葉だった。


これで、書き溜めていたものがなくなりました。


これからは、更新まで少し空くと思いますが

これからもよろしくお願いします。

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