刀と問題児
主人公たちのキャラが定まってません。
そのうち定まってくると思います。
「そうだ、京都に行こう!」
正義たちが道場に入ってから二週間が経ったとき、俺はこの場にいる全員に言い放った。
ちなみに今この場にいるのは、薫、椿、葵、凪、雫、茜の六人と一週間ぶりに学校に来ることができた正義たち四人の計十一人である。蓮と桜は、生徒会活動で遅れてくると連絡があった。
「行ってらっしゃい」
「日が暮れるまでに帰ってくるんだよ」
薫と椿がどうでもよさそうに答えた。みんな、酷くない?だんだん俺に対する扱いが蓮みたいになってるよ?
だが、しか~し、これを聞いてもそんな余裕でいられるかな?
「刀がもうすぐできると言ってもそんな態度がとれるか?」
「楓、それ本当か!?」
一番最初に釣れたのは椿だ。知識欲の塊みたいな椿だからな。あの刀には興味が尽きなかったんだろう。
「ああ。昨日、源のおっちゃんから連絡があった。それで、つい今日行くって連絡しちゃった」
「よし、行こう!すぐ行こう!」
「椿兄さん落ち着いて、蓮兄さんと桜姉さんが来てからだって」
「あ、ああ。そうだな、ついテンション上がっちゃって」
そこで、いままで机に突っ伏していた正義が口を開く。ちなみに、正義たち四人はそれぞれの道場の師範に気に入られてこの一週間住み込みで鍛えられている。
「刀ってあの刀か?どうやって知り合ったんだ?」
「ああ、あの侍が持ってる刀だ。正義たちが行ってる道場の師範から紹介してもらってな。なんでも、近々人間国宝に認定されるらしいぞ」
「「「「人間国宝!?」」」」
俺が何でもないことのように告げた一言に四人は一斉に声を上げた。
「な、なんでそんなことになってるのよ」
「ってか、師範何者だよ」
「楓たちの人間関係が怖くなってきたわ」
四人の言葉に俺は頬を掻きながら答えた。
「そういわれてもな・・・・・・。ああ、師範はああ見えて伊達政宗に仕えていた一族だったそうだ」
「「「「・・・・・・はぁ~」」」」
どうやら、思考が追い付かないらしい。師範たち、厳しく鍛えすぎたんじゃないか?だが、どうにか落ち着きを取り戻して再度俺に問いかけてくる。
「それで、なんで刀が必要なんだ?」
「別に刀だけじゃないぞ。そろそろ、防衛省経由でイタリアの銃会社から銃が数丁届くはずだ。ま、理由は異世界に行くのに武器も一つも持ってないと危ないだろう。もしかしたら、魔獣が跋扈してるところのど真ん中に転移するかも知れないんだから」
「どうやって、銃会社や防衛省にコネを持てるかが気になるが聞かない方がいいんだろうな」
「直談判した」
「「「「実力行使かよ!!」」」」
「お前らの分の銃も用意してやろうか?」
「「「「いらんわ!」」」」
「大丈夫、改造したのを渡すから」
「「「「人の話を聞け!」」」」
おお!なんてリズミカルな突っ込みだ。それにしても良く揃うな。
「何そんなに怒ってんだ?俺たちも改造したの使うから安全面は保証するぞ」
俺の話を聞いて疑問を感じたようで善継が突っ込みで切らした息を整えながら俺に質問した。
「はぁはぁ、なんで改造する必要があんだ?」
「だって、魔獣相手に銃弾が通じるかわかんないだろう。だから、魔法銃みたいなもんを作ってそれを複製しようって考えてるんだ。銃を数丁買ったのは、他にもいろいろ実験したかったからな。最終的には銃弾の方も改造して銃本体は二種類くらいに絞ってその二つを複製魔法で人数分複製しようって考えてるんだ」
正義たちにもそのうち魔法を教えないとな。ちなみに、正義たちも簡単な魔術は無詠唱で使えるようになっている。詠唱ありなら中級魔術まで使えるようになった。
「複製魔法ってなんだ?魔術じゃないのか?」
ん?ああ、そういえば、言ってなかったな。
「ああ、正義たちが俺たちのことを知るちょっと前に作ったんだ。魔術と違って術式がいらず、威力が十倍の便利な能力だよ」
「楓兄さんによると魔法はイメージ力と魔力で発動するらしいです。それで、異世界に行くには魔法を使えることが必須条件なんだそうです」
「便利な能力だし、魔力があればできるから今度正義たちにも教えるよ」
「何を教えるって?」
そこに生徒会終わりの蓮と桜がやってきた。
「蓮、桜お疲れ~」
「お疲れ、っで何を教えるって?」
「今度正義たちに魔法教えようと思ってな」
「そりゃいい考えだけどまたどうして?」
そこで、俺は肝心なことを思い出す。
「そうだった。蓮、桜京都に行くぞ!」
「行ってらっしゃい」
「車には気をつけるんだよ」
お前らは俺の母親か!
「ってそうじゃなくて。刀がもうすぐ出来上がるんだよ」
「マジか!じゃあ、早く行かなきゃな」
「それで、いつ行くの?」
「今」
「今!?あ、ああ。飛行機のチケットは取ってあるんだな」
「いや、時空間魔法で行く」
「ああ、なるほど。その手があったか、って時空間魔法!?」
蓮だけでなく、椿たちも驚いている。正義たちは、また聞いたことのない魔法が出てきて混乱しているみたいだな。
「つーか、もう使ってる」
「楓ちゃん、もしかしてこの部室ごと?」
「桜、ダッツライツ!」
「まぁ、楓ちゃんだもんね。というか、なんで英語なの?」
「ってことでそのドア開けたら源のおっちゃんのところにつながってるぞ」
ここで、ようやく蓮たちが再起動した。正義たちは、いまだに何が何だかわからずに混乱している。おぉ!クエスチョンマークがリアルに頭の上に浮かんでる!って雫、お前の仕業か。
「心の準備くらいさせろやこのアホ!!」
「・・・・・・蓮、楓に言うだけ・・・・・・無駄」
「はぁ、それもそうか・・・・・・。」
ちょっと君たち、失礼じゃないかね?そんな様子を見ながら桜がしきる。
「はいはい。とりあえず、源さんのところに行こうよ。正義君たちも行くよ?」
「「「「「「「「はーい!!」」」」」」」」
オカルト研究部のみんなはすでに平常運転だが、正義たちはまだ混乱していた。
「ん?なんで部室から出ていくんだ?どっか行くのか?」
「まぁまぁ、いいからいいから」
雫ももうクエスチョンマークはいいから。椿がツボってるからやめてあげて。
そして俺たちは今京都にある源刀剣専門店の店主、源総一郎のいる工房に来ていた。ちなみに、正義たちはすでに死んだような目をしている。
「「「「もう、何があっても驚かない」」」」
自分たちの身に何があったか理解したらこうなったらしい。それはそうと、総一郎は目の前の刀を見て言葉を失っていた。
「こんな刀見たことねぇ。こっちの十二本からはなんだかよくわからねぇ力が流れ出してるし、こっちの一本は妖刀か?脈打ってやがる。おい、楓。どうやったらこんな刀ができんだ?」
そう、この刀は最初の方こそ源のおっちゃんが手を貸りたが材料の鉄鉱石や芯鉄、皮鉄づくりからは俺がその手で完成まで作業しており、おっちゃんは工房を貸したり、少し手伝ったに過ぎない。
そして、その日の工程が終わった刀をいつもある場所に持って行っておりその度に刀から感じる不思議な力が強くなっていった。
「普通はできないと思うぞ。作り方は漫画や自分の勘を元にして作ったもんだし、おっちゃんも感じてるようだから言うがそこの一本は妖刀、それ以外は霊刀だよ」
「そうか。妖刀の次は霊刀ときたか。まったく、世界は広いねぇ~。刀づくりを極めたと思ったがまだまだ俺の知らねぇ刀があったってわけだ」
「おっちゃんもそう捨てたもんじゃねぇと思うぜ。霊刀はともかく妖刀は職人の魂が籠ってないとできないもんだ。こいつを一緒に打って妖刀ができたんならおっちゃんの刀づくりにも魂が籠ってたってことだよ。そこは、誇ってもいいんじゃないか?」
「そうかね?そうかもしれんな。なら、俺の一生も捨てたもんじゃねぇってことだな。それにしても、そんなに刀造ってどうすんだ?それに、こいつらまだ打ち足りねぇだろ」
俺がおっちゃんと造ったのは、刀が六本(霊刀が五本、妖刀が一本)、脇差が四本、短刀が三本である。だが、完成している刀は一本もない。
「霊刀や妖刀は、最後に使う本人が魂込めて打たないと完成しないんだよ。だから、みんな連れてきたんだ」
「なるほどな。特殊な刀は特殊なつくり方しねぇと完成しねぇってわけだ」
「そういうことだな。つーことでみんな、それぞれ刀持って魂込めて打ってくれ。どれが自分の刀かどれほど打てばいいのかは見て打ってみればわかるはずだ。んじゃ、蓮から打ちな」
そういって蓮から刀を手に取って刀を打っていく。
手に取った刀は、蓮、桜、椿が霊刀一本ずつ、茜、葵が脇差二本ずつ、薫、凪、雫が短刀一本ずつ、そして最後に俺が霊刀二本と妖刀一本を打って十三本の刀が完成した。
「その刀はまだ眠ってる状態だ。持ち主なら名がわかるだろうから必要な時に呼べば目覚める。ただ、その刀はみんなの切り札だ。普段は空間魔法で亜空間にいれて出来れば異世界に行くまで使わないのがいいだろう」
そういって、俺は作ったばかりの刀を空間魔法で亜空間の中にいれて別の刀を十本取り出した。
「これは、名無しの刀だ。普段はこれを使っていればいいだろう。使い方次第では名刀にもなるだろうし、名が付くこともあるだろうから大切に使ってくれ」
「りょーかーい」
「それじゃあ、おっちゃん。刀の代金を払うよ。いくらだ?」
「いや、代金はいらねぇ。そもそも、俺は少し手伝っただけで材料から自分で持ってきて造ってただろうが」
「じゃあ、場所代だけでも」
「それもいい。今回の経験は俺にとってもいい経験になった。俺はまだ上を目指せるって分かったからな。その礼だ、代金はいらねぇ」
「そうか。おっちゃんがそういうなら俺の方からは文句はねぇよ。ただ、これだけは言わせてくれ」
「なんだ?」
「ありがとう」
「ああ。また、なんかあったら来い」
「ああ、そうさせてもらう。それじゃあ、俺たちはもう行くよ」
「おう、達者でな」
「そっちもな」
そのあと俺たちは、総一郎の元を後にして行きと同じように時空間魔法を使って戻ってきた。
帰ってきて早々正義たちが魔法を教えてくれというので特に要望の多かった空間魔法を教えることになった。四人はやる気十分で一時間ほどで空間魔法を覚えてしまった。
そして、やることもなくのんびりしていたが、俺はあることを思い出した。危ない危ない忘れるところだった。
「そういえば、明日の放課後は蓮とこの道場に集合な。今日みんなにやった名無しの刀の試し切りしに行くから」
「えらく急だな」
「いま、思いついた。」
「いまかよ」
「いや、そういえば蓮とこの師範に明日、正義たち連れてきてくれって頼まれててな」
その言葉に正義たちが反応する。
「ちょっと待て。もっと早く言ってくれ!」
「ま、またあの地獄がやってくるのか・・・・・・」
「がんばっ!正義、善継」
「応援してるよ」
余裕ぶっている里香と麗子だが、二人もそんなこと言ってられないと思うぞ?
「あ、そうそう。里香と麗子のところの師範も来るから二人も来てくれってさ。四人ともがんばれよ」
四人が俺の言葉で遠い世界に旅立った頃、桜がふと言いだした。
「そういえば、楓ちゃん。試し切りって具体的に何するの?」
「簡単に言えば、型の練習だよ。一応、それに合わせて作ったつもりなんだけど結局はやってみないとわからないからな」
「型って楓ちゃんが調子に乗って作った?」
「ひどい言われようだが、その型だよ。一応、ほとんどの流派に対応できるはずだけどな。主武器の方はみんなに合わせて作ってるから、みんなが一番しっくりくる流派がその武器にもぴったりだと思うぞ。名無しの方は、使う流派によって成長が変わるからどういう風に成長させたいか考えて使えよ」
「こう言われると名無しの方がすごい刀のような気がしてきたんだが」
蓮が思ったことを口にするが俺はそれを否定した。
「いや、そういうわけでもないよ。名無しの刀の方は秀才型、使えば使うほど馴染むがある一定のところで限界を迎えそれ以上伸びない。対して、みんなに作った霊刀は天才型、初めてでも吸い付くように手に馴染み、使い手の力量に合わせて刀も成長していく。しかも限界がなく、持ち主以外使いこなせない刀だ」
「どんな刀造ってんだよ。いくらなんでもやりすぎだろ」
「ここでは、これが限界だな。ホントは錆びない、刃こぼれしても直る、折れない、みたいな刀造りたかったんだができなかった」
これでもまだ、納得が言ってない俺の様子に一同呆れながらもその刀も見てみたいという気持ちもすこしあるようで、それ以上言及してこなかった。
「んで、明日は道場の地下を借りれることになってるから霊刀と名無しで各流派の五の型まで試してみてほしいんだ」
「それで道場は、大丈夫なのか?」
「もちろんみんなで空間凍結の結界を何十にも張って試し切りするよ」
俺の作った流派や型は、生半可なものではなく上位の型であれば街の一つくらいは崩壊するくらいの威力を持っている。もはや、剣技の域ではないといえるだろう。
それもそのはずで俺の流派は、剣術だけでなく体術、弓術にも応用でき、そもそも魔術に引けを取らないように考えだしたものだ。剣技の域くらい超越してないと困る。
「まぁ、とりあえずは明日になってからだな」
「んじゃ、今日は解散」
「「「「「「「「りょーかい」」」」」」」」
もはやいつものやり取りとなった挨拶をして俺たちは寮に帰ったのだった。
翌日、金曜日。楓は屋上で今日も堂々と授業をサボっていた。
ちなみに、楓の成績は学年トップでたまに部活の助っ人を頼まれるほど運動神経が良い。天は彼に二物も三物も与えたらしい。足りないのは、一般常識ぐらいだろう。
そんな楓が昼寝から目を覚ますと同時に昼休み開始のチャイムが鳴り、楓は学食に向かう。
学食には、すでにオカルト研究部のみんなが集まっていた。
正義たち四人の姿はない。四人は、弁当グループなので教室で集まって食べているのだろう。
俺が学食に顔を出すといつも周りが騒がしくなる。たぶん、俺の行動に迷惑を被った人達が騒いでいるのだろう。
たまに、顔を真っ赤にして怒っている女子生徒もいるがいちいち気にしてられない。改める気もないしな。
「おはよう。よく眠れたか?」
「おはよう、蓮ちゃん。最近暑くなってきたがまだまだ快適だよ」
それに、本格的に暑くなったら魔術や結界術でも使って余分な熱は遮断するし。
「蓮ちゃん、楓ちゃん。そんなことより昼食にしようよ」
「お腹・・・減った」
俺と蓮がいつものどうでもいい会話を繰り広げていると、桜と雫が二人に空腹を訴えてきた。
「それもそうだな。今日のAランチは?」
「すき焼き風牛丼と味噌汁、漬物」
「おっ、うまそうだな。今日はそれにするか」
「私もそれにしようかしら?桜と楓はどうするの?」
蓮は相変わらずガッツリ派だな。薫も珍しく蓮と同じものにするようだ。
「俺は、いつも通り天ぷら蕎麦かな?」
「私もいつも通り、きつねうどんだよ」
「私は、カツカレー蕎麦。・・・・・・前の時間体育でお腹空いた」
「俺は、炒飯かな?葵は?」
「私も椿と同じ物で良いよ。凪と茜ちゃんは?」
「「Bランチ定食!」」
「今日のBランチってなんだっけ?」
「生姜焼き定食」
「雫、良く知ってるな」
「・・・・・・まかせて」
「なにをだ」
蓮の突っ込みをスルーして、雫はすでに食券を買って受け取り口に並んでいる。
突っ込みをスルーされた蓮は肩を落としていたが、空腹に負けてとぼとぼと食券を買いに行く。
あ、ちなみに、俺たちも蓮の突っ込みを無視して雫の後ろに並んでいるぞ。昼食を受け取り、場所取りしておいた席に座り昨日伝え忘れていたことを話す。
「そういえば、今日の放課後のことだけど」
「ん?なんかあったのか」
「いや、逆だ。いつも通りだから、みんなに着替え持ってきたか確認しとこうと思ってな。ほら、昨日言ってなかっただろ」
「なんだそんなことか。ちゃんと用意してるよ。な、みんな?」
「もちろんだよ」
「そうか。なら、いいんだ。でも、正義たちは用意してないだろうな・・・・・・」
我ながらうっかりしたものだ。そんな俺の様子を見ていた葵が口を開いた。
「それなら、大丈夫だよ。昨日、椿と協力して各道場の師範に着替えようしてもらえるように頼んだから。四人とも着替えの心配はいらないと思うよ」
「そうか。サンキュー、椿、葵」
「これで問題なく師範たちのところに行けるな」
「そんなことより、早く食べようよ」
「そうだな。結構人も集まってきたしな」
楓たちは、これで何の憂いもなく道場に足を運べると考えているが、正義たちにこのことを伝えていないことで正義たちがとてつもない苦労を味わうことになる、ということを楓たちに伝える者はこの場にはいなかった。
帰りのホームルームが終わり、俺は一度部室に向かった。ここで、一度集合することにしていたのである。
俺が部室に入ったとき、部室には桜たち二年生の姿がなかった。ん?特に遅れるようなことはいってなかったけど。
「なぁ、蓮。桜たちはどうしたんだ?いつもなら、もう来てる時間だよな?」
「たぶん、ホームルームが長引いてるんじゃないか?」
そんなことを話していると当の本人である桜が部室に入ってくる。
「ごめん!遅れちゃった」
その後ろから薫や椿も入ってくる。桜の姿を見て楓は事情を聞こうと話しかける。
「それで、なんで遅れたんだ?」
それに答えたのは桜ではなく椿だった。
「修学旅行の説明があってね。それで、ホームルームが長引いたんだよ」
「・・・・・・そうか」
そういえば、二年生は修学旅行があったな。桜たちも行きたいんだろうか。
「なぁ、桜。なんなら異世界に行くのは、修学旅行が―――」
「大丈夫だよ、楓ちゃん」
俺の言葉をさえぎって桜が穏やかに微笑んだ。桜に続いて薫、椿も口を開く。
「ええ。それに、修学旅行よりもここにいるみんなで異世界に行った方がおもしろそうだわ」
「あはは、そうだね。それに、私は旅行先のイギリスとフランスにはもう何回も行ったことあるしね」
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」
ちなみに桜が、イギリスやフランスに旅行に行くと言ったことはない。
つまり、散歩でイギリスやフランスに行ったことがあるという桜に対して俺と桜をのぞく7人は絶句していた。話が逸れたのを感じ取ったのか椿が自然に話を戻す。
「楓っていつもは唯我独尊なのにこういうときは変に気を使うよな」
「う、うるさいな。ほら、みんな揃ったんだからさっさと行くぞ!」
くっ!お前らそんな生温かい目で俺を見るな!おいこら、やめろ。だって、せっかくなんだから悔いなく異世界に行きたいじゃないか!
なんか、可笑しなこと言ったか俺!?そして、正義たちは珍しそうにまじまじとこっちを見るな!
道場にやってきた楓たちは、それえぞれの師範たちに手荒い歓迎を受けていた。
楓たちが道場に入ると師範たちが連れてきた総勢60人の門下生が待ち構えていたのだ。これにはさすがの楓たちも自分たちの師範の性格の悪さに溜息をついた。
現在は、門下生60人と正義たち4人は全員床に倒れ伏していて蓮を抜いた8人は道場の片隅でくつろいでいる。対する蓮は、それぞれの道場の師範3人を相手にしていた。
ちなみに師範たちは涙目だ。本当は師範たちはそれぞれが鍛えている正義たち4人に稽古をつけようと考えていたのだが、ウキウキ気分を邪魔されてイライラしていた桜と楓が言った一言に師範たちは顔をひきつらせた。
「せっかく楽しみにしてたのに・・・・・・」
「本当だよな。これは、お仕置きが必要だな」
ニコニコではなく、ニヤニヤとした笑顔でそういった楓を見て師範たちは自分の運命を悟った。その結果・・・・・・。
「ふ~、暴れた暴れた」
俺たちとのじゃんけんで勝った蓮が、肩を回しながら俺たちのいるところに帰ってきた。蓮の服には、誇り一つついていない。
その後ろで、それぞれの師範が虫の息で倒れていた。この状況で分かる通り、俺たちはすでに師範たちよりも圧倒的に強い。
自業自得な師範たちをほっといて俺たちは、地下に下りていく。この道場は一階は、真剣を使わない稽古をしており、地下一階は真剣を使った稽古をするために使われる。
ちなみに、地下には師範に認められた者しか足を踏み入れることはできない。
「さて、やるか。それぞれ刀出して稽古始めてくれ」
「「「「「「「「りょーかい」」」」」」」」
そういって、それぞれバラバラに行動する。俺たちはお互いに距離を取って空間魔法で名無しの刀を出して型の練習を開始する。
俺の考えた型は威力がすさまじく、最低でも十メートルは離れていないと巻き込まれてしまうような技がほとんどだ。
それでは役に立たないのではないか、ということも考えられるが、それは味方が前にいるときや全員が一度に型を放つときだけである。お互いの連携で型を放つことができれば、対して危険はないのである。
それでも、完璧な連携がないと間違って仲間に当ててしまう危険性はあるのだが、俺たちにはそんな心配は無縁である。
今回は、お互いが好きに型を放つために距離を取ったのである。
「「水風流、一ノ型『風切』」」
「「雷電流、一ノ型『鳴神』」」
俺と桜、蓮と薫が技を放つ。『風切』はその名の通り風を切る技だ。
見た目では、ただ切っているようにしか見えないが、その切れ味は鋼鉄を易々と切り裂く威力を持っている。
『鳴神』は刀を一時的に雷とほぼ同じ性質に変化させて切る技だ。ちなみに薫、凪、雫は、短刀ではなく弓を使っている。
「「氷塵流、一ノ型『氷切』」」
「「草天流、一ノ型『草弓』」」
「炎鬼流、一ノ型『陣炎鬼』」
椿と葵、凪と雫、茜もそれぞれ技を放つ。『氷切』は刀を振ったと同時に氷の刃がとんでいく遠距離技である。『草弓』は矢を放つと同時に鉄のように硬化した草の刃が無数に飛んでいく技である。
『陣炎鬼』は自分の半径5メートルを火の海にする範囲攻撃技である。
ここまでの異常な説明でわかると思うが俺たちは刀に特殊な力を送り込んで技を出している。特殊な力が何なのか俺たち自身にもわかっていないが。
楓たちがさまざまな流派で試し切りを行っている頃、正義たちは復活した師範たちと向き合っていた。
そもそも、最初に楓たちを迎えた60人は正義たちに向けてであり、楓たちが邪魔だから排除したにすぎなかった。
そして、正義たちはそのとばっちりを受けて楓たちが吹っ飛ばした門下生に巻き込まれて吹っ飛ばされただけだった。
「それじゃあ、正義、善継。この前教えた型を一通りやってみろ」
「「はいっ!」」
正義たち二人は師範・石川光政に言葉で一ノ型から十二ノ型までを丁寧にこなしていく。一方、そこから少し離れたところで里香が師範と模擬戦を繰り返していた。
「踏み込みが甘いぞ。それじゃ技にスピードも乗らんし、なにより本来の力が出せん。もっと思い切って踏み込むんじゃ」
「はいっ!ありがとうございます」
師範・東武尊からの指摘を素直に認め、言われたことをすぐに実践する里香。
「この部屋は、ペイント弾が飛び出してくる仕組みになっています。そのペイント弾を避け、または射ち落としながら移動する十の標的を射る訓練です。やってみなさい」
「はいっ!わかりました」
別の部屋では師範・鳴海静香から訓練内容を聞いて実践する麗子。
正義たち四人は、師範からの指示に従い次々と訓練をこなしていく。師範たちの訓練は、どれも実戦を想定したもので異世界に行くことを知っている四人にとってとてもありがたいものだった。
なかには、動物と戦うことを想定している訓練もあった。
「よし、今日はここまでだ」
「「「「ありがとうございました!」」」」
訓練が終了した後、師範の三人は何やら相談した後代表して光政が四人に声をかけ、
「ふむ、正義たち四人には地下に入ることを許可する」
光政の言葉に正義たちだけではなく、他の門下生からもざわめきが巻き起こる。
地下に入れるものは、楓たちを除いて現在、師範三人と師範代八人しかいない。これは、武尊や静香の道場を含めた数だ。
光政たち三人の道場は実は同じ系列であり、一つの流派が三つに分かれたため道場も三つに分かれたのだった。そのためこの三つの道場は、いまでは同盟関係にあるのである。
「あの、いいんですか?」
あまりのことに正義が遠慮がちに質問する。
「ああ。俺たちが許可する。案内するから着いてきなさい」
「わかりました」
正義たちが光政に連れられて地下に行くとそこは端から端まで1㎞はありそうな正方形の空間だった。
「おっ、正義たちもここに入れるようになったのか。良かったな」
楓の声が聞こえてそちらに顔を向けるとその光景に正義たちだけではなく光政も絶句した。
「なぁ~に固まってんだ?お前ら?」
楓たちが集まっている周りにはあちこちにクレーターや切り裂かれた後、さらには凍っているところや水浸しなところ、炎が舞っているところ、木々が生い茂っているところなどカオスと化していた。
そんなところで茶菓子を広げお茶を飲んでいるところを見れば、誰だって言葉を失ってしまうだろう。
「いやいやいや、どうしたらこんなことになるんだよ!?」
「「「「「「「「「・・・・・・試し切り?」」」」」」」」」
「いや、おかしいから。魔法ぶっ放したって言われた方がまだ納得できるわ」
「魔法でもできないことないけど、この街ごとぶっ飛ぶぞ?」
「「「「はぁ~。・・・・・・もういい」」」」
ちなみに、光政はというと、
「は、ははは、十年かけて作り上げた地下修練場が・・・・・・」
どうやら復活するのにだいぶ時間を要するようだ。だが、楓たちがそんなことを待つわけがない。
まったく、これが伊達政宗の配下の子孫ていうんだから不甲斐無いねぇ~。
「わかったよ。直せばいいんだろ、直せば」
俺はそういって指をパチンと鳴らす。次の瞬間、地下修練場は元通りに戻った。光政は今度は飛び出さんばかりに目を見開いた。そこに、正義が呆れながら何をしたのか聞きだす。
「んで、今度は何したんだ?」
「ん?時間魔法で時間巻き戻した。いや~、いまさらだけど魔法って便利だよな」
「・・・・・・そうか」
「それより、正義たちとちょっと手合せしたいんだけどいいか?」
「ど、どうしたんだ、急に?」
俺は試し切りをしている最中に思いついたことがあり、正義たちに問いかける。
先ほどの光景を見て素直に言うことを聞くという選択肢は正義たちになかった。というか、誰でもあんな光景を見たら全力でお断りするだろう。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だって、お前らの強さ見るだけから。俺からは反撃しないよ」
「それなら、いいけどよ。何のためにそんなことを?」
「ちょっと思うところがあってな」
「ふーん、まぁいいけど」
「んじゃ、やるか。四人全員で来いよ」
「勝てるとは思ってないけど、せめて一矢報いてやるわ」
俺と四人の手合せの結果は俺の圧勝で終わった。まぁ、予想通りだな。
楓はそれぞれの最初の一撃を木刀で受け止めるとその後は正義、善継が攻めても持っている木刀を使わずに躱しいなし続ける。
ちなみにだが、この時点では里香も麗子も木刀を使っている。それだけでなく、木刀をしまい本来の戦い方にもどった里香や距離を取り弓に持ち替えた麗子の体術や矢も触れることすら許さない。
三十分ほど攻防を続けて疲れて動きが鈍ってきたところをそれぞれの頭に軽く木刀を当てて手合せは終了となった。
「ふむ、なるほど」
試合が終わり正義たちが荒い息を整えているなかで、俺は自分の考えをまとめてこれからの方針を決めた。その様子を息を整えながら見ていた麗子が俺に質問してきた。
「一体、どうしたのよ」
「いや、明日のメニューどうしようかと思ってな。とりあえずみんなの実力見ようと思ったんだよ。それで、明日はサバイバル術を学んでもらおうと思う」
「それは、いいけどなんで明日なんだ?」
「ん?なんでって、・・・・・・あっ、そういや言うの忘れてたな。今日、明日とここに泊まるからな、正義たちも」
「いやいやいや、聞いてないぞ!?」
「だから、忘れてたって言ったじゃん」
「「「「そんな大事なこと忘れるなよ!」」」」
「それに着替えなんて用意してないぞ」
「大丈夫。師範たちが用意してくれてるから」
「だからってそんな簡単に決めれるか!」
そういう善継の肩に里香が手を置き、振り返った善継にゆっくりと首を横に振る。それを見て善継もいまさら何を言っても遅いと気付き肩を落として項垂れた。
こうして、波乱の幕開けを切った楓主催の強化合宿の一日目は終了したのだった。
書き溜めがもうほとんどないです。
大体、どのくらい書き溜めていればいいんでしょうか?