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チート問題児の異世界旅行  作者: 早見壮
第一章 そうだ冒険者になろう
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第七話 蒼黒の旅人

 ギルドの扉を開けると、ギルド内の騒がしい音が聞こえてきた。ゼロであるなら、ここで見知った顔に声でも掛けるところだが、今は楓だ。あいにく楓では冒険者の知り合いはいない。


「こんにちは」


 俺は、受付カウンターでなんだかボーっとしている、ナンシーさんに声をかけた。初対面を装わなくてはいけないところが難しい所だ。


「うぇ!?は、はい!」


 おお、ナンシーさんがこんなに慌てるのは珍しいな。いつもは冷静沈着という言葉そのものな人なのに。そういえば、さっきもボーっとしてたし何かあったのか?


「冒険者登録をしたいんだが?」


「登録ですね?三名全員でよろしかったですか?」


「ああ、問題ない」


 俺は一度登録している身だが、あのときは偽装スキルを使ってたので問題なく登録できる……はずだ。


「承りました。登録料に一人大銅貨一枚必要ですが問題ないですか?」


「これでいいか?」


 そういって、俺は大銅貨三枚をだす。というか、なかなか絡んでこないな。てっきり、ギルドに入って直後かギルドに登録するって言った直後に絡んでくると思ったのだが。

 ゼロの時にやりすぎたか?まぁ、たしかに全員雲の上まで突き飛ばしたけど、このままでは月夜たちが獣神だと紹介するタイミングがないな。……どうしたものか。


「それでは、この羊皮紙に書かれている項目必要情報を書き込んでください」


 俺が考えている間にもナンシーさんの話は進んでいく。俺たちは羊皮紙を受け取り、使用武器などの項目を埋めていく。出身地は覇者の大森林だ。俺がゼロの知り合いだと気づかれる要素を隠す必要はない。わざわざ見せびらかすこともないがな。


「よしっと、二人は書けたか?」


「「はい」」


 二人から書き終わった羊皮紙を受け取って、俺のと合わせてナンシーさんに渡す。

 羊皮紙には種族という項目もあり、月夜たちは正直に書いている。正直に書いたら、ちょっとした騒ぎが起こるがそれが狙いだ。


「はい、ありがとうございます。それでは、少し確認させてもらいますね。この水晶に手を置いてください」


 そういって、ナンシーさんは棚から片手で持てるほどの水晶を取り出した。


「こうか?」


 俺は言われるがままに水晶に手を乗せる。この水晶には解析スキルが付与されており、ある程度のステータスんならば、見ることができるのだ。俺の場合なら、超隠蔽で隠蔽したスキルが反映される。


「はい、……えっ?」


 俺のステータスを見て固まっているみたいだな。まぁ、今の俺のステータスはBランク冒険者並だ。そんな実力者がいままで登録してなかったというほうが考えられないだろうからな。驚くのも無理はないか。


 そうして、ナンシーさんは俺の書いた羊皮紙と俺のステータスを交互に見て、羊皮紙を読み込んでいるうちにまた固まった。うん?さすがの冒険者たちも何事かと注目し始めたな。


「出身地……は、覇者の、大、森林……!」


「「「……えっ」」」


 ふぅ、ようやくそこまで読めたか。それにしても、ナンシーさんの動揺している雰囲気はなかなか新鮮で面白かったな。

 そして、ナンシーさんの言葉を聞いた冒険者たちも動揺している。まぁ、無理もないか。ついこの間まで覇者の大森林から来たやつがこの冒険者ギルドに来ていたのだから。


「あ、あの、この覇者の大森林というのは……」


「ん?覇者の大森林にすんでたってことだけど?」


「そ、そうですか」


 そういった、ナンシーさんの顔が俺と月夜たちの間で行ったり来たりする。

 ……ああっ!誰がゼロの友人か気になってるのか。まぁ、たしかに今の月夜たちはただの獣人に見えるからな。凜華が何の獣人に見られているのかは謎だが。

 でも、ま、これじゃあ見た目じゃ誰がゼロが言っていた友人かわからないな。……しゃあないな。


「あれ?ゼロから聞いてないのか?あいつ、話しておくって言ってたんだけど」


「いいいい、いえ!聞いてます、聞いてますとも!でもっ、少し待っていてくださいますか!?」


「あ、ああ。それは構わないけど」


 どうしたんだ?別にゼロの友人だからって普通に冒険者登録させればいいだろうに。


「ぎ、」


「「「ぎ?」」」


「ギルドマスタァアアア――――!!?」


「「「!?」」」


 うおっ、びっくりしたな!?ビクッてなったぞ!ビクッて!というか、いまだに「ァアアアア――――!?」って声が聞こえるんだが、ギルマスの部屋に行くまで叫び続ける気か?あ、ビブラートかかった。


『うっさいわぁあああ――――!!!』


 あ、この声はギルマスだ。まぁ、それには同意だが、あんたの声もなかなかにうるさいぞ?


「あ、あの、なんだか大変なことになってるみたいなんですけど」


「みたいだな」


「みたいだな、って大丈夫なの?」


「どうせ、ゼロのやつがなんかやらかしたんだろう」


「え、ゼロって」


 月夜たちは困惑しているようだな。一応、ゼロが俺の別の姿ってのは言ってあるから、こんがらがってるんだろう。ただ、そんなんじゃ腹芸はできないぞ?まぁ、小学生ぐらいなのに腹芸ができるってのも考え物だから今はそれでいいんだろうけど。


「……」


「……ああっ!」


「……?」


 俺が月夜たちに目配せすると月夜はなんとなくわかったようだ。凜華は未だに何のことかわかってないようだな。まぁ、あとで説明しよう。

 とりあえず、ギルマスが下りてくるのを待つかな。……早く宿を取りたいんだが。











「それで、どういう状況なんだ?」


 ギルマスは受付カウンターに出てくるなりそういった。


「えっと、こちらの方たちが冒険者登録に来たのですけど」


「それなら、登録させてやればいいじゃないか?なにか、問題があるのか?」


 今のところはないんじゃないかな?月夜たちが獣神と知ったらどうなるかわからんが。


「それが、こちらの楓さんがゼロさんの友人らしくて、覇者の大森林から来たとおっしゃったんです」


「なんだとぉ!?」


 うわっ!うるさいなぁ、この距離でいきなり大声を出すなよ。


「さっきから、なんだか反応が大きいがゼロのやつが何かしたのか?」


「あ、いや、すまない。ゼロが何かしたかはこの街に住むものならみんな知っている」


「「?」」


 月夜と凜華が話について来れてないな。これは、ゼロのことを説明してもらったほうがいいか。


「へぇ、ずいぶんと派手なことをやらかしたようだな。何をしたんだ?」


「「「聞いてくれるか!」」」


「「!?」」


「あ、ああ。頼む」


「なら、俺から話そう!ゼロがこの街にやってきたのは、ほんの三か月前だ。あのときは――」


 なんだか、異様にテンションの高い冒険者が話始める。まぁ、俺は全部知っている話だけど所々脚色されているようだ。脚色したのが目の前の冒険者なのかどうかはわからないが。いや、周りの冒険者が訂正しないということは少なくても冒険者間では共通認識なのか。

 ただ、月夜と凜華の目が呆れたものになってきてるのでその辺でやめてほしい。俺は、絡んできた冒険者を叩きのめしたことはあっても、殲滅したことはないぞ?それと、壊滅させた盗賊団は千人じゃなくて、百人だ。

 あと、大暴走の時にBランク以上の魔獣を倒したのは俺だけじゃないぞ?というか、俺はSSランクしか倒してないぞ。


「――そして、見事SSランクの魔獣を倒して、史上二人目となるSSランクの英雄になったのだ!しかし、ゼロはそれを誇ることはなく『俺はただの旅人。あれが、俺の旅の邪魔をしたから叩きつぶしただけだ』といってこの街を旅出って行ったのだ。俺たちはそんなゼロの偉業をたたえてゼロの風貌と口癖を合わせて『蒼黒の旅人』と呼んでいる」


 あ~、たしかにこの街を出るときにそんなこと言った記憶はあるな。でも、最後のは知らなかった。俺がいなくなってから、名付けられたのか。まだ、俺がこの街を出たことになってから四日しか経ってないんだけど。

 あと、風貌ってあれか?ゼロの時は黒髪で蒼いフード付きのコートを着ていたからか?でも、旅人なんて口癖っていうほど言ってないぞ?冒険者たちに絡まれたときにそういう設定だったから何回か口にした程度だ。いや、大暴走の時も言ったか?


「あいかわらず、やることが派手だなぁ。ゼロは」


 うん、月夜と凜華が何言ってんだこいつ、みたいな目で見てくる。いや、たしかに白々しいとは思うけど、一応楓とゼロは別人ということになってるんだからこんな反応になるのは仕方ないんだよ。


「ゼロは昔からあんな感じなのか?」


「まぁ、そうだな。巻き込まれ体質というか、面倒ごとの方から寄ってくるんだ。そして、それを解決できる力があるから性質が悪い」


「なるほど。緊急事態に慣れてしまっているからこそのあの状況判断能力か」


「それで、冒険者登録なんだが」


「ああ、それは問題ない。本当にゼロの友人だとわかったからな。さすがに、覇者の大森林から来たといわれて、はいそうですかと納得するわけにはいかないからな。楓といったか?お前についてはゼロから聞いているから身元の保証はできている」


 うん、そのためにゼロと俺の繋がりを作ったからね。まぁ、ほかにも理由はあるけど。

 ただ、それとは別に冒険者登録に問題があるんだよな。


「そうか、それは良かった。ただ、問題はこいつらなんだよな」


 そういって、俺は月夜たちのほうに視線を向ける。


「うん?その子たちに何か問題があるのか?たしかに冒険者になるには若すぎる気もするが、冒険者登録自体に年齢制限は存在しないぞ?」


「ああ、それは知っている。ただ、こいつらの種族が問題なんだ」


「種族?獣人族じゃないのか?」


「ああ、詳しくはステータスを見てくれ」


 俺の言葉に訝しながらも先ほど水晶で測定した月夜たちのステータスをのぞき込んでいる。


「……んなっ!?」


 どうやら、水晶には正しく月夜たちのステータスが反映されていたようだ。


「どうしたんですか、ギルドマスター?」


 ギルマスの横からナンシーさんがステータスをのぞき込む。周りの冒険者たちも興味津々でこちらを眺めている。というよりは、注視しているな。

 まぁ、ギルマスがずっと固まったままだし、仕方ないか。


 ここで、月夜たちが獣神だとバラすと騒ぎになるが、そのほうが後々問題が起きずにいい。

 この街の冒険者は水無月のいる覇者の大森林が近いからか、獣神や神獣の力をよくわかっている。

 だからこそ、月夜たちに手を出すバカはいない。ならば、今のうちに獣神というものが人間たちにどういう風に扱われるものなのかを体験しておいたほうがいいだろう。


 王都シンジュクに行けば獣神ということで狙われることもあるだろうがここで獣神としてのふるまい方を理解しておいたほうが何かと役に立つからな。

 ……あっ、ナンシーさんも固まってる。まぁ、俺(ゼロの友人)なんかよりも余程ありえないことだからな。

 獣神が冒険者登録するなんて。











 あのあと、何とか正気に戻ったギルマスに連れられて、俺たちはギルマスの執務室に通された。現在は、執務室に置かれた来客用のソファに座ってナンシーさんに入れてもらったお茶を飲んでいるところだ。


(う~ん、俺的には受付前で獣神だって大騒ぎしてくれたほうがありがたかったんだが、思ったより冷静だったみたいだな)


 いや、固まっている間に冷静になったって感じかな?まぁ、これはこれでやりようがある。下にいる冒険者たちもなんとなくただ事ではないのは察しているようだったし、ギルマスから説明してもらえば信憑性も増すだろう。


「それで、カエデといったか。その、こちらの方々は本当に?」


「ん?ああ、覇者の大森林の主、神獣・水無月の娘の獣神・月夜と東方青龍で獣神の栞菜の娘の凜華だ」


「……覇者の大森林の主の娘と東方青龍の娘」


「本当に……獣神なんだ」


 ああ、また二人が遠い目になっていく。……と思ったら急に眼を見開いてきれいな土下座を決めたぁあ!?


「「ははぁあ――――!!」」


「「!?」」


 ああ、月夜も凜華もめっちゃ驚いてる。月夜はともかく凜華の方は人とも少し位は関わりがあるだろうにこの反応は予想できなかったのか?

 もしかして、人間の相手は栞菜がすべて請け負っていたのか?そう考えると納得がいくが、凜華も人間相手の知識でいったら月夜と同じくらいということか。これは先が長そうだな。しばらくはこの街で慣らしていくしかないか。


「月夜、凜華。これが獣神に対する人間の、というか、他種族の普通の反応だ。俺もよくは知らないが、獣人族の場合はもっと大げさになるかもしれない」


「そうなんですか!?」


「これが、普通?」


 そういって、月夜と凜華は未だに土下座の体制を崩さないギルマスとナンシーさんに目を向ける。

 ふむ、どうやら簡単に納得はできないみたいだな。だけど、人間の街に住んでいたら嫌でもわかることだし、気長にやっていくことにしよう。


 というか、俺自身もあんまりこの世界の常識とか知らんからな。日常生活くらいなら問題なく過ごせるが、ぶっちゃけ神関係はようわからん。敬られるのはわかるんだが、どういう風に扱われるのかは俺の知識にはない。宗教関係もどうなってるのか、簡単にしか調べてなかったしな。

 しばらくは、俺も月夜たちも冒険者をしながら情報収集が基本になるかな?


「師匠、それでこのあとどうするんですか?いまだにお二人とも動かないんですが」


「ああ、忘れてたな。二人とも話が進まないから顔を上げてくれないか?」


「「……し、」」


「ん?」


「「師匠っ!?」」


「……あー」


 そこでも、固まるか。まぁ、たしかに隠蔽したステータスでは俺の種族は人間だからな。人間が獣神の師匠をやっていたら、驚きもするか。

 ……うん、人間の協力者も必要だからある程度の事情は話しておくか。いざというときは盾になってもらおう。どうせそのうちアホな権力者がやってくるだろうからな。


 ちなみに俺の調べた限りじゃ、この国の皇族は結構まともらしい。というのも、皇家にも守護獣神がいてその守護獣神から見放されないために権力にものを言わせて自分たちの欲望のままにふるまうことができないらしいのだ。まぁ、神が目を光らせてるんじゃ下手なことはできないよな。それもこの国の守護神だし。


 だから、アホなことするのは王家と同じ理由で下手なことができない四獣神家以外の木っ端貴族や豪商ということになる。あとはならず者たちか。そのあたりは、ゼロの名前で黙らせるとしよう。


「とりあえず、いい加減顔を上げてくれ。話しづらい」


「……わかった」


 そういって、ひとまずギルマスを向かいのソファに座らせる。ナンシーさんは立ったままだ。ギルマスは上司だからな。一緒に座るわけにはいかない。


「さて、あらためて覇者の大森林から冒険者登録に来た風月楓だ」


「獣神の月夜と申します」


「同じく獣神の凜華って言います」


 そういって、二人は頭を下げる。月夜は冷静なようだが、凜華は少し緊張してるな。まぁ、しばらくすれば慣れるか。身分的には凜華のほうが遥かに上だしな。


「わわ、私はこの冒険者ギルドのギルドマスターをおりますジンと申しまするでございまするであります!」


「わたっ、私は当ギルドのうけちゅけっ、受付をしております!ナンシーと申しますで(そうろう)!」


 候!?二人とも敬語がごちゃごちゃしてて意味がわからないんだが?どんだけ緊張してるんだよ!

 ほら、月夜と凜華が面食らって固まってるじゃないか。そして、それを見て二人とも真っ青になってるし。

 これって、俺が収集つけなきゃいけないの?知らんよもう、落ち着くまで放置で。


 ずずぅ~っ


「ふぅ~」


「「「「……」」」」


 はぁ、お茶がうまい。


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